その3-2
「久しぶりだな、元気にしてた?」
君島さとしという幼馴染に明るい声で呼びかけられた。
「ああ、さとしも元気そうだな」
これから宜しくな
田中和之は笑顔で答えた。
桜の花が咲き誇り、まだ着慣れない学生服に身を包んでの再会であった。
君島さとしは同じ小学校に通い1年から6年まで一緒に遊びまくったその頃の一番の親友であった。
だが、中学の学区がちょうど成城西と東で分かれたので別々の学校になり最初の頃こそ連絡を取り合っていたがその内に音信不通となった。
しかし、今年。
高校が成城中央高校で同じになったのだ。
懐かしさと高校入学と共に親友が出来たことで嬉しくて仕方なかった。
一緒に遊べると思ったのだ。
だが、君島さとしの……彼の周りには『親友』と言う名前の友達が沢山いた。
同じクラスになってももう昔ほど喋ることはなかった。
彼と自分の間に溝が出来たからである。
田中和之は小さく息を吐き出すと自室から出てダイニングでくつろいでいる母親に声をかけた。
「ちょっと、散歩行ってくる」
母親はテレビを見ながら顔を向け
「あら、そうなの?」
気を付けてね
「夕飯前には帰って来て頂戴ね」
と答えた。
和之は頷いて
「わかった」
と答え、手を振って家を出て青く広がる空を見上げた。
「どう言えばわかってくれるのかだよなぁ」
今日の神の櫻のことは言っておいたけど
「見てくれてるかどうか」
そう言って小さく息を吐き出し
「と言うか、さとしの奴元々ゲームに全く興味ないのにゲームのアカウント買って……なにしてるんだよ」
自分で遊んでるのかよ?
「遊んでなかったら、ますます意味わかんないよ」
と、苛立たし気に呟き目を閉じた。
高校に入って再会した幼馴染のさとしの周りの『親友』達は彼に要望を出して『アイドルマイプロジェクト』というゲームのアカウントを貰っていたのである。
『桜庭高校フォーティーンズ揃ってるやつな』とか
『アルカディアシスターズが入ってたらいいから』とか
そう言う感じだ。
それをRMTサイトで購入してIDとパスワードを渡して彼らにあげていたのだ。
さとしに誘われて遊びに行った先でそれを聞いて驚きに目を見開いた。
その時に「そんなことして楽しいのかよ。さとしもそんなのあげる必要ねぇよ。意味わからねぇ」と怒って、遊んでいた彼の家から出て行った。
それから溝が出来たのだ。
和之は戸建ての家が並ぶ住宅街を駅に向かって歩き、駅前の交差点で足を止めると顔をしかめた。
君島さとしが向こう側で立っていたのである。
さとしは和之に気付く彼の元に足を進め
「あのさぁ、和之、そんな顔で見るの止めてくれる?」
すっげぇ気分悪い
「何でそんなに怒るの?」
みんな喜んでくれてるのにさ
「欲しいキャラ付きのアカウントだぜ?」
和之も欲しかったら買ってやるって言ってるのにさぁ
と肩を竦めた。
和之は目を細めながら
「だから言ってるだろ」
そういうのはRMTって言ってアイドルマイプロジェクトでも禁止されてるんだ
「それに俺から言わせれば育てたり集めたりする工程が楽しいのであって何もかもがMaxじゃ面白くないって」
すぐ飽きるぞ
と告げた。
「だいたいお前に要望出してくる奴らって変だ」
そんなんで『俺ら親友だから』なんて俺から言わせたらふざけんなって思う
さとしはそれに
「そう言う言い方は良くないと思うけど」
だってみんなゲーム仲間だし
「凄く色々なゲームを教えてくれるんだぜ」
あんなゲームあるとかこんなゲームあるとかさ
「俺、お前より詳しくなってるぜ」
小学校の頃はお前に教えてもらってばかりだったけど、今は俺の方が詳しい
「お前の話にもきっとついて行ける」
と胸を張った。
和之はふぅと息を吐き出して
「いいか、忠告しておくけど」
本当にゲーム仲間だったら一からのアカウントで一緒に強くなっていくように言え
「売り買い無しでだ」
それでずっと一緒に遊んでくれるなら俺は良いと思う
とビシッと告げて背を向けた。
「この前俺が言ってた今日やってた神の櫻見てないだろ」
見たらわかる
「ゲームを楽しむってことがな」
明日の16時からもするから絶対に見ろ!
