その2
ドラゴンウォーズのRMTの摘発が無事に終わり、同時に類の一学期末テストも終わりを告げた。
次にやってくるのは……嬉しい嬉しい夏休みである。
神戸類はテスト最終日の授業が終わると机に突っ伏して
「終わったぁ!」
と声を上げた。
周囲でもざわざわとクラスメイト達が安堵の息を吐き出したり夏休みに向かって何しようか計画していたりと雑然とした雰囲気が漂っていた。
待望の長期休暇が始まるのだからそうなるものである。
そこに桜守伸が類の方に向くと
「でさ、松浦と話してたんだけど夏休み予定どうなってる?」
新潟には行くんだろ?
「おじさんとおばさん待ってると思うし」
と聞いた。
類は頷くと
「ああ、兄貴と8月入って直ぐに行って20日くらいに帰ってこようかって話はしてる」
お父さんとお母さんと離れて暮らして初めての長い休みだし
「出来るだけ向こうにいようって話で」
と答えた。
伸はそれに
「そりゃそうだろうなぁ」
類のところ家族仲良いし
「おじさんもおばさんも心配してるだろうしな」
と言い、ちょうど近寄ってきた松浦完を見ながら
「だったらさ、8月の最終週に有料放送しないか?」
お試しでさ
「20日にこっち帰るならいけるだろ?」
と告げた。
類は有料放送の話が現実化していることに驚きながらも
「え? 良いのか??」
本当に良いのか?
と聞いた。
「見る人激減するかもだぜ?」
そう、無料配信なら見るけど金出してまではなぁ~と言う人は多い。
やっている人間も素人だし、それこそ今やゲーム配信なんてものは群雄割拠の時代である。
色々な人がやっているのだ。
無料配信も多いのだから有料を敢えて見る人が少ないのは当たり前と言えば当たり前であった。
だが、完は笑って
「俺は良いぜ」
元々将来の勉強のつもりで俺はやってるから視聴者数ははっきり言って関係ない
「撮影すること自体に意味があるからな」
と告げた。
伸はサラリと
「俺は類とゲーム出来たら構わない」
閲覧数は気にしてない
と答えた。
「類が減るの嫌だったら辞めても良いけど」
類は首を振ると
「俺は凄く助かる」
と答えた。
「儲け一辺倒は嫌だけど」
楽しみながら生活の足しになるなら嬉しい
「ありがとうな」
そう告げた。
完は他のクラスメイトがそれぞれ帰宅したり、クラブへ行って人がいなくなると撮影の準備をしながら
「あー、その代わりにその事を今回の放送で言っておいてくれな」
撮影の設定とかは俺がしてるけど
「俺出てないから」
と告げた。
それに伸が
「そこは勿論OK!」
と答えた。
最終日の一時限だけのテストを終えて少し早い10時30分から11時30分までの配信であった。
8月下旬に有料放送をすると宣言して夏休みへと突入した。
夏休みはそれぞれ予定があり類が東京へ帰って来る20日の翌日21日から昼放送を行うことになった。
そして、7月30日の出発前々日に友厚からアルバイトの依頼があったのだ。
類は自室で新潟に行く準備をしていたが友厚が来ると手を止めて狭いダイニングで和と共に話を聞く事になったのである。
葉月友厚は二人の部屋の荷物を見ながら
「悪いな、明後日から新潟なのに」
と言い
「夏休みからその直後ぐらいまでは結構RMTが活発化するらしいんだ」
兄の話では
と告げた。
類は考えながら
「やっぱり学生が売り買いするからかな?」
とぼやいた。
和は友厚を見ると
「そうなのか?」
と聞いた。
友厚は頷くと
「ああ、夏休みで時間があるからカンストもさせやすいし何かと学生の活動が激しくなるからな」
と告げた。
