表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

その3-1

白い菊は死者に手向ける花。

ユラユラと風に揺れ、線香の香りと共に空へと舞い上がっていく煙を見送っている。


上條周はお供え用の花束を手に足を進め

「久しぶりだね」

美沙ちゃん

と笑みを見せた。


墓の前に立って周を見ていた喪服の少女は振り向くと

「…上條さん、お久しぶりです」

と静かに頭を下げた。

「今年も来ていただいてありがとうございます」


彼女の名前は山科美沙と言い、山科徹の妹であった。

墓の裏にはその彼の名前が刻まれている。


享年は17歳。

5年前にその生涯を閉じたのである。


周は墓石の前で両手を合わせると

「徹は俺の親友だからな」

と言い、墓の前に置かれている二つの花束を見ると

「一つは亜積だと思うが」

と呟き

「もう一つは誰のものか」

美沙ちゃんは分かった?

と聞いた。


山科美沙は首を振ると

「それが、全く分からなくて」

と言い

「亜積さんは時々心配して連絡をくれるのでその時に」

今年も早い目にいくと言ってくれてました

と告げた。

「上條さんも亜積さんも…本当に感謝してます」

そう微笑んだ。


周はそれにニコリと笑むと

「亜積も俺も、徹と三人でつるんでいたからな」

あのころ俺と亜積はゲーマーだったけど

「徹はなぁ…本当にゲームダメだったな」

一度3人でギルド作って遊ぼうって誘って徹がチュートリアルでアバター壁ドンドンしたまま『無理―』って叫んでることあったな

と肩を竦めてぼやいた。


高校の教室の片隅での出来事である。


美沙はくすくす笑うと

「ですよね。兄はゲーム無理ってやらない人だったから」

と言い、ふっと流れていく紫煙に目を向けそれを追うように空を見上げた。


周もそれを追うように目を細めて青く澄んだ天を仰いだ。

「亜積は俺の方には連絡とってこないのがな」

まあ親の仕事の手伝いで忙しいんだろうが…墓参りくらいは一緒にしたいとは思っているんだけどな


呟いて美沙を見ると

「そう言えば事件の真相を握ってる西野と言う計画師の接点を探していたんだが…正義の神の目に止まってしまってね」

バンをくらわされてしまったよ

と苦みを帯びた笑みを浮かべた。


RMTを扇動しているという西野と言う人物。

その人物を探しているのだ。


だが、バンをくらってしまった。

つまり、失敗したという事だ。


周は墓に向いて両手を合わせると

「もう少し待っていてくれ…徹」

必ず西野を見つけてみせる

「そしてお前が殺された事件の真相を明らかにする」

絶対に

と祈るように誓うように目を閉じた。


山科美沙はじっと墓石を見つめて

「兄さん、上條さんも私も頑張って西野と言う人物を探し出すから」

兄さんの汚名は絶対に絶対に雪ぐからね

と両手を強く握り合わせて一筋の涙を落とした。


5年前に何があったのか。

その真相を。

その真実を。


…必ず明らかに…


うらどりポリス


8月に両親の住む新潟に行き半月が過ぎると神戸類も兄の和もすっかり新潟での暮らしが身についていた。


朝と夕方の散水にその後の収穫。

東京では味わう事のない体験である。


そして、近隣の川に魚釣りである。

清流なのでアユやヤマメなどが泳いでいるのだ。


類は竿を車のトランクに入れながら

「兄貴、お父さんが出るって言ってるー」

と声をかけた。


和は欠伸をしながら家を出ると

「…昨日は論文書いてたから…寝るの遅かったんだよなぁ」

とぼやきながら車に乗り込むと、後部座席に座るなりコクコクと眠り始めた。


類も宿題はある。

だが、昼間にすることがないのでさっさと終わらせてしまったのである。


一番苦手な読書感想文は新潟へ来る列車の中で読んで着くなり最初に書いてしまった。

その後は楽勝であった。


類は冷静に

「テンプレ宿題は楽でいい」

と心で突っ込みながら、眠っている和を横目に

「お父さん、行こう」

その内起きるから問題なし!

