01
光は無く、生命も無く、風すら吹かぬ虚空に一つだけ浮かぶ石室。
どの辺も均等で、八つの角を持つ灰色の箱。
その内側で蠢動する肉塊こそが、この場に置ける唯一の知性体であった。
「鬩搾隴鯉鬩搾」
石室の中、化け物が唱える。
「鬩搾隴鯉鬩搾」
声帯が壊れる程に冒涜的に喉を震わす。
常人が聞けば正気を失うほどの悍ましい声は、密室の中で何十にも反響した後、結局誰の耳にも届く事無く消えた。
肉塊は蠢き己以外誰もいない石室の壁を撫で上げる。
前後左右の区別無く粘液にまみれて、全ての壁面がテラテラと輝く。
「鬩搾隴鯉鬩搾」
繰り言のように定期的に発せられる音に決して意味などある筈もなく、肉塊は此処にいない誰かを嘲笑うように同じ言葉を繰り返した。
明かり一つ無い暗闇に一筋の光が差し込む。
完全な暗闇さえも見通す肉塊の瞳が、あまりの眩しさに目を眩ませる。
石室のひび割れの向こう側から覗き込む大きな瞳。
肉塊に埋まるようにして存在する黒曜石の鏡が、ありもしない陽光を反射した。
「縺繧薙繧上縺繧縺縲縺」
肉塊は慌てたように蠢動する。
何が起きたか理解に苦しむ。
訳も分からないまま、無意識に振り上げられた触腕は陽光に照らされて焼け崩れ、肉塊は苦痛のあまりのたうち回った。
イタイ、いたい、痛い。
ソレは音もなく苦痛に喘ぐ。
無数に生えた触腕を振り翳して空から降り注ぐ猛毒から身を守る。
天に輝く一つ目の化け物が自身から視線を反らすまでじっと耐える。
半刻過ぎても痛みが収まらない事に疑問を覚えるソレは、太陽と云うものを今までに一度も見たことがなかった。




