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初仕事

 ゲーム用語でRMTと言う言葉があるが、知っているだろうか?

 RealMoneyTrade。

 つまりゲーム内のアイテムや限定モノ、ゲーム内通貨……もしくはそれらを持っているアカウントを現金で売買するという行為だ。

 

 総じて禁止事項となっている場合が多い。

 

 世界で3000万ダウンロードされているMMORPGマギ・トートストーリーもまたその行為を禁止している。

 

「けど、後を絶たないんだよなぁ」

 と数学の授業を聞きながら、神戸類はため息交じりに机の下で隠し持っている携帯でゲームをしながら小さくぼやいた。

 

 教室の窓の外は青い空。

 6月初めの梅雨の晴れ間であった。

 

 授業が終わると類は隣の席に座っていた桜守伸を見て

「俺、また見つけた」

 アイツ絶対にRで買ったやつだ

 と呟いた。

「愛するパラを育てるのが楽しいのに、他人が作ったパラを使って何が楽しいのか分からねぇ」

 愛情湧かないじゃん?

 

 伸は椅子に腰を下ろしたまま携帯を手に

「まあ、俺も基本は類と同じだけど……ただただゴリラしたい奴は最強パラで俺TUEEEって暴れたいんじゃねぇの?」

 正直レベリング大変だしさ

「初めからカンストチートパワーだし富豪だし……装備もバリバリだろ?」

 面白味は欠けるけど気持ちが分からないわけじゃない

 と呟いた。

「レベリングしててレベル一つ上げるのに200体以上ボス倒さないといけないと分かった時は眩暈起こした」

 経験値もう少し色付けて欲しい

 

 類はう~むと悩みながら

「確かにそれはある」

 けど、さくっと運営ちゃん通報しておいた

 と答え、目の間でパソコンをセッティングしている同級生の杉浦完を見ると

「じゃあ、やる?」

 今日はムツキ使う

 と笑みを浮かべた。

 

 伸は頷くと

「ああ、杉浦Dが早くしろって睨んでるからな」

 と携帯にType-Cの線を繋いだ。

 

 類も同じように線を繋いだ。

 

『MMORPGマギ・トートストーリーのゲームチャネル・神の櫻』

 類と伸がMCとしてゲームをしながら実況中継をする非公式ゲームチャンネルである。

 

 3時半に授業を終えて駄弁ってセッティングしてからなので決まって4時から5時の1時間だけ放送しているのだ。

 

 意外と人気でチャンネル登録数は1万ほどいる。

 

 類は杉浦完がLIVE放送を始める合図を手で送ると

「こんばんは~、今日もマギトートを楽しんでる神です」

 とにっこり笑った。

 

 軽いウェーブの掛かった髪に大きな瞳。

 そして、アイドル顔負けの整った容貌に極めつけが眼鏡である。

 

 ゲームの画面だけでなく動かしている時の顔も写っているので純粋にゲームを好きな人だけでなく類のファンも少なくはなかった。

 

 意外とモテるのだ。

 伸もまた黒い髪に類と違って硬派なタイプの美形でファンが多かった。

 

 伸は類が両手剣パラのムツキでボスの前へ進むのに合わせ

「じゃあ、神が一人でおっぱじめる前に俺も飛び込むかなぁ」

 ボスの相手は神に任せて櫻が実況しまーす!

 と笑いながら告げた。

 

 類はそれに

「いや、櫻」

 手伝え

 と突っ込んだ。

 

 伸は杖パラのリリアをボスの前に進めて

「神がヘルプ入れてきたので支援しまーす」

 と準備OKのボタンを押した。

 

 類は「バフかけまくれよ」と言い、対戦ボタンを押した。

「今日の討伐ボスはコーリコスの氷の森に封印されていたリントヴォルムです」

 

 目の前にはドラゴンに似た大蛇がのっそのっそと現れた。

 リントヴォルムは翼が生えた大蛇で尻尾を振って強力な物理攻撃を仕掛けてくるのである。

 

 類は軽く眼鏡のブリッジをあげて左の親指を移動キーの中央に置き、右親指をスキルボタンが直ぐに押せるように構えた。

 

 一瞬の油断が命取りになる。

 リアル対戦型なのだ。

 

 ムツキは両手剣を構えると

「ヴィヒテン・アトラクト!」

 と挑発スキルを放った。

 

