表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガールズ・ハートビート! ~相棒は魔王様!? 引っ張り回され冒険ライフ~  作者: 十六夜@肉球
第三章 過去に蠢くもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/99

第二話 勇者の矜持#2

 本当に、遅くなって申し訳ございません。m(_ _)m


 今回は新しい出会い、そして予期せぬ人物との再開が……。

 オーク騒動編もいよいよ佳境へ。

挿絵(By みてみん)




「あー、領都を離れるのって、何ヶ月ぶりかなぁ」

 目的地に向かうあまり乗り心地のよろしくない乗り合い馬車の荷台で揺られながら、クリスさんがどこか楽しそうにつぶやく。

「カミンに付き合って探索にでた時は日帰りの範囲だったから、意外とワクワクしてきた」

 最初の頃は渋面だったのに、今では笑顔を浮かべているクリスさん。

「ウェイトレスの仕事は大丈夫?」

 楽しそうなのは良いのだけど、ちょっと気になっていることを尋ねてみる。あの手の食堂で看板娘が不在ってのは、営業的にはそれなりに痛いんじゃないだろうか?

「あぁ、ボクがいない間はカミンに任せてるから」

「教会のシスターに?」

 わたしの質問に、クリスさんは軽く答えた。

「うん。教会の仕事の一つは地域奉仕だし。カミンもお勤めを果たせると泣いて喜んでたよ」

 いや、それは絶対に違うと思う。面識も付き合いも殆ど無いけど、そんなことを喜ぶタイプには到底見えない。

「にしても、さっきからチラチラとボクの方を見てるけど、なに? 一目惚れ? いやー、照れるなぁ」

 違う。断じて違う。けど、それを言うと、それはそれで面倒なことになりそうなので黙っておく。

 というか、クリスさんってこんなキャラだったかな? 初めての遠出でハイになっているのかも。

「いえ。ちょっと予想と違ったというか、なんというか……」

 丁度よいチャンスだから、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみよう。

「こう……もっといかにも『勇者!』って感じの装備しているのかなーって」

 クリスさんが身に着けているのは、いわゆる『ライト・アーマー』と呼ばれる軽防具。要所要所を防護する革製のガードと、それらを結ぶベルトだけで構成された、鎧とも言えない物。

 敵の攻撃を防ぐよりも、木の枝や硬い草や葉などによる自然負傷を避けるのに適している構造だ。いかにも探索者といった装備ではあるけど、勇者っぽくはない。

「あぁ……その手の物で一番それらしいのは『勇者の鎧』だろうけど」

 わたしの疑問に、クリスさんは軽く答えた。

「アレ、王城で保管されてるんだよね。式典とかでたまに引っ張り出されてるって話だけど」

「へぇ」

 まぁ、『勇者の鎧』ともなれば相当に立派なシロモノだろうから、飾った時の見栄えは良さそう。

「何代か前のご先祖様がお金に困って処分しそうになったのを、王国が慌てて買い上げたって話だけど。ホントかウソかは知らないけどね~」

 おっと。とんでも爆弾発言。いや、いくらなんでもそりゃないでしょ。とは言えなかった。

 なにしろ目の前にいる『勇者』は、街の食堂でウェイトレスのアルバイトをしていたのだし……なんとも笑えない話だ。

「どっちにしても、ボクの本領は盾術だからね。鎧なんて簡素な物で充分さ。正直な話、全身鎧って値段も維持費も高いし」

 ウン。ソダネー。世の中、本当に世知辛い……。

 なんとも言えない気持ちで、わたしとクリスさんは顔を見合わせ、ため息を漏らした。



   *   *   *



 話は一週間ほど前に遡る。


「ともかくだ」

 ギルドから屋敷に戻るなり、ティールームでアイカさんは徐に口を開いた。

「オーク共への調査依頼を受けたは良いが、如何せんどこから手を付けたものかわからぬ」

 辺境は広い。それはもう広いなんて言葉では甘すぎるほど広い。オークのならず者の出現数が増えているとは言っても辺境の広さに比べれば誤差。いや、辺境を埋め尽くすほどのオークとかそれはそれで嫌すぎるけど。

