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東京遠足(3)★★コミック1巻の続きはここからです★★



 雷門を後にし下町を通り駅へ向かう道中のことだ。


「あれ、君たち学生?」


 朗太達は複数の青年達に声を掛けられた。


「バッカ、制服着てるから学生に決まってるだろ?」

「テルのナンパ、いつもワンパターンなんだよなー」


 みな、高身長でどこか遊んでいる風な感じだ。だが皆どことなく肉体を鍛えているようで服の上からでも体を鍛えていることが分かる。大学生だろうか? 朗太たちに話しかけた連中は仲間内で盛り上がっていた。アロハシャツが似合いそうで、でも明らかにガラの悪い連中だった。

 いくらナンパでも、そんな大柄な男たちに突然声を掛けられると普通に怖い。普通に強面のものもいる。

 水方・紫崎の女子二人には戦慄が走っていた。

 一方でこの展開を予測の一つとして予想していたとはいえ


(マジか……)


 朗太も身を強張らせる。

 確かにいくつか存在する可能性の一つとして想定はしていたが、これは――


(かなり最悪寄りの奴、だな……)


 この学園も良い奴ばかりじゃない。

 先ほどの誠仁の言葉が蘇っていた。


 確かに辺りに()()()()()()()警戒していたが、まさか本当に仕掛けて来るなんて。


 一瞬で警戒の度合いを上げた朗太の聴覚は遠くで津軽の話声を捕らえていた。


『あ、あれ、どうしたんだ?』


 津軽がこちらへ駆けてくる。


 だがそのような事実は、残す誠仁・大地や姫子が気が付くはずもなく、いくら辺りに人の目があるとはいえ、言ったように、このように自分達よりも背が高い、また年上の者から声を掛けられると怖いし、焦る。


 誠仁や大地達は怖がる水方・紫崎を率い、その場を立ち去ろうとした。

 だがこれを


「まぁ良いじゃん良いじゃん。話ぐらい」


 進行方向の先にいた男達の仲間がへらへら笑いながら現れ、立ちはだかり封鎖。

 朗太たちがこの場から脱すのを防ぎ


「おいおいまだ学生じゃん。ナンパなんて止しておこうぜ~」


 などと仲間の一人が言うのを無視し数名の彼らは寄ってくる。

 そしてなぜ大の男たちが高校生である朗太たちの班にナンパを仕掛けてきたかといえば


「おいマジで美人じゃん!?」

「さっきからレンジが目をつけていただけあるな……!」

「マジだ……! 言う通りじゃん……!?」


 朗太たちの班に学園のアイドル・姫子がいるからだ。


 姫子はその圧倒的な美貌で去年度、数え切れないほどの告白を叩き切ったという伝説を有するほどの美少女だ。

 人によってはその場が仄かに輝いて見えるほどの美少女ではあるのだ。


 そのような美少女がいれば年の差を無視しナンパを強行してもおかしくはない。


 いや――

 朗太は考え直す。


 正確には――ナンパを強行してもおかしくはない、と()()()()()()、だろうな――と。



 そうして朗太が息を詰めながらさぁどうしたものかと思惑を巡らせていた時だ、主だったナンパのターゲットにされた姫子はと言うと「はぁ~~~」とでっかい溜息を一つ付くと、


「くっだらな……!」


 怒気を孕んだ口調で吐き捨てた。

 くぐもりつつも良く通る、とても強い怒りが込められた言葉だった。

 その言葉の圧力に男たちは目を剥いた。

 男達だけではない。

 姫子の怒り様に朗太達も息を飲んでいて、言葉を失っているうちに姫子は相手を指さし言葉を続けていた。そう、姫子は危険を感じ、怒りで追い払おうとしたのだ。


「いいアンタ達……! 数がいないと威勢を張れないのは小物の証よ! 良いオッサンたちが揃いも揃って私たちのような未成年に声かけてくんのは見てるこっちが悲しくなるからやめなさい! 男らしさ微塵もないわ! 全く小学何年生なのよ! もう帰って昔の教科書引っ張り出して義務教育からやり直してきなさい! ていうかなに!? わらわらわらわら大の大人が蜘蛛の子みたい集まって年下の女の子怖がらせて情けないわね!」


 見舞われるマシンガンのような暴言の嵐。

 確かに、このような威嚇で気勢を削がれる者もいる。

 だが中には当然、このような口撃に腹をたてるものもいる。

 そして相手の中にはそういうものもいたようだ。


「こいつッ……」 

 青筋を立ててリーダー格の一人の男が姫子の下に歩み寄る。

 だが姫子は一歩も引かなかった。


「何、私何か間違ったこと言ったかしら?」


 顎をツンとあげ、腕を組み傲岸不遜に真正面から男を見据えていた。

 そして――


「あ、いや間違っていたわね。()()()()()()()()()()()