 リントヴォルムはムツキに目を向けると周囲に衝撃波を広げながらバフンバフンと近寄ってきた。

 

 ムツキはリリアから離れるように走り距離を取ると振り返った。

 類はぼへーと立っているリリアを見て

「バフ―!」

 と叫んだ。

 

 伸はハハハと笑って

「サボってたら蹴られるな」

 と呟き

「良し、仕事しよう」

 と言うと

「シュベーレン!」

 物攻アップバフー

 とボタンを押した。

 

 リリアが杖を前に立てて術を唱えた。

 青い光がムツキを包み込んだ。

 

 類は十字キーで前進すると

「トールインパクト!」

 とスキルを発動した。

 

 ムツキは大きく両手剣を振り上げるとリントヴォルムへと振り下ろした。

 一直線に衝撃波が走りリントヴォルムへとダメージを与えた。

 

 リントヴォルムは大きくうねりながらグリンと尻尾を回してムツキを弾き飛ばした。

 ムツキの身体は横に吹っ飛び周囲の樹氷にガツンとぶつかった。

 

 意外とダメージが大きい。

 HPバーがヒューンと下がり、類はそれを目に舌打ちし

「リントちゃんめ」

 ボコる

 と言いながら

「喰らえ!トロワエクスパーダ」

 と攻撃のボタンを押した。

 

 三弾攻撃の単体用攻撃スキルであった。

 

 それに合わせて伸が

「おっしゃ、じゃあ守ってあげるか!」

 とアハハと笑いながら

「サークレッドバリアに序でにヒールもおまけ」

 と続けざまにボタンを押した。

 

 類はそれに

「おまけ言うな」

 回復重要!

 とビシッと告げた。

 

 ムツキのHPバーがヒューンと伸びてMAXまでは行かないものの一撃で沈むことがない程度には回復した。

 

 支援用パラだけあって回復量も多い。

 流石である。

 

 チャネル評価のグッドボタンの数もグングンと増えていく。

 ただただ戦っているだけなのだが評価は高い。

 

 類はリントヴォルムのHPバーを見ながら

「さて、リントちゃんを沈めるか」

 と言うとスキルボタンを押した。

「ムツキ、やってやれ!」

 最大火力!ダウンフォールインパクト!!

 

 ムツキはリントヴォルムの前に行くと両手剣を上に突き上げて黄金に気の柱を天上へと突き上げ、それを強く振り下ろした。

 

 リントヴォルムを切り裂き、周囲に黄金の衝撃を広げた。

 HPバーは0になり、リントヴォルムは雄叫びを上げるとそのまま砂埃をあげて巨体を地へと倒した。

 

 画面に『討伐成功』の表示が出て、類はハフゥと息を吐き出した。

「櫻、おつおつ~」

 伸は笑いながら

「神もお疲れさん」

 と言い松浦完を見ると視線で『終わろう』と告げた。

 

 伸はギルドホームへ移動すると

「じゃあ、ゲームチャンネル・神の櫻を終わります~」

 お付き合いありがとうございます

「次回は……ミノタウロスでもするか」

 と告げた。

 

 それにはっと意識を戻すと類は

「櫻!勝手に〆るな」

 と言い

「じゃあ、次はミノタウロスで~」

 お付き合いありがとうございました

 とギルドホームへ移動してログアウトした。

 

 伸も同じようにログアウトして松浦を見た。

 

 松浦はOKサインを手で示すとゲームチャネルを閉じた。

「すげーな、グッドが鰻登り」

 次のボスはどうする? 

 

 それに類は携帯を鞄に入れて立ち上がると

「やっぱり、ミノタウロスだろ?」

 伸がミノタウロス~って言ってたから

 と告げた。

 

 伸も鞄に携帯を入れながら

「んじゃー、ミノタウロスな」

 俺が言ったから

 とテキパキと荷物を纏めると立ち上がった。

 

 このまま極普通に。

 当り前の日々が続くと……この時の類は思っていた。

 が、家に帰るとトンデモナイ出来事が待ち受けていたのである。

 

 類の家……神戸家は極々普通の中流家庭であった。

 父親は物販会社の営業課長。

 母親は近くのスーパーのレジ打ちパート。

 3歳上の兄は大学2回生で東都大学に通っている。

 

 家は文京駅近くのマンションの3階であった。

 が、類が帰ると待っていたのはリストラされた父親とテーブルに突っ伏して泣いている母親の姿であった。

 

 夕方だと言うのに電灯も付いていない……正に修羅場の状態だったのである。

 

 類は制服に鞄を持ったままリビングダイニングに入ると呆然と一番冷静な顔をしている兄の和を見て

「クビ?」

 親父が??