「それで今回はエルドラド古塔というゲームでID番号がF1200345で今の名前がクサンティッペというアカウントだ」
類は腕を組むと
「エルドラド古塔……か」
と呟いた。
和は類を見ると
「もしかして知らないとか?」
と聞いた。
類は頷いて
「ゲームは知ってるけどやったことない」
と告げた。
そして、手を出すと
「タブレット貸して」
ダウンロードしてやっとく
と付け加えた。
和は頷くと友厚から支給されたタブレットを渡した。
つまりゲームは類。
友厚とのやり取りや他の作業は和。
適材適所の役割分担になったのだと、友厚は理解すると苦笑を零した。
「まあそうなると思ってた」
そう言い
「ちゃんと二人分請求してるからな」
と告げた。
和は慌てて
「いやいや、俺はあまりやってないから……」
1人分で良い、と言いかけた。
が、隣で類は笑顔で
「あざーす!」
と頭を下げた。
……。
……。
和は類の頭をパコーンと叩いた。
友厚は笑って
「良いじゃないか」
ドラゴンウォーズの件は想定以上の成果だったんだ
と言い
「じゃあ、頼むな」
と告げて立ち上がった。
和は小さく息を吐き出して
「悪いな、葉月」
と言い
「助かる」
と頭を下げた。
その時、類はダウンロードしてチュートリアルを終わらせると
「これは結構大変かも」
と呟いた。
友厚と和は類を見た。
類はタブレットを見ながら
「ドランゴンウォーズとかマギもそうなんだけど大部分のRPGはマップが解放されたら最新マップまで初心者でも行くことは出来るんだ」
まあ町の外に出ると死ぬし
「特殊なボスは対戦出来ないけど」
町や村には行けるようになっているんだ
と告げた。
「けど、このエルドラド古塔は階層型だから初心者は全ての階を踏襲していかないとダメみたい」
まあ初心者ブーストがあるからやり込めば追いつけるとは思うけど
「でないと初心者いつかないしそうなるとユーザーが過疎るから」
まあ先に知り合いがやってて強いフレがいれば
「かなり楽に駆け足出来るけどな」
……けどRMTする奴は最上階近くだと思う……
友厚は頷きながら
「なるほど」
確かに他のゲームでもそうだけど
「そこは考慮しないといけないな」
今後のこともあるし
と告げた。
「少し兄と相談して連絡する」
作ったアカウントのID教えてくれるかな?
類は頷くとキャラクターデータを見ながら
「ID番号F1375001で名前がデコピン」
あー、でもレベルカンストはやめて
「カンストの一つ下くらいのレベルで押さえておいて」
と告げた。
何故デコピン?
何故カンストダメなんだ?
と和と友厚は同時に心で突っ込んだ。
友厚は取り敢えず「わ、わかった」とメモを取り
「じゃあ、また連絡するから頼むな」
と類のネーミングセンスに悩みながら立ち去った。
そして、二日後の新幹線の中で和の携帯にメールが届いた。
『階層は最上階でレベルはカンストの一つ下になっていると思う。それから今後もそのようにするって言ってた。ただ仕事が終わったらそのアカウントは凍結するって』
和はそれに
『ありがとう、類に伝えておく』
と返し、隣で本を見ている類に
「葉月が階層は最上階でレベルはカンスト一つ下にしたって、その代わり仕事が終わったら凍結するって」
と告げた。
類はそれに
「了解」
と答えた。
和は類をじっと見て
「一つ聞いて良いか?」
と告げた。
類は顔を向けると
「いいよ」
と答えた。
和は「どうしてレベルがMAXじゃダメなんだ?」と聞いた。
類はそれにさっぱりと
「カンストしてたらさ」
レベリングしたいのでパテお願いします出来ないだろ?
