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その5-2

彼女は長い髪をポニーテールにして強い意志を秘めた瞳で類を捉えた。


神戸類は息を吸い込み吐き出すと

「山科徹…彼の妹だったんだ」

と呟いた。


彼女は頷いて

「私は山科美沙」

兄とは4歳違いだったの

「兄は優しくて穏やかな人だったわ」

と告げた。


類は一度目を閉じて再び開いて彼女を見つめると

「俺、ずっとニュースや週刊誌を信じてきた」

別に悪く言うつもりはなかったけど

「そう言うこともあるんだって、だからRMTは止めた方がいいって言ってきた」

だから違ってたら謝るけど

「その前に違うってことを教えてもらいたい」

ときっぱりと告げた。


山科美沙は類を見つめ

「うん、ちゃんと来てくれたから話す」

と言い

「そこの東都ハイタワーホテルの一階にあるレストランで話して良い?」

と告げた。


類は頷いて、彼女が歩き出すのに合わせて足を進めた。


見た目は恐らく自分と同じくらいの年齢だろうと推測できた。

その上で彼女は本当のことを話してくれると確信したのである。


和は山科美沙を遠くから見ると

「あ、本当に女の子だった」

周りに怪しい人もいないみたいだし

「本当に彼女も一人で来たみたいだな」

類と同じ年くらいに見えるけど高校生かな

と思いながら、距離を取りながら二人の後に付いて進んだ。

「何か…まるで尾行している気分だな」

思わず自分にツッコミを入れた。


東都ハイタワーホテルの一階にはレストランがある。

ホテルのレストランなのでパラパラとだが客が入っており、他愛無い雑談の花が溢れ、喋り声があちらこちらで響いていた。


美沙はレストランに入って周囲を見回し、窓際の目立たない席に類を誘って座ると飲み物を頼んだ。

類も同じように飲み物を頼み、固唾を飲み込んだ。


改めて彼女を前に緊張しているのである。


美沙は類を見つめ

「神の櫻の…神くんでしょ?」

マギ・トートストーリーのゲームチャネラーの

と告げた。

「上條さんに話をしたらもしかしたらそうじゃないのかって言ってた」

彼だったらきっとくるよとも

「上條さんは兄の親友だったの」


類は「そっか」と言い

「きっとその人ドラゴンウォーズのアベルさんじゃないかな」

彼の名前もカミジョウシュウだったから

と告げた。

「それに名前の付け方が凄く似てる」


…アベルは儚いだし…

…アベンは報復者だし…


「もしかして君もその上條さんも山科徹さんのことでRMTをしているの?」

何故そんなことをしているの?


