8 ウルトラスーパーデラックスリスク
AIは、第四次産業と言うよりネオ第一次~第三次産業と言う方が適切かもしれないが、新たな次元であることに違いはないので、時代の門を解錠する資格は十分にある。通行料のディスカウントも期待できるかもしれない。AIやロボットが人口増加と同じ意味を持つのであれば、宇宙移民でなくとも地球への疑似移民受け入れだけで済む話で、世界戦争級の代償どころか無償の可能性さえあり得るのだろう。
全人類一人当たりの平均で言えば、エネルギー消費ベースでもゾウに及ばず、その態様でもライオンに及ばず、実はまだ地球の頂点を極めておらず、AI革命で残りのシェアを編み上げ、むしろこれから地球の頂点に君臨するのかもしれない。頂点は淘汰圧の位置エネルギーが一番大きく、見下ろせば蜘蛛の糸のように、命が累々と繋がれている様子が見て取れる筈だ。
ところで、もう一つ重要な問題が残っていることを忘れてはならない。近代の全面的総力的戦争は、産業革命後に付いて回るようになった。まるで借主を監視する番犬のようにである。更に石油を手にしてからは世界大戦までも経験し、その後も多くの堰を越えてきた今日においては、核という究極のリスクとも相対しなければならない。時代の堰を超える度に、新たなリスクを背負わされてきたのだ。
藤子F不二雄氏の短編「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」では、無敵のウルトラスーパーデラックスなヒーローとなった主人公が、ある日突然「ウルトラスーパーデラックス癌」で死んでしまう。どれほどの超人になろうとも、結局それに見合う弱みや敵が出現するため、比率ないし配役関係図的には何も変わらない。
堰を越えられるか否か、堰を越える際にどれほどの対価が必要かという問題だけでなく、仮に無償で堰を越えられたとしても、最後に残る問題、新時代に応じた、更なる繫栄に見合う程の巨大なリスクを新たに背負うことになるという事実だけは、決して避けられないということだ。その点については時代の門番との交渉余地がない。
堰を越える度に新たに付いて回ることとなるリスクのインフレーションだけは取り除けなかった。AIは、その最後の問題も解決できるだろうか?しかし、それは完全な良いとこ取りであり、モノポールや反物質を自然界で発見することと同様に極めて困難だ。あらゆる法則が、実は期間限定(又は地域限定)に過ぎなかった(パートタイム神様・非正規悪魔)ということでもない限りは。もちろん、堰を超えられないよりは遥かに良い訳だが、その向こう側で将来世代が負うリスクは、現世代が負っている核というリスクをも遥かに凌ぐ、ウルトラスーパーデラックスなものとなるだろう。