記憶の破片 崩壊の始まり
[僕らの青春は少し訳ありで]#1
(記憶の破片 崩壊の始まり)
放課後の教室は、いつもと変わらない風景だった。窓の外からはグラウンドで運動部が練習する声が聞こえ、廊下を走る生徒たちの足音が遠くに響いている。夕陽がオレンジ色に空を染め、その光が教室の床に長い影を落としていた。
俺、**蓮**は机に教科書を広げたまま、何も書き込まれていないノートをぼんやりと眺めていた。今日はやることが山積みのはずだった。英語の宿題に、明日の小テストの準備。だけど、まるでその全てがどうでもいいことのように思えて、手が止まってしまっていた。
「なあ、蓮、今日は帰ってくるだろ?」
後ろから親友の**智樹**が俺の肩を軽く叩いた。彼の声はいつも通り明るく、軽やかだった。智樹とは幼なじみで、何もかも話せる仲だと思っていたが、最近、何かが少しずつ変わり始めている気がする。
「……ああ、たぶん」
俺はなんとなく曖昧な返事をした。放課後、智樹や他の仲間と一緒に寄り道するのが日課だった。でも今日は、その気分になれなかった。
「お前、またなんか考えてるんじゃないか?最近、調子悪そうだけど」
智樹が心配そうに覗き込む。俺は適当に笑ってごまかした。
「いや、何でもないよ。ただ、ちょっと疲れてるだけだ」
それだけ言って、ノートを閉じた。けど、実際のところ自分でも何が原因なのか分かっていない。ただ、ここ最近ずっと、何かが引っかかっていた。
俺には**5年前の記憶**が、曖昧な部分がある。家族と過ごしていたはずの時間にぽっかりと穴が空いているようで、その間に何があったのか、どうしても思い出せない。普段は意識しないようにしていたけど、ふとした瞬間にそのことが頭をよぎるたび、胸の奥がざわついた。
「まあ、無理するなよ。また今度でもいいからな」
智樹は笑顔を見せ、軽く肩を叩いて教室を出ていった。彼の後ろ姿を見送りながら、俺はふと、自分が何か大切なことを忘れているような気がした。
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その日の帰り道、俺は一人で歩いていた。夕暮れの風が肌に心地よく、周りの風景は静かで、穏やかだった。でも、胸の中の違和感は、そんな穏やかさとは逆に、次第に大きくなっていく。
「何なんだ……」
俺は思わず独り言をつぶやいた。5年前のこと。それを思い出すたび、どうしても心の中にぽっかりと穴が開いているような感覚がしてならない。何が起こったのか?なぜ俺だけが、その記憶を失っているのか?
カバンの中でスマホが震えた。画面を見ると、見知らぬ番号からのメッセージが表示されている。嫌な予感がして一瞬ためらったが、好奇心に勝てず、メッセージを開いた。
『君は忘れている。すべてはこの日から始まった』
それだけが短く書かれていた。送信者は不明。そして、そのメッセージに添付されていたのは、古びた写真だった。そこに写っていたのは、間違いなく俺自身だった。しかし、隣に写っているもう一人の顔がどうしても思い出せない。見覚えがあるようで、ないような、そんな感覚に陥った。
俺は立ち止まり、しばらくその写真を見つめた。誰だ?誰なんだ、この人物は?一瞬、心臓がドクンと大きく脈打つのを感じた。
「誰だ……?」
声が震える。手に持ったスマホが冷たく感じられ、指先がわずかに痺れていた。胸の中に広がる不安は、次第に大きくなり始める。
夕焼けの色が、いつもより暗く感じた。何かが動き出している――そんな予感が、確かにあった。
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### **第1章 終わり*
第2章 2話
2024/9/27 12:00頃投稿予定