美沙は類をじっと見つめ

「兄はゲームに興味が無くて」

将来は本に携わる仕事をしたいって言ってたの

と告げた。


類は「そっか、君のお兄さんは俺の兄貴に似てるかも」と少し笑って告げた。

「兄貴もゲームダメダメでいま国文学の勉強してる」

きっと本に携わる仕事をしたいんだと俺は思ってる


美沙はそれに静かに笑むと

「そうなんだ」

と言い

「上條さんのアベルもバンしたんでしょ?」

上條さんは確かにゲームをしていたけど元々は趣味でやっているだけでお金儲けをしようなんて思ってないの

「今だって仕事は兄の夢を継いで本に携わる仕事をしているしお金にも困っていないし」

RMTは兄と私の為なの

と言い

「だって今は携帯やタブレット…モバイルゲームをしている人結構多いでしょ?」

全くゲームをしていない兄の方が少数派だもの

「上條さんのゲームは本当に趣味だったの」

と告げた。

「あの日、5年前のあの事件の日に兄は誰かに呼び出されたみたいで『ちょっと出かけてくる』って出て行ってそのまま帰ってこなかったわ」


類は小さく頷いて

「うん」

と返した。

彼女が何か自分からの言葉を待っている訳ではないと分かったからである。


美沙は類を見つめ

「兄はゲームをしないそう言う人だったから売るモノもないしRMTって言葉すらも知らなかった」

RMT詐欺なんてしているはずがない

「なのに死人に口なしのように兄を殺した殺人犯のいう事ばかり雑誌やニュースで取り上げられて」

ちゃんと調べることもせずに

「兄は殺されたのにそれがさも当然のように罵られたわ」

と泣きそうに顔を顰めた。

「だから兄はRMTをしていないし詐欺なんて絶対にしていないことを証明する為に」

上條さんとRMTをすることである人物を探しているの

「だから貴方がRMTサイトを知っているなら教えて欲しいの」


類は視線を下げると

「俺はやっぱり知っていても教えない」

ときっぱり告げた。

そして

「でも、そのある人を探すことを手伝う事は出来ると思う」

俺はRMTサイトを摘発する仕事をしているから

と付け加えた。


「…本当は言ってはダメだけど」

君の力にはなりたいと思うし

「その人を見つけて真実を知れるのなら知りたい」

5年前の真実を俺も知りたい

「そして君に謝りたいし」

君のお兄さんにも謝りたいと思ってる


美沙は目を見開き

「信じるの?私の話を」

兄がRMT詐欺をしていないっていう話を

と聞いた。


類は真っ直ぐ彼女を見つめて

「信じるよ」

俺、人を見る目はあると思うから

「君は君の知っている真実を告げているって思う」

と告げた。


美沙はポロポロと涙を落とすと顔を伏せて

「…ありがとう」

最低くんって言ってごめんなさい

と告げた。


類は首を振ると

「ううん、俺も君のお兄さんのことちゃんと知らなかったのにニュースや週刊誌を鵜呑みにしてごめん」

と返した。


美沙は類を真っ直ぐ見つめると

「私も貴方を信じる」

神くん

と微笑んだ。


類は一瞬ドキッとしつつ

「あ、俺の名前は神戸類だから」

かんべるいっていうんだ

「神の戸の類でかんべるいな」

と笑って告げた。


美沙は「あ、だから神くんなんだ」と告げた。


類は頷いて

「そうそう」

と笑って答えた。


美沙は深呼吸して

「探している人は『ニシノ』っていう人なの」

兄を殺した人はその人が運営していたRMTサイトを利用していて

「詐欺にあったって聴取の時にいっていたの」

上條さんの知り合いで警察の人がいて本当はダメなんだけどって教えてもらったの

と告げた。


類はハッとすると

「俺、知ってるその人」

と腰を少し浮かせて告げた。


美沙は驚いて

「え!そうなの?」

本当に本当なの?

