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ガールズ・ハートビート! ~相棒は魔王様!? 引っ張り回され冒険ライフ~  作者: 十六夜@肉球
第二章 お気楽極楽冒険生活

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第四話 スールズ・カプリッチョ#1

 一同が遺跡より持ち帰ったアイテムを調査するギルド。果たしてその結果は……?

 一方アイカ達は、街を騒がす魔族についての依頼を持ちかけられる。


挿絵(By みてみん)




「もう! 一体なんなの?」

 ギルドハウスの地下、関係者以外立ち入り禁止となっている『錬金術・実験室』。魔法や結界によって厳重に隔離された部屋の中で、身体をくねくねさせながらギルドマスター・クリフが言葉を続ける。

「わっかんない。ホントわっかんないわね!」

 目の前にあるのはクロエ達から提出された報告書と、外部からの魔力干渉封じが施されたガラスケースに収められた立方体。調査に向かわせた遺跡から発見されたというシロモノ。

 どんな作用が働いているのかわからないが、その立方体は支えもなく空中に浮いていた。

「ほんとーっに、面倒くさい物を見つけてくれたものよね」

 一通り身体をくねらせた後、こちらを呆れたように射抜く視線に、姿勢を正しながらクリフが盛大なため息を漏らす。

「確かに久々の『遺跡』だから、少しは大きな発見があるかもと期待はしていたけどネ……」

 それにしても、コレは『大きすぎる』。

「……ざっと資料を当たりましたが、今の所コレの正体に繋がる情報はありません」

 ギルド所属錬金術師、アルヘナ・ミスティトがため息を漏らす。その動きに合わせエルフとは思えない豊満な胸が一緒に揺れていた。

 バレッタでアップにしたセミロングの薄い緑色の髪。デザインセンスに乏しい太縁のメガネと鋭い視線が合わさり理知的な印象を強くしている。エルフ特有の尖った長い耳が、彼女の神秘的なイメージを強調していた。

 彼女は探索者ギルドで魔法やアイテム全般を担当する職員であり、発見されたアイテムの鑑定や調査も主な仕事としている。こと魔導器について彼女より詳しい人材はギルド――いや、領内には存在しない。

「ただ、年代測定の結果、これは少なくともここ百年以内に作られたモノだということが解っています。遺跡はともかく、この魔導器そのものは神代の時代の物ではありません」

 彼女のメガネは、その凡庸なデザインとは裏腹に、強力な鑑定能力を持つアーティファクトだ。このメガネで観察すれば、作られた時期や材質等の情報を簡単に得ることができる。研究職なら誰でも欲しがる逸品だ。

