第2話 女神アルトシア
「さぁ、行きましょう!」
「あぁ!」
ローゼとフローラは扉を開け、薄暗い廊下に出る。
すると、廊下の先には剣と盾を持った骸骨の魔物がローゼ達の方を向き立っていた。
「見張りの魔物だ…!」
骸骨の魔物はローゼ達を見つけると、剣を構えローゼ達の方へ歩き出す。
「どうするの!?後ろは行き止まりよ!!」
「やるしかないだろ…!フローラ、君は少し離れててくれ!」
そう言われ、フローラはローゼの後ろに下がる。
「あいつはなかなか強そうだ…特訓の成果が発揮できそうだな…!」
骸骨の魔物はジリジリと距離を詰めて来る。
ローゼは剣を抜こうと背中に手を持っていく。
その時だった。
「あれ…!?剣!剣がない!?」
背中に伸ばした手は空を切る。
意識を失うまで背中にかけていたはずの剣はいつの間にか無くなってしまっていたようだった。
「全く、何やってんのよ!気づいてなかったの!?」
「気づいてなかった…これじゃ戦えないよ…って、うわぁ!?」
骸骨の魔物はローゼに向け思い切り剣を振り下ろす。
ローゼは後ろに飛び、なんとか剣を避けた。
「くっそ…一体どうすれば…!」
そう考えていた時だった。
ローゼの左手の紋章が眩く光り始めた。
「な、なんだ!?」
光りはどんどんと増していき、あたりは閃光に包まれた。
「きゃっ!?」
「ぐぁぁぁ…」
あまりの眩しさに、骸骨の魔物は顔を背ける。
「今だ!フローラ!!」
「わ、分かったわ!!」
ローゼとフローラは一瞬の隙をつき、骸骨の魔物の横を走り抜ける。
光りは治ったが、どうやら骸骨の魔物はまだ目が眩んでいるようだった。
「今のうちに!さ、あの階段を登るのよ!」
「あぁ!!」
ローゼとフローラは古びた石レンガの階段を登っていった。
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「今の…一体なんだったの?」
フローラは不思議そうにローゼに聞く。
「分からない…俺も、自分で光らせようとした訳じゃなくて勝手に光出したから…」
「やっぱり勇者の意思ってのが関係してそうね…ま、ラッキーだったわ!」
「そうだな…さ、追手が来る前に逃げよう!」
二人は螺旋状に続く階段を登っていった。
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「はぁはぁ、やっと終わりだ…」
階段を登り切ると、城の廊下に出た。
廊下は赤い絨毯が敷かれ、所々に金色の派手な装飾が施されている。
「…おかしいわね」
フローラは顎に手を当てその場に止まる。
「何がおかしいんだ?」
「だって、奴はあなたの力が欲しくて閉じ込めてたんでしょ?それにしては警備が甘すぎない?」
「たしかに…そう言われればそうだ。さっきの骸骨しか魔物に合ってないし…」
「絶対何かあるわ…」
「そうだな…ま、でもどちらにせよ進むしか助かる方法は無いんだ!さ、出口に急ごう!」
「…そうね、さ、行きましょう!」
二人は廊下を駆け抜けていった。
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「この扉の先がエントランスよ。エントランスさえ抜ければあとはすぐに出られるわ。正面から出るのは危険だから…裏口から出ましょう」
「あぁ、分かった。…よし、行くぞ!」
ローゼは軋む扉を開き、エントランスに足を踏み入れた。
「ここがエントランスか…」
そこは天井の高く、とても広い場所だった。
中央に聳える階段の奥には、王の部屋につながる大きな扉があった。
「さ、行きましょう…」
フローラがそう言った時だった。
「見つけましたよ…ネズミ共」
階段の上から声が聞こえて来る。
「なっ…!この声は…!!」
二人は階段の上を見る。
そこには、見覚えのある男、ロメウスの姿があった。
「ロメウス!」
「ロメウスが控えてたから見張りが少なかったのね…!」
「あなたは魔王ザグリフ様に捧げる生贄…。逃がすわけにはいきません…!!」
そう言うと、ロメウスはパチンと指を鳴らす。
その瞬間、ローゼの周りに黒い鎧を身に纏い大きな剣と盾を持った魔物が5体ほど現れた。
突然現れたその魔物達はローゼ達を取り囲む。
「くそっ…囲まれた…!!」
「これは…やばいわね…!」
「さぁ、大人しく捕まりなさい。我々からは逃げる事は不可能です…!」
鎧の魔物たちはジリジリとローゼ達に近づく。
そして勢いよく剣を振り上げた。
「くそっ!!」
「うっ…!!」
二人はギュッと目を瞑った。
その瞬間だった。
