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殺人衝動と愛情表現

 終業のチャイムが学校中に響き鳴る。静寂が喧騒へと変わる瞬間、永続される声と雰囲気に嫌気がさす。予め準備しておいた鞄を肩にかけ、早々と帰る。その際、誰か呼ぶ声が聞こえた気がしたが気の所為だ。早足にわざと扉を勢いよく締めてみせた。扉を背に一度立ち止まる。


 教室内は私の威圧、敵意に押されたのか音一つない無の空間となっていた。

 それも刹那、途端に笑いに包まれる。


「振られてやんの(笑)」

「だっせぇ!」

「恥っず(笑)」

「次頑張ろ……っ!」


 きっとこの声の中心には歩澄なのだろう。

 いつも懲りずに話しかけて、笑って。

 本当に、本当に。


「気持ち悪い……っ!」


 胸がグチャグチャだ。

 我慢の限界?否、ずっと思っていたことだ。

 

 歩澄鈴の意図が解らない、思考が読めない。


 ワカラナイ、理解不能。

 そうゆう人種は大嫌いだ。


 拳を握りしめて、舌を噛んで。嫌な感情を、無理矢理にでも抑える。俯いて、歩を勧めて。


 声をかけてきた同学年の男子のグループ。


「よぉ、歩澄とはどうだぁ?」

「おいそれ聞くのかよw」

「だってこんな風変わりなやつが…顔はいいんだけどよぉ」


 慣れた手付きでスカートに隠しているカッターナイフを向けた。私に気圧され、引きつった笑みを浮かべる男子。


「お、おい冗談だろ?な?止まれまとまれ!」


 早足で迫り、壁ドンする形になるもカッターナイフは首筋にピトリと当てる。


「ーーー二度と近づかないで、軽率に話しかけないで」


 カッターナイフを収め、その頬に一発殴り込む。


 ムカつく笑みを壊す為、感情の暴発を収める為。




 校門前、サボり・帰宅部・用事がある生徒たちがなぜか賑わっていた。賑わっていたというよりは学ランの男の子を取り囲んでいた。

 悪い予感がする。そもそも、あたっているとは思うが。


 私は人並みにどいて、と一言。すると王の御膳のように皆が私を避け、目線の的となる。中心には予想通り、柄の悪い奇怪な男子高校生が生徒指導の高原先生に絡まれていた。


「だぁかぁらぁ、俺はりんりんを待ってるんだって!話聞けよ、クソ教師!」

「教師に向かってその態度とはどこの高校の生徒だ?」

「おい、りんりん!りんりーん!」


 ああ、気持ち悪い。気持ちが悪い。


 腹立たしい呼称にはもう慣れた。私の名をこう呼ぶのはただ一人、入れ墨にピアス、白髪と嫌でも特徴は一致した。


 愛する家族、苦綯廃敷であった。


「何してるの、廃敷」

 

 心のナカがグチャグチャで、渦巻く嵐みたいに。

 

 衝動的に熱唱的に感情的に裂傷的に飛翔的に連動的に本能的に能動的に印象的に情熱的に凄惨的に突発的に受動的に象徴的に必然的に普遍的に流動的に急進的に求心的に具象的に過度的に技巧的にん禁欲的に狂信的に。


 殺人衝動に狩られる。

 自分の中のドス黒い暗黒に。

 

「何って迎えに……………」


 気持ち悪い。

 気持ち悪い気持ち悪い。

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いーーーー?


 俯く私の頬を片手でムギュと掴んだ。

 そして、顔をずいと近づけーーーー接吻した。

 自然な、躊躇いもなく。

 舌ピが微妙に当たり不思議な感覚だ。


 絡み合い、濃厚に。


 何かを渡される。


「……っ!」


 公衆の面前、門に集まる生徒は勿論、私のクラスの教室の窓越しから見える位置。恥ずかしいーーーー訳ではない。家族なのだから、接吻くらい同然だ。だけど…………まあ、どうでもいい。


 ただ、胸糞悪いなにかが無くなったのだ。

 だから今は悔しいけど、感謝を伝えなくちゃいけない。


「落ち着いたか、りんりん」

「………………うん」

「だいじょーぶか?」

「……うん」


 そのままの距離、息がかかる距離。

 いつもの無邪気とは一変、心配した声出す廃敷の声に安心した。


「大丈夫じゃねぇな!?こんな素直でしょげてボーッとした可愛いりんりんはりんりんじゃねぇよ」

「失礼ねっ!」


 いつもより強めに愛の鞭を食らわせる。腹蹴りだ。

 腹を抑えて、蹲ったかと思えば浮かべまた表情は通常通りの屈託のない笑顔。


「いつものりんりんだ!」


 そう言われると、なんだか恥ずかしくなった。

 それでも机上に振るわう。きっと廃敷には見抜かれてると思うけど。


「一度帰るわ」

「でもいいのか?」

「い、ち、ど」

「へいへーい」


 先生も生徒も気にせずに、強引に誘導する。背を向けたまま、この騒動に紛れてポツリと。

 そう、自然に。家族に感謝して。


 精一杯の照れ隠しで、愛を吐く。


「ーーーありがとう廃敷。感謝……愛しているわ」

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