 と聞いた。

 

 行き成り言われても『はい、そうですか?』と受け入れられるわけがない。

 しかし、現実は現実で兄の和は頷くと

「ああ、来月末付けでクビだそうだ」

 と淡々と告げた。

 

 母親の美奈子は涙を拭きながら顔を上げると

「……マンションのローンも残っているし……和の大学の学費だって」

 類の高校の学費だってバカにならないわ

「どうして、貴方がクビにならないといけなかったの!」

 と顔をしかめた。

「他に仕事してなくてパチンコしている人だっているって言ってたじゃない!」

 

 父親の治はふぅと息を吐き出すと

「仕方ないだろ」

 とにかく明日から有休消化して仕事探すから

「お前たちは……」

 と言いかけた。

 が、それに美奈子はキッと治を見ると

「何言ってるの!」

 今は仕事だって早々見つからないわよ

「求人倍率1倍も超えていないんだから」

 不況なのよ! 不況!

 と言うと息を吐き出して

「このマンションを売りましょう」

 それでローンをチャラにして

「実家のある新潟に行きましょう」

 貴方は嫌だって言って東京で仕事を続けてきたけど

「実家の仕事の手伝いをして景気が戻るのを待ちましょう」

 と告げた。

 

 治は類と和を見ると

「だが類はまだいいが、和は」

 と呟いた。

「大学へ行っているんだぞ」

 

 和はそれに

「あー、俺のことは大丈夫」

 アルバイトしながら下宿探す

 気にしないで

 と告げた。

 

 美奈子は心配そうに

「でも生活費を送る余裕は当分ないわ」

 と告げた。

 

 和はにっこり笑うと

「大学の親友から誘われていたバイトがあって……時給も良いから頑張ってみるさ」

 と告げ

「ゲームとか余り得意じゃないけどしょうがない」

 類の方が得意かも知れないから

「時々聞くかもしれないけど頼むな」

 とチラリと類を見た。

 

 類は不思議そうに

「何? そのバイト」

 ヤバいのじゃないよな?

 と聞き返した。

 

 和は腕を組むと

「う~ん、俺も良く分からないけど……ゲームのアイテムをお金で買う人を調べるアルバイト?」

 と告げた。

 

 類はハッとすると

「それってRMTじゃん」

 と告げた。

「そんなのゲームしてない兄貴が見つけられるのかよ?」

 マジできねぇって

 

 和は困ったように

「そうか?」

 まあ、俺もゲームに興味ないから断ったんだけど

「明日、やっぱりやるって言おうかと思ってる」

 と告げた。

「背に腹はかえらないからな」

 

 類は「ゲームのゲの字も知らねぇくせに」と心で突っ込み

「……じゃあ、そのバックアップ俺がする」

 その代わり俺も東京に残って兄貴と一緒に暮らす

 と告げた。

 

 美奈子は心配そうに

「でも、類はまだ未成年じゃない」

 やっぱり新潟に一緒に行った方が良いわ

「そうでしょ? 治さん」

 と告げた。

 

 治は目を閉じたまま

「……悪い、今の俺には何も言えない」

 と告げた。

 

 長年勤めた会社をクビになってショックであった。

 かなりショックであった。

 その上で妻に泣いて責められて……心が硬直していた。

 

 思考が働く状態ではなかった。

 

 美奈子は治を見るとふぅと息を吐き出して立ち上がると抱きしめた。

「ごめんなさい、貴方が悪いわけじゃないわね」

 私も動転してしまって責めるようなことを言ってごめんなさい

「その……今まで生活費は本当に貴方におんぶに抱っこだったんですもの」

 先のことを考えて混乱してしまったの

「本当にごめんなさいね」

 許してちょうだい

 そう告げた。

 

 治は小さく笑って

「いや、お前もパートで頑張ってくれていたんだ」

 それに類や和のことは任せっぱなしだったしな

 とそっと彼女の手を撫でた。

 

