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桜歌  作者: 碧梨
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序章 2 「奴隷狩り」

桜歌 序章 2 「奴隷狩り」



遊牧民は、移住を繰り返す民族だ。

国に住む民のように永住する場所はない。


牧畜を行いながら、自然と共に生きる。

それが彼らの生活様式である。

また自然信仰が主であり、神という存在は彼らにはない。

全ては自然が作り出したもので、人が神という形に落としたものは信仰の対象にはならない。

自分たちの命、それらはすべて自然が生み出したもの。

空も、風も、草も、光も、水も…動物も人間もすべて自然が作った。


だからこそ永住する必要がないのだ。

ありとあらゆる場所に移動をしたとしてもすべての場所が自然のものであり、彼らにとって故郷なのだ。



しかし、彼らのような存在を認めることが出来ないものも存在する。



*************



突然のことだった。

普段ならフクロウが鳴く穏やかな夜で有る筈なのに…どこからともなく、異臭が広がっている。



「…ん…?」



異変に気が付き、目を覚ます万華。

静かに目を開けると、異様に辺りが明るい。

眠る時間までほんの数刻ほどしか経っていないのに、日が昇るのが早いものか。

そう思いながら万華が上体を起こそうとすると、羊や馬たちの叫び声が聞こえる。



「何…!?」



朝が来たのではない。



「…万華!!黒!!」



血相をかいた父親が、険しい形相で寝室に入ってきた。



「父さん…!?」



「すぐにここから離れなさい!!」



何が起きたのかまるで分らず、状況の説明を求めても父親からは求めている返答が返ってこない。

とにかく緊急事態だということは理解できた彼女は、すぐさま隣で寝ている弟…黒の背中を揺さぶって起こそうとする。



「黒!黒!!起きて!!」


「ん…んー…?姉ちゃん、どうか…したの…?」


「話は後よ!」



眠い目をこすりながら、起き上がる弟の手をしっかりと握りながら万華は父親と共に外に出た。


そこに広がっていたのは、炎の海。

いつも見ていた青く美しく広がる草原ではない。

地獄絵図のような光景が広がっていた。

恐れて逃げ出す人、羊、馬たち。

紅く燃えているゲル。

火矢が撃ち込まれ、さらに激しく炎が燃え上がっていく。



「…なんだよ…これ…!」


「一体、だれがこんなことを…!?」


「万華!黒!こっちに来なさい!早く!」



目の前に広がる光景に思わず立ち尽くしてしまうが、父親は二人を必死に呼ぶ。

仲間の何人かが、炎から離れようと逃げ惑っている。

父親は混乱している仲間たちを何度も呼び、とにかく炎から離れる場所に向かって必死に走る。

生き物が炎で焼かれる光景を目の当たりにし、異臭が広がっている。



「…ひどい…!なんでこんなことを!?」


しっかりと手を握りしめているが、黒は肩を震わせている。

少しでも安心させたいが、今は広がっている炎からとにかく逃げることが先だ。

懸命に父の跡を追いながら逃げる。


「あ…!?」



黒は何かを思い出したかのように、万華と真逆の方向に向かって走ろうとする。

しかし、万華がその手を離そうとはしない。



「黒!何をしているの!?早く逃げないと!」


「母さんと!子羊たちが!!」



その言葉に万華は思わず目を見開き、父親を呼ぶ。



「父さん!母さんがまだ、羊小屋にいるの!!」


「なんだって!?」


「夜に生まれた子羊たちのところにいるはずなんだ!!」



目を覚ました時には、まだ寝室に母の姿はなかった。

