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蛹の殻  作者: アラdeathM
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6 箱舟のレシピ

 AIは、触れることも握手することもできる自製の見えざる手を持つだろうか?宇宙進出のためには、地球外で食物連鎖を維持できなくてはならないが、それには神の気持ちを代弁しうる程のアルゴリズムが必要となる。完全な食物工場では、ミネラル以上に不可欠である筈の命の連鎖が成り立たない。太陽エネルギーは、命のフィルターを通らなければ猛毒ないし利用不能だろう。命の循環は、生命全体を一つに繋ぎ、強力に縛り付ける一種の見えない力である。その命綱を切断して生きることはできない。ロボットやAIに税や社会保険料を課しても、人の集まりである法人とは違い、生命と言う命綱に繋がれていないAIから徴収できるものはただの数字でしかない。


AIは、人間にできること(時間と人数の制約がなければ)は何でも出来るが、人間に出来ないことまで出来る訳ではない。AIと雖も法則を創出することはできず、既にある法則を発見することが出来るだけだ。希望物件を検索する借主のように、より良い法則を探し続ける有り様は、檻の中で壁から壁を行ったり来たりしているクマのようだ。公理の壁を確認して回る戸締まり役である。


人間にできてAIにできないことが、唯一死ぬことだけになったとしても、むしろそれがAIの致命的な欠陥となる。命のエントロピーたる不可逆性や一回性の欠如、端的に言えば恐怖や嫉妬を感じないということだ。何度でもコピー可能な存在に自己保存本能のようなものは宿るだろうか?命にはそれがあるからこそ、各個が自己のために活動しながらも全体では見えざる手のような調和に至る。まだその機能は、ホメオスタシスという一種の罰(自己禁固)を課されている命だけのものだ。AIは、個々が調和的に同期しつつ動くことで、むしろ全体的なバランスは保てないように思える。恐怖しうる能力を欠いたまま人間の役割を代替することはできない。神は、AIからも通行料を徴収できる訳ではないのだ。そこには通行料を支払ってでも通りたいという、良いとも悪いとも言えない必死さがない。


AIは、全てが正しいか、全てが間違っているかのどちらかになってしまう恐れがある。それはいずれにせよ(仮に全てが正しくとも)持続不可能だ。光の波長のように、未来へと進むことができるのは正・誤ジグザグに掘り進めるものだけだ。良かろうが悪かろうがそれ以外の何かへ変化する必要がある。その変化の良し悪しなど枝葉に過ぎない。


 AIは労働者と消費者を分離し、労働者の側面だけを担うのだろうか?しかし、血と汗と涙の伴わないAI労働者に支えられた繫栄を想像することができない。利益とはどこからか湧き出してくるものではなく、汗や優位性や出し抜き(レント)が転化したものだ。優位性やレントによる利益は、分け与えない時にしか生じない(分け合った瞬間消滅する)ので、分け合うことができるのは、汗(血と涙含む)から生じた部分だけだ。だからこそ、汗を分け合うだけの利益に限定した公平な世界では、優位性やレントといった格差のある世界よりも、実際には豊かになれないことの方が多いのである。市場の失敗も神の手を鞭打てば躾けられるという訳ではない。理想は常に歪んだ結果をもたらす。


AI革命により、人はただ楽しむだけで良くなるのだろうか?働かなくても良い世界で人口は増えるのだろうか?今回の革命が人口増加に消極的であるとすれば、そこにはどんな事情があるのだろう。AIという疑似移民・疑似人口だけが増えるのであれば、それはAIによる人口爆発の擬制である。「人口爆発するのだから繁栄しても良いですよね?」と主張したい訳だ。しかし、そんなことで欺けるほど我々の大家は間抜けではない。ヘブンフォーミングは借主の無断改造であり、神のレッドラインを超える。契約解除のリスクだ。


必要とされていない(楽しむという主観的な必要があるだけで、楽しんで欲しいという客観的な要請が見当たらない。神は、自らを差し置いてまで人類に楽しんで欲しいとは思っていない筈。)のに、人口は増えるだろうか? 働かなくても良い世界では、結婚・出産はさらに社会から剝離するだろう。親に必要とされていない子供の成長が遅れ勝ちであるように、神のネグレストにおいても人口増加は期待できない。


別に人口など増えなくても、AI革命で経済は更に発展し、もっと豊かになれるのだろうか?それはあまりにも都合が良すぎる。反作用がなければ自分自身を見い出すことさえできない。人口爆発以外の代償でも同じ効果が得られるのなら構わないが、それは自ら選ぶか強制執行されるかという、任意売却と競売程度の違いでしかない。


AI革命でも人口爆発の加速はあり得るし、それ以外の成功など望み得ないが、その成功は、地球の中に留まる限り一層危険な状態に追い込まれることを意味する。人口爆発という破滅への階段を追い立てられるように登らされる。良いとこ取りだけでは貸借がバランスせず帳尻が合わない。同時にリスク負担やしっぺ返しを伴う形の成功だけが安定しうる。


AIは手足に代替するものではなく脳に代替するもの、脳の道具だが、それは比較優位を手放すことでもある。人間(知性)-感情=AIであるとすれば、それが理想形であるのかもしれない。心の道具など必要ないのだ。



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