 和は両親が仲直りをする様子を見て笑むと

「じゃあ、俺と類は東京に残って下宿を探す」

 母さんと父さんは新潟の実家で生活を落ち着かせることを優先してくれ

 と告げた。

「類のことは俺に任せてくれ」

 

 美奈子は類を見ると

「大丈夫? 類」

 と聞いた。

 

 類は頷くと

「ああ、兄貴がバイトちゃんとできるかの方が心配だしな」

 と笑った。

 

 和は嫌そうに

「お前に心配されるほど出来が悪いわけじゃないからな」

 それなりに何でもこなしてきたんだ

「きっと大丈夫だ」

 と言い

「お前こそ高校卒業後のこと考えろよ」

 ゲーム三昧で勉強しているの見たことないぞ

 とビシッと告げた。

 

 類はにっと笑うと

「けど、テストの平均80だから」

 ごあんし~ん

 と返した。

 

 治は二人を見ると

「まったく、たくましく育ったな」

 と言い

「俺も新潟で早く立ち直ってお前たちに少しでも仕送りするから……頑張ってくれ」

 と告げた。

 

 美奈子もまた

「私も今は治さんを優先させたいから」

 2人とも何か困ったことがあったら直ぐに新潟に連絡して頂戴

「良いわね、無理はダメよ」

 と告げた。

 

 なんだかんだでラブラブ夫婦なのだ。

 類は頷き、兄の和を見た。

 

 和も頷いて

「わかった、安心してくれ」

 お父さんにお母さん

 と告げた。

 

 翌日、類は高校へ行くと伸と完の二人には事情を説明した。

 完はそれを聞くと

「あのさ、だったらゲームチャネルの神の櫻を有料に切り替えるか?」

 と告げた。

「フォロワー1万いるし」

 少しくらいは稼げると思うけど

 

 伸は腕を組むと

「俺はどっちでも良いけど?」

 反対に有料になったとたんフォロワー激減すると思うけど

「二人ともがそれで良いなら俺はOK」

 と告げた。

 

 類は悩みながら

「う~ん、せっかく楽しんでやってるのに」

 まあ兄貴のアルバイトの値段とか内容とか聞いてから

「頼むかも!」

 悪い!背に腹は代えられないから

 と両手を合わせた。

 

 完は笑って

「OK」

 と答えた。

 

 伸も頷いて

「ああ、俺はお前と一緒にゲーム楽しめたら良いだけだから」

 気にしなくていいさ

 と答えた。

 

 類は微笑んで

「ありがとう、すっげぇ嬉しい」

 2人が友達で良かった

 と告げた。

 

 伸も完も微笑みながら照れ隠しに類の頭を軽く押した。

 そして、類が家に帰ると和にアルバイトを紹介した大学の親友が姿を見せていたのである。

 

 長身の男性で類を見ると

「ん?」

 もしかして神の櫻の神くん? 

 と告げた。

 

 和は不思議そうに

「ん? 何だそれ?」

 と男性に目を向けた。

 

 類は目を見開くと

「おぎょ!」

 とすっとんきょんな声を出した。

 

 自分でもどこから出したんだ!? と言いたくなるような驚きの声であった。

 

 男性は笑って

「マギ・トートストーリーのゲームチャネラ―で結構有名なプレイヤーだぞ」

 と言い

「和と弟君は正反対だな」

 と告げた。

 

 和はふぅと息を吐き出すと

「悪いな、ゲーマーじゃなくて」

 と言い

「それで葉月……弟も一緒に話を聞いても良いか?」

 俺はゲームのことはからっきし分からないからな

 と告げた。

 

 男性……葉月友厚は頷いて

「ああ、もちろん」

 何も分からないお前だけよりは相当心強い

 と告げた。

 

 類は照れながら

「あー、よろしくお願いします」

 と答えた。

 

 友厚は笑顔で類が鞄を横に置いて椅子に座るのを待って

「まあ、こう言えばあれなんだが」

 と言い、2人を見た。

「Botやチートや暴言とかはシステムの方で分かるんだ」

 ログやセキュリティプログラムとかでな

 そう告げた。

 

 類は頷いて

「ですよね」

 と答えた。

 

 和は「なるほど」と答えた。

 

 友厚は和を見て

「……和はきっとわかってないな」

 と言うかゲームやってないと感覚が分からないんだろうな

 と心で突っ込んで

「問題はRMTだ」

 と告げた。

 