「定石を踏むならば、被害の多い場所からオークの退却路を調べ、交差線を探すところですけど」

 まずはレティシアさんが一般論で答える。

「四人ばかりのマンパワーでは、ちょっと難しいですね」

 うん。その方法は無難だけど、少なくとも探索者レベルの人数で行うのはちょっと難しいかな。

「なんでも良いからアタリを付けてオーク共を待ち伏せし、締め上げるのはどうだ?」

 うわぉ。すごい脳筋プレイ。アイカさんらしいと言えばらしいけど。

「私達の戦闘力を考えれば一慨に悪手とも言えませんけど……」

 そしてレティシアさん的には一応『あり』なんだ、この手。

「問題はそのアタリが、本当の『当たり』になる可能性が低すぎるという点ですね」

 アイカさんの提案は、ようするに適当に目星をつけて行きあたりばったりで対応しようってこと。上手く嵌まれば大きな成果が上がるのは確かだけど、実際問題としてそう都合よくこちらの狙いどおりに物事が進むとは限らない。

 外れた場合は文字通りの骨折り損のくたびれ儲け。またアテを付けてどこかで待ち伏せ。なにか進展があるまでこれをエンドレスループ。

 うん。どう考えても効率最悪。人数を揃えることができるなら、まぁ……ある程度の効果は期待できるかもしれないけど。少なくとも四人でどうこうできる方法じゃないかなぁ。

「そこでお主の出番というワケだ」

 アイカさんが意味ありげな視線をレティシアさんに向ける。

「お主、テレポテーションの魔法が使えるのであろう? 効率的にはアレだが、一定間隔で場所を変えてゆけばある程度のタイミングで尻尾を掴むこともできると思うが」

「まぁ、そう来るだろうとは思ってました」

 ふぅ。と軽くため息を漏らすレティシアさん。

「別にもったいぶるつもりも面倒がるつもりもありませんが……今まで機会がなくて説明したことがありませんでしたけど、テレポーテーションの魔法は便利なだけに色々と面倒がありまして」

「面倒とな」

「本来テレポテーションの魔法は、『術者の知っている場所』に術者とその指定した物を転移させることができる大変に便利な術です。ただ転移地点に『印』、『ポータル・サイン』が描かれている必要があります。つまり『ポータル・サイン』めがけて移動する仕組みです」

 ここまで言ってからレティシアさんは頭を振る。

「逆に言えば『ポータル・サイン』が描かれていない場所への転移は、不可能ではありませんけどどこに出てしまうかは――まぁ、有り体に言って運試しの領域です。最悪、沼の底とか空中に転移してしまう可能性もあるので、あまりお薦めできませんね」

 うわー。それはご遠慮願いたい。大怪我で済めば御の字、絶対に助からない奴だ。

「なるほど……便利な術故になにやら代償もあるであろうと思っていたが、案外単純な引っ掛けだな」

「ぶっちゃけ、私一人が短距離転移するだけなら『ポータル・サイン』が無くとも構いません。視線が通る範囲なら、ミスが起きる心配もありませんから。むしろこっちがメインの使い方とも言えますね」

 おぉ。近距離転移で相手を翻弄するレティシアさん。これはカッコ良さそう。流石『賢者』ともなれば、格好良い技の一つあっても当然ってこと!

「それにパーティー丸ごとや長距離の転移を行う場合は、テレポテーションの魔法そのものに魔力が必要なのは当然ですが、受け手となる『ポータル・サイン』にも魔力が必要なのです。転移する度に魔力は消費され、全てを使い尽くしたあとは消滅します」

