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蛹の殻  作者: アラdeathM
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13 時代の接着剤は死。歴史が再現性のない実験であることを忘れてはならない。死で接着されていない未来は簡単に剥がれ落ちる。

 未認可治療にすがる患者のように、様々な経済理論の新説が試されるだろう。それらは100年前の世界恐慌なら防げたかもしれない。当時はまだ未来の埋蔵量が潤沢だったからだ。それでも結局第二次世界大戦になってしまった(まだ全面戦争をすることができた。世界戦争という選択肢が残っていた。)ことを忘れてはならないし、未来が枯渇しかけている今日においては、既に患者の免疫力は失われていると見なくてはならない。分母パイと分子(繫栄)の比率という前提が異なるのだ。どんな新しいアイデアも、シェアに関するナイフであり決してパイ焼き器ではない。その切れ味に関わらず、もう切るもの(取り分)がないのだ。


消費を増やそうとすれば増やすこと自体は難しくないし、インフレ率も本気で上げようとすれば容易い筈だ。しかし、もはや何かを増やしても他の何かが同量減る、副作用が同量且つ同時に返ってくる時代(完全ゼロサム時代)と考えるべきだ。比率的な満杯になるまでの間は、潜在成長率の上昇に必要なのは人口増加か生産性向上のどちらかであったが、人口増加を意図しない生産性の向上などありえない(又はあってはならない)し、人口増加を伴わない繫栄は錬金術と変わらない。


 西洋の場合、(金の錬成としての)錬金術を諦めたことが大航海時代の遠因となり、新大陸発見に繫がった。(理想の)創造を諦め、既にそこにある法則の利用に徹することにしたのだ。それがそこにある理由などどうでも良かったのである。それは産業革命をもたらすことにもなった訳だが、注意しなければならないのは、革命が先ではなく、新たなパイの獲得が先であったということだ。


 錬金術を諦めた点に成功の理由があるとすれば、まず何かを諦めなければその次は始まらないのかもしれない。人間はすぐ背中の羽を思い描く。だが背中に羽は生えない。手が羽に変わるのだ。そのトレードオフを無視することはできない。人類はもう一度諦める必要に迫られるだろう。


 西洋が先に大航海時代に達したのは、東洋とは時代の門番への賄賂の額が違っていた可能性もある。黒死病だ。ペスト後の急激な人口増加というエンジンが生まれたし、残った人々には空いたポジションを埋められるという可能性の爆発があった。尤も、東洋は決して賄賂を渋った訳ではなくむしろ多過ぎたのかもしれない。果たして、今回は適度な支払いができるだろうか?何をもってして「適度」な支払いと言い得るのかどうか定かではないが。


潜在成長率は常に上昇して行かなければならず、時折僅かに低下するだけでも大ごとであった。人の心は角度計に近い。幸せとは高さではなく角度なのだ。カロリーベース、エネルギーベースでは庶民でさえかつての殿様以上であるとしても、角度計が下向きであればご乱心の恐れすらある。


今日より明日が増しと思えなければ利下げしても効果がない。マイナス金利が、今日が底で明日は増しになると言うより、底が割れて更にマイナスになるのではないかと不安にさせるようであればプラスの効果は現れない。新たなピースがないのに、いくらパズルを組み換えたところで完成することはないのだ。元々、マッチ棒をどう並べ替えても求める答えなど出て来なかったのかもしれない。並び替え前のマッチ棒からは見えないが、答えは最初からそこにある。デフレは一時的な逃避に過ぎない。本当はインフレになると予感していても、不安が通貨を握りしめる。通貨は国に対する債権なので、救命ボートが見当たらないとなれば、例え沈みゆく船に思えてもその船体にしがみつくより仕方がないのだ。


 満月は東西どちら側にあるだろうか?夜は始まったばかりなのか、夜明けはもうすぐそこなのか。覇権の白夜化の中、理想と現実のイタチごっこは、資本主義も勝ち残った途端に終わらせようとした。片割れである民主主義もアンカーではなかったが、資本主義を見捨て民主主義だけ残すこともできない。この世界に借用契約がある限り、一方的で都合が良すぎる主張は通らないのだ。皆が平和を望んでも多数決で未来を決めることができないように、民主主義という綱引きで決められることは案外少ない。資本主義の次の走者はヘブン主義(働かなくても良い世界)なのだろうか?だが、まだ挫折していない理想は、常に目の前にぶら下げられているその一つだけだ。ゴールの向こう側にもニンジンがぶら下がっているとは思わない方がいい。資本主義も民主主義も更に良いものに変わるための1つ下の段とは限らない。

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