「そうすると調べたい相手に声を掛ける理由が無くなるじゃん」
と答えた。
「ドロップ狙いとかレベリングとか……パテ組む理由は多ければ多い方がいいし」
違和感があると警戒される
……。
……。
和は目を見開いて類を見つめると
「なんて言うか……色々考えているんだな」
そう言うこと考えたこともなかった
と告げた。
類は顔を顰めると
「まあ……ゲームやってたらそう言う事も思いつくから」
やってなかったら分からない感覚かもな
と応え、本を再び読み始めた。
新潟に着くと父親の治と母親の美奈子が迎えに来ており本家の近くにある家へと車で初めて訪れた。
家自体は古民家だが十分綺麗で類は土間から家の中へ入ると襖で仕切られているが開けると広々とした空間になる居間を見て
「すげー広い」
と荷物を置いた。
前に家族でいたマンションよりも広く、言わずもがな今のマンションよりも当然広かった。
しかも縁側からは木々や畑が広がりキュウリやトマトがなっているのが見えた。
和はそれを見て
「もしかしてお母さんとお父さんが植えたの?」
と聞いた。
治は頷き
「まあ、来てから植えたものもある」
と答え
「和も類も疲れただろ? ゆっくり休め」
と告げた。
類は「はーい」と答えると居間の片隅に座って柱に凭れ掛かりタブレットを立ち上げると
「ちょっとゲームする」
とエルドラド古塔にログインした。
問題のデコピンは確かにカンスト一つ手前で最上階に立っていた。
「すっげ」
と言い、周囲を見回した。
「さて、クサンティッペってやつを探すか」
そう言って最上階のダンジョンを歩き始めた。
視界はマップを上から俯瞰した感じではなくfpsでプレイヤー視点のモノであった。
つまり自身のキャラクターの姿があるわけではなくそのキャラクターから見ている景色が映っているというものである。
ダンジョンは壁が入り組んだものではなく草木など緑が壁の役割を果たしており薄暗い感じも圧迫感もなかった。
類はそれを見ながら
「なるほどなぁ」
こういうタイプはあまりしないけど
「圧迫感が無いのは悪くない」
と呟いた。
類のアバターであるデコピンはその中をザクザクと進み、途中で幾人かのプレイヤーとすれ違った。
もちろん、敵とも道端でバッタリ、曲がり角でバッタリ、と出会ってはボコった。
一応カンスト一歩前なのだ。
モブに負けない程度には強かった。
ダンジョンにはフロアボスが居りそのボスを倒すと次の階層への鍵を落としてくれるのだ。
同時にレアアイテムや武器も落としてくれるので自分が使わないものなどは最下層のダンジョンの地下のバザールで売買できるようになっている。
もちろん、不正ではなく基本的にあるゲーム内通貨での売買である。
デコピンが最上階のフロアボスの前に辿り着くと数名のアバターが集まって周回していた。
多くのプレイヤーは一番強いボスを倒してレベリングをすることが通常で反対にレベルの低い途中の階層の方がプレイヤーも少なく過疎っている場合が多い。
つまりゲームあるあるである。
類は画面を見つつ
「クサンティッペ……クサンティッペ~」
と独り言をぼやきながら探した。
そこに問題のクサンティッペと言うアバターが姿を見せた。
ボスを倒して戻ってきたのだろう。
類はクサンティッペを見つけると
「……あれ?」
と一瞬首を捻った。
クサンティッペの周囲には先のアベルのようにBotの影もメインアカもいなかったのだ。
つまりソロである。
類は少し考えながら暫くその場に立ち尽くして動向を見つめた。
「普通はBotとかカンストのメインアカがいるんだけどなぁ」
このエルドラド古塔はドラゴンウォーズみたいに他の人のレベルとか見れないからなぁ
「ここは一つ」
そう言ってクサンティッペに個人的にチャットを送った。
『ソロで周回ですか? パテ空いてますか?』
それに返事はなかった。
無視である。
類はふぅと息を吐き出すと
「あるあるだな」
と呟いた。
しかし、ソロで最上階のボスを周回しているのは驚きであった。
しかも周回速度が速い。
類は暫く画面を見つめて考えた。
良くある動向と違っていたので判断が難しかったのである。
Botやメインのアカウントと共にいたら黒だと判断はつきやすい。
それは売ったとしてもメインのアカウントが残っているので、また、新しいアカウントを作って同じことを繰り返せば良いだけなのだ。
だが、ソロという事はそのアカウントを売ってしまうと自身のアカウントは無くなり、それこそまた始めから強いフレンドもいない状態でレベリングしていかないといけないのだ。
類はふ~むと考え
「そんな非効率なしんどい思いをしてRMTしないよな」
まあもうエルドラド古塔辞めて終活なら分かるけど
と呟いた。
和はじっと座って険しい表情で画面を見ている類の横に行くと
「どうかしたのか?」
いないのか?
と聞いた。
類は首を振ると
「いや、いたけど……よくあるパターンと違っていたからどうなんだろうと思って」
と呟いた。
和は横で悩みながら
「お前が分からないんじゃ俺には余計にわからんな」
と呟いた。
「俺なんか見つけることも出来ない」
類は和を見ると
「大体アカウントを売る奴はカンストして売るからな」
まあ限定武器ならそれをドロップするイベントとかな
「その辺をウロウロしてる」
と言い
「見つけるのはそう苦じゃない」
と告げた。
和はふぅと息を吐き出すと
「そうなんだ」
と言い
「けど、名前を変えられて無くて良かったな」
と告げた。
それに類は不思議そうに和を見た。
「え?」
和は不思議そうに
「いや、ほら」
葉月が今の名前っていってだろ?