ローゼ達の体が光に包まれる。
「な、何事です…!?」
「なんだ!?」
そのまま、ローゼは達の体は光に変わりその場から消えていった。目標を失った魔物の剣は勢いよく地面にぶつかった。
「くっ…!!一体誰の仕業です!!」
ロメウスが怒りの声を上げた時、どこからか女性の声が聞こえてきた。
『ロメウス…ザグリフ…あなた達の…好きにはさせません…!この…女神アルトシアの名にかけて…!』
「女神アルトシア…!!まだ生きていたとは…!!貴様も必ず消して差し上げます…!!覚悟しておく事ですね…!!」
そう言うと、ロメウスはフッとその場から消えた。
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「んん…」
耳心地の良い水の音が聞こえて来る。
ローゼはゆっくりと目を開き体を起こす。
あたりを見渡すと、そこはボロボロに崩れた、白い柱の並ぶ神殿のような場所だった。
目の前には美しい泉があり、その上には半透明で美しく光り輝く女性の姿があった。
その女性は長い金髪で、純白のロングドレスを身にまとっていた。
『目を覚ましたのですね…勇者の意思を継ぐ者…ローゼ』
あまりの美しさに見惚れながら、ローゼは立ち上がった。
「あなたは…?」
横に倒れていたフローラもふらふらとローゼの横に飛び上がる。
『私はこの大陸を守りし女神…アルトシア。先程あなたを逃したのも私です…』
「女神様…?」
『いかにも…しかし、私は復活した魔王、ザグリフにより本来の力を封じられています…。本来ならば、私が世界を救う運命を持つ勇者に力を与えるのですが…。今はそれすらままならない状態…。勇者の意思を継ぐ者よ、私の本来の力を取り戻すため、力を貸してはくれませんか…?』
「…もちろんです!でも、一体何をすれば…」
『あなたならそう言ってくれると思っていました…。私の本来の力を取り戻す為には、この世界に散らばった3つの聖なる精霊石を集めなければなりません…。それは、他ならぬあなたにしか出来ないことです…。あなたには賢者の封印を解くという使命もありますが…どうか聖なる精霊石も…集めていただきたいのです…』
「どちらにせよ、それを集めないと女神様は力を取り戻せないんでしょ?探してきますよ!…でも、精霊石は一体どこにあるんですか?」
『幸い、一つ目の緑の精霊石はあなたの目指す暗黒の森にあるようです…。他の精霊石は見つけ次第またあなたに場所を伝えます…。集めて頂いた暁には、あなたに力を授けましょう…。どうか、よろしくお願いします…』
そう言うと、女神アルトシアはゆっくりと消えていった。
「…女神様、美しかったわね。まかさ、実在したなんて…驚いたわ」
「あぁ、俺もだ…絵本やら昔話やらでは聞いたことあったけど…」
「…さぁ、それじゃあとりあえずあなたの村に戻りましょう。そしたら、精霊石とミレーユ様復活のために暗黒の森へ行くわよ!」
「あぁ、そうだな!」
ローゼとフローラは朽ち果てた神殿を後にした。
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外に出ると、そこは鬱蒼と茂る森の中だった。
「ここはどこなんだ…?」
「女神伝説から言うと…恐らくアリア王国の真ん中…。アリア湖のほとりの森ね。伝説にはその森の中に女神を祀る神殿があるって話だったし…」
「アリア湖か…なら俺の村からはそんなに遠くないな…。半日もあれば着くな。暗黒の森はここから遠いのか?」
「遠くは無いけど…あなたの村によるとなると1日以上はかかりそうね…」
「そうか…ま、ここで話してても仕方ない。急いで村に行こう!」
「えぇ、そうね!」
二人は駆け足で森を抜け出した。
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「…ほんとにアリア湖だ」
「伝説はほんとだったのね…」
二人の目の前には、陽光でキラキラと光る大きな湖が広がっていた。
「ここはね、太古の昔にあった"空に浮かんでいた天空の城"が落下した時に出来た湖らしいわよ」
「空に浮かんでいた天空の城…?」
「えぇ、そう。ま、悪魔でも伝説の範囲だけどね」
「へー…結構伝説に詳しいんだなフローラ」
「まぁね、私の家にはいろんな本があって、子供の頃から色々読んでたから…」
「そっか…。よし、それじゃあサイの村に向けて出発だ!」
「そうね、行きましょう!」
こうして、二人はローゼの故郷、サイの村へ戻ることになったのだった。
続く。
投稿は不定期で行います。