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紫舞(2)


依頼人がいるから皆が帰った後、教室に来るように。

姫子にそう言われ放課後自教室に行くと、姫子のほかに眼鏡をかけた少女がカーテンを引かれた教室で椅子に腰かけ待っていた。

紫崎優菜(しざきゆうな)、同じクラスに所属する少女である。

予想もしてなかった人物の登場に朗太が小さく息を飲んでいると


「朗太、紫崎さんが舞鶴君を落とすの手伝って欲しいんだって」

「くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


朗太は叫んだ。

そして――


「え、嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ!?」


朗太は思わず優菜に詰め寄っていた。


「え、大丈夫、嘘でしょ!? 舞鶴!? え、紫崎さん、大地のこと好きなの!? 大地のどこが良いの!?」


朗太が肩を掴まんという勢いで優菜ににじり寄ると優菜は顔を伏せ顔を赤らめ言った。


「や、優しい所とか、気が利くところとか、一緒にいると面白い所とか、そ、それにカッコいいところ、とか……」

「嘘だぁぁ~~~~~~!!」


朗太は余りの悔しさに天を仰いだ。

最初は皆横一線に並んでいると思っていた。

だというのに、今まさに抜け駆けしようとしている奴がいる。

しかも誠仁にしたって自分の妹の弥生から好かれていたり他の女性陣からの人気も高い。

こんな悲しく悔しいことがあろうか。

朗太はズーンと落ち込んでいると


「アンタ、醜いから辞めなさい」


自身の感情を隠そうともしない朗太を姫子が静止した。


「は、はい」

「仮にも親友でしょ。悪く言うのは良くないわよ」

「はい……」

「それと優菜も怯えているから」

「は、はい。すんません」

「というわけで、今回は優菜の恋のサポートをするから」

「はい……」


こうして朗太は親友の恋愛のサポート?をすることになったのだ。


「というわけで優菜の現状を説明するわね」


傷心の朗太に姫子は切り出した。



いわく紫崎優菜は朗太の親友であるところの舞鶴大地に恋をしているらしい。

そのきっかけは二年生になりたての頃行われた東京遠足。

彼の気さくで、それでいて気が利く様に心が奪われたそうだ。

そこまでは朗太も良く知るところであった。

だがそれ以降は朗太も知らない話。

実は優菜と大地はチラホラとEポスで連絡を取り合ったりしていたらしい。

そして夏休みには


「二人で隅々川の花火大会にも行ったんだって」

「なん、だと……ッ」


隅々川花火大会といえば都内で最も有名な花火大会の一つである。

一時間と少しという時間に夜空に二万発以上の花火を打ち上げる、毎年100万人近い観客を誇る花火大会だ。

恋人がいるならば、好きな人がいるならば、一度は行ってみたいであろう場所である。

まさか二人でそんな場所に行っていたとは……。

親友の隠れリア充説を突きつけられ朗太が愕然としていると


「そしたらね……」


姫子の言葉の後を、優菜が継いだ。


「舞鶴君、あまり楽しそうじゃなくて……」

「え、大地が?」

「うん、ギクシャクしちゃって……」


朗太が聞き返すと優菜はしゅんと項垂れた。


「それでね朗太」


落ち込む優菜、当惑する朗太を前に姫子は切り出した。


「私と優菜、それとアンタと舞鶴君でダブルデートして、優菜と舞鶴君をサポートするのよ」


◆◆◆


姫子の披露した策はこうだった。


優菜と大地がサシで遊びに行くと原因は不明だがいまいち盛り上がらない。

ならば大地の親友である朗太を、そしてその相方として姫子を加えれば良いではないか、と。


「アンタに白羽の矢が立ったのはそれが理由よ」


優菜がお手洗いに行き二人きりになった教室で姫子は言う。


「舞鶴君と親友だから。この案も、実は優菜からの提案よ」

「そうなのか」

「えぇ。二人でどうするか考えてたら優菜がそうしないかって」

「それはそれで良いけど。てか紫崎は今回どこまでが目標なんだ? 群青の時みたく告白までとか言ったら最悪シクるかもしれないぞ」

「さぁそこまでは。でも前進していると思ったら後退していたみたいな印象だし、少しでも仲良くなれればって所じゃない?」

「ふーん、そんなもんか」


後で確認してみようと朗太が思っていると「そんなことより」と姫子は口をへの字に曲げて腕を組んだ。


「舞鶴君、好きな人いたりするの?」


姫子はいざ優菜とデートをすると乗り気ではなかった大地に懸念を抱いているようだった。


