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文化祭抗争(6)


その情報は期末考査が終わると早々に朗太たちの耳に飛び込んできた。


「はぁ!? 一階の部屋取られそうとかマジなの!?」

「とにかく急ぐぞ!」


風華たちの一報を受け、放課後、朗太たちは廊下を駆けていた。

曰く、今現在行われている文化祭実行委員の会議で、部屋の振り分けの再協議が行われているというのだ。

その中で朗太たちがせっかく手に入れた2年C組の一階の空き教室の使用権が剥奪されそうになっているらしい。

風華がこれを受けてすぐに姫子に連絡を飛ばしたという訳だ。

風華の連絡からすると風華と纏が結託して時間稼ぎをしているらしい。

だが……


「なんだ?」


朗太と姫子が息を切らせながら会議室に乗り込んだ時には既に大勢が決していた。突然の来訪者に青い絨毯の会議室にいる数十名の生徒が目を丸くし、委員長である巨漢の強面の男、弁天原がぽつりとつぶやく。

ホワイトボードには 賛成38 反対10 と朗太たちを突き放すような文字が書かれていた。

風華や纏の協力者が反対者票に票を投じたようだがひっくり返すほどではなかったようだ。

会場の雰囲気が、項垂れる梔子(くちなし)の雰囲気が、全てを語る。


「アンタちょっとねぇ!!」


溜まらず姫子が弁天原に食って掛かった。

ホワイトボードの前に座る弁天原へ姫子が挑みかかる。


「おっと」


だがその前に弁天原の右腕であり副委員長の久慈川修哉(くじかわしゅうや)が立ち塞がった。

長身・痩身のイケメンである。

久慈川は涼しい顔で尋ねた。


「部外者が何の用?」

「何の用も糞もないわよ! アンタたち何してくれてんのよ!」

「何してくれてるのって別にしたことは大したことではないけど」

「大したことじゃない!? これが!?」

「そうだよ? 何か問題でも?」

「投票なら何していいって訳じゃないでしょ! この外道!」

「いやいや外道って、いきなり部外者の癖に会議に乗り込んでおいて何を言ってるんだか」


久慈川はヒートアップする姫子をせせら笑った。


「でもこれはいくらなんでもやりすぎなんじゃないか?」


すかさず朗太が助け舟を出す。

だが


「黙れ」


久慈川の後ろで途端にクマの様な大男が立ち上がった。

弁天原一貴(べんてんばらかずき)。文化祭実行委員である。

一メートル九十を超す巨漢だ。


「お前の戯言は聞かない。分かったな、分かったならさっさと去れ」


憤怒の形相の弁天原が遥か高みからこちらを見下ろしていた。


◆◆◆


そのような事件を通して現在に至る。


「完全にマークされてましたね」

「あぁ……」


朗太たちは放課後、人気のない教室でたむろしていた。

いるのは朗太に纏。そして風華に姫子。加えてすすり泣く2年C組の梔子祭(くちなしまつり)に同クラスの実行委員・四季島(しきじま)遠矢(とうや)である。

皆が今ほど起きた事件に悄然としていた。

厳しい日差しが窓から差し込む一方で、秋を感じさせる風が窓から流れ込みカーテンを揺らしていた。


「しんっじらんない!!」


姫子は壁を殴りつけた。


「して良い事と悪いことがあんでしょ!」

「きっと俺達に騙されたことが相当むかついたんだろうな」


朗太は天を仰いだ。

完全に想定しきれていなかった。


「でもまさか無理やり奪い返すとはなー」

「でもここまでやったらただではおかないでしょう……」


纏は半ば恐怖するように言っていた。

朗太は顎を撫でながら首肯した。


「そうだな。さすがに教師に言おう」


仮にも多数決で決まったことで、委員会を裏から支配している証拠もないわけだが、言わないよりはマシだろう。


「ごめんね……。せっかく用意してもらったのに……」

「良いんだよ祭ちゃん。別に祭ちゃんのせいじゃないんだから」


一方で涙を滂沱させる祭の背中を風華が擦る。

祭は自分のためにわざわざ用意された部屋を死守できなかったことがとても悔しいようだ。


「流石にこれはねーだろ……」


その様を見て茶髪を短く切り揃えた少年が唸った。

四季島遠矢である。

整った顔立ちで男前な少年だ。

2年C組の文化祭実行委員で梔子と二人三脚でここまで2年C組の出し物を推し進めていた少年だ。