さとしは肩を竦めながら息を吐き出すと
「もー、わかったよ」
はいはい
と答え、携帯を見ると
「あ、山崎から確認のLINEだ」
と立ち止まったままLINEを開くと
『クロダカのアカウントはもう貰ってるから後で送る』
『確認するの遅くなっててごめんな』
と返事を出した。
和之はその文面を見ながら視線を伏せると息を吐き出した。
さとしは顔をあげて和之を見ると
「これさ、レアキャラの桜庭高校フォーティーンズ揃えるように頼んでおいたやつなんだ……これまで大丈夫だったから大丈夫だと思うんだけど」
やっぱりちゃんとチェックはしないとな
「揃ってなかったら山崎ら怒るからなぁ」
と笑って言い
「じゃあ、今度ゆっくり話しよう」
俺、和之ともずっと仲良くしていたいからさ
と手を振って立ち去った。
和之は息を吐き出すと
「何もわかってない!」
と怒り、駅前のスイーツ店に入った。
ショーケースには色とりどりのケーキが並んでいた。
さとしと遊んでいた頃にここのケーキをよく食べた。
ゲームをしながら一日中色々な話をした。
さとしはゲームの話はよく分かっていなかったが、それでも大きな目を見開いて
「へー、そうなんだ」
面白―い
と喜んで話に付き合ってくれた。
だから。
だから。
最初こそゲームをするようになったと聞いた時は凄く嬉しかった。
なのに。
和之は肩を上下に動かして怒りを霧散させると
「オペラとイチゴショートとイチゴタルト」
と店員に注文し、買って帰宅の途についた。
「さとしのこと嫌いじゃないから……やめろって言ってるのに」
本当に何もわかってない
……神の櫻を見たら分かってくれるかもと思うんだけどな……
初めの頃から見ていた。
二人とも弱くてボス戦で連敗が続いていた頃もあった。
それでも楽しそうにやっていたのだ。
二人とも自分のキャラを大切にして懸命に育てて遊んでいる。
小学生の頃は自分がゲームをしているのを横でさとしが『うおっ、頑張れ!負けるな!』と励まして一緒に楽しんでくれていた。
それに重なって楽しくて見ていたのだ。
あの頃のさとしは
「俺、ゲームすることに興味ないけど和之がしているの見て応援するの面白い!」
と言って一緒に楽しんでいた。
なのに
「何で変わったんだろ」
和之は目を細めて空を渡る太陽を見つめた。
同じ時、配信を終えて昼食を終えた神戸類は松浦完の家を後に桜守伸と別れて自宅へと帰った。
兄の和と二人だけの家で兄は朝から夕方まで大学で論文を書いている。
類は仕事用にもらったタブレットを出すと
「明日の夕方にも有料するからアルバイトは後と思っていたけど……気分転換に入っておくかな」
と呟いて『アイドルマイプロジェクト』を立ち上げた。
ガチャを回して手に入れたアイドルキャラを育成していくゲームで、キャラ毎にストーリーとエピソードがありそれで好感度を上げ、メインストーリーでキャラのレベルを上げていくというものであった。
もちろん、メインストーリーでもキャラ毎のストーリーやエピソードでもバトルがある。
勝たなければ、その先へ進めないのだ。
基本はソロだがメインストーリーのバトルの時にだけフレンドからキャラクターを借りれるフレンド枠がある。
なので強いキャラを持っているアカウントとフレンドになれるとストーリーが進めやすくなるということであった。
しかも、自分が知らないキャラをそこで見つけることが出来るし、ガチャを回して手に入れれなかった推しキャラクターを借りることもできるのだ。
育成ゲームが好きな人や推しキャラクターがいる人はやり込んで楽しめるだろう。
だが……と、類はふむっと息をつきながら
「好みで言えば俺はこういう育成ゲームよりMMOだな」
楽しい人は楽しいみたいだけど
「好み分かれるよなぁ」
とぼやき
「確かID5540539でプロデューサー名がクロダカだったよな」
と呟いた。
「これってフレンド検索にIDを入れて探すって出来たよな」
類はフレンド検索の枠にクロダカのID番号を入れて出てきた内容に目を細めた。
「……げっ、これって桜庭高校フォーティーンズ揃ってるじゃん」
ネットでめっちゃレアキャラで一人出てきても驚愕モノって言ってるのが4人とも揃い組って
「青天井仰ぎまくってるか不正課金してるとかくらいしかないな」
しかも全員重ねMaxでレベルもMaxって
「そりゃ、怪しむよな」
類はクロダカにオンライン表示が出ているのに息を飲み込むと
「買い手って言ってたから……RMTやってたら買った奴なんだろうけど」
と言い
「カマかけて様子見るか」
逃げられるかもしれないけど
とフレンド申請を出すときの定型文を変更して出した。
『普通はフォーティーンズって揃わないですよね? 不正してたらバンされるよ?』
煽るような文章を入れてクロダカの返答を待った。
もちろん、来ない可能性は大だ。
「ブロされるかもだな」
そう呟いた。
クロダカを買い取ったさとしは今まで一度もなかったフレンド申請に目を見開いた。
「は? 何だこれ?」
そう呟いて慌ててログアウトした。
『普通はフォーティーンズって揃わないですよね?』
それは分かる。
揃わないから結構な金額で買い取ったアカウントなのだ。
さとしは驚きながら
「だから3万も出したんだから当り前だろ」
と言い次の言葉の意味が分からなかったのだ。
『不正してたらバンされるよ?』
バンって何?