と笑顔で告げた。


早朝4時。

夏はいえ、まだ薄暗かった。


2人の父親である治は車を走らせながら後部座席に座る息子たちを見て

「それで?和は心配してないがお前はどうなんだ?」

夏休みの宿題とかはやってるのか?

と聞いた。


類は頷き

「勿論、やってるよ」

って言うか終わった

と答え、不意に

「あのさ、進路のことなんだけど」

と唇を開いた。

「俺、理系に進んでゲーム会社でゲームの制作に携わりたいなぁって思ってたんだけど」

今はゲームを作るよりは運営とかセキュリティとか

「ゲームをする人が普通に楽しめる環境づくりの方に着きたいかなって考えているんだ」


治は運転をしながら

「なるほどな」

和が友達から紹介してもらったアルバイトを手伝っているからか?

「そう言う方面にって考えたのは」

と聞いた。


その辺りの話を両親は全て知っているのだ。


高校二年の夏休みと言えば進路を真剣に考えなければならない時期である。

その矢先に父親のリストラがあり家族がバラバラに暮すことになったが、類にしても和にしても別に両親と仲違いをしている訳ではない。


2人とも小まめに連絡を取り合っているし、折角会えた機会なので類は今自分が考えていることを話したのである。


類は頷いて

「それは大きいと俺自身思ってる」

けど元々ゲームが好きだからプログラマーになりたいなぁと思っていたし

「今は俺と同じゲームをする人が普通に楽しめる環境の方に力を入れたいなぁと思って」

と告げた。


治は微笑み

「なるほどな」

良いんじゃないか?

「お前がそれをやりたいと思っているなら」

そのための勉強をすればいい

「ただ俺はそう言う方面はからっきしだ」

何を勉強したら良いかとかは分からない

と言い

「お前には和を通じてそう言う仕事をしている人の伝手があるんだ」

聞いてみたらどうだ?

と告げた。

「まあ、和はゲームに興味が無いし大学で勉強している国文科の方の仕事に付くと言っていたが…それぞれの人生だ。お前はお前の好きにしなさい」

ただ今みたいに話してくれると俺は嬉しい


類は目を見開くと頷いた。

「わかった」

ありがとう、お父さん

「取り敢えずは葉月さんに聞いてみる」

そう答えた。


車を10分程走らせ山裾を流れる川の土手で止めると、治と類は眠っている和をそのままに川釣りを始めたのである。


和が起きたのはそれから30分程してからであった。

座りながら寝ていたせいか首を左右に軽く動かしながら解していた。


類はそんな和を見ると

「遅いなー、俺もう10匹釣ったぜ」

と水を入れたバケツを見せた。


和は小走りに駆け寄り中をのぞくと

「マジか!?」

と驚きながら

「うわっ、すごっ」

ヤマメ?

