第4話 ダスター
「っ!やばそうだ…!!」
ローゼ達は駆け足で村まで戻り、村長の家の前に立ち止まった。
幸いなことに、まだ村長の家は突破されておらず先ほどと同様家の前にボアリンたちが群がっている状態だった。
「おい!こっちだ!魔物ども!!」
ローゼがそう声を上げると、群がっていたボアリンたちは一斉にローゼの方へ振り向く。
「お前達の相手は俺だ!!」
そう言うと、ローゼは背中に掛けた剣を抜き構える。
「グルァァ!!」
その言葉を聞き、ボアリンたちは勢い良くローゼの方へ走り出した。
「大丈夫なの?敵は十体以上いるのよ!」
心配そうに聞くフローラにローゼはニコッと笑って見せる。
「大丈夫!これでも毎日修行してたんだから!」
ボアリンたちがローゼの前まで迫ってくる。
すると、先頭にいたボアリンがローゼに向け棍棒を振りかざした。
ローゼはその棍棒をよけ、素早くボアリンを斬り裂いた。
「グガァァ!!」
先頭のボアリンに続き、後ろのボアリンたちもローゼに棍棒を振り攻撃してくる。
ローゼはひらりと軽い身のこなしで攻撃を避けながら次々とボアリンたちを斬り倒していった。
「へー、なかなかやるのね…」
そんなローゼの姿にフローラは見入ってしまっていた。
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「ふぅ…これで倒し切ったかな…」
ローゼは家の前に群がっていたボアリンたちをすべて倒すとふぅ、とため息を吐く。
「素晴らしい動きじゃった…。それにしても、結構ギリギリじゃったのぉ…」
村長の家の入口に目をやると、ドアは破壊され積まれたテーブルやイスのバリケードで何とか持っていたようだった。
「ほんとだ…とりあえず中の人達の安否を確認しましょう!」
「そうじゃな!」
ローゼと村長は顔を合わせると、村長の家の中に入った。
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「…よし、全員いるようじゃな!」
家の外には村長の家に避難していた人々が並んでいた。
「ローゼ!!」
「ローゼじゃない!!」
ローゼのもとに二人の女性が近づいてくる。
そのふたりは、ローゼの母と幼馴染のメイだった。
「二人とも!無事だったんだね!」
「あなたもね!ローゼが連れ去られたって聞いてお母さんものすごく心配したんだから!」
「よかったわ!あなたが無事で…」
「ごめん、心配かけて…。でも、俺行かなきゃいけないんだ」
「行かなきゃいけない?」
「どこへ…?」
「…信じてもらえるかは分からないけど、どうやら俺は伝説の勇者の意思を継いでるらしいんだ。…この紋章がその証拠らしい」
「伝説の勇者の意志…?」
「ローゼが…?」
「あぁ。俺はこれから暗黒の森ってところに行ってくる。…しばらくは会えないかもしれない。だけど必ず帰ってくる。だから、その時までこの村を頼んだよ、二人とも」
ローゼの母とメイはポカンとしながら顔を見合わせる。
それから少したって状況が理解できてきたのか、二人はローゼの方を向く。
「ちょっと難しいけど…とりあえず旅立つのね。あなたに与えられた役目は私には分からない…。でも、勇者の意志を継いでるんなら魔物なんてパパッと倒しちゃいな!」
「…ずっと一緒にいた私は分かる。あなたならきっと世界を救えるわ!だってローゼ、とても強いもの!…これ、お守り。何かあったらこれを見て私たちを思い出してね」
そう言ってメイが差し出したのは黄色い小さな巾着袋だった。
「…二人とも、ありがとう」
ローゼはお守りを受け取るとポケットにしまった。
「その中にはね、私がおばあちゃんから貰った小さな黄色い宝石が入ってるの。それを持ってると神様が守ってくれるんだって。ほんとかは分からないけど…大切にしてね」
「…あぁ。あんまり説明とかできなくてごめん。必ずまた帰ってくるから。それじゃあ!」
そう言うと、ローゼは少し離れたところにいたフローラの方へ駆け寄った。
「お別れは済んだの?」
「まぁね。よし、暗黒の森へ行こう!」
「えぇ、ミレーユ様が待ってるわ!」
二人は駆け足で村を出ていった。
「行っちゃったわね…」
「ですね…」
「ったく、忙しないんだから…」
「なんだかよくわからないままですけど、ローゼなら大丈夫な気がします」
「…そうね」
ローゼの母とメイは走り去るローゼの後姿を見て、ニコッと笑顔を浮かべた。
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ローゼ達が村の入り口近くに行くと、そこにはダスターの姿があった。
「ダスター、村にいた魔物は倒したからもう平気だ。もう少ししたら村長が来るはずだから待っててくれよ」
その言葉を聞き、ダスターはポカンと口を開く。
「た、倒したって…お前が倒したのか…?あんなにいた魔物たちを…お前が…!?」
「あぁ。修行してきた甲斐があったよ、村のみんなを守れたんだから!」
そう言うと、ローゼはニコッと笑みを浮かべた。
(あ、あの魔物たちをこいつが…?俺はビビって何も出来なかったってのに…!)