 類は「あー、やっぱりな」と声を零した。

 

 和は類を見て

「そう言えば、昨日も言ってたけど分かるのか?」

 と聞いた。

 

 類は頷いて

「もちろん! RMTってゲーム内で手に入れた強力な武器とかアイテムとか……まあ、アカウントごと売ることも多々あるんだけど」

 と告げた。

 

 和は腕を組むと

「よくわからん」

 と言い

「それが駄目なのか?」

 と聞いた。

 

 類は「大抵の運営ちゃんは禁止してる」と言い

「詐欺トラブルにもなるし……前にロストアースジェネェレーションってゲームでそれが発展して殺人事件が起きてゲーム配信が打ち切りになった」

 俺が初めてやったゲームだけにすっげぇショックだった

「俺のRMT嫌いの発端だよな」

 それに売るやつはBotやチートとか噛んでる奴が多いからサーバー負荷でまともに遊んでる一般ユーザーが迷惑する

「買った奴は買った奴でゲームを正常に遊ぶ感覚持ってないから俺TUEEEってワンパンとかして威張ったり自分よりダメ出せない奴に暴言吐いたりするから一緒にやっててもつまらないし」

 ゲームの運営としてはメリット以上にデメリット大きいから禁止事項に入ってる

 と告げた。

 

 和は驚きながら

「マジか……」

 けど詐欺って? ゲームの中でだろ? それが殺人事件って……意味が分からない

 と呟いた。

 

 友厚は苦笑いをしながら

「そのアカウントを売ったりアイテムを売ったりするって言ってもゲームの世界じゃなくて現金……つまりリアルマネーでするから詐欺になったりするんだ」

 けどどちらも不正をしているから訴えるのも難しい

「まあ稀ではあるけどぶつけ様のない怒りでそう言うのがな、ゼロではないんだ」

 と告げた。

 

 和は目を見開くと

「え? 待って、お金……現金で買うのか? ゲームの中のモノを? ?」

 と聞いた。

 

 類は頷いて

「そう……RMTってRealMoneyTradeの略だからな」

 と言い

「だって装備強化のアイテムを現金でガチャるし月額課金で特別強化とか経験値倍上げとかあるから」

 と告げた。

「ゲームって言ってもゲーム会社が配信しているんだから商売だからな!」

 そもそもゲームやってるのリアルの人間だから

「リアルが絡んでくるよ」

 

 和ははぁ~と息を吐き出し

「なるほど、確かにそうだよなぁ」

 でないとゲームをサービスしていけなくなるよなぁ

「ボランティアじゃないよなぁ」

 とぼやいた。

 

 友厚は笑むと

「それで、兄貴が立ち上げたのが『裏取りポリス』という会社だ」

 と告げた。

 

 類と和は同時に

「「裏取りポリス?」」

 と聞いた。

 

 友厚は笑みを深め

「ああ、色々なゲーム会社から依頼を受けてRMTの実態を調べて報告するっていうやつな」

 と告げた。

 

 類は「おお!」と声を上げた。

 

 和は冷静に

「……で、どうするんだ?」

 と聞いた。

 

 友厚は頷いて

「こちらから調べて欲しいゲームとRMTをしている可能性のあるアカウントを伝えるので実際にRMTをしているかを調べるという……まあ裏を取る仕事」

 だから裏取りな

 と返した。

 

 類は「なるほど、了解!任せとけ!」と答えた。

 

 和はそれに後ろからぱこーんと頭を叩いて

「答えるのは俺だ」

 と告げた。

 

 類は和に

「俺、手伝うから」

 頑張ろう

 と告げた。

 

 友厚は和を見た。

「いいか?」

 

 和は頷いて

「わかった」

 と告げた。

 

 友厚は頷いて

「じゃあ、よろしく」

 但しこの仕事のことは他人に言わないようにしてくれ

 と告げた。

 

 類と和は同時に頷いた。

 

 数日後、住んでいたマンションが売れてローンを清算し両親は新潟に引っ越した。

 同時に類と和は元々住んでいたマンションから少し離れたマンションへと移り住んだのである。

 

 マンションは両親がローンを清算して尚且つ余ったお金を頭金にしてその後のローンは和が払うということで購入したのである。

 マンション購入も賃貸するのも変わりがなかったのでそう言う形で落ち着いたのである。

 

