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2:思案

 嵐の前の不規則に吹き抜ける風をつかまえ、ルルドは一足に空に舞い上がる。

 それ程時間は経っていないはずだが、きっとダッドは嵐を予測し、既に家路へとついているだろう。

 ルルドは子羊をしっかり抱え直すと、ダッドと別れた場所では無く、真っ直ぐに自宅を目指し駆け上がっていった。


 ルルドが自宅に着くと、案の定ダッドは放牧を終え戻って来ていた。

 早速戻った事をダッドに伝え子羊を見せると、濡れて冷え切った子羊に嵐は耐えられ無い可能性があると、嵐の間は天幕の中で世話をする事になった。


 嵐は予想通り、一晩経っても相変わらず吹きすさんでいる。

 成人し、親元を離れ一人で暮らしているルルドは、外に出れない間は酷く孤独になる。

 せめて家の中でする事があればまだ時間も潰せるだろうが、生憎手綱の手入れも矢作りも日頃から行っているせいで、暇潰しにもなりもしない。

 こんな時、女に生まれていたら嬉々として針仕事をしていただろうと、そんな考えが一瞬頭をかすめたが、自分にはあの細々とし遅々として進まない作業は、女になっても好きになれないだろうと、ルルドは一人虚しく笑う。

 幸いな事に、今回の嵐は子羊がそばにいるが、その子羊はルルドと服に包まり火のそばで丸くなったまま動こうとしない。

 部屋の中で元気があり過ぎるのも考えものだが、こうも大人しくされてもと、ルルドは火に薪をくべながらため息をつく。


 こうもやる事が無いと、無駄に考え事ばかりしてしまうのが人間だ。

 ルルドは子羊の背中を撫でながら、ぼんやりとニマの事を考えていた。

 ニマと会った海域はだいたい覚えている。大鮫の皮を返しに行くのは問題ない。

 ただ、目の前に吊し干してある大鮫の皮を何度見ても、海底遊牧民に会った事が夢のように思えてくる。

 言い伝えによれば、荒廃した大地を離れ空に逃げたのが後の天上遊牧民、海に逃れた者が海底遊牧民となったらしいが、胡乱な話だ。。

 呼吸が出来ない程に地上の空気が汚れてから、どれ程の歳月が流れたか分からないが、昨日地上まで降りた時の事を思い返せば、まだまだ人が住めるような環境には戻っていないようだ。

 子羊が落ちたのが運良く陸から離れた海上だった為、地表から湧き出す毒素が薄れていたが、それでも空の民が地上に近付くのは危険すぎる。

 今まで交流など無かった天上と海底。これを期に多少交流を持ってみようか等と思ったが、すぐさまその考えはルルドの頭から消え失せた。

 大鮫の皮を返しに行き、お礼として土産を渡しそれまで。わざわざ毒の中を進み交流する利点が無い。それっきりの付き合いが一番だ。


 ルルドは繰り返し何度も辿り着いた答えに一人頷くと、ため息をつきそのまま後ろに倒れこむ。  

 天幕は不規則に揺れ嵐も弱まる気配が無い。

 嵐が過ぎるまで、一体何回同じ事を考えれば済むのだろうと、自分自身に嫌気がさしてくる。

 ふと、ニマに渡す土産は何が良いかと、体を起こす。

 と言っても、ルルドの居るゼブ族は主に羊の世話を生業としている一族。自ずと土産も限られてくる。

 海の底に住んでいるなら、乳やチーズ、羊毛やキルト等は大層珍しい物のはず。わざわざ他の一族から買ったヤクの乳や穀物や芋などで無くとも問題は無いはずだ。

 だが、水中の生活で羊毛は必要なのだろうか。そう考え出せば今度は乳も不必要な気がしてくる。

 濡れればぺたりと萎れ貼り付くだけの羊毛と、水中に持って行けるのかも分からない乳。

 辛うじてチーズは持って行けそうだが、ようく乾かした固チーズでなければ溶けてしまいそうだ。

 ルルドは再び子羊の横に座り直すや、しばらく唸り声を上げ続けた。

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