第3話 伝説の剣
ローゼとフローラはアリア湖のほとりを歩き、神殿とは反対側へ向かった。
「この中央平原を進めば俺の故郷のサイの村があるんだ。さ、行こう!」
「えぇ、あなたにはやることが沢山あるんだから!」
二人は果てなく広がる中央平原を歩き始めた。
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中央平原はその名の通りアリア王国の中央に広がる平原で、近くには活発に活動しているゴルアナ火山を含むゴルアナ山脈が聳えている。
アリア王国の城、アリア城はこの平原の中央に存在していた。
「見て…あれ、アリア城よね…」
遠くに見えるアリア城は黒雲に覆われ、禍々しい雰囲気に包まれていた。
「アリア城が…くそっ、あれも全部ザグリフやロメウスの仕業なのか…?」
二人はアリア城を横目に、平原を進み続けた。
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「もうすぐサイの村だ…」
先程まで正面側に見えていたアリア城は、いつの間にか二人の後方にあった。
「今は恐らくお昼過ぎ…暗くなる前には着きそうだ」
「それなら良かったわ!あなたは今武器を持っていないから、魔物に襲われたらひとたまりも無いし…」
「そうだな…サイの村で武器を調達できると良いけど…」
そんな会話をしていると、二人の前に薄暗い森が現れた。
「この森を抜ければサイの村だ。さ、いこう!」
「えぇ!」
二人は森の中へ足を踏み入れた。
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「もうすぐ…あっ!出口が見えた!」
二人は目の前に見える光に迎って駆けていく。
森を抜けると、そこにはサイの村が広がっていた。
「っ!?」
「こ、これは…!!」
サイの村を見た二人は驚きの顔を浮かべる。
ついさっきまでローゼが過ごしていたサイの村は、変わり果て、殆どの建物が崩壊していた。
「うそ…だろ…?俺の…俺の故郷が…!!」
ローゼは変わり果てた村を、ただ呆然と見つめている。
「これは…酷いわね…っあ!」
そんな時、フローラが何かを見つけ瓦礫の方へ飛んでいく。
「こ、これは…ねぇ!ローゼ!こっちに人がいるわ!」
「ほ、ほんとか!?」
ローゼは駆け足でフローラの元へ向かっていく。
そこには、瓦礫に足を挟まれたダスターの姿があった。
「ダスター!!」
ローゼはダスターの元へ駆け寄ると、ダスターの足に乗っていた瓦礫をどかし、ダスターを引っ張り出した。
「はぁはぁ…助かったぜ…!しかし、生きてたんだな、ローゼ…」
「あぁ、なんとかな。それよりダスター、足大丈夫か?」
「いてて…少し痛むが平気だ…」
「そうか、良かった…。しかし、一体何が!?」
「魔物だ…お前が変な男に連れ去られた後、大量の魔物がこの村に入ってきて…。俺は家に隠れてたんだが家が崩されて今のザマだ…」
「他の人たちは!?」
「多分、村長の家に避難してる…。魔物たちは俺をそっちのけでそっちに行っちまったからな…」
「そうか…ダスター、肩に捕まるんだ」
「あ、あぁ…」
そう言うとローゼはダスターの方を支え、近くの崩れかけた民家の軒下へとダスターを移動させた。
「俺は村長の家に行ってくる。ダスターはそこで待っててくれ!」
「行くって…魔物がうじゃうじゃいるんだぞ!?流石のお前でも…」
「大丈夫。さ、大人しくしてるんだぞ!」
そう言うと、ローゼとフローラは村長の家の方へ駆け出して行った。
「………」
ダスターはそんな二人の背中をただ呆然と見つめていた。
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「…っ!あそこか…!!」
村の中央にある大きな木造の家。
その前には、大量のボアリン達が群がっていた。
「幸い集まってる魔物はボアリンだけみたいね…」
「ボアリンなら武器さえあれば倒せるな…とりあえず武器を見つけないと…」
そんな時だった。
「ローゼ…!」
後ろからコソコソと小さな声が聞こえてくる。
ローゼが振り返ると、そこには村長の姿があった。