と聞いた。


類は頷いて

「うん、あー、でも…その人と会ったというかチャットしたこともないし接触したことも無いけど」

と告げた。


美沙は「え?どういうこと?」と首を傾げた。


類は考えながら

「でも恐らくその人だと思う」

と告げた。

「『ニシノ』って人の運営するRMTサイトで売りをしていた子を以前摘発したことがあるんだ」

その子がSNSで『ニシノ』って人のRMTサイトを聞いたって言ってた

「その子がそのSNSに到達した方法は分からないんだけど」

何かSNSを見つけるキーワードがあるんだと思う

「それが分れば」

それにもう一人同じようにニシノって名前を出した女の人がいて

「あの女の人の元カレもきっと同じ『ニシノ』かもしれないと思ってる」


美沙は腰を浮かせると

「わ、私もそのアルバイトを手伝わせて!」

というと頭を下げて

「お願い!」

と告げた。


類は腕を組むと

「んー」

というと

「君がもうRMTをしないというなら兄貴に話してみようと思う」

と告げた。

「君のRMTの目的が『ニシノ』って人を探すことなら」

RMTを止める側で探して欲しい

「もしまだRMTするっていうなら断る」


美沙は類を真っ直ぐ見つめ

「やめるわ」

RMTをやめる

と答えた。

「だって私の目的は『ニシノ』って人を探すことだけだから」

その人から兄を殺した人とやり取りしていた人を教えてもらうためだから

「その情報を持っているはず」

そのサイトの登録データを持っているはずだもの

「だから他の方法で探せるなら止める」

上條さんにもそう話をするわ


類は笑顔で

「わかった。じゃあ、手伝って」

一緒に探そう

「そして、真実を突き止めよう」

と告げた。

「アベンをバンするよ」

良いね


美沙は頷くと

「うん」

と答えた。

「鳴山斗志夫も良いわ」

もし何時かゲームをしようと思う事があったら

「新しい名前で楽しむためにするわ」

そう言って微笑んだ。


類は「わかった」と答え肩越しに振り向いて付いて来ているだろう兄の和を探した。

離れた席でミックスジュースを飲んでいる和を見つけると小さく頷いて手を振った。


話が落ち着いたと知らせたのである。


和はそれを見ると

「話がついたみたいだな」

と周囲を見てジュースを手に立ち上がると

「あ、すみません」

席移動します

と近寄ってきたウェイトレスに話をして二人の席に移動した。


類の横に行き座っている山科美沙を見ると

「初めまして」

と告げた。


類は彼女に

「俺の兄で神戸和」

兄のアルバイトの手伝いが今言った俺の仕事なんだ

と説明した。


美沙は立ち上がると頭を下げて

「山科美沙と言います」

私も神戸君のお手伝いをしたいと思います

と告げた。


和は座りながら類を見て

「類は良いのか?」

大丈夫か?

と聞いた。


類は頷くと

「うん、俺からもお願いする」

アルバイト代は俺のを半分渡すから

「彼女を手伝わせ貰いたいんだけど」

と告げた。


それに美沙は慌てて首を振ると

「アルバイト代はいらないから」

と言い、微笑むと

「私は兄さんの汚名を雪ぎたいだけだから」

お金はいらないの

と告げた。


和は類を見ると

「話の展開が分からないが」

類が良いなら葉月に話をしてみるけど

と告げた。


類は頷くと

「兄貴、ありがとう」

それでお願い

と答えた。


美沙も頭を下げて

「ありがとうございます」

と告げた。


和は小さく息を吐き出すと

「わかった」

じゃあ葉月に話を通しておく

と答えた。


類は携帯を出すと

「LINE交換して良い?」

と告げた。

「葉月さんからの返答とかアルバイトすることに決まったら連絡の遣り取りもあるから」


美沙は笑顔で頷いて携帯を出すと

「バーコード出すから少し待ってね」

とLINEを立ち上げて指先を動かした。


類は美沙とLINEを交換し、アルバイト紹介者の葉月友厚に話をして返答を受け取ってから連絡することを約束して別れた。


和は類と家に戻り直ぐに葉月友厚にメールでグリーンフロントファンタジーのボンタ001の遣り取りと「アベン」との遣り取りの動画を送り、持ち主である山科美沙の報告をした。