 それから直ぐに初めての裏取りポリスの仕事が舞い込んできたのである。

 6月下旬の金曜日。

 梅雨の晴れ間の爽やかな日のことであった。

 が、しかし。

 類は目下1学期の学期末テストの真っただ中であった。

 

 和と共にやってきた葉月友厚は自室で勉強をしている類を見て

「お? 期末テストか」

 懐かしいものだな

 と呟いた。

 

 2人が暮らすことになったマンションは2DKでダイニングは狭い。

 小さなテーブル一つと椅子を3つ。

 それだけ置いたらもう一杯一杯であった。

 

 代わりに部屋は6畳半と5畳とそれぞれ個別に部屋があるのでそこが購入の決めとなった。

 

 もちろん、5畳の部屋が類の部屋で類は戸を開けながら会釈すると

「もしかして仕事?」

 と聞いた。

 

 友厚は頷いて

「ああ、ゲームはドラゴンウォーズ……結構有名なRPGだ」

 と告げた。

 

 類は手を止めると

「俺知ってる」

 と言い

「一応ギルドもあるしフレとギルドの面々とパーティ組んでバトルできるんだ」

 一時してた

「けどマギの方が自由度高くてやりやすかったから移った」

 と告げた。

 

 和は「なるほど」と呟いた。

 

 友厚と類は同時に

「「あんまり分かってないな」」

 と心でシンクロ突っ込みをした。

 

 類は友厚を見ると

「それで? 問題のアカウントは?」

 と聞いた。

 

 友厚は頷いて

「ID300023のネームがアベル」

 と告げた。

 

 類はメモを取りながら

「アベル……か」

 Rだったらシュールな感覚の持ち主だよな

 と呟いた。

 

 友厚は「ほう」と言うと

「何故?」

 と聞いた。

 

 類は笑って

「名前……儚いって意味だろ?」

 つまりRだったらどうせバンされるって意味を含んでるんじゃねぇ?

 と答えた。

 

 それに友厚と和は同時に目を見開いて顔を見合わせた。

 

 友厚は苦笑しながら

「それで出来そうか?」

 と和に聞いた。

 

 和は類を一瞥して

「取り敢えず類のゲーム手解きを受けながら頑張る」

 まあ今はテスト中だから勉強はさせないとだけどな

 と答えた。

 

 類は見てきた友厚にピースして応えた。

 

 類は友厚が帰ると勉強を終えてダイニングで支給されたタブレットにドラゴンウォーズをダウンロードしてチュートリアルをしている和の横に立った。

 

 チュートリアルと言ってもゲームによってそれぞれ違うが大抵は操作ボタンの基本的な説明である。

 もちろん、複数アカウントを承認しているのでチュートリアルを飛ばすことも出来る。

 

 類は懸命にボタンと格闘している和の後ろに立ち

「あー、だから移動は左下の縁を撫でる形でするんだって」

 と指をさして説明した。

 

「ドラゴンウォーズは操作が単純な方なんだぜ」

 バトルもコマンドセレクトだし

「って、兄貴スキル使えよ」

 

 和は慌てて

「なんだ? それは?」

 と類を見た。

 

 類は溜息を吐き出すと

「んー、前に作ったアカ残ってたかなぁ」

 一年以上全くインしてないけど

「基本削除無しだから」

 と言いながら、ドラゴンウォーズをダウンロードすると画面の最初に出てくるアカウントログインボタンを押してID番号とパスワードを入れてログインをした。

 

「やっぱ生きてる」

 けど

「ギルドから放逐されてるしフレは……ログイン180以前の奴ばっかりじゃん」

 

 そう言って不思議そうに見ている和を見ると

「取り敢えず遣り方説明するからさ」

 と告げて

「一番弱い出発の村へ行くか」

 と移動の羽を使って出発の村へ移動すると

「先ず移動はこれな」

 左の輪を行きたい方へ中央から輪の中でスライドさせていく

 と説明した。

 

 和は動かしながら

「こう……か?」

 と動かした。

 

 和の作ったアイウは崖に激突しながら走っている。

 

 ……。

 ……。

 

 類はふぅと息を吐き出すと

「うん、それが兄貴の行きたい方向だったらあってる」

 と答えた。

 

 そんなわけないだろ! と和は心の中で突っ込み前に突っ伏すると

「無理」

 と呟いた。

 

 人には得手不得手があるものなのだ。

 

 類は和を見ると

「じゃあさ、俺がゲーム内でその問題のアカウントに探りを入れる」

 兄貴はネット上の作業をメインにしてくれたらいいじゃん

「適材適所な」

 と告げた。

 

 和は不思議そうに

「ネット上の作業って?」

 ゲーム内でわかるんじゃないのか? 