「ゲームって結構名前をバタバタ変えるのかと思って」
と告げた。
類はハッとすると
「まさか」
そう言うことか
と言うと
「兄貴、葉月さんに調べてもらいたいことがある」
と告げて、ログアウトした。
和は目を見開くと
「は? 何を??」
と聞いた。
類は笑みを浮かべると
「パスワードの変更のタイミングと名前の変更のタイミングを知りたい」
と告げた。
和は驚いて
「は? 類……お前今何を考えてるんだ??」
と呟いた。
弟の考えていることが分からなかった。
類は和に
「とにかく、頼む」
と告げた。
「分からなかったら……カマかけるしかないけど」
和は息を吐き出すと
「取り敢えず、急ぎだな」
と言い携帯から友厚に電話を入れた。
「葉月、悪いな急に」
今大丈夫か?
それに友厚の返事は軽いものであった。
「ああ、今のんびりしてるから大丈夫だけど」
お前こそ新潟帰ったばかりじゃないのか?
声ものんびりとしていた。
和はハハと乾いた笑いを零して
「あ、いや」
実は類がクサンティッペってアカウントのパスワードの変更の時期と名前の変更の時期を教えて欲しいって言っているんだ
「今クサンティッペを見つけたけど……何か考えているみたい」
と告げた。
「言っておくが俺には分からないからな」
最後のビシッと告げた言葉に友厚は苦笑を零して
「わかった」
少し待ってくれ
「直ぐ返事できそうならするが」
と言い、がたがたと立ち上がる音がすると彼の兄である美則を呼ぶ声が響いた。
恐らく側にいたのだろう。
少しして友厚が
「少し時間が欲しいらしい」
メールで送るが
「少し類くんと変わってくれないか?」
と聞いた。
和は頷くと携帯を類に差し出し
「葉月が変わってくれって」
と告げた。
類は受け取り
「こんにちはー」
と言うと
「もしかしてなんだけどこのアカウント」
名前を変えてるみたいに言ってたから多分何度か変えてると思うんだけど
「その少し前くらいにパスワードも変えているんじゃないかと思って」
それを調べて欲しい
と告げた。
友厚は頷きながらそれを聞き
「それがRMTと関連があるのか?」
と返した。
類は頷いて
「これは調べてからの判断になるけど」
もし俺が言った通りなら
「そいつRMTだけじゃなくてRMT詐欺をしてる」
と告げた。
和は驚いて類を見た。
友厚も驚いて隣に立っていた兄の美則を見た。
美則はメモで『そう思った理由を聞いてくれ』と書いて見せた。
友厚は頷いて
「何故そう思うんだ?」
と聞いた。
類は冷静に
「一つはそいつの周りにメインのアカウントもBotもいないし」
チートでもない
と言い
「名前をころころ変えていて、且つパスワードを変えているとしたら」
売りに出して直ぐに取り戻してる可能性がある
と告げた。
友厚は大きく息を吐き出すと
「はぁ~類くんは恐ろしい感覚を持ってるな」
と言い
「わかった、兄に行ってすぐ調べさせてメールする」
つまり
「名前を変えた時期とパスワードの時期が同じかどうかとその頻度だな」
と告げた。
類はあっさりと
「それそれ」
と告げた。
その後、和と変わって和は
「頼むな」
と言うと携帯を切った。
返答のメールは意外と早かった。
それを受け取り類は息を吸い込むと
「落とす」
と言い、エルドラド古塔にログインした。
クサンティッペがまだ周回していたら助かるのだが、とボス前に立ったまま現れては消えるアバターを見つめた。
その中にふっとクサンティッペが姿を見せた。
回っているようである。
類はデコピンをボス前へ進めてクサンティッペに個チャを投げた。
『RMT詐欺は止めた方が良い。犯罪だからな』
それに和はギョッとした。
「類……何を」
クサンティッペはぴたりと止まると
『詐欺なんてしてない』
と個チャが返った。
類は目を細めると
『アカウント売りしてアカウントを取り戻すのは立派な詐欺だけどな。身に覚えが無ければ良いけどあるなら止めた方が良い。訴えられるから』
と続けて打った。
クサンティッペは暫く立ち尽くしそのままログアウトした。
和は蒼褪めながら
「類、ちょっと突っ込みすぎじゃないのか?」
と聞いた。
類は息を吐き出すと
