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四鬼折々  作者: EnHt_919
第一章 春の鬼 第一節刀を振るう意味
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第三話 黒猫の琥露(くろ)

「ええい!こうなったら、なんでもいいから起きろ!急急如律令!!!!!!」

その瞬間、掴んでいた御札が青白く光りだしそのまぶしさは惟前が目をつぶらざる終えないほどだった。

しかし、光っていた御札の一枚から目には見えないが衝撃波が球状に広がり陰鬱此と惟前をその場から五メートルほど吹き飛ばした。吹き飛ばされた惟前は頭から地面にぶつかり、そのあとも勢いが収まらず数回後転をした後、仰向けの状態で意識を失った。



「…おぉぃ……きろ!…おきろって!」

まだ朦朧とする意識の中、何かから声を掛けられ、小さく柔らかいものが自分を弱い力でつついたりたたいたりしてきているのが感じ取れた。

「…ん……?」

どうにも先ほど頭を打ったせいか、頭痛を感じながらもゆっくりと目を開けようとした。しかしその瞬間、【ボォォン!】という硬いゴムのようなものをたたくこもったような音が大きく鳴り響いた。その音の大きさに思わず惟前は目が覚めて、思いっきり上半身を起こし上げてあたりを見渡した。

すると、そこには先ほどから惟前を追いかけていた陰鬱此の姿が五体ほど確認できた。確認する限り陰鬱此たちは、何やら惟前を覆うようにドーム状に広がっている、薄く透き通った青い膜のようなものを今にも突き破ってきそうな威力で、それを叩いていた。

それと、確認できたのはそれだけじゃない。自分の腰あたりに、きれいな青い目をした黒猫が姿勢よく地面に伏せていた。

「お前、俺を呼び出しといていつまで寝てんだよ。あほずら丸出しだったぞ。」

伏せていた猫は、その場に姿勢よく座ると、惟前の態度にが気に食わないと、怒っているような態度をとった。しかし、惟前はその黒猫に強い違和感を感じた。

「……ん?」

惟前が違和感を感じるのも無理はない。むしろ、恐怖感だって感じてもいいくらいだ。

ただでさえ動物のテレビ番組で鳴き声が言葉に聞こえる映像を驚き映像というジャンルで取り上げることがあるのに目の前にいるこの黒猫は「にゃー」という鳴き声がが言葉に聞こえたのではなく、日本語を話そうとしてしっかりと発音し、さらにはちゃっかり表情まで作っている。これは、普通の猫では絶対にありえないことだ。

これに違和感を感じない人間などいるはずがないだろう。

「あの~…お喋りになられるんですか?」

「そりゃそうだろ。俺は何千年も生きながらえた化け猫なんだぞ?日本語ぐらい容易くしゃっべってやるさ。」

またもや黒猫元い化け猫は、わかりやすく自慢げな表情を作り気高く背筋を伸ばして見せた。

「マジか。」

「まじだな。」

「まあ何より、お前が起きてくれて助かったよ~。お前が作った簡易結界…今にも壊れそうなんだ。」

黒猫?いや、化け猫?は、満面の笑みをくべるとそのまま右前足で惟前の後ろ側を刺した。その前足に従い惟前が自分の後ろに目を向けると、一体の陰鬱此が結界を壊しているのが目に入った。

しかし、驚くのはそこではない。一体の陰鬱此が一心に叩いている結界の一部に小さなひびができているのだ。

惟前は焦りからか、固まったまま化け猫に話しかけた。

「なぁ、化け猫。」

琥露くろだ。」

【琥露】どうやら、それがこの猫の名前らしい。

「琥露、これってまずいかな?」

「かなりまずいな、想像してる数倍はまずい。結界ってのは強力なモノならばひびが入っても崩れるのは一部だったりするんだが、お前が作ったのは簡易結界だ。どこか一部分でも崩れれば、結界を構成する呪力のバランスも簡単に崩れて、結界は一瞬で崩壊する。」

「つまり、相当やばいってことか。」

今この状況において、通常の話や分からない専門用語なんか惟前にとってはどうだっていい。ただ必要なモノといえば、これから起きるまずい事態にどう対処するかについてだ。

「ど、どうしたらいいんだ…よ。あんな人間離れしたの…」

最悪なことに、気絶している間に数を増やした陰鬱此たちは結界を囲むように立っている。壊れた瞬間に走って逃げるなんてできたものではない。たとえ、陰鬱此の数が今より少なくてそれができたとしても、すぐに追いつかれてしまうのは目に見えてる。

何を考えても、人間離れした力を持つ陰鬱此に対抗するすべが見つけられないままでいると。

【パキパキ】っという、結界の日々が広がる音がした。

「やばい!やばい!どうしよう、琥露!このままじゃお前も!」

だんだんと迫りくるタイムリミットが目に見える形で現れた事に怯える惟前とは反対に、琥露は何か策があるのか全く焦ってはいない様子だった。

「仕方ない…いいか?お前。結界が壊れた瞬間何が起きても驚かず俺にまたがってしっかり摑まれ。いいな?」

焦る惟前に対して琥露が落ち着いて指示を出した。どうやら琥露には策があるらしい。

「え、何?またがる?摑まる?どういうことなんだよそれ!ほんとにそんなんでこの状況どうにかできるの⁉」

「いいから。しっかりひびの方を見て備えとけ!スピード勝負だぞ。この結界はもうすぐ壊れるし!お前の主力も、もう残り少ない!持って十五分!その間に絶対こいつらから逃げ切るぞ!」

「わ、わかった!お前を信じるからな琥露!」

迫りくるタイムリミットもあってか、惟前には琥露の言っていることが全く耳に入っていなかったが、自分では策が思いつかない惟前は琥露にこの状況の打開を投げることにした。

「(!…懐かしいな……その言葉…。)おう!任せとけ!」


【パリーン!】

ガラスが割れてはじけ飛んだような音がした瞬間、ひびの入っていた場所はもちろんさっきまで何ともなかった場所さえも壊れて、後に残ったのはきれいに青く光る粒子のようなものだけだった。

しかし、それが見えたのもつかの間。惟前は急いで琥露の方に目をやり、またがった。

「頼むぞ…!琥露!」

そう小声でつぶやくと、惟前は祈るように目をつむった。


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