彼女がアルバイトを手伝いたいと思っていることと類からもそれをお願いされたことである。


うらどりポリス


ゲームを初めてしたのは小学生の頃だった。


兄の中学時代からの親友の上條周と亜積翔一の二人から

「やってみる?美沙ちゃん」

「手解きしてあげるよ」

と言われてゲーム機に触った。


兄はゲームには全く興味がなく何時も本を持って亜積翔一の家に集まって自分と上條周と亜積翔一がゲームをしている横で本を読んでいた。


亜積家は大きな会社を経営する社長一家で亜積翔一の両親はとても優しい人だった。

知り合いの子供の面倒も見ていて自分たちも遊びに行くとケーキやクッキーなどを何時も用意して温かく出迎えてくれていた。


兄と上條周と亜積翔一と兄が3人いるようで楽しくて嬉しくて何時も懸命にゲーム機のボタンを押していた。


山科美沙は家に帰るとマンションの一角にある自室に入り携帯を机の上に置いた。

その横には兄の写真がありあの頃と変わらない笑顔を向けている。


「兄さん、今日ね、もしかしたら兄さんの汚名を雪ぐことが出来るかもしれない事が分ったの」

ニシノって人が見つかるかもしれない


その人物が分れば当時の登録データを貰って兄を殺した犯人とRMTをした人物を見つけることが出来る。

兄はその人物に嵌められて身代わりになって殺されたのだ。


どこの誰か分からない。

でも兄はゲームをしていなかったRMTなどするわけも出来る訳もない。

だから…きっとその登録データに書かれた人物が兄を嵌めたのだ。


兄を死に追いやったのだ。


週刊誌が兄をどれほど酷く書いたか忘れられない。

ニュースもまるで殺された兄が悪いように報道していた。


美沙は唇を噛みしめ

「人殺しの方が余程許せない事なのに…酷いよね」

と呟いた。


優しかった兄が詰られ踏み躙られたあの時のことを一生忘れることはない。


窓の外に夕刻の空が広がり、東の空から追いかけるように夜の闇が広がり始めている。

この時間が自分は一番嫌いなのだ。


兄の死の連絡が入った時刻。

警察から電話があって両親と一緒に駆けつけたそこに永遠に動くことのない兄の姿があった。


夥しく広がる血に頭上から圧し掛かるような木々の紅い影が目の前の地面に広がっていた。

泣き叫ぶ母の声すら何処か遠いざわめきのようで、じっと見つめる先の現実が全て非現実のように映っていた。


涙も出なかった。

声も出せなかった。


『…ぉにい…ちゃんは、どうしたの?』

暫く立ち尽くして漸く出た言葉がそれだった。


『ちょっと出かけてくる』

少し出掛けたら帰ってくる。

そう言う意味の言葉だ。


なのに。

なのに。

兄がその時から家に帰ることはなかった。


美沙は目を閉じると

「今度こそ、ニシノを掴まえてみせるからね」

待ってて

と呟いた。


5年だ。

5年探して追いかけて…でも見つけられなかった。


その手掛かりがいま目の前に示されたのだ。

彼が…神戸類という彼が言ったのだ。

「俺、知ってるその人」と。

「SNSで『ニシノ』って人のRMTサイトを聞いたって言ってたから何かSNSを見つけるキーワードがあれば見つけられる」と。


闇の迷路の中で射しこんだ一条の光だった。


美沙は祈るように両手を組み

「神戸君…どうか、貴方と一緒に探せますように」

と告げた。


その時、隣のリビングから母親の声が響いた。

「美沙、ご飯にしましょ」


美沙は声に振り向くと

「はーい」

と答え、踵を返すと足を踏み出した。


彼女が背を向けた窓の景色は急速に夜の闇へと切り替わり始めた。


類は夕食を前に和を見た。

「あのさ、ごめんな」

兄貴

そう告げた。


目の前には類が焼いた餃子が皿に盛られて置かれていた。


和は笑って

「別に焦げていたってかまわないって」

俺も料理がそれほど上手なわけじゃないし

と返した。

が、類は困ったように

「いや、それもあるけど…そうじゃなくて」

と言い

「山科さんのこと」

ごり押しだったから

と告げた。