「話を聞く分には、消費した分の魔力を補給してやれば良いだけに聞こえるが……まぁ、そんな簡単な話ではないのだろうな?」

「えぇ」

 レティシアさんが軽く肩を竦める。

「最大の問題は『ポータル・サイン』に魔力を込めるには特別な『魔力結晶』が必要で、それが手に入るのは王都――アカデミーだけ、ということです」

 領都から王都までは馬車をチャーターしても片道三週間ほど、乗り合い馬車なら一ヶ月以上の道のり。

 そうホイホイと買い物にゆける距離じゃない。

「しかもアカデミーは金に困っていませんので、大金を積んでも無意味ですし、まず交渉できる材料を用意する必要があるというのが頭痛の種です」

「もういっそ、力づくでブン捕った方が早いのではないか、それ?」

 アイカさんが面白そうに声を上げ、レティシアさんの眉間がしわが寄る。

「恐ろしいことに、それも一つの手段というのがなんとも……」

「ん?」

「アカデミーでは新しい魔法や魔法具の研究・開発なんかもしていますからね。その実戦テストとばかりに喜んで対応に出てきそうなのが、容易に想像つきます」

「とんだ魔窟だな、アカデミーとやらは……」

 流石のアイカさんも呆れ声。

「常識も良識も、全て頭脳に変換したキチガ――変人ばかりですから」

 訂正したつもりで訂正されてない気がする。というか、レティシアさん自身もアカデミーの一員なのだから、その発言はいわゆるブーメランという奴なのでは?

「んん。ともかく私としましては、テレポテーションは他に手段の無い緊急時、最後の脱出手段としてギリギリまで温存しておきたいところです」

「ふむ。当然だな」

 わたしのジト目に気付いたのか、一つ咳払いしてからレティシアさんが言葉を続け、アイカさんがそれに頷く。

「このメンツであればそうそう問題は起きぬであろうが、切り札は多い方が良い。準備は万全に、という奴だ」

 まぁ、『魔王』『賢者』『勇者』が揃っているパーティーなんて、そうそうお目にかかれるモノじゃないと思うけど。あれ? わたしちょっと浮いてない?

「んで、結局どうするの?」

 クリスさんの退屈そうな言葉で意識が引き戻される。おっといけない。話に集中しないと。

「雇われた身であまり不満を言うつもりはないけど、手当り次第虱潰しってのは流石に遠慮したいかなぁ」

「余もそこまで暇人ではないぞ。というか、そんな退屈な真似は余も御免被る」

「んじゃ、どうするのさ」

「ブラニットの跡を追う」

 当然なクリスさんの質問に、アイカさんは短く答えた。

「追うって……今は行方不明って聞いたじゃない。先に探すの?」

「追うのは『後』じゃなく『跡』だ」

「う~ん?」

 わたしはニュアンスでなんとなくはわかるんだけど、まだ付き合いの短いクリスさんは首を傾げている。

「ブラニッドの奴は先に今回の件を任されて調査を始め行方不明になったワケだが、彼奴の腕前から考えて野盗や強盗の類に殺られるとは思えん」

 そんなクリスさんをほっといたまま、アイカさんが説明を続ける。

「つまり行方が途絶えた先に、奴の手には追えないレベルの何かがあったと言えるだろう」

「と言っても、ギルド・ガードが行方不明になってから結構な時間がたってるし、今から移動するにも結構な時間がかかるんだけど、その何かが見つかるとは思えないなぁ」

「そうだな」

 その指摘にアイカさんは軽く頷く。

「だが、なにも痕跡が残っていないということも無かろう」

 それもまた事実。ヒントはなにもない以上、どんな些細な手掛かりでも突き詰める必要がある。

「どうせ手掛かりが無いのであれば、ゼロ以外を期待できる手を打つのが最良であろう?」

 その言葉に反論は無かった。


 かくしてわたし達は馬車に揺られ、ブラニット氏が最後にギルドへと定時連絡を入れた場所、辺境北西部にある村『テルミヌス・アシス』へと向かうことにしたのでした。



   *   *   *



 『テルミヌス・アシス』は、辺境の開拓村としてはやや性格の異なる場所だ。

 まず周囲をそれなりに背丈のある石壁で囲んでいることからして違う。一般的な辺境村はそもそも囲いとなる壁が存在しないし、あっても粗末な木製壁ぐらいだ。この一点だけでもこの村が特殊な場所だとわかる。

 それもその筈。この村は開拓の中継点として整備されている場所で、様々な職人の工房や放浪商人の店などが中心となっており、自警団ではなく領都から派遣された辺境衛士が駐屯していた。