「多分、こいつ分かっててやってる」
詐欺だってことも全部分かっててやってる
「分かってなかったらもっと言い返してくるし反応が違ってたと思う」
と言い、和を見ると
「あのさ、RMTは現実問題として犯罪とまでは言えないんだ」
まあ引っ掛かるとしたら著作権法違反とかそう言う方面
と告げた。
「ただ運営はサーバーへの負担だとかそれも含めた他のプレイヤーへの負の影響とか……詐欺や犯罪の発端になるから禁止しているだけなんだ」
和は「え? そうなのか?」と聞いた。
「いや、お前や葉月の話を聞いて犯罪だと思ってた」
そう呟いた。
類は首を振って
「RMT自体はそうなんだ」
けど、このクサンティッペがしているのは詐欺だ
「だからメインアカウント一体だけでカンスト状態で存在しているし」
パスワードを頻繁に変更してその都度名前を変えてる
「このエルドラド古塔は名前以外の情報が他ユーザーから見えないから名前を変えられたら分からない」
それを利用していると思う
和は頭を傾げ
「はぁ……でもそんな簡単なモノなのか?」
と告げた。
類は腕を組みながら
「う~ん」
と言い
「典型的な例としてはクサンティッペのIDをRMTで売る」
と告げた。
和は頷き
「その辺りは何となく分かった」
と答えた。
類は更に
「支払いを相手が済ませてそのままトンずらするという方法もあるしIDとPWを渡して相手がPWを変える前に自分でPWを変えて結局相手が入れないようにするという方法もあるし、究極、IDが乗っ取られたって運営に言って取り返す方法もある」
つまりお金はもらうけどアカウントを取り戻して自分のものにしておくんだ
「だから新しい売る用のアカウントを用意する必要もないしそのまま育てていても問題はない」
と告げた。
和は顔をしかめると
「それって……」
と呟いた。
類は肩を竦めつつ
「まあ人のアカウントを不正して買うんだアカウントと作成した方が強いに決まってる」
けど金をだまし取られた方も裁判を起こすことは可能なんだ
「警察は余りその辺りちゃんと動かないけど……弁護士を立てて訴えることは出来るししてるやつも偶にいるな」
と告げた。
和は驚きつつ
「……なんて言うか……」
と呟いた。
類は苦笑して
「泥仕合だろ?」
元々RMT自体を運営が不可にしているんだ
「やってもどこかで破綻する」
良いことないさ
と呟いた。
「それにキャラクターが可愛そうだ」
愛情をもって育てて愛情をもって遊んであげないとな
そうニッコリ笑って答えた。
その時、一度はログアウトしたクサンティッペがログインし個チャを投げてきたのである。
『相手も不正しているのに訴えてくるはずないと思うけど警察動かないよ』
類はそれを見ると
「やっぱり分かっててやってたんだ」
真っ黒じゃん
と心で呟きつつ
『弁護士立てて裁判にする人いるよ。弁護士は有料商売だからね』
と返した。
『戻るなら今しかない。ロストアースジェネェレーションってゲームのこと調べて詐欺が発展して殺人事件になって配信終了になったから』
クサンティッペは暫く沈黙を守ったが
『分った調べる。明日のこの時間いる?』
と告げた。
類はデコピンで
『インしておく』
と答えた。
クサンティッペはそのままログアウトをしたのである。
和は類を見ると
「どうするつもり?」
と聞いた。
類はそれに
「もちろん、止めるように勧める」
RMTもダメだけどRMT詐欺はもっとダメ
「それに未成年っぽいし」
と告げた。
和は驚いて
「何で分かるんだ!?」
と叫んだ。
類は悩みながら
「いや、本当にそうかどうかは分からないけどぉ」
そんな気がする
「反応とか言葉遣いとか」
と答え、デコピンをログアウトさせると
「どっちにしてもクサンティッペ自体はバン出来ると思う」
先のログは残っているから
と告げた。
そして、縁側で二人を気にしながら籠を持っている母親を見ると
「兄貴、お母さんが待ってる」
行こうぜ
と立ち上がった。
和は頷くと
「ああ、そうだな」
と足を進めた。
母親の美奈子はふぅと息を吐き出すと
「和のアルバイトだって言うから待っていたけど」
ゲームなの?