さとしはフッと和之の顔を思い出した。
和之はずっと怒っていた。
買い取りを反対していた。
さとしはハッ!とすると
「まさか、和之が嫌がらせ?」
あの時LINE打ってたの見てたし
と先程会ったことを思い出し、携帯を机の上において椅子の背凭れに身体を預けた。
「きっとそうだ」
俺、クロダカのアカウント貰ってるって言ったし
「和之……それを聞いてて送ってきたんだ」
さとしは息を吐き出し
「はぁ……こんな和之の嫌がらせが入ってくるアカウントを山崎に渡しても大丈夫かなぁ」
とぼやいた。
その時、さとしの携帯が震え着信音が響いた。
類はフレンド申請した途端に承認も拒否も押さずにログアウトした様子に
「これって……やっぱり不正ガチャした奴を買い取ったって流れだろうなぁ」
と呟き
「これから売るなら恐らくあそこまで整っていたら二、三日か一週間以内に足を掴めるけど売った後じゃ中の奴がSNSで口外するまで待つかしないな」
俺は9割黒だと思うけど
「SNSで言うかが問題だなぁ」
一応SNSで探してみるしかないか
と肩を竦めた。
瞬間にクロダカがインをしてフレンドを承認してきたのである。
類は驚いて
「はいぃ!?」
マジ?
と思わず声を零した。
「普通は拒否だろ?」
ブロだろ
だが、フレンドチャットに言葉が流れた。
『クロダカ:なぁ、バンって何?』
類は目を瞬かせて
「これって罠?」
と思いつつ
『オレンジ:バンってアカウント凍結とか停止のこと』
と短く返した。
さとしはそれを見て
「……アカウント凍結? 停止? 何で?」
と呟いた。
先の電話は前にアカウントをあげたクラスメイトの片栗太助からのもので
『お前から貰ったアカウントさ、バンされてたじゃないか!なんだよ。SNSで宣伝してめっちゃフレンド募ったのにどうしてくれるんだよ!恥かかせやがって!意味ねぇだろ。もう他の奴らに言うからな。もう仲間じゃねぇからな』
というものだった。
さとしはふぅと息を吐き出し
『クロダカ:どうしてアカウントが凍結とか停止されたのか分かんないんだけど。前にあげた他のアカウントがそれされたらしくて戻す方法を教えてくれる?』
と書いた。
類は目を細めると
「マジで書いてるのか?」
と呟いた。
「と言うか、こいつ本当に本当に何も知らないのか?」
しかもため口だし
類はフムッと考え
『オレンジ:無理です。ゲームの規約でアカウントやアイテムなどをリアルマネー……つまり現金販売することは禁止されているので元々が規約違反になるので戻せません。というか、そういうのやめた方がいいです』
と書いた。
さとしは携帯を置くと
「そんなこと知らなかったし買う時にもそんな話出なかったし」
と机に額を付けて
「そう言えば、和之……お前が言ってたの」
これのこと?
と思い出して身体を起こすと
『クロダカ:もしかしてお前が言ってたRMTってやつ?』
と書いた。
類はそれを見ると驚愕して
「おいぃ!」
とタブレットに突っ込んだ。
「マジで書いてたらゲームやってない奴だ」
ぜってーわかってない
「いや、だから買って始めたのか?」
と言うか……お前が言ってたって俺の知り合いかよ!?