しかしこの炎の中で、母親が生きているかどうかすらわからない。



「俺が行くよ!!」


「だめだ!行くんじゃない!」


「なんで!?なんでだよ!だってあそこには…」


「落ち着きなさい!黒!」



思わず父親が一喝する。

あまりの覇気に万華と黒は心臓が跳ねた。

すぐに父親は二人を安心させるようにぎゅっと抱きしめる。



「俺が行こう…お前たちは安全なところへ逃げるんだ。

 きっとまだ生き残っている仲間たちがいるにちがいない。とにかくここから離れるんだ」


「でも、それじゃあお父さんは…!?」


「大丈夫だ。必ず戻るから…必ず母さんと羊たちを助け出してやる。約束だ」



黒と万華の頭を優しくなでて、父親は踵を返す。



「行きなさい!!さぁ!!」



黒は何度も何度も、父親を呼ぶが万華は目をぎゅっと閉じて、真逆の方向に向かって走る。



「父さん…父さん…!!」


炎の海に向かって走っていく父親の姿を黒はじっと見つめていた。

必ず帰ってきてくれる。そう信じて、前を向いて姉と共に走った。

とにかく、自分たちは逃げなくては。



走って、走って、走り続けた。



逃げた先森だ。

真っ黒な闇に包まれてはいるが、炎はここまで届かないであろう。



「…はぁ…はぁ…」



二人を息を切らしながら、その場に座り込む。

幸い逃げているときに、何人かの仲間と合流することができた。



「万華ちゃん…黒…大丈夫かい…?」



仲間が声をかけてくれる。

全力で走った二人は、しばらくの間は体を動かすことはできないだろう。

逃げてきた仲間を見る限り、ほとんどが子どもと女だけだった。



「…男の人たちは…?」



「家畜が逃げられるように残っているんだ…。みんな無事だといいんだけどね…」



女は、まだ燃えている集落を指さす。

炎はまだまだ収まる様子はない。



「…どうして、こんなことに…」


「あたしにもわからないよ…ただ、一つ言えることは…」



一瞬のことだった。

女が言葉を紡ごうとしたときに、網が万華たちの頭上に現れる。

大量の魚を掴めるが如く網に絡まれた遊牧民たちはいとも簡単に捕まってしまった。



「な、なんだよこれ!?」



黒は網を掴んで逃げようと暴れるが、逆に仲間と絡み合い身動きが取れなくなってしまう。

その光景を確認するかのように、数匹の馬に乗った兵士たちが現れた。



「こうも簡単に捕まえることができるとは。

 やはり、低能な生き物だなぁ。」



兵士たちは捕らえた遊牧民たちを見下しながら、あざ笑う。

馬に跨り、鎧と武器を身に着け、突如現れたその姿に万華は誰なのかわかってしまう。



「鄭…!?鄭国の兵士たちがなんでこんなところに…!?」


「おや、知能が低いとは言っても我々のことは知っていたか。如何にも。我らは鄭国の兵士であり、新皇帝申光様の命で貴様たちを奴隷として捕縛したのだ」



兵士たちが身に着けている鎧には、文字が刻まれている。

字が読めない遊牧民でも噂で耳をしたことがある。

それは誰もが名の知れた国の名だ。

鄭国(ていこく)

この東の大陸で、最も権力を持ち圧倒的な地方を収めている国の名だ。



「なんで、こんなところに…!?」


「お前らのようなものに下賤な輩に話す必要ない。だが…そうだな。

 一つ教えてやるとするのならば、おまえたちは我が国の奴隷になるのだよ」



歪に笑みを浮かべながら、遊牧民たちを見下す。



「…奴隷…!?」


「新皇帝陛下のために、人手が必要になったのでなぁ…丁度使える奴隷が欲しかったんだよ」


「ふざけるな!誰がお前たちの奴隷になんかなるか!!」



黒は怒りを露わにして、吠える。

呼応するように、ほかの遊牧民の仲間たちも叫ぶ。



「そうよ!なんで私たちがあんたたちの言うことを聞かないといけないの!?

