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不老不死のマゾヒスト

作者: 青水

 その昔、エムドはある泉の水を飲んで不老不死となった。

 彼は『不老』には興味がなかった。彼にとって重要なのは『不死』である。不死になれば、死なない。解釈を変えると、何度殺しても生き返る。

 エムドはマゾヒストであった。

 マゾヒストのレベルは人それぞれだろうが、彼は重度のマゾヒストだ。傷つけられ、いたぶられることに極度の興奮を覚える。ナイフで刺されても、その痛みが快楽へと変換されるのだ。

 心臓を刺されたら、普通の人間ならば死ぬ。しかし、不死ならばいくら刺されようと死なない。爆弾で木っ端微塵にされようと、肉体は元通りである。

 エムドは傭兵になった。あらゆる戦地に赴き、傭兵として戦った。

 敵からしてみれば、傷つくことを恐れない不死の兵士というのは、相当な脅威である。何度殺そうと立ち上がって戦う。しかも、死が飛び交う戦地だというのに、一人だけ恍惚とした満面の笑みを浮かべているのだ。

 彼の二つ名は〈戦闘狂バーサーカー〉となった。

 戦場で恍惚としながら戦い、傷を負うことを恐れず、敵に掴まって拷問されてもにこにことしている。

 誰もが、彼を恐れた。

 あらゆる勢力が彼を雇いたがった。一人の傭兵に出すには考えられないような破格の大金を出し、戦争の前にエムドを争うマネーゲームとなることもしばしばだった。

 エムドにとって金に価値はない。価値があるのは、自分を痛めつけ満足させてくれるすばらしい敵くらいだった。

 しかしやがて、戦争という概念はなくなった。いや、戦争の戦場がネット世界へと移り変わったのだ。

 世界から一般的な戦争がなくなったことは、ほとんどの人々にとって喜ばしいことだった。しかし、エムドにとってそれは、決して喜ばしくはなかった。

 自分は今後どのように生きていけばいいのだ、と彼は思った。

 心にぽっかりと大きな穴が空いた。しかし、それを埋めてくれるものはない。彼は空虚な日々を過ごした。

 ある日、エムドは一人の女性と出会った。自らのすべてを話すと、彼女は自分が女王様になってあげる、と言った。マゾヒストであるエムドの果てしない欲求を、サディストの女王である彼女が埋めてくれる、というのだ。

 幸せだった。エムドは満たされた。

 しかし、幸せは長くは続かなかった。

 彼女は病に侵された。不老不死のエムドとは違って、彼女は老いていくし、不死でもない。エムドは必死に看病したが、彼女は死んでしまった。

 エムドは死にたくなった。何度も何度も自殺を図った。しかし、何度自らの心臓を抉っても、すぐに元通りになってしまう。

 エムドは泣いた。泣いて泣いて泣いて、やがて涙も出なくなった。彼の精神は死んだ。肉体的には不死であるが、精神までもが不死になったわけではないのだ。

 エムドはただ屍として永遠を生きている。マゾヒストである自分を満足させてくれる者が現れるのを待ちながら――。


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