【短編】星王霧~霧は何でも知っている~
平坦の森の中に一通の風が吹いた。
風が向かった元は只今登山中の方三名。
外見年齢は十代後半の若い女性三人、それらが話す談笑へと舞い降りる。
『お~い、聞こえるか~?』
白い霧は、登山家たちに気安く話しかけてみた。
「――何か、霧が濃くなってきた気がします……」
「そりゃ、山の頂上に近づくに連れて濃くなってくるもんやから特に問題は無いと思うで」
「そっかぁー。アタシたち、結構登って来たもんな!」
三人はそれぞれ口調が違った言葉を交わす。
だが彼女たちは霧が濃くなったと思っただけで、何も怯える様子は無い。
そもそも、風の言葉など耳に聞き入れてなどいない。
『お~い! 聞こえるかってば~!』
霧は、少女たちに無視されたと思い。
またもや話しかけたが、それほど期待するような回答は返ってこない。
「頂上に着いたら、何食べる?」
「うちは握り飯や!」
「あっ! アタシ弁当持ってくんの忘れたぁぁぁ!」
『ムムム、こっちを無視してるのか?』
「…………」
「…………」
「ねーえ、頂上に着いたらアタシにも分けてよなっ。絶対だぞっ?」
三人目の少女以外の二人は、分けてやらないぞと言う顔で、無言で三人目を見つめる。
霧もその三人の会話を聞いていたが、霧が食べる食べ物など無いのでそれにはそんなに興味を寄せなかった。
それよりも、自分が無視されてることに対しての疑問に思う気持ちが発生した。
『何で無視すんだよ~! 一言でもいいから、何かしら言ってくれ~……』
「私、何か寒気がしてきた」
「たっ、確かにこの霧の量は異常やな。前すらよく見えんで!」
「んっ? 本当だ! 霧、濃い!」
少女たちからは言葉は返ってきたが、自分を侮辱するような内容しか言ってきて無かったような気がする。
『おい……こいつら。自分をどんだけ馬鹿にしたいんだ?』
その少女たちの無視の連鎖にいらだちを持ち始めた霧だが、自分を侮辱するような言葉を言ってくるとなると、更にいらだちが積もる。
「まっ、前。見えないよ」
「これ、やばいんちゃうか?」
「アタシ、お腹すいてきたんだけど……」
霧が更に濃くなっていき、ついには前をも見えない状態になってしまった。
こうなればもう、隣にいる人の顔すら見えない。
視界が完全に遮られてる。
『馬鹿にした罰だぞっ! 思い知ったか?』
「やばいよぉ……」
「だっ、大丈夫やで! 多分……」
「お~い皆~、どこにいるんだ~?」
一人目の少女は目に涙を浮かべ、二人目の少女はそれを慰め、三人目はそれすらも見失っている。
『あ、これは流石にやりすぎちゃったか……』
霧も少女たちの震える様子を見て、声色を落として反省する。
これは流石に、やりすぎだ。
「うわぁ……」
「――――」
「――――」
一人目の少女が逃げ出すと、残りの少女も追いかけるように走る。
『あっ、待てっ!』
――そしてついに、霧の塊から脱出することが出来た。
「おおっ! 頂上だぁ!」
「そうやね」
「着いたぁ……」
山頂からの眺めのいい景色――それはもう絶景だ。
『…………』
霧も、その絶景を邪魔するようなつもりは一切ない。
遠くから、じっと見守っていた。
二人目の少女は、森の奥を見て囁くように言った。
「ああいう時は、変な声を耳にしても無視するのが当然や! 登山する前に二人に教えといて良かったわ」
それを聞いた霧は、見えないはずの気体。
それなのに、どこか遠くで不気味な笑みを浮かべた。
『こっちは最初から分かってた――』
この霧は、最初から知っていたのだ。
人の心が読める霧。
それこそが――星王霧。
ご視聴ありがとうございました。
終わったので、ブクマはどちらでもいいですが、評価いただけると嬉しいです。
三十分程度で執筆しました、誤字あったらごめんなさい。