 もっとも、このアーティファクトを稼働させる為には大量の魔力を必要とするので、魔力量に優れた種族であるエルフの彼女以外にまともに使える者はいない。

「なによ、それ?」

 予想外の情報に、クリフがポカンとした表情を浮かべる。

「どこかの物好きが、わざわざ神代の遺跡に侵入して、自作の魔導器でも置いていったの?」

 クロエ達の報告を信じる限り、遺跡は明らかに神代の時代に作られた物としか思えなかった。そこで発見された魔導器であれば、それも神代の時代の物と考えるのが当然。

「年代以外は手がかりなしです。類似する魔導器の報告はありませんし、用いられている術式は完全に未知の物です」

「エルフの知恵でも正体が知れないなんて、これで神代のシロモノじゃないとか嘘でしょ……」

 クリフのため息再び。新発見の魔導器というのは多かれ少なかれ頭を悩ませる物だが、今回はその中でもとびきりの頭痛案件だ。

「私は研究肌で、伝承の類はあまり詳しくないもので……すみません」

「あぁ。別に責めているワケじゃないのヨ」

 頭を下げるアルヘナに、クリフが慌てて手をふる。彼女が取っ掛かりさえ発見出来ずにいるというのは、クリフが知る限り初めてのことだ。

 そのせいか彼女の表情も、申し訳ない気持ち以上に悔しそうな気持ちが強そうに見える。

「アナタがエルフとしては変わり者であるのは確かだけど、おかげで助かってるんだから」

「……尽力します」

 直球なクリフの言葉に、アルヘナが苦笑いを浮かべる。相変わらず歯に衣着せぬ人だと。


 アルヘナは、エルフの中では変わり者というよりも異端児というべき存在だった。


 スラリとしたスタイル――言い換えれば痩せた体格の持ち主が多いエルフ族の中で、豊満な体型を持つ彼女は浮き気味であった。

 ただでさえその外見的特徴から同族内で敬遠されていた所を、更に自然信仰を重視する一族のしきたりを無視して魔術や錬金術に傾倒しているのだから、集落から追放されたのもやむを得ないだろう。

 そのまま野垂れ死に直前まで追い込めば反省して帰ってくるだろうと一族の者は考えていたが、彼女は彼らの想像よりもパワフルだった。

 追放されたのを良いことに颯爽と領都へ向かい、ギルド通りに無許可でテントを建ててモグリの魔法・錬金屋を始めたのである。

 領都に着くまで採取しておいた薬草を元にポーションを作って生活の糧を得、魔法アイテムの修理や鑑定など手を抜かない確かな仕事で評判を得る。

 一ヶ月も立つ頃には腕の良い錬金術師がいる店――相変わらず違法テントであったが――としての評判を得ることに成功していた。

 また彼女は同業者の利益を必要以上に減らすことのないように気を使い、顰蹙を買わぬように配慮した。

 その結果、通りにある他の同業者からは『目障りではあるが、わざわざ手間をかけて排除するまでもない』相手だと見做され、お目溢しされる存在となっていた。

 その腕前とバランス感覚を買ったクリフにギルド職員としてスカウトされたのは、半年後のことである。

「ま。モノ自体はアナタに任せるとして……」

 胸の上で組んだ左腕に右肘を乗せ、人差指を頬にあててくねりながらクリフが言葉を漏らす。

「問題はコイツの処遇なのよねぇ……」

 辺境で発見された貴重なアーティファクトや魔導器は、その希少性から領主への報告義務がある。当然この『オリジン・ギア/プロトⅡ』も報告対象だ。

(プロトⅡ、なんて言うからには当然他にも同じモノが、どこかにあると考えるべきでしょうケド)

 少なくともプロトⅠと呼ばれるモノが存在すると考えるのが妥当。つまりこんな正体不明のシロモノがまだどこかに眠っている可能性があるのだ。

(いやいや、それよりも今は領主館の反応よね……)

 なにしろ『神代の魔導器』に匹敵する可能性が高いシロモノだ。領主、その上にある王国――そしてアカデミーが興味を示さない筈がない。

「報告書を見る限り、魔力を通すことで何らかの反応を示す魔導器であろうとは予測できるのですが……」

 崩れ落ちる遺跡からの脱出に使うことができたと報告書には書いてあった。つまり、魔力が鍵であるのは確かだ。

「魔力実験はどう?」

 机の上に、ゴトゴトと魔力結晶を積み上げているアルヘナに声をかける。魔族と同じくエルフは自身の魔力を使う事ができるが、不足する場合は人族のように魔力結晶から魔力を引き出して補うこともできる。両者の良いとこ取りができる種族だ。

「予備実験では、反応はあったものの、特に意味のある結果は得られませんでした。今回は三倍の魔力を注入して反応を確かめようと思います」

「危険は?」

 並べられた魔力結晶の量にクリフが眉を顰める。これだけ魔力を費やせば、強力な攻撃魔法であるファイアーボールどころか、それ以上の破壊力を持つメテオフォール級の魔法さえ発動させられそうだ。