 私たちの家を返して!私たちは奴隷になるなんてお断りよ!!」



武器を持っている兵士に対しても、恐れることなく遊牧民たちは叫ぶ。

怒りで我を忘れたか吠えたり泣き叫ぶ。



「黙れ!!この家畜どもが!!」



一人の兵士が叫んだ瞬間に、無数の矢が空を飛び交う。

矢には火が付いており、集落に向かう。悲痛な叫び声が響く。



「お前たちのような人間は、もはや家畜と同じだ!家畜は家畜らしくおとなしくすればいい!」



兵士たちの隊長であろう男が、前線に現れる。

少し肥えた外見をしており、周りの兵士たちに守ってもらうように立っている。



「お前たちがまだそんな態度をとるようなら、見せしめとしてこいつ等を一人ずつ惨めに殺していってやろう…」


「…!」



兵士たちの前に差し出されたのは、万華と黒の両親だった。

首元に剣を突き付けられ、その場に座らされる。



「やめて!!」


「父さん!母さん!!」



万華と黒は目の前にいる光景が信じられず、網の中から必死に叫ぶ。

両親は何度か殴られ、蹴られたのか怪我を負っている。



「さぁ、どうする?これの両親を殺されたくないのであれば鄭に忠誠を誓い、忠実な奴隷となるか?」



兵士たちの隊長は、口元を歪める。

目の前に広がる残酷な光景を見せられ、遊牧民たちは黙ってしまうのであった。

統領である人物が殺されてしまえば、燃やされた家の復興もできない。

生きる象徴とても言える父親が死んでしまったら自分たちには何も残らない。


炎を消すこともできないまま、ただ集落は無残に燃やされていく。



「…いくら陛下のお言葉としても我々は鄭国へ下ることはできない。」



父親がそう呟くと、自分を強く押さえ込んでいた兵士を一瞬の隙をついて全体重を兵士に乗せて倒す。



「あなた!?」



母親はその光景に目を見開く。



「貴様!!」



すぐさま父親を捕らえようと、兵士たちが取り囲むが懐にある剣を引き抜いて構える。



「我々は!我々の生き方がある!それが、権力ある国の王だとしても、阻むことはできない!!」


「ええい!なにをしている!たかが一人に、何を躊躇う必要がある!殺せ!反逆罪で殺してしまえ!!」



命令を下されたことで動き出した兵士たちだったが、木陰から何人かの男の遊牧民たちが飛び出してきたのだった。


そこからは、もはや戦だ。


遊牧民の男たちは、自分たちが作り持っていた剣や木の棒を取り勇ましく兵士たちに立ち向かう。

自分たちの自由を守るために、平和を脅かすものたちから家族を守るために戦う。

父親はまず、愛しい妻を組み敷く兵士を倒し、すぐさまその手を引いて、黒と万華を捕られている網をすぐさま奪い取った剣で引き裂く。



「お父さん!!お母さん!!」


「あぁ、二人とも!本当に無事でよかった…!」



家族の再会。

お互いを離さないように、しっかりと抱きしめ合う。



「ここにいてはまた捕まってしまう。とにかくどこでもいい、身を隠しなさい!」


「父さん!俺も戦う!」



戦いを繰り広げている中で、大きな岩場の場所に移動した家族。

落ち着いた口調で、父親に説得されるが黒は父親の腕をつかんでいた。



「お前は母親と姉を守りなさい!!」


「そんな…俺だって父さんの息子…いや、みんなを守るために戦いたい!

 だからお願いだよ!父さんと一緒に戦わせて!」



黒の必死な説得に、困ったような顔をしながら父親は同じ視線に身を屈めて額を合わせる。



「いいか、黒。お前は俺の後を継ぐ大切な存在なんだ。もし、俺がいなくなったとしても、皆を導いていけるのはお前しかいない。…母さんも、万華も守れるのは黒だけなんだ。」