 また珍しいことにギルドの出張所まであったりする。なので、辺境で資源集め活動をしている探索者もいたりで、いわばミニチュア化された領都だ。



「ブラニットの奴は、ここから更に北の方向へと行くと言い残していたそうだ」

 ギルドの出張所、その飲食エリアで遅めの昼食を取りながらアイカさんが言う。

「どうやら西方連山の方に向かったみたいだぞ」

「西方連山、ですか……」

 軽く首を傾げるレティシアさん。

「つまり件のギルド・ガード殿は、『ザラニド』の方を目指したと?」

「普通に考えれば、そういうことになるな」

 レティシアさんの言葉にアイカさんが頷く。

「ことがオークだけに、その本拠地を目指すのは理に適っておる。問題は、そのまま奴が行方不明となってしまったということだな」

「ことが『ザラニド』だけに、オークの警備兵に捕縛・排除された可能性は否定できません」

 『ザラニド』の鎖国は徹底しており、その周囲に大量の警備兵を配置している。その目を掻い潜って侵入するのは不可能だと言われているぐらい。

「ただ、オーク族は良い意味でも悪い意味でも他種族と政治的関わり合いを避けます。ギルドとの対立を招くような真似をするかと言われると……一番ありそうなのは逮捕してギルドに送りつけてくるケースですか」

「ふむ……一理あるな」

 慎重に言葉を選ぶレティシアさんに、アイカさんは腕を組んで難しい表情を浮かべている。

「んじゃ、オークじゃなくて野盗の類にやられちゃったんじゃないの?」

 パスタを行儀悪くフォークでつっつきながら、クリスさんが口を挟んできた。

「あるいは魔物にでも殺られたのかもね。アイカはブラニットとか言う人の腕前を信じているみたいだけど、もっと強い相手ってのはいくらでもいるし」

「余が奴を評価しているのは、単純な戦闘力だけではないのだがな……まぁ、それは良い」

 クリスさんに鋭い視線を向けるアイカさん。

「万が一、奴がやられていたとしても、それはそれでなんらかの痕跡はあるだろう。余としてはそんな可能性はあまり考えたくないが」

「はいはい。こちとらしがない雇われの身ですから、一言申し上げはするけど、方針には従いますよ」

「ならば良い……当面の方針はこれでゆく。出発は明日昼前とするので、必要な準備は今のうちに揃えておくがよい」

 クリスさんが軽く肩をすくめ、アイカさんの言葉で打ち合わせは終了した。



 打ち合わせが終わった後、レティシアさんは魔法具に魔力を充填するために魔法具の店に、クリスさんは防具の手入れに鍛冶屋へと出かけて行った。

 わたしも食料や水の買い足しでもしておこうと、腰を上げた。

「あぁ、少々待つが良い」

 そんなわたしにそう言いながら、アイカさんが首から一つのペンダントを外して手渡してきた。

「これは……?」

 緑色の丸い石が埋め込まれた金属製の土台に、銀色の鎖が取り付けられている。なかなか年季が入ったペンダントのように見えるけど、その石だけは磨き上げたばかりみたいに光沢を放っていた。

「これは魔族のお守り『旅路の祝詞』だ。旅にでかける者が持つ、まぁ、願掛けのようなものだな」

 興味深くそれを眺めているわたしに、アイカさんが言葉を続ける。

「一応は我らが神『ユリヅキ』様が直々にお作りになられた物だから、少しはご利益もあるかもしれん。持っておくがよい」

 信じがたいことだけど、魔族にはまだ神様が実在するらしい。全ての神が去った人族としては、羨ましいようなそうでもないような……。

 ただ、神様から直接アイテムを下賜されるってシチュエーションはちょっと格好良いと思う。

 っていうか、それ! 超貴重品ってことじゃ!!

「え、そんな凄いモノ、受け取れませんよ?!」

 慌ててペンダントを押し返す。人族で言えば伝説級の一品じゃないですか!