 まかり間違って魔力暴走など起きれば、どれだけの騒ぎになるか……。

「完全に無い、とは断言出来ませんが……」

 正直に答えるアルヘナ。

「前回の実験では、注入された魔力は全て消費されました。暴走その他の心配はとりあえず無いかと」

「んじゃ、乙女心に覚悟を決めましょうか」

 上位の防御魔法が施されたネックレスを取り出し、アルヘナと二人で首に掛ける。

「景気よくやっちゃってちょうだい!」

 一瞬なにか言いたそうな表情を見せたアルヘナだったが、軽く肩をすくめただけで自分の作業に戻る。

「はじめます」

 言葉と同時に魔力がオリジン・ギアに流れ込み、ぼんやりとした光とキーンという低い音を立て始める。

 魔力の量に応じて光は強まり、やがて立方体が激しく振動を始めた。

「ちょ、ちょっと……本当に大丈夫なの、コレ?」

「先程の実験では無かった激しい反応です!」

 心配そうなクリフと違い、興奮を隠せない様子のアルヘナ。

「これはなにかの反応が期待できそうですよ!」

(あー、うん)

 クリフは諦めた。

(この子、普段はおっとり系お姉さんキャラだけど、実験が関わると性格がプッツンしちゃうのよねぇ……)

 普段の仕事をしている時のアルヘナは、どちらかと言えばぼーっとしていて、とても切れ者とは思えない有様だが、一度実験を始めると途端に『熱心な』研究者としての一面を顕にする。

「な……まさか……!」

 魔力を受けて光り始めたオリジン・ギアの輝きは、直視するのは無理な明るさになっている。

 その状態でもオリジン・ギアの方に懸命に視線を向けているだろうアルヘナが驚愕の声を上げた。

「そんな……あり得ない……」

「なに? 何が起きてるの?!」

 種族特性として魔法抵抗力の高いアルヘナは、この眩い輝きの中でも何かが見えているらしい。

 しかも口調から考えて、決して良くない何かが。

「……もうすぐ光は収まると思います」

 クリフの質問に、アルヘナは直接答えない。

「その目で、しっかりと見てください」

 どこか感情が欠落したような口調に、クリフはなんとも言えない悪い予感をおぼえたものの、取り敢えずアルヘナの言葉に従うことにする。

 確かにオリジン・ギアの輝きは収まりつつあり、これならもうすぐ視線を向けることができるだろう。

「なによ……もう」

 やがて輝きが収まったのを感じたクリフが、再びオリジン・ギアの方に視線を向ける。

「派手に輝いちゃったけど、まさか光るだけ――」

 言葉は最後まで続けられなかった。

 オリジン・ギアの側に、どこから入ってきたのか一匹の角兎――ホーンズラビットが鼻をヒクヒクさせながら座っていた。

「え? なに、この兎。一体どこから?」

 なんとも間抜けな光景。呆然と見下ろしているクリフに、ホーンズラビットは軽く首を傾げてみせた。

「オリジン・ギアから出現しました」

「は?」

「その兎、オリジン・ギアから出現したんです」

 重々しく答えるアルヘナ。予想すらしていなかった答えに、クリフの思考がついてこない。

「つまり……オリジン・ギアに魔力を注入した結果、このホーンズラビットが出てきちゃったって言うの?」

 それでもようやく言葉を絞り出す。

「見間違いなんかの余地はないの?」

 クリフの言葉に、アルヘナは首を振る。

「残念ながら」

 はぁ……っとクリフは大きくため息を漏らす。

 ――いつだって最悪の事態は予期せぬタイミングでやってくる。

 この現実を前にすればやるべきことは一つしかないし、形振り構ってもいられない。

「……コレは、ギルドマスターの名において『最高機密』に指定するわ」

 いつになく真面目な声でクリフが告げる。

「領主にはよく似たレプリカを渡し、オリジナルはギルドにて厳重保管。特にアカデミーには、絶対にコレの存在を知られてはダメ」

 いずれあの連中――特にレティシアを呼んで話し合う必要がある。あの『賢者』は、報告書には書かれていない、より多くの秘密を知っているだろう――クリフはそう判断する。

「レプリカ……偽物を用意するのは危険では?」

「こんなシロモノが権力者の手に渡る方がよほど危険ヨ」

 アルヘナの常識論を、クリフが却下する。

「ともかくこれが何なのか、はっきりするまでは他の誰の手に渡ってもまずい……最悪、破壊あるいは封印する可能性も視野に入れておいて」

 なにかを生み出す魔導器自体は過去にも見つかったことはある。だが生物を、それも生きているまま生み出す魔導器――さながら魔力壺からオリジン種が産み出されるかのよう――など初めての発見だ。