「い、いや……、多分、いないと思うけど……」

「そう。なら良かった。じゃぁどういったタイプの子が好きなの?」


お前だよ。


喉元まで出かかったその言葉を朗太は何とか飲み込んだ。

これまで大地が放っていた数々のセリフが思い出される。

姫子さんが 姫子さんが 姫子さんが

彼のタイプは間違いなく姫子だ。

そうでなくとも様々なシーンで姫子を贔屓していたし、色目を使っている。

だというのに気が付かないとかこの女はどうなっているんだろうか。

朗太はきょとんとした表情の姫子を苦々しく思った。

また優菜もここまで読んだ上で行動しているのかもしれない。


一度デートに失敗した。

もしそうなれば補助輪付き(ダブル)デートに次の一手を求める考えは至極当然だ。

朗太と大地は親友だ。

そんな朗太が連れ添っている姫子に依頼をすればダブルデートに漕ぎつけることは至極容易である。

加えて大地は姫子を冗談は有りでも好ましく思っているのは確か。

姫子に依頼することで、万が一、億が一、兆が一、姫子もまた大地を好ましく思ってしまうことを、封じることが出来る。動きを抑えることが出来る。

しかし――


きっとそこまでは考えていないんだろうな。

もしくは、無意識のうちにしているか。


朗太は一人優菜の心の内を推測していた。


「タイプはなぁ、普通に明るい子がタイプっぽいな」


朗太は言葉を濁した。


「も、戻りました」


教室のドアががらりと開き、優菜が帰ってきた。


「紫崎、一応大切なことだから聞くけど、今回は、あの、こ、告白とかは、えっと考えてるのか?」

「う~ん、そこまではまだ考えられていないかなぁ」


優菜は悲しそうな笑みを浮かべた。


◆◆◆


「で、ダブルデートには行けるとして、まずはプランを練りましょう」


優菜が戻ってきて、朗太たちはダブルデートのプランを考えていた。


「どういうのが良いと思う? 優菜はなんかある?」

「う~ん、私が誘った花火大会はあまり楽しんで貰えなかったようだから……、凛銅君は何か考えある?」

「うーん、俺もなー。別に誰かと付き合ったことあるわけじゃないから正直分からん。でも……」

「でも?」


朗太が言葉を区切ると姫子が聞き返した。


「やっぱり大地が好きなものが良いだろうな。その方があいつも楽しめるはず」

「舞鶴君の好きなものって何なのよ」


朗太は顎に手を置きしばし思考した。


「女だな。それと女。あと強いて言うなら女だな」


あまりにも悔しくて大地を悪く言ってしまった。


「あ、アンタ……」


人でなしな行為に姫子が引いていた。


「ま、まぁそれはジョークとして体を動かす系が好きだな大地は。あとゲーセンとかもかなり好き。カラオケも好きだな。だからそういう場所を組み込むと良いかも」

「そ、そうなんだ」

「うん。でもそれだと紫崎の良い所があまり発揮されないでしょ多分。ゲームとか好き?」

「あ、あまり……。カラオケもあまり得意じゃないかも……」

「だよね」

「で、でも舞鶴君が好きなら私も頑張るよ!」

「その心意気は嬉しいんだが、今回は紫崎さんの良い所も見せた方が良いと思うんだよな」

「というと?」

「だって距離を縮めたいんだろ? なら紫崎さんが活躍できる場所もあった方が良いんじゃない?」


そうでなくとも、確かに大地は姫子のような女がタイプなようだが、優菜の様な女の子然とした子も間違いなく好きなのだ。

相性は間違いなくお姉さんのようにやさしく見守ってくれるような優菜系の方が良い。

だからこそそのような提案をしたのだが


今回のデートで全て決めるわけではないというのもあっただろう。


「じゃぁそうしましょうか」

「うん、それが良いかもね」


朗太の案はあっさりと賛成多数で可決された。


その後三人でデートプランを考える。

そして

「じゃぁ優菜。前日私と買い物行くわよ!」

「う、うん!」

姫子指導の下、優菜は服などを買いに行くことになり

「朗太も頼んだわよ」

「おう」

朗太もとある任務を任され



「なんだ?」


その夜、大地は自身の唸る携帯を手に取った。

見ると朗太からのポストコである。

即座に出るとドスの利いた声が聞こえてきた。


『お゛ぉい?』

「な、なんだ朗太か!? どうした?!」

『今度の、土曜日、空゛いてるぅ゛?』

「土曜?! あ、空いてるが?」

『じゃぁ遊びに行こうズ……』

「え、良いけど……?」



というわけで朗太は大地との約束を取り付けた。

決行日は次の土曜日。



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