 と聞いた。

 

 類は笑って

「違うよ」

 だってリアルマネー……現金が動いているんだから

「RMTの発見しにくいところはそこなんだ」

 チートやBotはゲーム自体が中心だけど

「RMTの取引は外が中心なんだ」

 マミッコハンバイとかパフーオークションとか販売サイトでアカウントを売るとか

「闇RMT売買サイトもあるっていう噂だからな」

 と告げた。

 

 和は唸りつつ

「奥が深いな」

 と呟いた。

 

 類は「じゃあ居そうな場所へ行ってくる」と羽を使って最新の町へと移動した。

「アカウントを売るやつは手っ取り早くレベリングしようとするから」

 特殊なレベル上げ方法じゃないゲーム以外は最強パラを一体から数体持ってて最高の経験値のところで周回するもんさ

「まあ、データ改ざんしてレベリングなしでカンストしてる場合もあるけどな」

 

 和はそれに

「お前の言ってる言葉が宇宙語に聞こえる」

 と言い

「……けど、悪いな」

 助かる

 と微笑んだ。

 

 類は笑顔で

「俺の方が兄貴が残ってくれたから東京残れたし」

 これくらい当り前だろ? 

 と答えた。

 

 携帯の画面ではムツキというパラがダークマウンテンの町を出て最新ダンジョンへと入っていく姿が映っており、他の冒険者も多くいた。

 

 類はダンジョンの最奥にいるボスの前まで来ると『アベル』という名前のアバターを見つけ

「あいつか」

 と呟いた。

 

 マギ・トートストーリーもそうなのだがドラゴンウォーズも同名は禁止されているのだ。

 なので『アベル』と言う名前なら間違いないのだ。

 

 アベルの側には『コンバット1』から『コンバット3』と『押山ナルト』というアバターが居り、その5体でパーティーを組んでクルクルと回っていた。

 

 類は暫くその様子を見つめた。

 

 和も横から覗きながら

「……どうした?」

 と聞いた。

 

 類はスナップショットを何枚か撮り

「恐らくコンバットうんちゃらはBotだな」

 それで押山ナルトが本体でアベルが売りアカだと考えると分からないでもないな

 とボスのところで一瞬立っているそれぞれのアバターを押して情報を見ながら呟いた。

「コンバットうんちゃらと押山ナルトはカンストしているだろ?」

 アベルだけまだカンストしてない

「恐らくカンストさせてから売るんだと思う」

 

 和は類を見て

「何でそんなことが分かるんだ?」

 と聞いた。

 

 類はニッと笑うと

「一つは名前な」

 コンバットは通し番号だし

「まあ、動きを見てたら分かる」

 Botは特にな

「けどここは企業秘密」

 とウィンクした。

 

 和はクラッとしつつ

「まったく、わからん」

 と呟いた。

 

 類は少し考えて

「よし」

 と言うと押山ナルトに個人チャットで呼びかけた。

 

『ソロですよね? レベリングしたいんですけどパテ入れませんか?』

 

 それにアベルも押山ナルトが止まり、コンバット1から3はボス前で立ち尽くしていた。

 戦闘準備OKで停止しているのだ。

 所謂、パーティーリーダーの突入待ちであった。

 

 返答は短かった。

『すみません、空きはありません。今度機会があったらヨロです』

 

 類は「だよなぁ」と言いながら消えていくアベルと押山ナルトとコンバット1から3を見続けた。

 

 他にも何体かのアバターが前を行きボスの前で消えて行っている。

 類の目から見ればその5体は明らかに他と動きが違っていたのである。

 

 類は時々現れては消えるアベルの情報をクリックしながら見つめ

「レベルの上り方から見ると経験値バフつけてるな」

 後20回すればカンストする

 と呟いた。

 