 などととどめの一撃のような言葉を喰わせていた。

 そしてそれを聞いた相手は


「このアマ……!」


 青筋を立て怒りに狂っていて――


 ヤバい


 その様子を見て朗太は即座に判断。


 男が何か言う前に、何かやる前に


「それにしてもよくやるなお前」


 とっさ男の耳に届くようによく通る声で言い放った。



「こんな人の目があるところで」



「……ッ!?」


 その言葉に血走った男の目が周囲に向いた。

 次の瞬間、男が目にしたのは自分を白い目で見る周囲の人間たちである。


 そう、だからこそ朗太は昨日誠仁に


『明日は大通りで行くよね』と連絡を取っていたのだ。


 このような状況になった場合、周囲の視線が抑止力になるだろうと踏んでいたのである。朗太は脂汗を流した。


 完全に読めていたわけではない。

 確証があったなら誠仁や姫子にその可能性を伝えている。

 推理なんて明確なものではなく、どちらかと言えば自身の考え過ぎだった。だがかといって見過ごすのは躊躇われ『明日は大通りで行くよね』と最悪の事態を防止する策を取っていたのだ。


 だが結局は数多あった予測の中でも大分最悪寄りの展開が発生し、言うかもしれないと思っていた言葉を案の定言う羽目になる。


 そしてその言葉は予めその可能性を予期していたからこそ、適切な声量・声色で発せられ


「クッ……!」


 男をその場に縫い付ける。


 朗太の言葉で周囲の冷めた視線を気が付いた男はナンパを断念せざるをえなかった。

 後ろから走ってきていた津軽が介入する暇もなく溜息をしながら「行くぞ」と仲間に声を掛け去っていった。


 去り際、男は朗太の後方に憎々し気な視線を向ける。

 朗太が振り返ってみるとそこには驚嘆する津軽がいた。

 憤怒の視線は津軽に向けられていたらしい。

 その息を飲み固まる津軽に思うところはある。

 しかし朗太は彼にいちいち声を掛ける気にならず


「じゃぁホラ、誠仁。大地。俺達も早く行こうぜ……」

「そ、それもそうだな……」

「それと津軽も。班に帰りなよ。助けに来てくれたんだよな。ありがとう」


 津軽に声をかけつつ朗太たちはその場を離れたのだった。


 電車に乗り次の目的地に向かう中班員は口々に言い合う。


「びっくりしたね。それにしても姫子ちゃん。よくあんな啖呵切れるね?」

「いやあんなの何でもないわよ」


 水方はいまだ心拍が下がらないのか胸を押さえ尊崇の念でも抱くようにキラキラした瞳で姫子を見上げ、姫子はとんでもないというように手をあわあわ振り


「怖かったね舞鶴君」

「あんな風にナンパしてくることあるんだな」大地と紫崎は揃って驚嘆していた。


 一方で誠仁は「もうあんなこと起きないと良いんだけどな」と眉間に皺を寄せ、言われた朗太は「……いや流石にこんなこと二度目は無いでしょ」と『彼ら』の策を退け、安堵の息をついていた。


 だがこれは朗太の油断だった。

 『彼ら』は朗太が思う以上に執念深かったのである。



「なんで!?」


 行く予定だった寺社仏閣を全て回り、最後にチェックすべく都立青陽高校へ向かう道中のことだった。時刻も四時を過ぎ、日がだいぶ傾いてきて、これから電車に乗り高校へ向かおうと、これまでに比べると若干人通りの少ない道を歩いていた朗太たちの目の前に件の連中が現れたのだ。


「よ~~、さっきは世話になったな」


 先ほどナンパしてきた7名近い男達の中でも怒りが沈められなかったものがやってきたのだろう。姫子にボロクソに言われたリーダー格の男ふくめ計四名の大男達が朗太たちの前に立ち塞がったのだ。



 予想外の事態に水方が悲鳴を上げる。


「ちょ、下がって紫崎さん」


 紫崎もさすがにこの事態には身を縮こめ、とっさに大地がその姿を隠すように前に立つ。誠仁は「一体なんなんだお前たちは!!」と溜らず怒鳴り威嚇し、姫子は「はぁ~~~……」うっそりとため息をつくと胡乱な目つきで堂々と男たちに向かっていった。

