“家族”だから
屋上の扉には錠がかけられている。それは立入禁止だからである、というのは了承の上だが侵入するには容易いものだ。だって。その錠は壊されているのだから。
それは私が犯人ではなく、明鏡高校の不法侵入者がやらかしたことだ。その本人が今、屋上にいる。携帯に届いた新着メールより『馬鹿弟、そっち行ったからよろしく』とのこと。前までは一ヶ月に一回ほどだったが、最近では2日に一度来訪するので厄介なことこの上ないのだ。
相手をするのが面倒だが、
愛すべき家族なのだから、
そこまで苦痛ではないが疲労は貯まる。
だってそれは不幸の塊なのだから。
「またきたの、廃敷」
「また来たとはなんだよ、りんりん。まるで俺を邪魔者とでも言っているようだな」
無理やりこじ開けられた扉の先に広がるのは真っ青な住んだ空。東向きの校舎なので西から登る太陽は視界に入らない。
入るのは、その光を浴び影を移す扉の真上のスペースに座る少年の姿だった。
私にとっては見慣れた容姿をしているが、他人大勢には珍味な容姿をしている。
白の髪は姉譲りのなでやかさだが
除く真紅の両目は鋭く勇ましさを感じる。
何より特徴的なのが首から頬にかけての入れ墨に
リング状の舌ピアスだ。
かっこをつけたいだけか、ずれたおしゃれのつもりなのか……本当に変わっている。はしごも使わず飛び降りてきた廃敷は無邪気に悪びれもなく笑う。
「……………はぁ。よく聞きなさい、廃敷」
「なんだよ」
「あなたが通ってる高校はどうしたの?せっかく、白姉がお金出してくれてるのに不躾だと思わない?恩を仇で返すようなものよ。それにこのままだと登校日数が少なくて卒業できないわよ。迷惑かけている自覚があるの?」
「でもよー、姉貴は俺がそれでいいならいいって言ってたぜ」
白姉、人形みたいに無感情そうに見えてブラコンなのだ。それに相対し、廃敷は風来坊で気まぐれ。無邪気な笑顔の裏腹には冷酷さが除く。舌打ちし、つばを吐き捨てた。
「あいっかわらずりんりんは不機嫌だなぁ。そんなんじゃ友達できないぜ」
「あんたも友達いないでしょ。そのバカみたいな格好のせいで」
「話をそらすんじゃねぇぞ、りんりん。友達いないからって」
さり気なく手を回し、肩を組んでくる廃敷。わざとなのか無意識なのか、挑発気味なその口調に苛立ちを覚える。その手を払いのけ、1、2歩足を進めた。
「そんなことはどうでもいい。私が言っているのは白姉の好意を無碍にするなってこと。だから学校に今すぐ行きなさい。それとりんりん呼びは止めなさい、不愉快よ」
「連れねーの。いいじゃねぇか、かわいいじゃん。りんりん」
廃敷と話していると会話が本当に進まない。絡んでくるのはいい。だが、意味も目的もなくというのは本当に腹だたしい。そういう点では歩澄の似たりよったりだが。
二度もいうほどに、廃敷は愛すべき家族なのだ。
慣れてしまったのだから口でいうほど不愉快ではない。
大きなため息を吐き、廃敷を睨む。
「………………………学校行きたくないの?」
「そうだな」
「なんでよ?」
「つまんねぇから」
「………なんで?」
「つまんねぇからつってんだろ。2度も言わせんな」
「その内情を詳しくってことよ?そんな事もわからないの?」
「へいへーい。俺は馬鹿だから口で言ってくれねぇと分かんねぇよ。その点においてはりんりんはゆーしゅーだな。何でも言ってくれるしな」
それは自分の短所と思っている…が、馬鹿に言っても仕方がない。
「で?」
「ん?ああ、ないじょーのことか」
「……………」
「無言の圧やめろよ、りんりん。そうだなぁ、学校の奴らが俺を変な目で見てくるんだよ。俺を見るなり、ヒソヒソ話しやがって、言いたいことあるなら云え!っていったら早足で逃げ行くわ。うざったるいっつーか、めんどくせーっていうか……」
自覚がないのだろう、廃敷には。
その容姿と言動、行動、態度は第三者にとっては畏怖すべき存在となっているのだ。白姉から聞くに、虫や鶏等の小動物を八つ裂きにし殺しているとのこと。他にも絡んできた不良を返り討ちに半殺し(瀕死の重体)にしたりと超危険問題児として扱われているらしい。
変に目立つなとは釘を差してはいるが、効果なし。
廃敷に聞こえるようにわざとため息を大きく吐く。
「ともかく、学校には行きなさい。そして問題を起こさないことを約束しなさい。
でないと私が貴男をグチャグチャに切り刻んでやるわ」
「そうゆう決め言葉は実現できるもんに言うもんだぜ」
「そうよ。でも貴男は家族、愛しているから殺すこともできるわ」
私達、殺人鬼達は確かに愛し合ってるから。
意思も心も通じている。
故に殺されても構わないのだから。