彼はかけがえのない仲間が涙するのが許せなかった。


「あいつら絶対許さない! 目にもの見せてやる! 絶対に……!」


その眉間に深い皺が刻み込まれていた。


「……やりかえしてやるッ」


息撒く四季島に言い返す者は誰もいなかった。

この場にいる者で、四季島の気持ちが分からない者はいなかった。


「やりかえすって、どうやって」


皆が黙りこみしばらく、訊ねると四季島は言った。


「決まってるだろ……!」


その声は熱く、くぐもっていた。


「俺達で奪うんだよ、学祭一位、最優秀賞の座を……!」



それは誰もが思っていたことだった。



「……だな」


朗太はポツリと頷いていた。


「それしかないな」


あらゆる外法を用い学祭制覇を目指す彼らに対し、その入賞5枠に割り込んでやることは、ましてその頂、最優秀賞を奪うことは何よりの意趣返しになるに違いない。

それはこの場にいた誰もが思っていたことで、四季島の言葉に異を唱えるものはいなかった。


「そうね」「そうだね」「それしかないね」「うん…ッ!」と姫子、風華、纏、そして涙ぐむ祭の順でそれぞれ頷いていて


「だから俺たちに力を貸してくれないか、茜谷」

「良いわよ」


四季島の依頼に姫子が頷く。

こうして朗太たちは学祭一位奪還を目指し動き始めたのだ。


◆◆◆


朗太たちが通う都立青陽高校の文化祭は『演劇の青陽』と呼ばれるほど演劇が盛んだ。

長い年月をかけ毎年のように演劇を行ってきたことで、生徒たちの劇を見に学外からも多くの住民が訪れる。

また朗太たちの学園では来場者に投票をしてもらい好評だった上位五クラスの出し物を表彰している。

そして十数年前、当時の新聞部が学祭を盛り上げるために表彰歴を調べ、一学年で五枠ある表彰枠を独占することを『学祭制覇』、三年通年で表彰枠を逃し続けることを『十五逃し』と銘打って壁新聞として張り出したところこれが受けた。

以降その言葉は学園の裏の文化として定着し、時に学祭制覇を目指し学年で団結し、時に十五逃しを逃れるために奮起したりする原動力になったのだが……


この度『十五逃し』にリーチのかかった三年生達が行動を起こした。

他の学年に演劇をしないよう圧力をかけたのだ。

これに演劇をする、しなければならないことに疲れなどもあったのだろう、二年生は同調し、上の学年が従う様を見て一年生も同調した。


しかし異を唱える生徒が一人、今ほど教室で啜り泣いていた梔子祭(くちなしまつり)だ。

演劇部に所属する彼女は演劇が弾圧されることが許せずクラスを上げて決起。

姫子に相談することで多くの来客数を見込める一階の貸し教室を手にしたのだが、その教室が剥奪された。


立ち塞がった主な人物は文化祭実行委員・委員長、弁天原一貴(べんてんばらかずき)に同副委員長、久慈川修哉(くじかわしゅうや)


そんな彼らを倒すために朗太たちは立ち上がったのだ。


「少し考える時間を頂戴」


依頼を受けた後、姫子は四季島にそう言った。

考える時間がいると。

同時に姫子はチラリと朗太へ視線を向けたのだった。


一方その頃。


三年の学祭制覇を目指す会


そこは久慈川が作ったEポストに付随している匿名のグループチャット。

三年生の中でも特に学園制覇を目指すものが加入する。

今も拡大中のその会では今も学園制覇を目指すために多くのことが話し合われていた。

そしてそこに今日久慈川修哉の持つアカウント『クジラ』により新たな情報が付け加えられた。


クジラ:ごめんまずった。

輝一:何が?

クジラ:今日実行委員で無理やり2Cから一階の教室奪ったらさすがに教師に目つけられた

卑弥呼:で、ダメだったの?

クジラ:いや? でもめっちゃ色々言われたからもう大きな動きは出来ないな。やばそう

輝一:今回はセーフなんしょ? ならオッケーでしょ。作戦通り一階は三年で占拠できたんだし

K:オールオッケー。あとはまた色々考えましょ

輝一:そうだな

ベンガル:あぁ


『ベンガル』は弁天原一貴のアカウントである。

自身が信頼を置く人物が場を落ち着けていて久慈川は笑みを漏らした。

その後もチャットは続いていく。

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