と聞いた。


治が魚から針を外しながら

「ああ、この辺りは水が綺麗だからな」

と自分の使っていた竿を渡し

「俺は少し休憩するから和もやりなさい」

と告げた。


和は頷くと

「自分のおかずは釣らないとな」

と川に投げた。


穏やかな川のせせらぎに夜明けとともに目に鮮やかに飛び込んでくる木々の緑。

流れる風は爽やかで空の青さえ清々しく感じられた。


のんびりとした穏やかな新潟での夏休みである。


その後、類と和は10匹釣ってヤマメを30匹ほど持って帰ると治が魚をさばいた。

付き合いで海釣りなどをしていたので捌き方はマスターしていたらしい。


他のおかずは母親の美奈子が作って準備し、豪勢な昼食を類と和は堪能した。

早朝から頑張った甲斐があったというものである。


その日の夜、類の携帯に桜守伸からLINEが入った。

新潟から帰った後のゲーム配信の件であった。


配信自体は21日から行うが、8月22日10時からと8月23日16時からの二回だけ取り敢えず有料配信するということである。


要するに土日時間と平日時間にそれぞれ行うという事である。

今後の有料配信の正に様子見であった。


伸は最後に

『それでボスは少し難易度をあげてテュポーンを22日でケルピーが23日な』

と書いてきたのである。


類はその内容を見ると「げっ」と声をこぼして

「テュポーンって…めっちゃムズイじゃん」

と寝床で呟いた。

「確か身体は無属性だったけど4つの頭にはそれぞれ属性あったよな」

ケルピーは水だから土の武器だな

「準備しないとだな」


ゲームの中では有利属性と言うのが存在する。

火には水が強く。

水には土が強く。

土には風が強く。

そして、風には火が強いと循環している。


有利属性の武器を使うと敵に対するダメージが大きいので、勝ちたい時は武器を準備するのである。


つまり、有料配信では強い敵に勝たないといけないので有利属性の武器が必要なのであった。


類は息を吐き出すと

「頑張らないとな」

と呟き蚊帳の中から縁側を見つめた。


闇は深々と降り注ぎ、静寂の中で虫の鳴き声が響いていた。

東京とは全く違う風景である。

東京の場合はマンションやビルの明かり。

繁華街になると目に眩しいイルミネーションもあちらこちらで光を投げて掛けて明るいのだ。


本当に眩いくらいに明るい。


類は目を閉じて

「めっちゃ、寝やすい」

と言い欠伸を零しながら

「あふぅ…葉月さんに一度話をして…どういう学科が良いかとか…三年は文理どっちが良いかとか聞いてみよ」

と呟いて眠りに落ちた。


新潟で両親の生活は落ち着いていて類も和もある意味で安心しつつ、20日に東京へと戻った。


その時に美奈子からそれぞれに通帳が渡されたのである。

「これは、前にずっと毎月二人の為に定期にしていたものなの」

いざって時は使いなさいね


全く母親とは偉大である。

万が一のことを考えて準備しているのだ。


感謝しかない。

だがもちろん、その万一がくるなんて事はきっと想像していなかったに違いない。