「でも…でも…!」


「…泣くな。こんなところで泣いたら、二人に示しがつかないだろう?」



父親を失うかもしれない恐怖、どうしたらいいのかわからない不安。

様々な感情が交差する中で、目の前にいる息子は必死に自分についていこうとしている。

その姿がたまらなく愛おしく感じ、父親は首に巻いていた漆黒の布を黒に渡す。



「これをお前に預ける。統領としての証だ。

 母さんが俺に作ってくれた大切なものなんだ。それを預ける。帰ってきたら、返してくれるか?」



一粒一粒滴る涙が布を濡らしていく。

止まらない涙を流しながら黒は頷いた。

父親は母親に視線を移して、優しく微笑んだ。

その笑みにどんな決意があるのか。どんな意味があるのか。



「お父さん…」



母親に視線を移している時に万華がつぶやく。



「万華、お母さんと黒を頼んだ。必ず帰ってくるから待っていなさい」



そう言い残して、父親は走り出す。

戦場に向かい、恐れることなく武器を手にして。



「黒」



母親が黒の名を呼び、静かに抱きしめる。

止まらない涙を何度も何度もぬぐいながら、父親が身に着けていたものを大切に抱きしめている。



「父さんなら大丈夫よ。だって、母さんとみんなをあの炎の中から助け出してくれたのはほかでもない…あの人なんだから。だから今度もきっと大丈夫。大丈夫よ」


「うん…うん…わかってる…!」



肩を震わせながら泣いている黒を万華も抱きしめて、静かに目を閉じる。



「どうして、俺たちがこんな目に合わないとだめなんだろう…なんで…?

 あいつらが来なかったら、こんなことにならなかったのに…!」




炎が広がる。

逃げ惑う遊牧民たち。戦いを広げるものたち。

火矢が飛び交い、火はさらに激しさを増していく。



「ええい!なぜこのようなことになったのだ!」



兵士たちの隊長が、馬を操りながら戦場から背を向けて走っている。

自身の手には剣が握られてはいるが、血に染まってはいない。



「どういうことだ!まさかこの儂が、遊牧民たちよりも劣るというのか!?」


「隊長!遊牧民たちがさらに本陣に向かって攻めてきております!」


「何故だ!?兵力ではこちらの方が圧倒的に有利なはずであろう!?」


「し、しかし!」



隊長を守る護衛兵が、後を追いながら状況を報告する。



「おのれ…おのれ!おのれ!

 奴隷狩りを達成できれば陛下から直々に、さらなる位がもらえるというになぜ…!