和は優しく笑むと

「ああ、別に俺は気にしてない」

と言い

「ただ、彼女のお兄さんの殺人事件が絡んでの探索だから絶対に単独に動くのはダメだ」

殺人犯は捕まっていると言えど

「誰かが仕組んだものならその相手は危険な人間だと思う」

わかるな

と告げた。


類は考えて

「そうだよな。わかった」

実際に会うことになったりしたら絶対に兄貴に知らせる

と告げた。


和は頷いて

「絶対だからな」

俺が駄目だと言ったら会いに行くことも許さないからな

と厳命した。

「でないと、万一の時に俺はお父さんとお母さんに顔向けできないし」

俺自身が許せなくなる


そう言って手を伸ばして類の頭を撫でた。

「大切な弟に万が一のことがあったらと思うとぞっとする」


類は笑むと

「ありがとう、兄貴」

と言い視線を伏せると

「そう考えるとさ」

山科さんがどれほど辛くてどれほど苦しんでいるかって思うんだ

「彼女、お兄さんのこと凄く大切にしていたし好きだったと思う」

そのお兄さんが殺されて、しかも、RMT詐欺をしたから殺されて当然みたいに周りから言われたら…本当に悲しかったと思うと

と告げた。

「ましてRMTをしていないのに濡れ衣を着せられてだと思うと胸が痛む」


和もそれには頷いた。

「そうだな」

世の中にはそういう事があるな

「真実を明らかに出来ない苦しさや悲しさを抱いて生きている人がいるんだろうな」

そう告げた。


5年。

考えれば長い時間を彼女は真実を追い求めて生きてきたのだと類は考えた。


その力になりたい。

そう考えたのである。


類と和は山科美沙がアルバイトに加わるという話を葉月友厚に報告して返事を待っていた。


類は食事を終えて洗い物をしながら

「許可してくれるといいんだけどなぁ」

と心の中で呟いた。


少しでも早く彼女にその報告をしてあげたいと思っていたのである。


その時、ダイニングのテーブルで本を読んでいた和の携帯が着信を知らせた。

葉月友厚からであった。


和は着信に出ると

「葉月、悪いな」

どうだった?

と聞いた。


友厚はそれに

「ああ、先ずボンタ001とその関連のアカウントはバンする」

と言い

「それからアベンのアカウントの持ち主である山科さんがアルバイトの手伝いをするという件に関しては兄に許可を貰った」

兄は問題ないと言っていた

「それからアルバイトの代金は払うと言っていた」

と告げた。


和はホッと安堵の息を吐き出すと

「良かった」

悪いな、葉月

と返した。


友厚はちらりと隣に座っている兄の美則を見て

「いや、人手があるのはこちらとしても助かるし…彼女ゲームは出来るんだろ?」

グリーンフロントファンタジーをやっていたくらいだからな

「類くんと一緒に頑張ってもらいたい」

と返した。


和は笑顔で

「ああ、俺よりも役に立ってくれると思う」

と告げた。


それには類も友厚も同時に

「「確かに」」

と心で突っ込んだ。


友厚は更に

「それと彼女のアベンと鳴山斗志夫についても…バンする」

そこは彼女に了承してもらうようにしてくれ

と告げた。

「RMT用のアカウントを残したままでアルバイトはさせられないからな」

取り締まる方がRMTをしていたんじゃ笑い話にもならないだろ?


和は類を一瞥し

「それは類が承諾を取ってる」

彼女は快諾しているから大丈夫だ

「RMTはしないと約束してくれた」

バンしてくれ

と返した。


類は洗い物を拭いて棚に直し、和の方を見つめた。

話から山科美沙がアルバイトをすることについては大丈夫だと分かったのだが…ちゃんとした言葉が欲しかったのだ。


和は最後に友厚に

「ありがとう、じゃあ案件があったら連絡してくれ」

と言い携帯を切ると類を見て

「彼女のアルバイトの件は大丈夫だ」

アルバイト代も出すと葉月のお兄さんが言ってくれたそうだ

「それからアベンと鳴山斗志夫はバンする」

と告げた。


類はそれを聞くと

「それは山科さんも承諾してるから大丈夫」

おっしゃ!

