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それぞれの日常編(5)


作戦は、あった。


「はぁ!? 中二力が低下してるぅ!?」

「はい……!」


翌日、朗太は姫子の家で懇願していた。

リビングチェアに敷いた座布団に胡坐をかく半そでショーパンの姫子は目を丸くした。

胸元からは谷間が覗き、ショーパンからは長くしなやかな足が伸びている。

シックな色調に揃えられた姫子の家のリビングは心地よい気温が保たれていた。


「実はここ最近中二力が低下しているんです……!」

「嘘でしょ……」


朗太の言葉に姫子はうげっと口元を歪めた。


「ハンドルネームが『言葉の裏庭』なのに??」

「はい……」


朗太の返事に姫子は顔を引きつらせていた。


「というかアレも実は満足してないし」

「満足してないの!?」

「あぁ、昔はもっと突き抜けた中二力があったんだが……」

「な、なら良いことじゃない……。成長したわね朗太……」

「うるせぇ!!」


朗太の申し訳程度の精神年齢の成長をドン引きしつつも歓迎する姫子に朗太は唸った。


「俺はまだまだ中二でいたいんだよぉ!! まだまだ! まだまだ中二心を失いたくねーんだよぉおお!! というわけで姫子!!」


朗太はパァン!と顔の前で手を合わせた。


「俺を助けてくれええええええええええええ!!」


……もしかすると、胸を揉むとか言っておいて、このような依頼をしている朗太に疑問を持つ者がいるかもしれない。

だがそれにも理由があるのだ。

朗太は誰に対してでもなく言い訳をした。


この悩み、嘘偽りのない事実である。

中二力の低下。

それは創作の際に朗太の前にふと現れる難敵だった。

創作を始めた当初の、中学時代の自分はもっと突き抜けたネーミングセンスがあった。

だがここ最近の自分の中二心ときたら、まるで切れ味がない。

おかげで執筆中懊悩することも少なくなく、中二心の研ぎ直し。それは喫緊の課題だった。


姫子は「仕方がないわね」といって了承してくれた。


(よし……)


肩を竦める姫子に朗太は心の奥底で底意地笑く笑った。

そして言ったように何も朗太は中二力の低下だけを姫子に相談するつもりはない。

本丸は姫子の胸を揉むことにある。

実は今の依頼、撒き餌なのだ。

今日の朗太の本当の目的は昨日自分を馬鹿にしたことへの仕返し。

姫子の胸を揉むことだ。

だが直接胸を揉ませてくれなどという訳にもいかないし、突如『女の体の感触が分からないから上手な描写が出来ないので助けて欲しい』と言っても怪しまれる可能性が高い。

だからこそフェイク・ブラフ・目くらまし、その他もろもろの手段が必要だった。

そしてこの中二力の低下問題は絶好の目くらましだった。

掛値のない本音ならば、姫子も乗ってくるに違いないと朗太は踏んでおり、案の定、事は朗太の思惑通り進んだのだ。


かかったな?