類も和も礼を言い、新幹線に乗り込むと見送りに立っている両親に手を振って新潟を後にした。


少しの感傷を胸に窓を見ていた類に和は背凭れに身体を預けながら

「お父さんから聞いたんだけどゲームの環境の方の仕事に付きたいって?」

と聞いた。


類は頷いた。

「ん、そう思ってる」


和はちらりと彼を見ると

「葉月に言っておいたから話を聞いたらいいと思う」

まあ葉月よりは葉月のお兄さんだな

と言い

「俺は本当にゲーム界隈が無理だって分かったから俺の進みたい道に行く」

アルバイトは大学卒業までになるな

「ごめんな」

と告げた。


類はそれに

「いいじゃん、兄貴は兄貴の人生だし…俺は俺のだし」

それに俺も大学卒業したら仕事するから

「アルバイトは大学までだと思ってる」

俺も兄貴と一緒で古典や国文学は分からないから

「ゲームとかの方だけなら手伝えるからな」

そっちで困りごとがあったら力になるよ

と答え

「アルバイトは俺も経験を積む意味で本当に手伝えてよかったと思ってる」

と告げた。


和は笑って

「そうか、それなら良かった」

と答えた。


その二人を帰宅早々に葉月友厚が待っていたのである。


友厚は翌日の21日に二人のマンションに訪れると

「悪いな、疲れも取れていないところ」

と手土産を持って言い

「アイドルマイプロジェクトという育成RPGゲームでID5540539のプロデューサー名…つまりアカウント名クロダカというユーザーが調査対象なんだが」

今回は売り手じゃなくて買い手だ

と告げた。


和は「なるほど」と答えた。


…。

…。


類と友厚は同時に和を見た。

「意味が分かってないな」

とシンクロして突っ込んだのである。


類は腕を組むと

「それってもう売買済んでいるから難しいよな」

と告げた。

「もしかして、そこからサイト摘発とか考えてる?」


友厚はふぅと息を吐き出し

「恐らくな」

と答えた。

「ドラゴンウォーズもエルドラド古塔もサイト摘発できているからな」

成立したRMTの証明は難しいから

「その辺りは話しておいたから上手く行かなくても大丈夫」


上手くいかなくても大丈夫って…それって。と類は心で突っ込んだ。

元々RMTはゲームの中と現実と両方から証拠を押さえて漸く証明できるBotやチートに比べれば証明が難しいものなのだ。


それでも売り手なら売ったところを捕まえれば証明できる。

そこを探し出せば良いのだ。

売らなきゃ売り手は意味がないからだ。


つまり、売るというアクションがあるのだ。

だが、買い手は違う。

買ってしまえば後はそれで遊べばいいだけ。


つまり、アクションが無いのだ。

証明の難易度は売り手と比にならないくらい難しい。



増して…と類は考え友厚をじっと見つめ

「あのさー」

と言うと

「俺考えていたんだけど」

特に今回の依頼の根拠なに?

と聞いた。

「俺もだけどサクッと運営ちゃんに通報する奴いるから、そこからっていうのはアルアルだから買い手候補が見つかるのは分かるけど」

今回もそうなの?