「歴史の表舞台に立たせるには、コレは余りに危険すぎるわ」

 クリフの言葉に、アルヘナは何度も頷いた。



   ††† ††† †††



「お前らさんに丁度よい仕事があるんだが」

 遺跡から帰って一週間程。久しぶりにギルドを訪れたわたし達に、トーマスさんは待ってましたとばかりに声を掛けてきた。

 ちなみに今ここにいるのはアイカさんにレティシアさんの三人。

 クロエさんはアイカさん対策の為に新しいアーティファクトを探してくると、昨日一人で飛び出して行った。必要なら現地で臨時の仲間を募るらしい。

 どうせならわたし達もついて行こうかと思ったものの、クロエさんはアイカさんと一緒にいるのは我慢ならないと断られてしまった。

 まぁ、いつの間にか呼び名が『魔族』から『アイカ』に変わっていたあたり、思う所はあったのだと思う。それを飲み込むには時間がかかるというだけで。

 そのうちまた一緒に仕事することもあるだろうけど、その時はもう少し軟化してくれていると嬉しいんだけどなぁ……いや、今回は本当に胃に悪い仕事だった。

「そなたが言う『良い仕事』とやらが、本当に良かったことなど、片手で数えるほども無かったと記憶しておるのだがな」

 ぼんやりと考え事をしているわたしの横で、アイカさんがトーマスさんをジト目で見ている。

「他の同業者がやりたがらない仕事を、報酬で釣ってるようなモノばかりだったように思うぞ」

「まぁ、確かにお前らさんに回す仕事に、ワケありなモノが多かったことは認めるが」

 トーマスさんも引く気配がない。

「それだけギルドもお前らをアテにしているってことだ。『鉄』以上の昇級にはギルドへの貢献度も含まれるんだから、悪い話でもないだろうが」

「昇級とやらには、それほど興味ないからなぁ」

 力説するトーマスさんに、アイカさんが興味なさげに答える。

「取り敢えず『鉄』であれば、殆どの仕事は受けられるのであろう? 迂闊に地位を上げて義務など増やされては、メリットよりデメリットの方が上回る結果にしかならぬ」

 アイカさんの立場から言えば、まさにそのとおり。

 仕事の選択に制限がかかるのは『銅』以下であり、『鉄』以上になれば結果は自己責任の上で好きな仕事を選ぶことができる。もちろんあまりに実力的に問題があると見做されればギルドからストップがかかる可能性はあるけど、アイカさんにストップが掛けられる仕事って、どんなのよ? という話はあるわけで。

 確かに『鉄』より上に昇級すれば、アイテムの販売や売却に関わる制限がなくなり、利用可能な施設やサービスが増え色々と便利にはなる。

 だけど、それに見合うデメリットもあるワケで、報酬の一部をギルドに収める必要や特定の仕事を請け負う義務などが発生しちゃう。

 実力者で固めた上昇志向なパーティーなら、それでもメリットの方が大きいかも知れないけど、アイカさんのように『暴れられるのが重要!』なタイプの人だとあまりお得には感じないのも仕方ない。

 まぁ、かく言うわたしもこれ以上の昇級には興味がない――というか、勘弁して欲しいところ。

 明らかに実力に見合ってないし、そのせいでひどい目にあう将来しか見えない。そりゃ、アイカさんとレティシアさんがいれば大抵のことはなんとかなるかもしれないけれど、わたしは足手まといにしかならない。