と呆れたように呟いた。
和は笑って
「ああ、けど……類のお陰で出来てるんだ」
大目に見て
と告げた。
美奈子は笑って
「わかったわ」
と言い
「さあ、今夜のおかずを収穫するから手伝って」
と二人の靴を縁側に置いた。
類は靴を履くと
「それで? 今日は何?」
と聞いた。
美奈子は笑みを深めて
「今日は焼肉よ」
だからピーマンとレタスと玉葱とシイタケを収穫
と告げた。
類は笑顔で
「おお!すげぇ」
俺、野菜収穫体験初めて
とピーマンのなっている場所へ行くと
「これそのまま千切っていいのか?」
と呼びかけた。
美奈子はポケットからハサミを出すと
「これで先を切って収穫して」
と告げた。
「和は玉葱を抜きに行きましょう」
和は頷くと
「俺も……やったことない」
と言いながら母親の後に付いて玉葱畑へと歩いていった。
空は明るく太陽が燦々と照りつけていた。
同じその空の下で一人の少年がじっとタブレットの画面を見つめていた。
名前を栗山要一と言いクサンティッペのアカウント保持者であった。
彼は小さく息を吐き出すと
「本当だったんだ」
と呟いた。
彼が見ている画面には5年前に起きたMMORPGロストアースジェネェレーションというゲームでRMT詐欺にあった男性が一人の青年を刺殺したという記事が載っていた。
殺された青年は山科徹と言う17歳の高校生であった。
類……つまりデコピンが言った事件の記事である。
要一は椅子から立ち上がるとそっと自室の戸を開けてリビングを覗いた。
そこには母親の一子が座ってノートパソコンの上で指先を動かしていたのである。
「お母さん」
要一は名を呼び固唾を飲み込んだ。
話さなければ……と思っていたが、一子は肩越しに息子を見ると
「要一? お母さん、今忙しいんだけど」
勉強で分からないところはあの人に聞いて
「お母さんは忙しいの!」
と面倒くさそうに返して直ぐにパソコンの画面に視線を戻したのである。
何時頃からか『母親は忙しい』が彼女の口癖になっていた。
休む暇がないと言いながらパソコンのママサイトで懸命に家の愚痴を書いている。
お小遣いも『お父さんの給料が上がらないのに』ともらえない。
タブレットは父親が誕生日に買ってくれたものだ。
だが、友達と遊びに行くのも何するのもお金がいるのだ。
母親に言うと『お金が無くても遊べるでしょ。あの人の稼ぎが悪いから仕方ないのよ。家の事しないんだからお金くらいちゃんと稼いで欲しいわよ』と言い自分は時々ママ友とランチへ行くのだ。
だから。
無料で始めたゲームでカンストさせたアカウントが売れるとネットで見つけSNSの知り合いにそれとなく聞いてRMT闇サイトを教えてもらった。
そこのサイトのオーナー『ニシノ』と言う人はとても親切で優しい人で
『アカウントを買う人は買ったアカウントがバンされたら困るから運営に通報したりしないよ。RMTは警察が動くほどの犯罪ではないからね』
と言ってくれたのだ。
だけど。
自分がしたことはそれ以上のことだった。
要一は唇を噛みしめると戸を閉めて
「どうしよう」
と呟くと机に戻って椅子に座った。
その夜、要一は母親が寝た後に帰宅した父親の前に立つと
「お父さん、ごめんなさい」
俺……俺……
と泣きながら小さな声で言い、肩を震わせた。
この時、夜の闇が深々と降り静寂の中で小さな泣き声だけが響いていた。
類は翌日、昨日と同じ時間にタブレットを立ち上げるとデコピンでエルドラド古塔にログインした。
来るか来ないかは半々である。
来なくてもログが取れているので問題はない。
だが、と類は思い前に座っている和を見た。
「ま、来なくてもあるあるだからな」
そう言った時にクサンティッペがログインしてきたのである。
暫く向かい合うように立って沈黙を守っていた。
が、類は息を吐き出すと個チャを入れた。
『記事、見た?』
クサンティッペはそれに
『見た。教えてくれてありがとうございます』
と返してきたのである。
『ゲーム初めて直ぐに誘われたSNSの知り合いからゲームRMTギルドで検索したらRMTGUILDってサイトがあるからそこで売ったら良いって教えてくれたんだ。オーナーのニシノって人が色々RMT以外にもゲームのこととかも教えてくれるって』