 そうして男たちの至近、30cmまでズイと詰め寄った姫子はというと


「アンタ達、人として恥ずかしくないの??」


 ズビシとその人差し指を突きつけた。

 そして当の指を突きつけられた本人はというと


「……お前嘗めるのもいい加減にしろや」


 そう言うと腕を振るった。


 ――それは別に殴ろうとしたものではない。

 ただただ目の前の煩わしい虫を払うような、近づいてきた相手を払う様な裏拳だった。

 しかしそこにあるのは圧倒的なガタイの差。

 165あるかないかの姫子に180以上のタッパを誇る筋肉質な男の無造作な腕が振るわれればどうなるか。

 結果は火を見るより明らかだった。


「きゃ!」


 ゆるく振るわれた腕を受けた姫子はというとあっさりと吹っ飛ばされ尻もちをついた。圧倒的な質量差がそうさせたのだ。


「テメーがウザくて待ち構えてたんだよ。さっきはよくも散々言ってくれたな糞女。俺たちはお前に用があんだよ」


 そして地面にしりもちをつく姫子に、男は青筋を立てながら


「ホラ、一発喰らってろ」と強烈な拳を繰り出した。

 

 だが、その拳を受けたのが――


「ッ――!?」


 朗太だったのだ。

 朗太の顔面に男の強烈な拳がめり込んだ。


 ――正直、朗太は第一波をやり過ごした時点で『彼ら』はもう何もしてきまいと思っていた。


 だからこれまでと比べるとどうしても人通りの少ない道を通らざるを得なくなった際、朗太は仕方がないと黙認していた。

 もうやり過ごしたし、周囲の人も0じゃないし、良いだろうと。

 しかし


『よ~~、さっきは世話になったな』

『テメーがウザくて待ち構えてたんだよ。さっきはよくも散々言ってくれたな糞女』


この男たちは怒りが収まらずやってきたらしい。

要は姫子の想像以上の毒舌が原因なのだ。

不良たちに絡まれる展開の予測はあったが、姫子の毒舌は予測できていなかった。


だから、この事態を招いた。招いてしまった。


だからこそ朗太は自身の無能さを嘆き、


『ホラ、一発喰らってろ』


姫子に追撃の拳が振るわれた際、誰よりも早く身を動かした。

不良たちが再度絡んでくることは読めなかったが、姫子に拳が振るわれる、というのは当初予測した()()()()()()()()()()()()()()


だから朗太は誰よりも早く姫子の前に身を躍らせその拳を受けた。


 瞬間、衝撃音が脳内に響いた。


 イッテェェェェェェェェェ。


 人に殴られるなんて初めての経験だった。

 頬がジンジンして火傷したかのように熱い。

 朗太はずざっと無様に地面に転がった。


「大丈夫朗太!?」


 自身の真横に盛大に吹っ飛ばされた朗太に姫子は顔面を蒼白にする。


「アンタ!? ちょっと!?」


 しかし殴られて痛がる朗太や目を白黒させる姫子に彼らは構うこともなく、今の通りに人がいないうちに事を済ませてしまおうと思ったのだろう。


「はっ、おもしれ―なそれ。もう一発喰らっとくか?」


 と男が蹴りを繰り出そうとし、今度は姫子はが朗太をかばおうと朗太の前にその身を躍らせるのだが、その時だ。


「知ってんだぞ?」


 朗太はその行動を遮るように即座に言った。


「お前らが、()()()()()()()()ってことくらい……!」


「!?」


 その言葉が蹴りを振るおうとしたいた男もろともを一瞬で氷漬けにした。

 息を飲んだのは彼らだけではない。


 朗太の一言で姫子の瞳が開かれ、水方・紫崎・誠仁・大地。

 この場にいる全ての人間の動きが止まった。


 そうしてたった一言で不良たちの動きを縛り上げた朗太はと言うと、もう当てづっぽうでも何でも良い。

 目を剥きこちらを見つめる男に決定的な言葉を言うべく自身の上に覆いかぶさっていた姫子を退けるとゆるゆると立ち上がり、男の胸元を引き寄せると


「……津軽だろ?」


 そう耳元で囁いた。

 その言葉を聞いた男の反応は一目瞭然である。

 どうやら朗太の予想は当たっていたようだった。


「!?」


 懸念していた通りの人物名の登場に目を見張り


「……赤の他人同士の喧嘩程度ならお前らは足が付かないと思ってやってんだろうが、関係者がバレてんならどうだろうな……」


 朗太の言葉に怖気づく。そして


「……金輪際、俺たちに関わらないなら今回は見逃してやっても良いぞ?……」


そう朗太が条件を出すと「ク……ッ!」男は周囲の仲間と目を見合わせ、唇を噛みながら退散していった。



これが今回の東京遠足の顛末である。


「え、凛銅君はどんな魔法を使ったの?」


 狐につままれたような表情で水方はぽつりとつぶやいた。




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