朗太はほくそ笑んでいた。


◆◆◆



「で、アンタは中二力が低下してきているのね?」


腕を組むと姫子は姫子は口を尖らせた。


「でも私にはとてもじゃないが信じられないわ。具体的にどういう風に低下してきているの?」

「そういわれると難しいな。実際に低下してきていて困っているんだけど」


朗太もまた腕を組んだ。

現実問題、この作戦は昨日の今日考えたものだ。

姫子の胸を揉むためにどのような段取りが必要か考え、ふと思いついたものだ。

つまりどのような訓練で中二力が向上するかなど、朗太も考えたことがない。

どころか何かの訓練で中二力が向上するという考えにすでに懐疑的で、自身の中二力の低下を具体的にどのように表現すればいいかもわかっていなかった。


どうすれば姫子と中二センスで談義をし、滑らかに女性描写への依頼へ話を繋げるのだろう。

朗太は考える。

そして思いついた


「あ、そうだ」


朗太はポンと手を叩いた。


「次話が丁度戦闘シーンだから、そこで使う技名を一緒に考えてくれよ!」

「いーわよ」


こうして二人は朗太の次話で敵の使う技名を考えることになったのだ。


これで中二力の低下が伝わるか甚だ疑問だが、伝わりそうではある。

これで中二力が上がるか甚だ疑問だが、上がりそうではある。


そう考え朗太は姫子に提案したのだが……


朗太は姫子のポテンシャルの高さに素で驚く羽目になる。


◆◆◆


「というわけでお題です! 次の敵は三秒間だけ相手の心を操る『個別能力』を有します! その能力名は!」


数分後、朗太は姫子の家のホワイトボードに『三秒だけ心を操る』と書いてテーブルにドンと置いた。


「アンタは?」

「『束の間の安息ザ・インスタントスレイヴ』」

「私の助けいる?」

「要りますが?」


ホワイトボードをひっくり返し答えを提示した後、朗太は即答した。


「う~んそうね~」


言われて姫子は天を仰ぐ。そして数秒悩むと持っていたホワイトボードにさらさらと手を滑らしそれを朗太に示した。


「……『誘爆(ルア)』、とか」

(天才か?)


「天才か」

「天才じゃないわよッ」


思ったことを言葉にすると姫子は顔を赤くしていた。

本人としては大したことではないらしい。

だが朗太としては驚愕である。

本気で中二度高いワードが出てくるなど期待すらしていなかったのだが、どうやら姫子はこの業界に相当のポテンシャルを有している。


そしてこうなってくると創作好きの血が騒ぎだす。


朗太は興奮気味に続けてお題を出した。


「じゃぁこれは? 神とも呼ばれる史上最大規模のテレキネシス保有者のテレキネシスの俗称」

「アンタは?」

「『天界より(フロムヘブン)』。姫子は?」

「『極地』」

「かっけぇ!!!」


ここにきて姫子の中二センスに朗太は惚れた。かっこよすぎる。

敢えての日本語! そこが良い!!


「やはり天才だったか」

「だから天才じゃないわよ!」


いやいや明らかに発想が天才のそれなんだが。

もしかするとこの姫子という人物は日本の中二界を背負って立つ人間なのかもしれない。

朗太は姫子から沸き立つ中二の源泉に興奮し当初の作戦などそっちのけで次々お題を出した。


「じゃぁ記憶を操る能力の総称は?」

「『記憶操作(メモリアキネシス)』」

「フゥーーー!」


イかすーー!!


「じゃぁ絶対に敵を殺害する暗殺者の二つ名は?」

「『死導者(フェイタルリーパー)

「ハーーー!! カックイイーッ!!」


指導者と同じ響なのがまた優秀ーー!


「じゃぁ一瞬幻想化し鎧を貫通し敵を切る妖刀の名は!?」

「『妖刀・虎徹』」

「いよぉぉぉぉぉぉぉし!!」


基本に忠実! だけど秀逸!! 


「じゃぁ肉体を一時的に強化する能力の名前は?」

「『躍動(ゾーン)』」

「いよーいよいよいよい!!」


躍動(ゾーン)に入ってるのはお前なんじゃないか姫子?!


「じゃぁ斬り付けたものの重さを倍にする、二度斬ればさらに倍、三度斬ればそのまた倍。斬られた相手は重みに耐えかね必ず、地に這いつくばり詫びるかのように頭を差し出す。ゆえに」

侘〇(わびすけ)

「フォォォォォォォォォォォォォォォ!!」


朗太は興奮した。


「姫子、お前は中二界の麒麟児だ!」

「嬉しくないわよ!!」

「師匠と呼ばせてくれ!」

「絶対やめなさい!」

「酷いですよ師匠ッ!ちくしょぉー!」

「やめろぉぉぉぉ!!」


朗太がわざとらしく涙をぬぐう仕草をすると不名誉な称号をつけられそうになった姫子が必死に抵抗した。


「で、どうすれば、そんな際立った中二センスを手に入れられるのですか、師匠……!」

「だから師匠って呼ぶな!」

「分かりました!! じゃぁ普通に教えてください!」

「そうねー……」


ここまでの才気だ。

必ずや何がしかの秘訣があるに違いない。

朗太は教えを請うた。


「そうね。私はそもそもがこれだから分からないのだけど、まず様々な創作物に触れなさい? そしてかっこいいと思ったものはメモしておくといいかも? 過去の文学作品や歴史、それと音楽の領域にも中二の原石はあるかもしれないわ?」

「ありがとうございます!」


中二の教祖のアドバイスを朗太は高い筆圧でメモした。


「ふぅ」


そして朗太は一息つくと


「あと俺、女性の身体描写で悩んでるんだけど?」


ぶっこんだ。

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