「まぁ……私としましても、あまりギルド関連で時間を費やしたいとは思いませんし」

 アイカさんに続いてレティシアさんも頷きながら言う。

「今ぐらいがちょうどよい塩梅ですね」

「はぁ……」

 二人の言葉にトーマスさんが頭を抱える。

「お前らさんのような腕利きが、揃いも揃って上昇志向に乏しいってのは、ギルドとしては実に悲しいことだなぁ」

 それはそうだろう。ギルドから見れば上位の腕利き探索者がいればいるだけ都合が良い。領主に対する抑止力にもなるだろうし、仕事も手広く受けることができるだろうし。

「まぁ、頑張れ?」

「他人事かよ」

 アイカさんの言葉にトーマスさんが抗議の言葉を上げる。

「他人事だしな」

「他人事ですし」

 それに対してアイカさんとレティシアさんが同時に答える。

「息ピッタリだな、畜生め」

 トーマスさんが悪態を漏らす。

「まぁ、それはさておき。お前らさんにどうしても頼みたい仕事だというのは正直な話だ」

 流石はギルドの受付係。すぐに頭を切り替えて話を続ける。

「面倒でなければ構わんぞ。申してみよ」

 それに対して鷹揚に頷くアイカさん(元魔王)。元が元のせいか他の人なら不愉快に感じられそうな態度でも、彼女なら許せてしまう謎の雰囲気がある。

 そして、それはトーマスさんも例外ではないらしく、上から目線で言われているにも関わらず、今まで怒ったり気分を害したりした様子を見せたことはない。

「領都の外郭城壁の外に幾つか衛兵の駐屯地があるのは知っているな?」

 領都を囲む一番外側の城壁には、魔物の襲撃に備え小隊規模の衛士駐屯地が幾つか設置されている。

 そのため領都は内部だけではなく外側もそれなりに安全が確保されており、商業の発展に一役買っているのは周知の事実。

「うむ。なかなか合理的な仕組みだとは思うが、それがどうかしたのか?」

「大きな声では言えないんだがな、最近この駐屯地を襲う……というか喧嘩を売っている変わり者がいる」

 トーマスさんの口から語られたのは、衝撃的な言葉だった。

「しかもこれがめっぽう腕の立つ奴で、衛士では全く歯が立たないらしい」

「ふむ。確かに変わり者であるが、それは衛士隊――領主の管轄であろう」

 アイカさんが首を傾げる。

「余らが出張る筋合いの話であるまい?」

 確かにその通り。衛士になにかあったとして、それが探索者ギルドになにか影響があるとは思えない。

「まぁ、もし衛士に人的被害が出ていれば、その通りだったんだがな」

 トーマスさんが大きくため息を漏らす。

「襲撃者は迎え撃つ衛士を叩きのめしてはいるが、後に残る傷を負わせたり、ましてや殺したりはしちゃいない。代わりにその日の夕飯を奪われるぐらいだ」

「ゆ、夕飯だと?」

 びっくりするアイカさん。え? わざわざ駐屯地を襲撃しておいて、奪ってゆくのはご飯だけ? え? 意味がわからない。

 仮にご飯が欲しくて襲撃するにしても、もっと他に襲うべき場所があると思うんだけど。

「あぁ。襲撃者は金銭の類は一切奪わず、要求はその日の食事だけだ。全く意味がわからん」

 これにはトーマスさんも頭を振る。領主の兵に手を出すなんていう非常にリスキーな真似をしておいて得るものが大して豪華でもないだろう衛兵のご飯って、割に合うんだろうか?