淡々と話を進めるローゼと何も出来なかった自分に憤りと悔しさを覚え、ダスターはギュッと拳を握りしめる。
「ダスター、俺今から行かなきゃ行けないところがあってしばらくこの村を離れなきゃならない」
「い、行かなきゃいけないところ…?」
「あぁ。だから、その間メイを…この村を頼んだ」
「は、はぁ!?いきなり何なんだよ!!」
淡々と進む話についていけず、ダスターは大きな声を上げた。
「突然連れ去られたと思ったらすぐ帰ってきて…行くとこあるから村を頼むだぁ!?意味わかんねぇよ!!」
ダスターはフラフラと立ち上がりローゼの方へ近づいてくる。
「ダスター…」
「それによ…なんで俺がお前の言うこと聞かなきゃなんねぇんだ!!俺は、お前が嫌いなんだよ!!お前はいつも俺の上を行く…俺がどれだけ努力してもお前はそれを軽々越える…。俺は…俺には…お前みたいにこの村を守る力なんてねぇよ…!!」
ダスターは俯き、さらに強く拳を握った。
「…ダスター、君が俺を嫌いなのは知ってる。でも、今はそんな事言ってる場合じゃないんだ。ダスターも見ただろ?村を襲う魔物たちを…。今、世界はあの魔物たちに支配されようとしてるらしい。俺はそれを止めなきゃ行けない。そういう役目…運命だから。そして君にも役目がある。それはこの村を…みんなを守ることだ。何度も手合わせした俺だから分かる。君は強い。君なら…いや、君しかこの村を守れる人はいない。だからどうか…この村を守ってくれ!俺が…ダスターが育ったこの村を…」
「っ!!」
その言葉を聞き、ダスターは顔を上げる。
そして顔を逸らし、ため息をついた。
「…はぁ。確かに今はそんな事言ってる場合じゃねぇな。魔物がどうとか、てめぇの言ってることはよくわからねぇがよ…俺にもこの村を守りてぇって気持ちはある。だから…やれるとこまでやってやるよ。だからよ…俺が村を守ってる間、テメェはとっとと魔物倒して俺が村を守らなくていいようにしてこい。それまで帰ってくんじゃねぇぞ」
「ダスター…あぁ、俺が必ず魔物を倒して平和を取り戻してくる。だからそれまで…この村を頼んだ。それじゃあ、俺は行くね」
少しの間、ダスターと顔を合わせローゼは村の外へと駆けていった。
「ちっ…うめぇこと言いやがって。腹立つぜ…」
ダスターはその場に座り込み、ローゼの背中を見つめていた。
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「上手いこと言いくるめたのね」
「やめてくれよ、その言い方…あれは俺の本心だよ」
「そう、結構良いこと言えるのね。…さ、もたもたしてる暇は無いわよ!すぐに暗黒の森へ向かいましょう!」
「あぁ、行こう!」
二人は村を出て平原を進んで行った。
続く。
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