1.Antman
冒険者リッドはあるダンジョンの麓にある村の酒場で頭を唸らせていた。
ダンジョン攻略に置けるパーティーの編成であぶれてしまったのだ。
今回攻略が開始されるダンジョンは塔型で、大量の人員を割けないという理由でギルドから派遣されたのは総勢29名。
そしてパーティーの人数制限は4人までとされている。通常は人数制限など設けられてないが今回ばかりは仕方がない。
現地に着いたらノリでパーティー組めるだろうと、何も考えずに参加したのはリッド1人だけだったのだ。
食料調達が見込めない塔型ダンジョンへ全人未踏の1人ぼっちで攻略が始まる。
のかもしれない。
昨日、酒場で他のパーティーのリーダーとダンジョンに入り込む順番を決め合う会議らしきものがあったのだが、生憎おひとり様のパーティーですので一番最後に入ると言って、チマチマ肴を摘まみながら他のリーダーを眺めていた。
大体がガタイのいい剣士だった。顔つきから勇ましい。そいつらに頭一つ分足りていない俺はきっと盗賊とか思われているんだろう。
一応剣士ですけれどね。
最後に1人で倒したのは大猪だっただろうか。
パーティーは生まれてこの方組んだことはない。
同じくらいの背丈の魔術師かと思われる好青年に、会議の解散後に生きて帰ろうと言われた。
ああ、と頷き酒をすすったら彼は笑顔で酒場から出ていった。
出る間際にはこちらに向けて手を振っていった。
彼の笑顔に落とされた女はきっと多いだろう。
先日の会議ではそれぞれのパーティーの潜入の間合いについても取り決めた。
早朝、真昼、夕刻、深夜、の計4回の潜入が2日に分かれて行われる。
俺は2日目の深夜だったので村でのんびりと過ごした。
鍛冶屋のおっさんに鉄製の剣を磨いてもらったり、酒場の気前のいい給仕と飲み比べたり、宿屋のふかふかの布団で寝たり、宿屋のふかふかの布団で寝たりした。
今日の夕刻、前のパーティーが塔に入るのを見に行った。
入るところを見れたのは最後の1人が入るところだった。
最後の1人は銀色の鎧に長い銀色の髪をしている女性だった。
女性の騎士は珍しい。
彼女は入る前にこちらを振り向いたのだが、俺は彼女がどんな顔をしていたのか分からなかった。
死と向き合うための緊張か、恐怖か。余裕と言った表情で口角を釣り上げていたのか。
思い浮かべると容易に想像は出来るが分からない。
ただ分かることは彼女が蒼い瞳をしていた事と、兜を装備していない事だけ。
深夜まで寝て過ごした俺もダンジョンの攻略に入る。
きっと何も戦果を得なくとも、ダンジョンに1人で入ったバカと言った称号くらいは貰えるだろう。
ギルドから気前よく支給された魔法の鞄にはギルドの売店で買い込んだ物が入っている。
ポーションと言った回復薬。干し肉や水と言った携帯食料。ランタンと火種のマッチ。
まあこれだけ。
魔術師だったらスクロールと言った簡易魔導書などを持ち込んでいるのだろう。
簡潔に言う。ランタンが必要なくなった。
塔の壁には所々にランタンが設置されておりそれが煌々と燃えている。
いったい何の火種で燃えているのだろうか。
塔に俺が入ると入口の扉が完全に閉まってしまった。幾ら押しても開きそうにない。
これでもう後戻りが出来なくなってしまった。
最初の階層は王都にある闘技場に似ているような気がした。
人工的に敷き詰められたような砂地の真ん中には黒光りしている騎士が立っている。
騎士の向こう側に扉が見えた。
あれを倒さなければこの先へと進めないだろう。
背中に預けていた身の丈の半分の長さの鉄の剣を騎士へと構える。
それが合図となったのか、騎士は俺へと向かってき、鎧と同様に黒光りしている剣を振りぬいた。
構えていた剣で受け止める。その時、ミシッっと悲鳴が聞こえた気がした。
感触越しにだがこれは剣の悲鳴だ。
黒い騎士の一撃をいなし、後ずさるように間合いを取る。
あの黒い剣は相当硬いのだろう。
そして鎧が剣と同じ素材で出来ていたら弱点などないのだろう。
いなして、いなして、いなした先にはきっと待つのは剣の破滅と俺の死だろう。
こう考えているうちにも黒い騎士は俺へと剣を振るう。
光の反射で鎧は濃い青紫にも見えた。その中でも光を反射しなかった部分がある。
騎士の口回りだ。
芯がひび割れてきた剣で振るわれた剣をいなし、砕けた剣の刃を手でつかみ口周りへとぶち込んだ。
ぶち込んだ後、騎士は膝を地に着き虚空へと消滅した。黒光りした剣を残して。
流石に鉄の塊を掴んだ手からは血が出ていたのでポーションを掛けた。
大した怪我ではなかったらしく瞬時に血は収まり傷口は消えた。
ふと思い出したことが2つある。
1つはどんな人間でも首が損傷したら秘薬でもない限り長くは持たないこと。
2つ目はあの黒光り方は大型の蟻の魔物の甲殻にそっくりということ。
俺は蟻の騎士の剣を貰い、開いた扉から次なる階層へ進もうとした時、違和感を覚えた。
気になって後ろを振り向いたらそこには蟻の騎士がたたずんでいた。
俺は先ほどの通り戦闘を行った。違う点があるとすれば丈夫な剣があるということ。
首を刺し殺すと蟻の騎士はヘルムを落としていった。
蟻の騎士が出現しなくなった時には、お手元には蟻の騎士の装備がそろってしまった。
当然、俺の防具よりも丈夫なので装備を付け替える。
これまで着ていた、長年愛用していた防具は魔法の鞄の奥底で眠ることとなった。
蟻の騎士となった俺は次なる階層への一歩を踏み出した。