「大体アイドルマイプロジェクトってMMORPGとかと違って基本ソロじゃん」

まあフレンドチャットはお情け程度にあるけど


それに友厚は苦笑すると

「類くんは本当に鋭いな」

と言い

「確かに売り手も買い手も依頼の殆どは通報だな」

但し通報ってリベンジ通報とかあるから真偽は確かめないと安易に通報=凍結にはできない

と告げた。


類は頷いた。

「アルアルだし分かる」

でないと通報即凍結だとそれこそ凍結だらけになる可能性あるからな

「でもそれってMMOだけだろ?」

ソロじゃ横の関係があんまりないと思うけど


友厚は腕を組んで

「基本ソロ系のゲームでもあるんだ」

SNSで『どこどこでアカウント買ったー』とかな

「それを見て通報してくるパターンがある」

と告げた。


類は怪訝そうに

「それだけ?」

と聞いた。


友厚は笑って

「もちろん、他の理由もある」

ハードやネットアドレスなどの突然の激変とかな

「それが短期に複数回変われば疑いは生まれる」

と言い

「ただ何処まで行っても調査は必要だってことだ」

限りなく黒に近い灰色も白に近い灰色も徹底的に調べるだな

「ただゲーム会社ですると人員も必要で負担が大きいから兄貴が立ち上げたRMT専用の裏取り会社が成り立つって訳だな」

と告げた。

「それから、和から聞いたんだけど進路の話な」

兄に話したら会って話しようって

「方向によって理系か文系か変わるからちゃんと聞かないと助言は出来ないって」


類は頷いて

「わかった、ありがとう」

と答えた。


友厚は笑顔で頷いて

「兄は類くんと会うのを楽しみにしている」

と告げた。

「あ、一応夏休みだし…早々急いでいないからゆっくり残りの夏休みを楽しみながらな」


類は頷いて

「ありがとう!俺も葉月さんのお兄さんに会うの楽しみにしてる」

夏休みも楽しむ

と答えた。


友厚が帰ると類は和に

「アプリはダウンロードするけど…調べるのは24日からな」

明日と明後日はゲームチャネルで初めての有料だから

「討伐失敗しないように準備したいし」

と告げた。


和は頷くと

「ああ、分った」

と答えた。


類はタブレットにアプリだけダウンロードだけして、翌日の有料放送の準備に取り掛かった。

武器や装備の準備があるのだ。

それに何度か討伐テストをして対策を練らないといけない。


「やっぱり、有料で負けっぱなしで終わるっていうのはなぁ」という事である。


類はマギ・トートストーリーにログインすると桜守伸のリリアがインしているのを確認し個チャを入れた。

『ただいまー、明日の準備したいんだけどOK?』

そう送った。


それに伸は

『おかえり、もちろんOK。テュポーンってヤバヤバだよな。松浦が見ごたえあるのが良いっていうからさ』

と返し

『でも討伐失敗は受けるだろうけど…二回目は勝たないとな』

『負けっぱで終了は避けたい』

と笑った。


類はそれに

『って、負ける気満々じゃん、マジか』

と返し

『パテ投げてくれ、準備してくる』

と告げた。


翌日の22日に類は携帯を鞄に入れると部屋で本を読んでいる和に

「今から松浦の家に行ってくる」

帰るの夕方になるから

「お昼はいらない」

と告げた。


和はそれに顔を上げると

「わかった」

と答えて

「気をつけてな」

と送り出した。


何時もは学校なのだが学校は夏休みで出入りするのに警備員室で事情を書いたりしないといけないのが面倒くさいので機器が揃っている松浦完の家ですることになった。


松浦完の家は一軒家でちゃんと自室があるのだ。

しかも機材が揃っている。


類は文京駅前で伸と待ち合わせをすると

「一応、お菓子買っていく?」

と聞いた。


伸は頷くと

「後飲み物な」

と言い近くのスーパーでお菓子とジュースを買うと駅向こうの住宅街にある松浦家を訪ねた。


完は二人を出迎え

「なんだ、菓子とジュース買ってきてくれたんだ」

俺もケーキ用意しておいた

と告げた。

「放送後の反省会で食べようぜ」


それに二人とも頷いて彼の母親に挨拶をして完の部屋へと入った。


突っ張り棒でカーテンを敷き、正に『撮影します』状態であった。

類は用意されていた椅子に座り

「うわっ、本当の撮影ぽくてめっちゃ緊張する」

うひーやべぇ

とぼやいた。

伸は笑いながら周囲を見回し

「本当にすげーな」

部屋の片づけしんどかっただろ?