「お前誰だよ?」
類は意味不明と思いつつ
『オレンジ:それです。ゲームを正常に遊べないしその奥ではシステムに負担をかけて他の人に迷惑が掛かるチート、無料ガチャ回しの不正課金などがあるので禁止されています』
と丁寧に説明した。
さとしは「宇宙語だ」と呟き
「けど、俺がやっていたのRMTだったんだ」
そういうことだったんだな
と呟き
『クロダカ:俺さぁ、先言ってた友達にマイプロ、SSR、完璧、買い取りで検索する君のアイドルキュンキュンってサイトで購入できるって教えてもらったんだけどそこにはそんなこと書いてなかった』
と打ち込んだ。
類はメモを取り
『オレンジ:だったらゲームの利用規約を全部読んでください。マイプロは設定から運営で利用規約が見れたと思うから確認してください』
と書いた。
さとしはそれを見て
「設定、運営、利用規約か」
と呟き
『クロダカ:わかった、見てくる。後で電話する』
と打ち込み、設定運営から利用規約を開いて端から端まで見てログアウトした。
類は最後のチャットを見て
「後で電話? 誰? マジでお前誰??」
と暫く呆然としたあとログアウトした。
さとしは息を吐き出し、先ほど電話をしてきた片栗太助にLINE電話を入れようとして登録が消えているのに目を見開いた。
それどころか今までアカウントをあげてきたゲーム仲間全員がブロックしグループからも蹴り出されていたのである。
さとしは立ち上がると部屋を出て母親に
「ちょっと出かける」
と言うと家を出た。
利用規約を読んでダメな事だけは理解した。
恐らく違反していたのだ。
だからアカウントを凍結されても仕方がない。
だけど。
と、さとしは走って和之の家へ行くとインターフォンを押した。
和之は母親に呼ばれ慌てて家を出て門のところで待っているさとしに顔を顰めると
「なんだよ」
どうしたんだ? 行き成り
と聞いた。
さとしは和之を見ると
「今さ、皆にハブられて……前に片栗にあげたアカウントが凍結されたって怒られたんだ」
SNSで宣伝してフレンド集めたのにって
「俺、お前に教えられて利用規約読んだ」
ダメなことは何となくわかった
「けど、さっきお前に説明されたときもそうだけど宇宙語だし訳わからないし」
ダメなことはわかったけど……どうしていいのか
「凍結されたアカウントは元に戻せないって言ってただろ?」
お前にももうアカウントあげれないから嫌われるかもしれないけど最後に聞きに来た
「オレンジってアカウントで言ってきたの片栗のアカウントが凍結されるって分かってたから?」
と聞いた。
和之は「は?」と首を傾げた。
「何それ? 俺知らないけど」
オレンジってアカウントなんか知らないし
「俺じゃねぇよ」
誰だよ、それ
そう言い俯いて泣きそうな様子に息を吐き出すと
「まあ、入れよ」
それで分かるように説明してくれ
と誘った。
さとしは顔を上げると
「いいのか?」
と聞いた。
和之は苦く笑むと
「いいよ」
だから入れって言ってるだろ
と家の戸を開けてさとしを中へと入れた。
階段を上がって自室へと連れて行き椅子に座ってさとしをベッドに座らせた。
「それで?」
そのオレンジになんて言われたんだ?