 そして、和を見ると

「あのさ、今夜か明日くらいにきっとアベルを売ると思うんだ」

 と言い

「RMTのサイトって検索方法なんだよなぁ」

 ゲーム名は売りの時に出していると思うんだけど

「でないと違うゲームのキャラクター買ってもしょうがないし」

 RMTとドラゴンウォーズでヒットすれば簡単なんだけど

「でもまあ、アベルは9割黒だよ」

 それにコンバット通し番号は明らかにBotだからそっちは確実にバンして良い

 と告げた。

 

 和は頷くと

「わかった」

 と答えた。

 

 類はアベルがカンストするのを確認すると

「売りの情報を掴めたら完璧なんだけど……今はBotとカンストだけしか分からないからなぁ」

 と言いつつ、入ってきた個人チャットに目を見開いた。

 

 押山ナルトからである。

『俺は君のファンだよ。忠告しといてあげるけど、通報する気満々の時は違う捨てアカを使った方が良いね』

『神の櫻の神くん……マギでもそうだけどムツキは誰に似ているのかな?』

『君じゃなさそうだけど』

『じゃあ、リアルアンダーグランドで会いましょう☆彡』

 

 同時に5体とも消え去ったのである。

 

 和は類を見ると

「……これどういう意味だ?」

 大丈夫か? 

 と聞いた。

 

 類は頷くと

「多分、大丈夫だと思う」

 ただ警告はしてきたみたい

「それに俺の面もばれた」

 と告げて上を仰ぐと

「そっかー、俺、アバターみんな同じ姿にしているから確かに似てる」

 と言い

「今度からはその都度アカウント作って確かに捨てアカにしないとヤバいよな」

 まだ、ただの通報者と思ってくれているから良いけど

 と呟いた。

 

 そして、和を見ると

「この人最後に『リアルアンダーグランドで会いましょう☆彡』って言ってきたけど……何か分からないけど多分ヒントを投げてきたのかもしれない」

 と呟いた。

 

 何故、通報者とわかっていてヒントを投げて来たのか?

 類には分からなかった。

 

 その日の夜、和のパソコンでリアルアンダーグランドを入れて検索をかけたがヒットせずそのまま『リアルアンダーグランドで会いましょう』と入れると一件のRMT専門サイトがヒットした。

 

 そこでアベルのアカウントが売られていたのである。

 いや、それ以外にも幾つものアカウントやゲーム内通貨や規格外武器なども売られていたのである。

 

 つまりRMTの温床となっている裏サイトの一つであった。

 

 類は和に言って業とアベルの売主に取引を持ちかけたのである。

 別にアカウントが欲しかったわけではなく何故態々ヒントをくれたのか? それが知りたくなったのである。

 

 その人物はカミジョウ シュウという名前であった。

 が、取引チャットを仕掛けるとアベルを取り下げて、サイトのアカウントを消し去ったのである。

 

 和は、その裏サイトのURLとアベルが売れていた画面と一緒にいたBotだと思われるコンバット1から3が映っているスナップショットを友厚にメールに添付して送った。

 

 数日後、ドラゴンウォーズではRMTに関わった多くのアカウントが一斉摘発されたのである。

 アベルもその一つのアカウントであった。

 

 その凍結画面……所謂バンされた画面を前に一人の男性が携帯の電源を切ると笑みを浮かべた。

 名前を上條周と言い、アベルの売り手であった。

 

 彼はクルリと椅子を回して窓に向くと

「やっぱりねぇ……神の櫻の神くんが通報したようだな」

 全く罪な子だよね

 と呟き

「そうだろ? 徹」

 お前に似たパラで通報する気満々で見られたら胸が苦しくなるよ

「まあ、RMTの裏サイトなんて消えれば良いんだけどねぇ」

 と何処かムツキに似ている青年が映っている写真を一瞥して笑みを浮かべた。

 

 脳裏を過るのは霊安室の中で眠る姿。

 目覚めることのない眠り。

 霊安室のひんやりとした空気は足元から立ち昇り身体を……そして心まで侵食するように凍えさせた。

 

 忘れることはない。

 永遠に忘れることは出来ない。

 

 彼の死は……複数回刺されての失血死だった。

 

 上條周は目を細めて

「本当に……RMTサイトなんて……全て消え去れば良い」

 と呟いた。

 

 この時、眼下には東京都心の煌びやかな明かりが天の星よりも強く瞬いていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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