表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/211

文化祭抗争(13)


文化祭まであと一週間ともなると、放課後の生徒たちは全員大わらわだった。


至る所で、ダンボールを切ったり、切った段ボールをガムテープでつなげたり、それらに絵の具で色を塗ったりと、生徒たちはせわしなく動き回っていた。

お化け屋敷をするクラスは衣装をせっせと作り、部活で演奏を発表する吹奏楽部や合唱部、軽音部の生徒たちは部活動に精を出していた。


そのような中、朗太も忙しなく動いており


「朗太! お前も買い出し手伝ってくれ」

「オッケー。チャリ?」

「おう」


と、積極的に自クラスの出し物の準備に参加していた。

リア充たちはクラスの外で活動があったりする。

例えば瀬戸基龍(せときりゅう)津軽吉成(つがるよしなり)はライブに参加する。

だからこそただでさえ人手は足らず、朗太も積極的に準備に参加する必要があったのである。



一方で朗太の周囲の女性たちも忙しそうにしていた。




放課後、廊下で朗太はいつになく真剣な顔つきでしわしわの紙を見下ろし、それらを輪ゴムで結わいていた。

そして束ねたそれらを一枚一枚広げ直すとあじさいの様な紙飾り、ペーパーボンボンが完成し、──これは上手く行った。


「俺、天才じゃない?」

「ははは、マジ神だわ」


クラスメイトと下らない会話をする朗太。そんな時だ、


「先輩、わっ!!」

「うおあ!?」


突如背後で大声がし朗太はぎょっと飛び上がった。

急いで振り返るとそこにはしたり顔の纏がいた。

今日も今日とて、雪女の格好である。


「な、なんだ、纏? 急にどうした??」

「いえ、お化け屋敷なんで、その練習に先輩を驚かせてみただけです。びっくりしました?」

「そ、そりゃもう……」


今も心臓がドコドコ鳴っている。


「なら良かったです! 本番ではもっとびっくりさせてあげますから必ず来てくださいね? これチケットです。先輩は特別に無料です!」

「あ、ありがとう……」

「先輩には私から特別待遇があるかもしれないです……」


朗太がチケットを受け取ると纏はしなを作った。


「特別待遇って、一体何すんだよ……」

「フフフ、それは来てからのお楽しみです。では先輩、私も皆の手伝いに行かないといけないので失礼しますね」


そうして纏はスタタと去って行った。

一過性で去っていくその姿は、台風を思わせる。


纏が去ると再び朗太は作業に集中した。


「ついにこれで三十個目だ」

「さすがティッシュ神。ティッシュに関してはやはり手さばきが違う」

「それ色々語弊があるだろう」


クラスメイトと雑談しながら折り紙やペーパーボンボンなどを作っていると、第二の美少女が現れた。


「ひ~疲れた~」

「風華、アンタ戦い過ぎだって」

「だってどうしても食べ物はチヂミが良かったんだもん~!」


風華である。

E組の教室から、ぞろぞろと女子が出てきたのだ。

どうやら先ほどまで店でどのような食事を提供しようか、男子たちとバトっていたらしい。

そして突然現れた風華を目で追っていると目が合い、その瞬間風華はこちらに向けてパチンとウインクをしたのだ。

それを受けた朗太は衝撃で目を見開き、一方で風華は何事も無かったかのように女子たちとトイレに向かっていた。

一体今のはなんだったんだ。

風華が去ったあと朗太は呆然としていた。


「凛銅? おーい凛銅??」


フリーズした朗太を友人が再三声を掛けていた。


そしてそれからしばらくした時だ。


「これで、100個目……」

「ティッシュ神凛銅。さすがです」

「だからティッシュ神じゃねーよ」


と下らない話をしていると


「朗太、邪魔するわよ……」

「お、なんだ、姫子か。どうした?」


F組から意気消沈した姫子が現れた。

姫子は何やらげっそりし落ち込んでいるようである。


「料理の話し合いに混ざってたんだけど、使えないから追い出されたわ……」

「お、おう……」

「いない方がマシだって……。だから私もこっちに混ざるわよ……。何作ってんの?」

「部屋に飾るボンボンとかだな。しゃーない、貸してみ? ティッシュ神である俺が教えてしんぜよう」

「ティッシュ神ってなによ……」


姫子は溜め息をついた。

そんな風に彼女たちもそれぞれ忙しくしているようだった。


また朗太は筋トレ部の出し物にも参加しており、そっちはそっちで忙しそうにしていた。


「凛銅ーー!? ソースは買ってきたかー?!」

「はいーー!!!」

「良い返事だぁぁー!! 腹から声が出ているぞーー!!」

「ありがとうございます!」

「ハハハハ! 最後に我らが同胞になった筋肉もなかなかの筋肉になってきたようじゃないか! どうだ!? 皆そう思うだろ!?」

「あぁ、部長!! 凛銅の奴は部活に来ないなり頑張っていますよぉ!!」

「先週も新しいTarzan借りに来ていましたしね!!」