と聞いた。
さとしは頷くと
「俺、アイドルマイプロジェクトのクロダカでログインしていたんだ」
ちゃんと桜庭高校フォーティーンズが揃っているかどうか確認する為に
と言い
「その時、オレンジって人からフレンド申請が来て」
最初はびっくりしてログアウトしたんだけど先会った時に話してたからお前かと思って承認したんだ
「そうしたら……フォーティーンズって普通揃わないですよね? って言われたんだ」
と告げた。
和之は心の中で
「そりゃ、そうだろ」
SSRの上に確率低いから一人出すのも青天井って言われているんだ
「それが全員揃ってたら俺でもビビる」
RMTだって知ってたから驚かなかったけど
と突っ込んだ。
そして
「それで?」
と先を促した。
さとしは頷くと
「それでその後に不正してたらバンされるって」
と告げた。
和之は腕を組んで
「そのオレンジの言ってることはあってる」
と告げた。
「そのクロダカもRMTって分かったら確実にバンされる」
さとしは俯いて
「そうか」
と言い
「そのオレンジって人は色々説明してくれたんだけど……RMTは何でダメなんだ?」
別にちゃんと俺お金払ってるし
「変なことしてない」
と告げた。
和之は困ったように笑むと
「わかった、さとしに分かるように説明してやる」
と言い
「俺もアイドルマイプロジェクトを少しはやってるから分かっているからな」
基本MMORPGスキーだけどな
と肩を竦めながら告げて
「あのさ、普通じゃその桜庭高校フォーティーンズってめちゃくちゃレアだろ?」
ガチャを何度回しても全員揃えるとしたら数十万数百万くらい突っ込まないと駄目なくらい
とさとしを見た。
さとしは肯定すると
「うん、だから割高で3万ほどした」
と答えた。
和之は「だろうな、けど」と言い
「普通に集めようと思ったら3万じゃ到底集まらない」
それこそ確率は限りなく0に近い
と告げ
「つまり、お前が払った3万よりももっとお金を貢がないとダメなキャラクター集めを注文を受けて直ぐに揃えて渡すって普通なら損するから絶対にしない」
だとすればゲームのプログラムを改ざんしたり
「不正なプログラムを割り込ませたりしてシステム……コンピューターな、それに負荷をかけてやっているんだ」
つまりそれって負荷がかかっている分だけ普通に遊んでいる他の人たちがゲームをする時に動きが悪くなったり
「コンピューターが落ちて遊べなくなったりと迷惑をかけたりしているんだ」
後はそう言うのがまかり通ればヤル気が無くなってゲームから人口が減って閉鎖とか
「悪くなるとお金が絡むから本当の詐欺やそれに纏わる現実の犯罪に巻き込まれる可能性がある」
本当のお金で売り買いだから本物のお金が関わっているからな
「ゲーム会社もそういう色々な損害を被るから禁止しているんだ」
さとしは「そうか、俺に売ってる人がそう言う事をして迷惑を掛けていたんだ」と呟いた。
「俺もそう言う意味では迷惑かけているんだよな」
買うから売るんだし
そう言い息を吐き出した。
そういう事が売り買いの向こう側で起きていたとは考えたこともなかったのだ。
ただ、とさとしは思うと
「その……片栗には謝らないと思っているんだけど皆にハブられて」
きっと学校行ってもハブられるから難しいだろうな
と力なく笑って立ち上がった。
「和之、ちゃんと言ってくれてありがとうな」
色々ごめんな
言われて、和之はさとしの顔を見上げた。
「そう云う奴らは友達じゃないからほっとけ」
そう言い
「お前さ、高額で買ったアカウントを奴らにあげていたんだろ?」
そんなの元々バンされて文句言う方がおかしいって
「それにそいつらゲームしているんだったらRMTの危険性くらい知ってたはずだ」
お前よりずっと詳しかったと思う
「だからバンされる可能性も分かってたはずだし」
その後ろで色々な不正が行われていたことも全部わかっていてお前に頼んでいたに違いない
「なのにバンされたからって一方的にお前を責めるのはおかしいし」
しかもそんな理由で友達じゃないってそんな奴ら元々友達じゃない
さとしは小さく頷いた。
和之は小さく息を吐き出し
「さとし、もうしないだろ?」
と聞いた。
さとしは頷き
「俺、ゲームする事には興味ないから」
けど和之がしてるの見るの好きだったし
「なんか、彼らと話してるとその時のことを思い出してさ」
嬉しかったんだ
と笑った。
和之は笑むと
「じゃあ、これからは俺のするのを見ろよ」
一緒に楽しもうぜ
と告げた。
さとしは驚いて
「良いのか? 何も渡せないし」
と呟いた。
和之はアハハと笑うと
「いらないと言うか……俺もお前と話ししながらゲームするの楽しかったからいいじゃないのか?」
金だけで繋がっている関係なんて俺は信用してない
「お金だけで繋がっている関係って結局お金が無くなったら消えてなくなるだろ?」
友達ってそう言うのじゃないと思うんだ
「だから、さとしももうそう言うの止めた方が良い」
と告げた。