 これもすべて、儂のせいではないぞ!!」



遊牧民たちを甘く見ていたという現実を認めたくないのか、護衛兵と隊長は一度身を引いていくが遊牧民の男たちはそれを見逃すことはなかった。

兵士が持っていた弓矢を奪い取って、隊長に向けて矢を放つ。



「ひぃ!?」



幸いというべきか、矢は兜を掠めただけで致命傷にはつながっていない。

そうしていくうちに距離は広がっていく。



「くそ!このままじゃ逃げられてしまう!」


「逃がすな!俺たちの住処を荒らした奴らを許すわけにはいかない!」



父親…いや、遊牧民の統領が叫ぶ。

遊牧民たちの士気はさらに上がっていく。対して鄭の兵士たちは、捕らえられたものもいれば、殺されたものもいる。

彼らは、なんとか生き延びていた馬に跨り、隊長を追いかける。



「その首をいただく!!」


「ひいいい!?な、なんとかせんか!!」



情けない悲鳴をあげながら逃げる。

戦というものは、指揮官を失ってしまえばたやすく終わるものである。

今の状況はいわゆる王手一歩手前といったところだろう。

遊牧民たちは少人数でありながらも、士気をあげることによって自分たちを狩りに来たものたちに制裁を下さそうとしている。


もう少し、あともう少しで敵の首を打ち取ることができる。

家族を守り切ることができる。

そう思い、必死に追いかけていたときのことであった。


聞きなれない音が響き渡る。

何かが爆発したような…聞きなれない音だ。



「…!?」



瞬間…父親の体が力なく落馬した。



「…統領!!」



父親と同じように隊長の首を狙っていた遊牧民の男がすぐさま馬から降りる。

身体を持ち上げると、彼の頭には風穴が空き、大量の血が噴き出していた。



「そん、な…こんなところからいったい誰が…!」



また、爆発音が響き渡る。

次に倒れたのは遊牧民の男だった。



「ひ…ひぃ…?いったい何が…?」



追われていた敵軍の隊長は、その場で馬を止めて辺りを見渡す。



「全く…せっかく機会を与えたというのに、本当に無能な隊長ですね」


「な、なにを…!あ、あなた様は…」



目の前に現れたのは黒衣に身を包んだ謎の人物であった。

口元まで布で覆い隠し、目を細めて睨んでいる。


「遊牧民を捕らえることすらできないとは。

 これはもう陛下のお耳にお伝えすることすら嘆かわしいですね」



明らかに隊長よりも高い地位にいる人間だろう。

男か女か。容姿が隠れているためまるで性別まではわからない。



「ど、どうか…お、お許しを…!」


「謝る暇があるのならば、早く全員捕まえなさい。

 兵は何人か連れてきたので、戦況を変えられないのならば、あなたの頭も打ちますよ?」



まるで蛙が蛇ににらまれたような光景が広がる中で、黒衣の人物と共に現れた兵士たちはすぐさま遊牧民の男たちを容赦なく狩りつくしていく。



「はは…!わかりました!余禍様…!」



余禍と呼ばれた人物は、黒衣の服を翻し倒れている万華と黒の父親を見つめる。



「さすがは西の国から手に入れた短筒。

 あれほどの距離が離れているにも関わらず、的確に敵をしとめることができた…」



喉元を怪しく鳴らしながら、父親の髪を掴んでじっと見つめる。



「なるほど…この男。そういうことか…」



不気味に目を細めたまま、男は一人の兵士に誰にも聞こえないように何かを囁いた。








「さっきの音…一体なんだったのかしら…」



離れた距離にいる万華と黒と母親は、静かにもの陰に隠れながら身を潜めていた。

先程響いた爆発音に不安がよぎる。



「お母さん…」



我が子を大切に包み込むようにする。

何があってもこのふたりは必ず守り通さなくてはいけない。

強い意志を持ちながらも、手が思わず震えてしまう。



「聞け!遊牧民たちよ!!」



すると、どこからともなく声が響いた。

罠かどうかわからないため、顔は出さずにそのまま言葉に耳を傾ける。



「お前達の統領は、我らが打ち取った!もはやお前達には歯向かうことすら意味が無い!大人しく、鄭国のもとへ下るがいい!」


「あの人が…死んだ…?」



信じられない言葉に、3人は目を丸くする。

そんなはずない。みんなを守ってくれるあの父親がいなくなるはずなどない。



「嘘を…嘘をつくな!!」



黒が思わずその場に立ち、声を張り上げる。

姿を晒してしまった黒を止めることが出来ず万華は弟の足に縋る。



「黒!ダメよ!」


「嘘をつくな!お前達なんかに父さんが負けるわけない!だって…だって…!」


「おやおや、なんとも哀れな子どもですね…」



馬に跨った黒衣の男が姿を現す。

黒は憎しみと恨みを込めた目で睨みつける。



「嘘だと思うのならば、これを見なさい。この首は他ならぬお前達の父親…統領の無残な姿だ!」



目の前に晒されたのは、父親だったもの…。

体と頭を切断され、頭には風穴を開けられた姿だった。



「嘘だ…うそ、だ…」


「嘘なものですか、これは正真正銘お前達が慕っていた男そのものですよ」



3人の他にも隠れていた遊牧民たちが、その真実を受け入れることが出来ずただただ悲痛な声をあげた。

恐怖と悲しみの声がこだまする中で誰よりも、現実を受け入れたくなかったのは他ならぬ妻であろう。

まるで何かに失望したように、無残に吊るされている夫の首を見つめる。



「あ、ぁ…ぁぁぁぁ…あああ!!」



ついさっきまで生きていた大切な人が一瞬で惨めな姿と成り果て、約束を果たすことが出来なかった。

母親が絶望に打ちひしがれる姿を見て、万華も黒も思わず言葉を失ってしまう。



「さぁ、降伏をしなさい。そして、鄭に下りなさい。これ以上、われわれに逆らったところで貴方たちには何もできはしないんですから」



残された選択肢は一つだけだった。



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