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9 そもそも、タイトルが『逆光のフォトグラフ』である意味

 『3』『4』をある程度形にした後。

 浜ちゃんの心を完全につかんだような気がせず、もやっとしておりました。


 読み直しながら、私は頭の隅でぼんやり考えます。

 『逆光のフォトグラフ』というタイトルで、そもそも私はどんな物語を想起したのか?

 タイトル候補を上げた時。(遊びの長文タイトルは別として)

 それぞれに、作品の色といいますか光の当て具合といいますか、そういうのが違っていた気がします。

 ではこのお話が別のタイトルだったなら、どうなっていたでしょう。



★『モラトリアムを過ぎても』

 このタイトルの場合。

 年齢的には十分大人の彼らだけど、大人になり切ることに抵抗や逡巡、恐れのようなものを抱えている……ことにそれぞれが気付き、自分なりに『猶予期間』つまり甘えから卒業してゆく。

 スポットを当てるとすれば、その心の動きでしょう。


★『死ぬなよ、馬鹿』『高校時代の友人が服薬自殺をやらかした』

 前者はおそらく主人公による一人称、後者は三人称で書くかと思います。

 『死』にスポットが当たることで、(もちろん頭では違うとわかっていても)永遠にまったり続くように思っている人生だの日常だのが、意外と儚いものだと彼らは肌で知り、自分の来し方行く末を見直す話になりそうな気がします。



 では……『逆光のフォトグラフ』は?

 私は、物語が組み上がった瞬間のイメージを思い出してゆきます。


 卒業式が終わってすぐ。

 午後の初め、もしくは午前の終わり。

 太陽はほぼ真上。

 光を背にした彼ら。光を正面に受けてほほ笑む美鈴。

 美鈴は武志にとって、眩しい春の女神。

 愛しい。綺麗だ。守りたい……恋する若者の心。

 だけど、若者の心は臆病でもある。

 誰にも渡したくないという独占欲は人一倍あるけれど、自分は本当にこの人を守れるのかという、恐れや逡巡も人一倍だろう。


 優しくて、敏感な感受性を持つ若者だからこそ。



 武志は元々、人の心をかなり的確に察していい距離感を作ることのできる才能があります。

 言い換えれば繊細で感受性が豊か。

 悪く言えば、人を傷付けたくない(そして自分も傷付きたくない)ばかりに、優柔不断な態度になりがち。

 美鈴が大切であるからこそ、彼は優柔不断に陥ったのでは?


 『逆光のフォトグラフ』……つまり逆光の写真には、影がある。

 影が微妙なニュアンスを添える。

 影があるからこそ『写真』ではなく、『フォトグラフ』。

 真実を報道するよりも、芸術性に重点を置かれた写真になる。

 影があるからこそ、美しい。


 菱本が、場合によっては死んでもいいと思うくらいの薬を飲みたくなるほど、心に影を抱えていた。

 だけど武志には、彼の影・彼の闇はわからない。

 そもそも菱本自身が、他人にわかってもらいたがっていない。

 だが彼は彼なりに今も苦しんでいるだろうし、武志も友人として、何とかしてやりたいとは思っている。

 しかしどうすることも出来ない。

 手も足も出ないで竦んでいる武志の横をすり抜け、渉は『騙された』ふりをしたまま、『ごじゃごじゃ悩むな。生きろ!』というメッセージを伝えた。


 詳細はどうあれ、それは菱本に伝わったと武志には感じられた。



『病室で、薬瓶を大事そうに取り上げて淡く笑む、菱本の姿をふと思い出す。


 たとえ相手のすべてがわからなくても。

 たとえ少々、方向がずれていたとしても。

 人は人へ、大切な思いを伝えることは、出来る。


 それが伝えられるのだから……もう、それでいいじゃないか。』



 武志の述懐です。

 相手の全存在を知らなくてはと、無意識のうちに思っていた彼。

 順光の中の美鈴だけでなく、武志には見えない影の側もきちんと隈なく知らなくてはと、自分で自分を追い込むように、彼は思い込んでいたのではないのか?

 なまじ『察する』能力が高い故に、かえって彼は『わからない』が怖かったのではないか?と思った、瞬間。

 『そうか!』と、私の中でストンと納得がいきました。

 


 『逆光のフォトグラフ』は、影があるからこそ美しい。

 武志がそれを納得する物語だったのだ、と。

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― 新着の感想 ―
[一言] >『逆光のフォトグラフ』は、影があるからこそ美しい。 素晴らしい結論です! 実際人生って輝かしいことばかりじゃないですし、光と影、両方あるからこそ、より美しく見えるのでしょうから。
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