「あぁ、お主達の視点から見れば、そうなるか」

 アイカさんが苦笑を漏らす。

「これはお守りとして魔族領から出る者なら誰でも持っておるような物で高価でも貴重でもない。そなたには邪魔かも知れぬが、余の気休めの為だと思って持っておいてくれ」

「……んん」

 そこまで言われると、断るのも悪い気がする。それにアイカさんからプレゼント(?)を貰ったのは、初めてだし、それを断るのも隔意があるようなイメージも。

「じゃ、じゃぁ、遠慮なく」

 せっかくアイカさんがくれるというのだから、ここはありがたく受け取っておくべき。そうするべき。

「うむ、うむ。それで良い」

 なんとも嬉しそうなアイカさんの表情を見ながらわたしは、このペンダントは絶対に、絶対に大切にしよう! と強く心に誓うのでした。



   *   *   *



 鬱蒼と茂る木々や背の高い草のせいで視界がよく見えない森の中を、わたし達はゆっくりと進んでいた。

 『テルミヌス・アシス』を出て三日。最初の一日目は村で借りた馬車で移動したけど、道路が途絶え森が深くなったことで進行不能になり、それ以後は徒歩で移動している。

 辺境の例に漏れず森は果てしなく深く、足元は悪い。ただ不思議と魔獣や魔物の類とは全くと出会わず、なんとも平和な道のりだった。

「………」

 ただわたしの気持ちは大きく沈んでいた。この森全体から漂う雰囲気が、どうにもわたしにはあわない。

 なんというか直接精神に干渉してきているような気持ち悪さ。ずっと軽い頭痛が続いている。

 そして更に問題なのはこの森に入って以来、どうにもわたしの知覚能力が低下しているような気がすること。

 しかも魔法の効きも悪いみたい。レティシアさんが何度も魔法を唱え直しているけど、そんな行動は初めて見た。

 アイカさんもどこか落ち着かなげにしているし、変わらぬ態度を保っているのはクリスさんだけ。流石は『勇者』ってところなのかしら?

「………!」

 慎重に先へと進んでいたわたし達の耳に突然届く甲高い金属音、そして続いて起きる爆発音。

 これは、間違いない――戦闘音だ。つまり、誰かが戦っている?!

「聞こえたな?」

 わたしが視線を向けると同時にアイカさんが軽く尋ねてくる。つまりわたしの聞き間違いじゃない。

 神経を集中し、周囲の状況を把握しようとする。

「どうだ?」

 アイカさんの言葉に軽く頭を振る。

 この森に入ってから頭痛もあってどうも上手く周囲の状況を掴めない。これはレティシアさんの魔法だのみ――。

「ダメです……感知系魔法は全く機能しなくなりました」

 何度か魔法を唱え直していたレティシアさんが、硬い表情を浮かべる。

「どうもこの周辺には、魔法の効果を著しく減退させる効果があるようです……それがなんなのかはっきりとはわかりませんが……」

 レティシアさんの探知魔法は完全に機能しなくなった。つまり今後はわたしの探知技術に全てが掛かっている。

 わたしの方も好調とは言えないし、これはちょっと面倒なことになったかもしれない。

「お主をしても、理解不能な現象なのか?」

「お恥ずかしながら」

 アイカさんの言葉にレティシアさんが申し訳なさそうに答えている。

「このような経験は、初めてで思い当たる節が……」

 もしかして、この森全体が結界のような作用を……? いや、そうであるならレティシアさんが気づかない筈がない。余計なことを言って混乱させるのはよそう。

「わからぬ物は仕方あるまい。エリザの方はどうだ?」

「……気配だけはなんとか……おそらくこっちの方だと思います」

 全力を傾けてもなんとなくしか気配は掴めないし、方角を知るのがやっと。

 う~む。わたしの売りである探査技術が、ここでは殆ど役に立っていない気がする。

「ともかく進むぞ!」

 わたしが自信無く指差した方向に、アイカさんは全力で走り出した。



 木と木の間を走り抜け、音の発生源を目指す。

 幸いにして気配との距離が近づくにつれ知覚がはっきりとし、目的地が認識できるようになった。

「ここです!」

 飛び出した先はわずかに開けた場所。その中心に二つの人影があった。

 それは一人のオーク氏と一人の女性。

 大柄が多いオーク族だけど、この人はとにかく大きい。男性に匹敵するほど背の高いアイカさんと比べても、さらに頭一つは背が高そう。

 薄い緑っぽい色をした肌に下顎から飛び出す牙。前髪を中心から左右に別けている髪型のお陰で顔つきがはっきりと見える。意思の強そうな紫色の瞳とあわせて全体的には整った容姿だけど、若干潰れた鼻が残念。