と声を零して携帯を手にすると山科美沙にLINEを入れた。

『アルバイトの件OKが出たので宜しく』


食事を終えて勉強をしていた美沙はLINEの通知を見て目を見開くと慌てて携帯を手にトークの内容を見た。

「良かった」

と笑みを浮かべ

『ありがとう、私の方こそ宜しくお願いします(*‘∀‘)』

と返した。


類はそれを見ると

「…かおもじ」

と呟いた。


和は横から見て

「そうだな、それがどうかしたのか?」

と聞いた。


類は笑むと

「ほら、グリーンフロントファンタジーは音声だったからさ」

と言い

「クロノストリップのカーミラさんのことを思い出した」

と告げた。

「彼女も顔文字を多用してたから」

顔文字使うの好きなんだなぁって

「変な言い方だけど女の子なんだなぁって思った」


和は「なるほど」と答えた。


類は更に

『それでアルバイトじゃない方のニシノって人の探索の件だけど日曜日にニシノって人探しをしようかと思うけどどうかな?』

と打ち込んだ。


美沙はそれを見て

『私は大丈夫です(*´ω`*)宜しくお願いします』

と返した。


類は頷いて

『じゃあ、日曜日に俺の家で』

と打ち込みながら

「兄貴、良いかな?」

と聞いた。


和は頷くと

「ああ、彼女が良いなら良いけど」

と返した。


美沙の返答はさっぱりと

『了解しました(*´ω`)お邪魔します』

であった。


最終的に依頼が入ったら連絡をして仕事を手伝ってもらい、日曜日に『ニシノ』探しをするという事に決まった。

場所はどちらも神戸家…つまり類と和のマンションであった。


和は2人の話がまとまったのを確認するとLINEで友厚にその事を伝えた。

アルバイトは友厚の口利きなのだ、方向性だけは知らせておく必要があると考えたのである。


友厚は和からのLINEの報告を見て隣でお茶を飲みながらパソコンを触っている兄の美則に

「今、和から連絡があって彼女はアルバイトと『ニシノ』探しを類くんと一緒にするということに決まったらしい」

RMTからはきっぱりと足を洗ったらしい

と告げた。


美則は動かしていた手を止めると笑みを浮かべて

「そうか」

と答えた。

「類くんならしてくれると思った」


友厚はそれに

「兄貴は『西野圭一』の親友なんだろ?」

何故、彼のことを教えてやらないんだ?

「そうすれば早いと思うんだが」

と聞いた。


山科美沙が探している『ニシノ』は間違いなく兄の親友の西野圭一である。

ましてや和の弟の類も彼女と一緒に彼を探そうとしているのだ。


一言、美則が彼を知っていると言えば事が済むように友厚には感じられたのである。


美則は息を吐き出すと窓の外に目を向け

「確かに彼女が探していた西野は見つかるかもしれないな」

だがこの状態だと『ただ見つかっただけ』になる

と呟いた。


窓の外には夜が広がり全てを闇の中に沈めている。


恐らく山科美沙の置かれている状態がそうなのだろう。

兄の無実。

それを晴らしたいが真実を示すものは闇の中にあって探し出すことが出来ない。


そう言う状態なのだ。


だが、もう一人暗い暗い闇の中を彷徨う人物がいる。

それが西野圭一である。

心の闇の迷宮に囚われて光もなく目的もなくただ日々を過ごしているのだ。


友厚は兄の美則を見つめ

「だいたい山科徹の妹の彼女を助けるために類くんに業と案件を渡したことも」

かなり回りくどいことだと思ったけど

「何故そんな回りくどいことを?」

と聞いた。


美則は自室の窓から夜の町を見つめ

「アイツを救ってやるには回りくどい方法でないと駄目なんだ」

それに山科美沙…彼女が望むものを手に入れる方法も性急ではダメだ

と告げた。

「警察は宛てにならないしそもそも西野のやったことは法に抵触している訳じゃない」

サイトは直ぐに消したし…あいつ自身は詐欺の禁止をサイト内で謳っていた

「詐欺をしたのは山科徹君が身代わりとなった相手であって西野自身に罪があるわけじゃない」

情報開示も全てアイツの意志一つで決まる状態にある


友厚は椅子の背凭れに身体を預け

「確かにそれは言える」

しかし…いやそれだったらなおさら

「西野のことを2人に教えて接触させてその情報を渡すように促せばいいと思うんだが」

それじゃダメなのか?