「要するに死人も出てないし、衛士隊としては領主に報告してわざわざ自分達の失態を知られたくはない。かと言ってこのままにしておくわけにもゆかないって話だ」

 つまり、あまりに被害がしょぼすぎるので、内々に済ませたいってことね。

「……そこで話がこれ以上大きくなる前に、腕利きの探索者にお仕置きして欲しいというワケか」

 納得いった表情でアイカさんが頷く。

「話はわかったが、それがどうして余らに頼みたいということになる? 腕の立つ探索者なら他にもおるであろう」

「もちろんクロエあたりに任せても良かったんだがな……」

 至極当然なアイカさんの質問に、トーマスさんは更に大きなため息を漏らしつつゆっくりと答えを口にする。

「一つ問題があってな――その襲撃者は、『魔族の少女』だ」

 投下されたのは、特大の爆発魔法にも等しい言葉だった。

「──はぁ?」

 アイカさんには珍しい心底驚いた表情。

「二刀流使いの魔族の少女らしい――まぁ、魔族だから実際の年齢はわかったモンじゃないが。そして話が領主まで届いては不味い理由もそこにある」

 なんだか雲行きが怪しくなってきたような……。

「魔族との戦争は百年も昔の話だが、魔族が衛士を襲っているなんてことが公になれば、再び状況が悪化する可能性まであるからな。要は魔族同士で決着をつけてくれれば、色々と話が簡単になるってことだ」

 昔の話とはいえ、一部ではまだ魔族に対する敵意を燻ぶらせている人もいる。それが一般市民レベルなら喧嘩の心配ぐらいで済むけれど、貴族や聖職者であればこれを口実にどんな無茶を起こすかわかったものじゃない。

 人魔戦争再びなんて、考えただけでも頭が痛くなってくる。

「あー……うむ」

 アイカさんが頭を掻く。

「魔族は武を尊ぶことこそ至高とする。タカリをかけるにしても、一般人相手ではその気にならぬということであろうな」

 うわー。なんて迷惑な思考。魔族の人って、本当に思考が戦いで占められているんだなぁ……。

 とりあえず一般人に迷惑をかけないように配慮はしてくれているみたいだけど、その結果より大きなピンチを招いているような気もするけど……?

「余の国の者が迷惑を掛けているのであれば、一肌脱ぐ必要はあるかも知れぬ」

 アイカさんがどこか遠い目で言葉を続ける。

「余もあまり人のことを言えた身ではないが、他所様に迷惑をかけるのはけしからん話故にな」

「そういうワケでだ。目には目をというワケじゃないが、手近で探索者をやっている魔族は今の所お前らさんしかおらんし、腕前の方も確かだしな」

 アイカさんがその気になっていると見るや、一気に畳み掛けてくるトーマスさん。

「手当は弾むから、是非とも引き受けてくれや」

「仕方ないな……余としては尻拭いも吝かではないが、お主らはどうだ?」

 アイカさんがわたし達に申し訳なさそうに言う。

「場合によっては、余一人で請け負っても良いと考えておるのだが……」

 自信なさそうに言うアイカさんへの答えは、最初から決まっている。

「水臭いことはいいっこなしです。わたしは別にいいですよ」

「そうですね、他の魔族の方というのにも興味がありますので、私も構いません」

 わたしの返事に合わせるように、レティシアさんも了承の意思表示をする。

「こんなおもしろ……こほん。私達、同じパーティーの仲間じゃないですか!」

 ん? 今なんか一瞬不穏なセリフが聞こえたような……? いやでも、賢者なレティシアさんに限ってそんな筈はないし……。

「というわけでその依頼。確かに余らが受けるぞ」

 わたし達の返事を受けてアイカさんがトーマスさんに了承の返事を返す。

「そう言ってくれると信じていたぜ」

 トーマスさんが破顔する。こうやってみると、結構可愛いところもあるんだよね、この人。

「して、その魔族の娘とやらは、領主側に引き渡す必要があるのか?」

 いそいそと書類を用意しているトーマスさんに、アイカさんが確認の言葉を口にする。

 確かにそれは重要なこと。流石にデッド・オア・アライブという程ではないにせよ、一応は犯罪者みたいなもの。無罪放免というわけにはゆかない可能性が高い。

「ギルドまで連行してもらう必要はあるが、衛士や警士に引き渡す必要は無い……というか、そんなことをしたら面倒が増える。できるだけ内々に済ませたいのがアチラの意向だ」