 そしてオークの髪は一般的には灰色が多いけど、この人の髪はだいぶ白っぽく、しかも長い。

(確か、髪の色と長さがオークの地位を示してるって聞いたことがあったかな)

 オークの階級・地位についてそこまで詳しいワケじゃないけど、領都で商売をしているオーク商人から雑談ついでに聞いたことがある。

 長髪ほど地位が高く、髪の色が白っぽくなってゆくほど貴族に近くなるとか。それに従うならこの目前にいるオーク氏は相当な地位の人物だということになる。

「………」

「くっ……たとえこの身を辱められようとも、心までは自由にさせぬ!」

 オーク氏の前で地面に倒れ上半身を起こした格好の女性。

 あれ? この人……前に見たことが。そうだ。エミリア姫の護衛騎士をしてた人!

「……?」

 その人がなんでこんなところにいるんだろう? え? まさか姫様がどこか近くに居たりするの? いやいやそんな馬鹿な。

 周囲を見ればアイカさんとレティシアさんは困惑した表情を浮かべていて、クリスさんは首を傾げている。

「騎士の誇りと覚悟、その目に焼き付けるがいい!」

 護衛騎士さんの周囲にはパーツ単位でバラバラになった鎧が散らばっていて、近くの地面には騎士剣が突き刺さっている。

 この状況から察するに、護衛騎士さんはこのオーク氏と戦い、力及ばず負けてしまったということなのだと思う。

 そして、敗者の行く末は……。

「さぁ、殺せ!」

 え? これって、まさか……その、娯楽本とかで稀に聞くあの有名な――。

「このぉ! 女の敵め!」

 わたしがアホな思考を思い浮かべた瞬間、それまで状況においていかれていた感が強かったクリスさんが聖剣を振りかざしながら叫ぶ。

 その声を受けて、オーク氏が素早くこちらへと振り向く。要所要所に金属製の防護具を取り付けた長いコートの裾が、動きに合わせて大きく翻った。

「おい! ちょっと待て……えぇぃ、やむをえぬ!」

 その様子に慌てたアイカさんが制止の声を上げようとして、言葉を飲み込む。クリスさんはもう引き返せない距離まで踏み込んでいたし、主導権を握るために先手を取るのは悪いことじゃない。

 となれば……!

「正面は抑えます!」

 フォールディング・ボウを展開すると同時に矢筒から矢を引き抜く。矢錬成は便利だけど、咄嗟の事態には弱い。こんなシーンに備えて普段から十数本程度の矢はストックしている。

「頼むぞ!」

 うん。細かい言葉はいらない。この局面でわたしがやるべきことは一つ。矢と一緒に握り込んだ魔力結晶がガリっと音を立てて砕け、鏃に魔力が集中する。

「パワー・ショット!」

「うなれ、聖剣!」

「えぇい! 面倒なっ!」

 オーク氏を前方に捉え、アイカさんが左手側から、クリスさんが右手側から同時に飛びかかる。そして正面からはわたしの矢。

 この三方からの同時攻撃を無傷で避け切るのは、どれほど腕前があっても難しいだろう。

 致命傷にはならなくとも、相応のダメージを与えることはできるはず。その隙にレティシアさんがあの騎士さんを助け出せれば……!

 だけど、その甘い考えは簡単に覆される。

「モジョ・ダ!」

 明らかに両手サイズの大剣を右手で軽々と振ってアイカさんの一撃を弾き返し、左手を突き出しながら呪文と思しき言葉を口にした。

「ケレーネ・ウルウ・ユーラ・ダ・ツリーック!」

 言葉が終わると同時に突風が巻き起こり、魔力を帯びたわたしの矢を弾くと同時にクリスさんの身体をも吹き飛ばす。レティシアさんでも苦労しているこの状況で、こうも簡単に魔法を?!