類はちらりと和を見た。
和は頷くとメモに取り、パソコンを立ち上げた。
類はデコピンとして
『そうなんだ。でもRMTはゲームの運営も禁止しているし実際に犯罪をしたり巻き込まれたりするから止めた方が良い。ゲーム自体も配信が難しくなって停止になったりするから』
と返した。
クサンティッペはそれに
『もう止めることにした。これまでしたこともちゃんとする。ありがとうございました』
とデコピンに返してログアウトをしたのである。
クサンティッペを利用していた栗山要一はログアウトの画面を見て息を吐き出すとアプリを削除して、隣に座って見ていた父親に顔を向けた。
「ごめんなさい、お父さん」
昨夜全てを話して父親に始めて頬を叩かれた。
その後、強く抱きしめて
「すまなかった」
悪かった
と父親が懸命に謝ってくれたのだ。
父親の要はそっと息子の要一の背中を撫でて引き寄せた。
「もう良いんだ」
二度としなければ良いんだ
そう言って
「ただお前に教えておかないといけないことがある」
と微笑み
「これからお前が色々なことにであったり巻き込まれたりするかもしれない」
だけど一つだけ言えるのは
「罪は罪なんだ」
未成年だからとか自分は○○だからとか
「そう言うので罪が軽くなったりはしないんだ」
どんな理由があっても同じ罪を犯せば同じ罪を背負うことになる
「未成年だから軽くなるのは罰の方で罪が軽くなるわけじゃない」
罰が軽くなるのはお前が今のようにもうしないと真っ直ぐ歩いていく可能性が高いからなんだ
と告げた。
要一は頷いた。
父親の要は彼の顔を両手で包み
「俺は仕事を理由にしてお前に大切なことを教えずに過ごしてきた」
悪かったな、許してくれ
と言い
「それから母さんのことも許してやってくれ」
母さんはテレビやSNSやそういう言葉に心を持って行かれてしまったんだ
「ずっと家でそれしか見てこなかったからな」
始めは寂しさを紛らわせる慰めだったんだろう
「だがそれの深みに嵌ってしまってお前も俺も母さんにとって家族じゃ無くなってしまったんだ」
と告げた。
「寂しい思いをさせるが俺も色々お前と話していこうと思っている」
今まで話してこなかった分沢山話していこう
要一は笑顔で頷いた。
「うん、ありがとう。お父さん」
要は抱き締め
「ただな、お前は運が良かったな、こうやってちゃんと言ってくれる人が現れて」
警察には被害届が出ていないらしいがちゃんと二人で償っていこう
「それからゲームをやるなら自分が楽しむためにするんだ」
と告げた。
要一は小さく頷いた。
「うん、でも当分はしない」
要は笑むと
「そうか、分った」
と答えた。
同じ時、類もデコピンをログアウトさせると息を吐き出した。
和も作業が分って来たらしくRMTGUILDというサイトにアクセスするとエルドラド古塔のアカウント売買が無いかを調べ、ヒットした一覧の画面を撮った。
そして、経緯と共にRMTGULIDのサイトURLをメールに書いて、一覧の画面を添付して葉月友厚へと送ったのである。
類はエルドラド古塔のアプリを削除して
「よし! これから夏休みを本格的に満喫する!」
と身体を伸ばして立ち上がった。
和も立ち上がると
「そうだな、せっかく新潟に来たんだ」
楽しまないとな
と縁側へと足を進めた。
外では母親と父親が野菜を採っており、類と和は縁側から降りると手伝いに向かった。
数日後、RMTGULIDは閉鎖しオーナーである『ニシノ』は高層高級マンションの一室から青く広がる空を見上げていた。
「……まさかサイトが摘発されるとはね」
まあ捨てサイトだから良いけどねぇ
「だが先月もどっかのRMTサイトが摘発されていたし」
……何かが動き出したとか……
『ニシノ』は目を細めると歪んだ笑みを浮かべて
「まあ、暫くは様子を見るか」
と呟いた。
幾つもの思惑がこの『裏取りポリス』を中心に動き始めているとは全く知らない類と和であった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。