「こりゃ来年は我が部活のエースだな! HAHAHAHAHA」

「「「HAHAHAHAHAHAHA!!!」」」


部長の頭蓋田(ずがいだ)のジョークに朗太も一緒になって笑っていた。


このように朗太も何だかんだで部活動に参加しているのだ。


一方で件の2年C組の演芸も、演者達の熱のこもった演技で、なかなかの出来栄えになりつつあった。


また、三年生達からのパッシングも続いていた。

廊下で三年生に会えば露骨に舌打ちされる。


そうしながら朗太は裏でも動いていて――


秘色(ひそく)、話がある」


過去、相談を受けたことのある新聞同好会、部長の秘色奏(ひそくかなで)と話をつけ


桔梗(ききょう)さんか…?」

「そうだけど、だれ?」

「二年F組の凛銅朗太だ。今回の文化祭のポスターを書いてくれた人だよね。お願いだ、力を貸してほしい」


文化祭実行委員で存在を知った2年A組。美術部の桔梗へ依頼をかけた。

加えて


「と、こんなもんか」


朗太は人気のない廊下で呟いた。

下駄箱から出てすぐの廊下だ。

足元には赤いテープで矢印がつけられている。

朗太がたった今つけたものだ。

このようなものがこの下足箱の先の空間には3、4、目立たない程度に張り付けられている。

どれもが三年生達が占拠している一階ではなく上方階へ流れるよう指されている。

このような矢印が無意識で脳内に刷り込まれ人の流れを少しでも変えられれば儲けもの。そういった考えのもとの行動である。

これをするために偶然自習だった午後の時間にこの場所にやって来たのだ。


それと同時に『順路⇒』と印刷されたB5の紙を多くの紙が貼られた掲示板にさりげなく貼っていく。


激しく姑息だが、まぁ良いだろう。

朗太は出来上がった光景を見てうんと一つ頷いた。


一方で姫子も動いており他のクラスと共同が出来ないか交渉に回っていた。


このように朗太と姫子はそれぞれ2年C組の文化祭優勝を目指し暗躍していたのだが


「嘘でしょ……」


事件が起こった。


文化祭、三日前。

クラスの前に置いておいた黒く塗りつぶしたギザギザした大きな板、鬼ヶ島の背景が壊されたのだ。

板で作られた縦横二メートル近いそれは、真っ二つに折れていた。

朝、登校すると壊されていたらしい。


誰がやったかなど、明白だった。


学校へやってくると広がっていた惨状にCクラスの生徒は顔を歪めていた。

朗太と姫子も騒ぎを聞きつけ生徒たちの輪に加わっていた。


「どうしてこんなことが出来るんだ」

「ちらっと噂で聞いたぜ。なんかおかしなグループがあるんだって」


輪の中の一人は拳が白くなるほど握りしめ尋ねると、他の男が答えた。

それによると、三年生がなんとしても学祭制覇するために知恵を出し合っているEポストのグループトークがあるらしい。


そんなものがあるのか。


朗太は初耳のその情報に目を見開いた。


そして大地に聞くとどうやら本当らしかった。


「らしいな。すまん、実は確証が得られていなかったから黙ってたんだ」


放課後、西日の差し込む無人の教室で大地は腕を組んだ。


「匿名のグループトークらしい。誰が参加しているかも不明。だが結構な数がいるらしい。で、匿名だからこそ……」

「エスカレートして、過激な案が出る……」

「しかも実行するだけの行動力がある、と」


なるほど。

これで合点がいった。

使用して良いクラスの変更といい、備品の件といい、大道具の破壊といい、やることがいちいち大きいのだ。

グループトークのエスカレートの結果ならば分からなくもない。

しかも実行するだけの行動力がある。

となると実際に文化祭が始まれば、より激しい攻撃が予想された。

だからこそ朗太は思った。


次の相手の動きを読みたい、と。


だが相手の策を読む方策など


(あるわけが、ない……)


深夜になるまで歯を食いしばって考え続けたが、思いつかなかった。

だが他の策は閃いていて


「大地、頼まれてくれないか」


深夜、朗太は大地に電話をかけていた。


一方で朗太たちを尻目に該当グループは増大し続ける。


蟹:3-Cのものです今日から宜しくお願いしますー。

LL:俺も今日から入ります。なんとしても学祭制覇を目指しましょう

蟹:てか聞いたよ。備品の件。お前らやらかしすぎだろww

クジラ:過去の件は語らない方針なんで。気をつけてな

蟹:すまんwwりょww

クジラ:定期会議は夜22時にやるからそのときはちゃんとこ居よ

LL:ほいー



そして数日後の朝、だ。


ドンドンと空へ空砲が上がる。


第五十一回青陽高校文化祭が始まった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1巻と2巻の表紙です!
i408527i462219
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