と告げた。

が、完は

「俺の部屋は元々から綺麗だから二人と一緒にするな」

と答えた。


類は伸を横目に

「あ、俺の部屋も綺麗だから」

引っ越しする時に色々片した

と答えた。


伸はそれに

「俺もな」

汚くはない

「綺麗とは言わないが」

と返した。


そして携帯にケーブルをそれぞれ繋ぎ、本番へと突入したのである。


有料にしたので閲覧人数がかなり減るだろうと思っていたが8割くらいの人が見に来てくれていたのである。

恐らくこれが面白くなかったら次は激減するだろうことは容易に想像の範疇であった。


類は緊張しつつ

「今日は初めての有料放送で緊張しますが、その分楽しめるように頑張ろうと思っている神でーす!」

と挨拶をした。


伸は笑いながら

「ということで難易度を上げてのテュポーン討伐なので失敗したら神を笑ってやってください」

実況は櫻がしまーす

と告げた。


類はそれに

「ちょっと待て!俺だけかよ、笑われるの」

と突っ込み

「でも二度目は必ず成功するのでご安心ください」

と告げ、横から

「失敗する気満々だな」

と突っ込まれた。


類は伸を見ると

「お前もな」

と返し

「あー、櫻は壁な」

とビシッと告げた。


伸はそれに

「マジか」

と類を見た。


類はにっこり笑って頷いた。

「あれは壁いないと無理だろ?」

ヘイト増し増しで惹きつけてくれるだけでいいから

「後は死ぬなよ」


伸はそれに

「いや、それが一番きっついでしょ」

と言いながら

「まあ、了解」

序でに弱体回復も付けとく

と答え

「今日は杖壁のルリアちゃんで逝きます」

とパラを変えた。


類はそれに笑いながら

「絶対にあっちの『いきます』だな」

と告げ

「俺はデバフと最大火力が高い弓のサツキで逝く」

とパラを変えた。


伸はふっと笑むと

「神も同じ『いく』だな」

と言い、ルリアをボスの前へと進めた。


類も同じようにサツキをボスの前へ進めると

「んじゃ、逝ってきまーす」

と対戦ボタンを押した。


目の前に4つの頭を持つ巨大な竜の身体をしたテュポーンが姿を見せた。


伸は遠回りでテュポーンの背後に回り

「出来るだけさっさとやられるか」

倒すかしてくれ

「回復薬が切れると二戦目がしんどい」

と言い

『ソウサ・オブ・グラディウス』

と杖を光の剣へと変化させた。


瞬間にテュポーンは素早く反転しルリアへ向かって火属性の頭から炎を吐いた。

ルリアはそれに

「バリア」

と淡い光の球体に己を包みこんだ。


サツキは弓を構え

「シュヴァッハ ストリュラー」

と本体に向かって矢を放った。


ダメージは小さいが攻撃と防御の弱体化のスキルである。

テュポーンは弱体成功の深緑の色が全体を覆い、4つの頭の一つ水属性の頭の口をモゴモゴし始めた。


ルリアは光の剣で水属性の頭に攻撃を仕掛けた。


伸は類に

「神、神、あのもぐもぐ頭を狙え!」

弱体効果を無効化するぞ

と告げた。


類はそれに

「了解」

と言うとボタンを押した。


サツキはその頭の上に向かって

「レーゲンヴェロス」

と雨のように注ぐ矢で連続ダメージを与えた。


水属性の頭はやがてぐったりと崩れると動きを止めた。

つまり、その部分は倒れたという事だ。

が、次の瞬間に土の頭がグルンと動いた。

土がテュポーンを取り囲み防御壁を作ったのである。


そこから風属性の頭が呪文を広げた。

ゴゴゴと地と天を繋ぐ竜巻が幾つか発生しルリアとサツキをそれぞれ襲った。


ルリアとサツキの身体を風が切り裂きダメージを与える。

つまり、水と土の頭は防御系。

風は攻撃系という事である。


類は「げげっマジか!いや分かってた!」とサツキのHPがガンガン減っていくのに

「回復!回復!」

おっつかねぇ

と叫びながら

「もう最終手段に入る」

とボタンを押した。


サツキはHPを減らしながら矢を番え

「デストリュクシオン」

火力溜め発動!!

と光を弓に纏わらせた。


伸は「ひー」と言いながら

「頑張れ、ルリア」

と言い、スキルボタンを連続して押した。


ルリアは光の剣を上にかざし

「オールヒーリング」

と回復を唱え、走り出すとサツキの近くまで行き

「サークレッドバリア」

と範囲バリアを広げた。


伸は懸命に指を動かしながら

「巻き込まれて死んだら、運が悪かったってことで」

と告げた。


類は頷きながら

「最大火力まで後3秒」

確か

「防御壁が解けるの2秒だよな」

その後

「あいつ火炎砲はいてくるよな」

と告げた。


テュポーンの最大火力攻撃は火属性の頭が放つのである。


伸は悲鳴をあげながら

「おおう、ルリア、ファイト!」

と自分のパラに応援を送った。


土の壁が消え去りテュポーンは身体を返して火属性の口を広げた。


サツキは弓を構え

「デストリュクシオン アロー」

と光を纏った矢を放った。


矢はテュポーンの身体を貫いた。

が、HPをギリギリまで削ったが僅かに残っていたのである。


つまり、テュポーンの行動は続いているという事である。

絶体絶命であった。


類と伸は同時に

「「ひー」」

と叫んだ。


ルリアは慌てて

「レビンアロー」

と稲妻を落とした。


瞬間にテュポーンは唸り声をあげると霧散したのである。


…。

…。


画面には『討伐成功』の文字が出て類は息を吐き出すと

「締めがレビンアロー」

と小さく呟いた。


伸は笑いながら

「しかも杖壁だから火力ひっくひくの」

レビンアロー

と告げた。


類は堪えきれず

「ルリア、偉かった」

と思わず大声で笑った。


伸もまた

「サツキを救った弱々レビンアロー」

と笑って告げた。


類は息を吐き出すと

「一戦目は負けると思っていたけど弱々レビンアローで勝てたので最後はサツキとルリアの踊りエモで終わります」

視聴ありがとうございました!