「村長…!?家の中にいたんじゃ…!!」
「村の中にいるのはワシ以外の村人じゃ…そうじゃ、お主ダスターは見たか!?」
「ダスターならさっき瓦礫に足を潰されてたところを助けました!入り口の近くにいるはずです!」
「そうか…ダスターも、そしてお主も無事で良かった…。して、その子は?」
村長はフローラの方を見て不思議そうな顔を浮かべる。
「この子は妖精のフローラです。俺の案内人って所ですかね」
「よろしく…」
フローラは少し照れながら頭を下げる。
「そうかそうか…おっと、今はそれどころじゃ無いのぉ。お主、ワシについて来い!」
「どこに行くんですか?」
「この村に伝わる勇者の剣…。アルフの剣をお主に託す」
「アルフの剣…?」
「とりあえず、アルフの剣が祀られてある祠に行くぞ。話はそれからじゃ…!」
「は、はい」
三人はコソコソと村の奥に向かい歩いて行った。
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「この穴の先じゃ」
「こんな道があったなんて…」
村の奥地の崖の下には、大人が屈んでやっと入れるほどの小さな穴が空いていた。
「ワシも知ったのは最近のことでな…。ここは普段誰も入らぬよう閉ざしてあったようなのじゃ。さ、行くぞ!」
三人は小さな穴を抜けた。
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「…ここが、アルフの剣を祀ってる祠じゃ。さ、中へ」
小さな穴の奥。
そこは、四方八方をもりに囲まれどこか神聖な雰囲気が漂う空間だった。
その空間の中央には小さな苔むした祠があり、中には座り込み両手を前に出した女性の像が佇んでいた。
「これはな、過去にアルフの剣を作り上げた勇者を祀るため、そして、アルフの剣を必要な時まで保管しておくために作られた祠じゃ。どうやらアルフの剣を作り上げた勇者はこの村の出身のようでな…その由縁でここに祠が作られたそうじゃ。まさか、その村からまたこの剣を使うものが現れるとは…」
村長の話を聞き、ローゼは女性の像の手に置かれた一般の剣を見つめる。
「これを…俺が使ってもいいんですか?」
「うむ…先程、ワシの家にしまわれていたこの祠にまつわる書物を見たのだが…。この剣を使えるのは伝説の紋章、アルフの紋章を持つ者だけらしい。そして、アルフの紋章とは…」
「…俺の手の甲にあるやつですよね」
「知っておったか…。その通りじゃ。こんな事をお主に頼むことは心苦しいのじゃが…どうか頼む。この村を…この世界を魔の手から救ってくれ…!」
村長はローゼに頭を下げる。
ローゼは村長の方に手を当てると、ニコッと笑顔を浮かべた。
「当たり前です!…俺は運命には抗わない。俺がそういう運命に生まれたなら、その運命に従って役目を果たすだけです!」
「ローゼ…逞しくなったな…。ワシは…ワシは嬉しいぞ…!」
そう言うと、村長は涙を流した。
「村長…」
「…すまんすまん、時間が無かったな。さぁ、伝説の勇者の意思を継ぎし者ローゼよ。剣をその手に…世界に光を取り戻すのじゃ!」
「はい!」
そう返事をすると、ローゼは祠に登り像の前に立つ。
村長とフローラはローゼの背中をただじっと見つめていた。
「伝説の勇者さん…あなたの意思、俺が継ぎます。だから…力を貸してください」
ローゼがそう呟くと、ローゼの手の甲の紋章が光り始める。すると、剣を握っていた像の手がゆっくりと開いた。
「…」
ローゼは生唾をのみ、ゆっくりと剣を握りしめる。
そして、勢いよく剣を鞘から引き抜いた。
その瞬間、あたりに激しい風が吹き荒れる。
「うっ…すごい風…」
「剣がローゼを主と認めたのじゃ…勇者の意思を継ぐ力の持ち主とな…」
ローゼは目を瞑り、剣をおでこに当てる。
(感じる…長い歴史で培われた力を…。俺も…俺もその歴史に加われるとなるとワクワクするぜ…!)
ローゼはニヤッと笑うと、剣を数回振り鞘に戻した。
そして背中にかけると、村長とフローラの方へ振り返った。
「行こう!みんなの元へ!!」
続く。
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