「ぬぅん!」

 さらに驚いたことにそのまま大剣を引き戻し、体勢を立て直したアイカさんを牽制。いや、本当にどんな筋力してるの?! 

 いくらオーク族が怪力自慢とはいえ、こんな無茶な行動して腕平気なんだろうか?

 吹き飛ばされたクリスさんは地面に叩きつけられる瞬間、逆に盾を地面に叩きつけて身体を一回転させ、器用に立ち上がる。こっちもまた常人離れした体捌き。流石は勇者……。

「ぬ……」

 一方アイカさんの額に浮かんでいる脂汗。気のせいか、いつもの余裕の表情が真剣なものになっていた。

 え? アイカさんがこんなに緊張しているところなんて、初めて見たかもしれない。

「余はそれなりに強者であると自負しておったが、まだまだ上には上がおるものだな」

「ふむ……本気の剣先ではないといえ、私が一撃で仕留めそこねた相手など久々です」

 アイカさんに言われて、初めてオーク氏が口を開く。オーク語で話しかけられるかと思ったけど、意外にも人族語だった。

「お主が本気でない以上、こちらが奥の手を引っ張り出すのも無粋であるしな」

 『焔月』を持ち出してない以上、アイカさんは本気じゃない。それは嘘じゃないんだけど、ちょっと負け惜しみっぽく聞こえるのも確か。

「というか、それでも一矢報いることも出来なかったら、流石の余も少々落ち込んでしまう故、ここは強がっておくこととしよう」

 とか思ってたら本人が自ら肯定しちゃった。うん。流石はアイカさん。

「……彼女は、貴方達の知り合いですか?」

 アイカさんの軽口を取り合わず、オーク氏が言う。

 どうでもいいけどすごく流暢に人族語を話すなぁ。わたしの知っているオークさんは殆ど片言にしか喋らなかったけど。やはり地位が高いと色々な教養が要求されるんだろう。

「ふむ。知り合いと言えば、まぁ、知り合いではあるか……」

 アイカさんが微妙な表情で答える。エミリア姫と面会した時に顔を合わせているから赤の他人ではないけれど、逆に言えばそれだけの関係なので見知った他人とでもいうべきかな?

「そうですか」

 それまでのいかにも強敵といった貫禄を見せていたオーク氏が、ふうっと表情を緩める。ただそれだけの動作で周囲を包んでいた緊迫感が薄れていった。

 クリスさんの方はどこか悔しげな表情を浮かべていたままだったけど、ここから手を出そうとは思わないみたい。

「ならば――」

 オーク氏が重々しく言葉を続ける。その先を、わたし達はじっと待つ。続いた言葉によっては、それなりの覚悟も必要だ。知らない間に握りしめてしまった手のひらの中に、じんわりと汗が湧く。

「助けてください」

 ……続いた言葉は、ここにいる四人の誰もが想像すらしていないモノでした。

「は?」

 思わず間抜けな返事をしてしまったのも仕方ないと思う。

 だって、まさか、続く言葉が、よりによって『助けて』って……どちらかと言えば、そのセリフはこっちが言うべきモノじゃないかしら?

「私は間違いなく人族の言葉を使っている筈なのですが、まったく話が通じません」

 わたし達の困惑を知ってか知らずにか、オーク氏は護衛騎士さんの方を見ながら心底困り果てたように言葉を続ける。

「彼女が顔見知りなら、どうにかしてください」

 どうにかと言われましても、えっと、何をどうすれば良いのでしょうか?

 ……なんとも頭の痛い展開になりそうな予感に、わたしは軽い目眩を覚えたのでした。


※次回投稿は、4/10の予定です。本業多忙のため、当面の間二週間毎更新となります。

 誠に申し訳ございません。


 お読み頂きありがとうございます。

 ブックマークや評価を頂き誠に感謝致します。

 もしこのお話を気に入って頂けましたら、ブックマークや評価を入れて貰えると幸いです。

 また感想・コメント等ありましたら遠慮なくどうぞ。大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