と聞いた。


彼は罪にはならない。

ならば情報開示しても彼に不利益にならないのだ。


容易に開示してくれそうな気がしたのである。


美則は苦い笑みを浮かべると

「アイツは恐らく公表しない」

いや今のままなら公表することは絶対にない

「もしする気があったのなら5年前に既に開示をしていたと思う」

だがアイツはしなかった

「ただ俺もこのままにしていたら5年前と同じことがいつかまた起きると思っている」

類くんが説得して止めさせたクサンティッペもそうだ

「彼は西野のサイトを使ってRMT詐欺をしていた」

彼が5年前の山科徹と同じ運命を辿らなかったという保証はない

「アイツもそれを苦しんでいないわけじゃないんだが」

と息を吐き出した。

「本当に止めるには」

情報開示させるには

「アイツの心を止めてやらないと駄目なんだ」

アイツに決断をさせないと駄目なんだ


「悲しい哀れな親友を止めたいし俺は救ってやりたいと思っている」

類くんにそれを賭けようと思っている


友厚は息を吐き出すと立ち上がり

「全てを知っていて隠していると分かれば」

俺は確実に類くんだけでなく和にも殴られるな

と肩を竦めた。

「けど、分った」

俺も類くんに期待しているからな


そう告げてその場を立ち去った。


美則は笑み

「悪いな、友厚」

と答え立ち上がると窓の外を見つめた。


闇が降る。

深々と世界を黒く黒く染めていく。


それでもその向こうには輝く明日という朝日が待っているのだ。

ただ自分たちのその朝日はただ何もしないで待っているだけでは登って来ない。


動かなければ。

登るように戦わなければ。

永遠に夜の闇が続いていくだけである。


美則は強くその闇を見つめた。

「西野…俺はお前を救うために追い詰めるぞ」


大切な親友だと思っているからこそ。

これ以上、RMTをさせないためにも。


親友のフィールドであるRMTのサイトを叩き壊して、現実と向き合わせるしかない。


類は何も知らず自室から窓の外を見つめ

「また、明日から頑張らないとな」

と呟いていた。


山科美沙が探し求めている『ニシノ』という人物の探索と伸と完が協力してくれている神の櫻の配信。


もちろん、無料も有料も頑張るつもりであった。

そして、何よりも大学の進路であった。


類はそっと窓ガラスに指先を当ててグリーンフロントファンタジーで彼女と会ってからのことを考えていた。


これまではRMTを止めさせていくこと。

ただそれだけを考えていた。


だからこそRMTの裏を取ってバンさせていく。

ゲームを普通に遊べる環境を作ることを将来の仕事にしていこうと思っていた。


確かにそれはそれでやりたい事の一つだが。

「でも、山科さんの話を聞いて力を貸したいと思ったんだよな」


何者かに覆い隠されてしまった真実。

その事で苦しみ悲しんでいる人がいる。


隠された真実を明らかにしたいと思ったのだ。

自分だって5年間ずっと誤解をしたまま…嘘のニュースや週刊誌の情報を信じたままきたのだ。


本当はどうだったのか。

5年前に本当は何があったのか。


山科徹という彼は何故死ぬことになってしまったのか。

RMT詐欺をしていなかったのにどうしてその理由で殺されてしまったのか。


「俺は知りたい」

真相を確かめたい

類はそう呟いて決意を固めると窓から離れてベッドに座り身体をパタンと横にして目を閉じた。


その二日後に葉月友厚から一つの案件が舞い込んだ。

それが、想像もしていない事態を齎すとはこの時は類も誰も想像することすら出来ていなかった。


運命の輪は回り始め、5年の間ずっと止り続けていた事件がゆっくりとだが確実に動き始めたのである。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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