「もしお前がやりたくなったら一緒に一からやろう」
ゲームは育てる工程が楽しんだ
「キャラに愛着湧くしさ」
明日、良かったら一緒に言ってた神の櫻を見ようぜ
「面白いから」
さとしは泣きながら頷き
「ああ、一緒に見る」
和之、分からないことあったら聞くから教えてくれよな
と告げた。
和之は頷くと
「もちろん」
と答えた。
その夜、類はクロダカが言っていたマイプロ、SSR、完璧、買い取りで検索する『君のアイドルキュンキュン』のことをメモで書いて和に渡した。
「クロダカからそこで注文して買ったと聞いた」
和は驚くと
「え?」
買った子が言ってくれたんだ
と告げた。
類は頷いて
「なんか何も知らない奴だった」
RMTとか
「多分ゲームをやったことない奴だと俺は思う」
と告げた。
和はメモを見ながら
「そうなんだ」
と言い
「じゃあ、このサイトにアクセスしてURLを友厚に渡す」
と告げてパソコンを立ち上げてマイプロ、SSR、完璧、買い取りで検索をかけて出てきた『君のアイドルキュンキュン』と言うサイトにアクセスした。
そこには『注文人数』と『キャラクター名』の欄がありそこに自分の欲しいキャラクター名を入れると値段が出るようになっていた。
人数とレア度によって値段が変わる形であった。
和はURLをメモに取り、画面のスナップショットを撮った。
それに類のアカウントであるオレンジとクロダカとのチャット内容のスナップショットも付けて友厚にメールを送った。
数日内にサイトは摘発されて関係したアカウントは全てバンされるだろうことが類には分かった。
が、しかし。
和はご飯の最中もじっと携帯を見てる類を見ると
「どうしたんだ? 誰かから電話かかるのか?」
と聞いた。
類はそれに
「……う~ん、クロダカ……謎な奴だったな」
とぼやいた。
和は首をかしげると
「は?」
と声を零した。
もちろん、電話がかかってくることはなかった。
それが、類にとって夏休み摩訶不思議のハイライトであった。
翌日、類は松浦完の家に行き、伸と共にケルピーの討伐の練習をして、夕方4時30分から有料配信を行った。
昨日の有料配信が良かったのかアクセスしてくれる人数は減っていなかった。
完はそれを見ると
「良かったな、類に伸」
視聴者数全然減ってないな
と告げた。
類はそれに笑みを浮かべると
「完に伸……ありがとうな」
と告げた。
無料だったらきっと視聴者数を気にすることはなかっただろう。
飽きない限りきっと見に来てくれていたに違いない。
だけど、有料にすることで『金を出してまで』と人数が激減するかもしれない可能性があった。
その有料の理由は唯一つ……類だけの事情なのだ。
完にも伸にも理由はなく視聴者数を減らしたくなかったら有料にしなくても良かったのだ。
それでも類の為にその起きるかもしれない不利益を敢えて受け止めてくれたのだ。
類は携帯を手に線を繋ぐと伸と完を見た。
「なあ、もし……困ったことがあったら俺……力になるからな」
だから言ってくれよな
そう笑顔で告げた。
伸はそれに笑むと
「よ~し! じゃあ、遠慮なく困ったことがあったら言うから」
その時は頼むぜ
「但し、激ムズボス突撃でも逃亡するなよ」
とビシッと冗談ぽく告げた。
完も笑って
「類、俺もその時は頼むから宜しくな」
と言い
「けど、今はその気持ちだけ貰っとく」
と告げた。
類は頷いて
「わかった、ありがとう」
と返した。
お金じゃない。
そいうモノじゃない。
困った時に見返りなく差し伸べてくれる手に感謝したのである。
だから、親友である二人が手を必要とした時には自分もまた見返りなく手を差し伸べたいと思ったのである。
類はマギ・トートストーリーにログインをすると
「今日は土属性の武器を持ってる火力拳のフミツキちゃんでいく」
と告げた。
「壁も出来るから二人で火力押しな」
それに伸は
「じゃあ、俺は純火力杖のアリアちゃんでいくかなぁ」
と言い
「ケルピーは一発勝負だな」
と笑みを見せた。
類は頷くと
「敗戦二回目は無しで」
あー、それと最後に火力ヨワヨワレビンアローもなしで!
とビシッと告げた。
それに伸はマギ・トートストーリーにログインしながら苦笑を零した。
「あー、サツキの美味しいところを持って行ったレビンアローな」
完も苦笑を堪えられないように肩を震わせた。
類は自分で振った話なのに思わず笑いを堪えきれずに笑った。
そして、完が配信OKの合図を手で送ると類と伸は携帯を手に顔を見合わせた。
「今日は二度目の有料放送でやっぱり緊張しますが、昨日のようにレビンアローに全てを持って行かれないように頑張ろうと思っている神でーす!」
「こんにちは、昨日と同じようにヨワヨワレビンアローで良いところをぶっとろうと企んでいる櫻です」
……神の櫻配信開始しまーす……
この時、外は夏の気配を残した夕暮れの赤が熱い風と共に町を包み込んでいた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。