「それを聞いて安心したぞ」

 アイカさんが安堵したような声を漏らす。やっぱり同族が相手だと、色々と思うことが……。

「そんなことをしたら、余のお仕置きが出来ぬからな!」

 まるで猛獣のような笑みを浮かべながらの言葉。

 あー、うん。そうだよね。アイカさんってそんな人だったよね。

 誰だか知らない魔族の少女に、わたしは心から同情した。



   ††† ††† †††



「うーん」

 黒色のくせっ毛を三編みにまとめた少女が、重く重い溜息を漏らした。

 特徴的な魔族装束の上に羽織を纏い、右腰と後ろ腰に一本ずつの脇差を刺している。およそ防具と呼べる物は身につけておらず、この少女が魔族であることをなによりも雄弁に語っていた。

「そろそろ出会ってもいい頃だと思ってたんだけどなぁ……」

 表情が曇るのも無理はない。せっかく行動を起こしたのに予想していた展開にはならず、成果を得ることが出来ずにいる。

 少女は自身としては珍しい自制心を働かせ、絶妙なラインで騒ぎを起こしていたが、目的の相手は出てくる気配も見せなかった。

「はぁ……」

 更にため息。状況から考えてアテが外れたとは思えないし、このまま同じ行動を繰り返していればいずれ目的は達成できるだろう。

 今はどこかに出向いているとか、仕事で手が離せないとかの事情があるのだろう。あるいは少女の情報が伝わっていないのか。

 魔族が暴れていると聞いて、大人しくしているような人ではない。

「気づきさえすれば、間違いなくすっ飛んで来るだろうし、今は待つしかないか……」

 ただ、それを踏まえても、少女はひたすら退屈だった。

 もともと考えるよりも行動を起こすタイプの性格の持ち主だったし、一箇所に留まっているのも苦手だった。

 仮の宿として滞在している場所も良くない。

 鬱蒼とした日中でも暗い森の中、僅かに開けた所の廃屋を手近な木材で補強したあばら家で、住心地はよろしくない。

 幸い温泉に似た水質を持ったお湯が、チョロチョロと湧いているのはプラスポイントだ。

「風呂になるぐらい湧いてたら良かったのに……もぅ、残念」

 生活環境としてはおよそ最悪の部類と言えるものの、武士団で受けた新兵訓練に比べれば大した状況ではないし、厳しさの程度で言えばピクニックのようなものだ。

「あーあ」

 床の上に敷いたゴザの上に、だらしなく寝転がる。侍として褒められた格好ではないが、訓練官も上官もいない状況では些か弛んでしまうのも無理はない。

 穴の空いた天井からは、青い空と白い雲が見える。夜になれば流れる星を観察できるのもプラスポイント。

「せめて料理ぐらい美味しいのが食べれたらなぁ……」

 誠に残念なことに、家庭力の全てを戦闘力に全振りしてしまった少女は、料理をしようとしても丸焼きぐらいしか作れない。その上材料も調理器具もないのだから、自炊は絶望的だ。

 修行ついでに人族の兵舎を襲い、その際にありつく食事が唯一マトモなメニューだ。

「ま、もう少し様子を見てみようっと」

 他に良いアイデアも無いし、下手な考え休むに似たりとも言う。現状維持というのは必ずしも悪いことではない。

「さてさて、今度は逃さないからね」

 伝書鳩を通じて彼女が飛び出したのを知ったのはちょっと前。

 長年の望みを叶える為に国を飛び出し、魔物や人族相手に修行を積んだ。昔の自分よりも確実に強くなっている。

「……アイカおねえさま!」

 満面の笑みを浮かべながら、少女は両手を空に伸ばし、拳をギュッと固めた。


※次回投稿は11/14の予定です。ただし、仕事の都合で多少遅れる可能性はあります。

 この所、年末が迫った為に予定が不安定になっております。

 誠に申し訳ございません。


 お読み頂きありがとうございます。

 ブックマークや評価を頂き誠に感謝致します。

 感想も頂けまして、作者冥利につきます。ありがとうございます。


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