文化祭抗争(16)
実は朗太、この文化祭というものを心待ちにしていた。
理由は小説のネタになるからである。
「こんな青春まっさかりなイベントを俺が逃すわけないだろ!!」
「わーかったわよ。さっさと行くわよ」
姫子を連れ歩き出してしばらく。
人混みのなか、朗太が拳を握り高らかに言うとめんどくさそうに眉を下げながら姫子は朗太に先を歩くよう促した。
「てか去年はアンタどうしてたの? 去年もそんな楽しんでたの??」
「それ聞く??」
多くの人が行き来する廊下で朗太は顔をしかめ振り返った。
「そりゃ聞くけど?」
「は、なら別に良いけどさ。隠してないし。去年は姫子とも知り合いじゃなかったからな。当然女子と一緒に文化祭を巡るってイベントも無かったから今年ほど楽しみではなかったかな」
「そ、そうなの……ッ」
朗太の言葉に姫子は顔を赤くしていた。
そんな姫子を朗太は不思議に思っていた。
「というわけで姫子、お前と回る完璧なルートを考えてきたから楽しみにしておけよ!!」
「う、うん……」
朗太が言うと姫子は具合が悪いのかと心配になるほど顔を赤黒く変色させていた。
それから朗太たちは様々な出し物を回った。
「問題です! 世界で一番高い山は!?」
「エベレスト!」
「ですが、では2番目はなんでしょう!?」
「んなもん知るか!」
「K2、ゴドウィンオースティン」
「正解!」
「何で分かるんだ姫子…」
と2Dが開催するクイズミリオネアに参加してみたり
「水風船掬いとか久々だな」
「ホントそうよね」
1Hの縁日に参加してみたり
「何食う?奢るぞ」
「今日はやけにサービスがいいのね」
1Gの屋台でフランクフルトを二人で食べたり
「意外と上手ね」
「やっぱそうなの?」
「そうよ……」
吹奏楽部の演奏発表を一緒に聞いたり
「茜谷さんが見てるぞお前ら気合いいれろぉぉ!!」
「「はぁい!」」
「凛銅はしね!」
「………」
「………」
「俺死んだ方が良いのか」
「いや、その必要はないんじゃない?」
男子サッカー部の招待試合を見に行ったり
「へーこんなふうな料理もあるのね」
「いや姫子にはまだ早い!」
「どーいう意味よ!!」
料理研究部の創作料理店で飯を食べたり
「めっちゃがちゃがちゃ動いてるな」
「こういうの見るとテンション上がるわよね」
ロボ研の展示品などを見て回る。
それらを回りながら姫子を引き連れているとサッカー部であったように恨みの怨嗟を吐かれるのだが、これもご愛敬だろう。リア充経験をし、小説の糧を得るためには必要な犠牲だ。
と、そうこうしているうちに、その場所には辿り着いた。
1年B組、『呪いの館』、纏が雪女役をしているお化け屋敷である。
教室の廊下の壁は古風な感じに装飾され、入り口にはススキが置かれていた。
教室からはおどろおどろしい音楽が聞こえてきて、ここだけ周囲によりもわずかに気温が低いように感じられた。
時折、教室からはバタンと何かが倒れる音や、生徒たちの悲鳴が聞こえてくる。
教室から出てくる人も白い顔をしており、それなりに怖いらしい。
また二天使の片割れ、纏がいるということでお化け屋敷はそれなりに繁盛しているようだった。お化け屋敷の前は他クラスよりも明らかに長い列をなしていた。
「金糸雀の雪女見たか? アレは見る価値あるぞ!」
歩きながらそんな話をする男子生徒の声も聞こえてくる。
いるだけで集客を変えるとは、とんでもないポテンシャルを有する少女である。
「でだ」
人ごみを前にし朗太は姫子へ向き直った。
「纏からは一人で来るように言われているから姫子とは一緒に入れないんだが念のために聞いておく。姫子も行きたいか?」
「んなわけないでしょ」
「だよな。安心した」
もし姫子が一緒に行きたがるようだったら、行かないよう説得しなくてはいけなかったし、もしなし崩し的に許可せざるを得なくなった場合、纏からも叱られ、その上腕も破壊される、誰も得しない展開になり得た。
だが、姫子は一緒に行きたくない。
僥倖だ。
『今から行くから』
朗太はEポストで纏にメッセージを飛ばすと列に並んだ。
「スマン、知ってると思うけど纏との約束なんだ。適当に時間潰していてくれるか」
「分かったわよ。纏なら仕方ないし。私は隣のクラスの展示見てるから好きになさい」
そうして姫子には申し訳ないがを一人列に並ぶこと数分。
朗太の番は回ってきて
「無事に帰られることを祈っています……」
定型の文句を聞き、朗太は第一歩を踏み出した。
感想から言うとなかなか素晴らしい。
暗闇の教室には夜風でススキがなびく音が流され、柳を模した紙細工があったり、卒塔婆があったりと、雰囲気がしっかり出ている。
順路は四つん這いにならないと進めないところや、立って進むところなどまちまちだ。
その道すがら様々な場所にキャストがいた。
時には床を這っていたところ、顔だけ天井から覗かせたり、時には墓場から飛び出して来たり。
そのどれもがなかなか意表をつかれるもので面白かったのだが……
いてぇ!
若干、俺に当たり強くないすか? 特に男子!
朗太は突如出てきたキャストが自分に強めに当たり去っていき顔を歪めた。
先程からこのようなことが続いている。
明らかに自分への当たりが強いのだ。
もしこれほどの当たりを他にもしているとしたら教室内でそれなりにリアクションがあってもおかしくないので、ないということはきっと自分にだけなのだろう。
ちょっと男子当たり強すぎんよぉ~。
なんてことを思いながら、体感では教室の窓際の辺りまで来ただろうというときだ、四足歩行で張っているとドスンと背後から何者かにタックルされた。そのまま強引に押し倒される。
「イッテェ……」
思いもよらない攻撃に朗太がついに嫌がらせがここまで来たか、と思っていると
「ようやく見つけましたよ、先輩」
「えぇぇ、纏!?」
それは朗太がよく知る少女、金糸雀纏だった。
暗闇で、纏に押し倒されていた。