「神の櫻の神でした~」

と踊りのエモーションをサツキにさせながら、配信からログアウトした。


伸もまた

「俺も一戦目で負けると思っていましたが…ラストにルリアが大活躍して大火力で本来なら褒められるべきサツキの良いところを全部持って行けたので満足してのエモで終わります」

神の櫻の櫻でした

と言い、ルリアを躍らせながら配信からログアウトしたのである。


完は堪えきれずに笑いながら二人にOKマークを出していた。

かなりツボに入ったようである。


類は笑いながら

「いや、まじ…あそこでレビンアローの締めがくるなんて」

想定外

と線を外して携帯の電源を落とした。


伸も前に突っ伏しながら

「俺も、ボタン間違えたの言えなかった」

本当はもう一度サークレッドバリアするつもりだったのに

「レビンアローかよーって」

と言うと大爆笑した。


視聴者の反応は良く完は配信後の画面を見ながら

「けど、けっこう受けたみたいで『いいね』が鰻登りしてる」

と言い

「コメントもやっぱりルリアレビンアローが席巻してるな」

まさかヒューンってヨワヨワの雷光で倒れるとは誰も思ってなかったんだろうなぁ

「すっげぇ受けてる」

と告げた。


類はふ~と息を着くと

「サツキのデストリュクシオンの破壊力よりレビンアローか」

サツキ頑張って9割がたHP削ったのになぁ

「だが、受けたので良し!」

と言い

「次はケルピーだったよな」

と呼びかけた。


完は頷いて

「ああ、有料配信第二段…」

と言い、不意に言葉を止めた。


伸はそれに

「どうしたんだ?」

と聞いた。


完は指を動かして

「んー、なんかコメントにさ」

『神さんと櫻さんのキャラクターへの愛情が凄く素敵でした』って入ってた

「レビンアロー連打の中でこれだけ」

何か目に留まった

と告げた。


類はそれにぱぁと笑顔になると

「あー、それめっちゃ嬉しい」

だって愛情こめこめで育てたパラだからな

と笑みを浮かべた。


伸も頷いて

「そういうの分かる人は分かるんだよな」

強いだけじゃなくて

「キャラクターへの愛情な」

と静かに微笑んで告げたのである。


そのコメントを打ち込んだのは東京の世田谷の成城で暮らしている類や伸、完と同じ田中和之と言う名の高校生であった。


小さい頃からゲームが好きで幼い頃はゲーム機でソフトパッケージを買って遊んで育ち、高校入学時にタブレットを親から入学祝にプレゼントされてからはネットゲームをするようになった。


MMORPGや様々なアイドルや時には擬人化キャラクターを育てていく育成ゲーム。

色々なゲームをしてきた。


だから、同じゲーマーとして類や伸がキャラクターを大切に育てているのが田中和之には分かったのである。

自分と同じキャラクターを大切に育てながら楽しんでいる。


田中和之は微笑んでコメントを打ち込むと息を吐き出してパソコンの電源を落として窓の外を見た。

「こういうの見るとすっげぇ楽しい」


そう言って不意に顔に翳りを浮かべると

「なあ、さとし」

お前が本当にゲームを楽しむためだったら俺は協力してやる

「だけど、お前…今やってること楽しんでいるのか?」

本当に楽しいと思ってやっているのか?

と呟き顔を顰めた。


和之は深く息を吐き出すとタブレットの電源を入れて『アイドルマイプロジェクト』のアプリを立ち上げた。


いま彼が主にやっているゲームはアイドルキャラクターを集めて育成する『アイドルマイプロジェクト』であった。


頭上では青い空が広がり太陽が静かに輝いていた。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