椋鳥デート(4)
(ん? どうした?)
それは姫子とお化け屋敷を這う這うの体で抜け出した後のことだった。
「いってぇ……」
「仕方ないでしょ怖いんだから!」
腕を労わりながら日差しの下へ出て行くと、地団太を踏みながら悔しがる風華がいた。
「まぁまぁそう熱くならないで白染さん……」
「そうですよ所詮は占いですし」
「でも当たるって有名らしいのよ!? それでこんな結果ってある?!」
風華に続きゴールしていた歩と纏が風華を宥めていた。
何やら風華が荒れている。
「どうしたんだ??」
「風華がそこまで悔しがるなんて珍しいわね」
「あ、凛銅君! それに姫子!」
朗太たちが加わると風華はぱっと顔を上げた。
「ねぇちょっと聞いてよ!! あそこの占いの館がよく当たるって話題だったからやってみたんだけど、ねぇ私なんて言われたと思う!?」
「なんて言われたのよ……?」
「『待ち人遠し。男難の相あり』だって!!」
「ブプゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
姫子は溜まらず噴き出した。
「大当たりじゃない!! アンタの待ち人は永遠に訪れないわよ!? それにどう考えても男難の相ありでしょ!?」
「なんですってー!?!?」
風華がヒステリックな声を上げた。
「じゃー姫子、アンタもやってみなさいよ! 100円でやっすいんだから!」
「私も!?」
「そうよ! 姫子もよ! あと纏!! アンタもよほくそ笑んでたでしょ!?」
「えっ、私もですか!?」
「そうよ! 良いじゃない減るもんでもないでしょ!?」
「今まさに尊厳が減って荒れてる人がいるんですが……」
「いーのよ私は! ホラさっさと!」
こうして朗太たちはお化け屋敷から出てすぐそこの占いの館『Love』に向かうことになったのだ。
「全く!凛銅君のせいなんだからね!?」
「え、俺のせい!?」
「そうよ!!」
風華はぴしゃりと言うと姫子たちの輪に加わって行った。
朗太が風華に叱られ狐に摘ままれたようにしていると
「フフフ、朗太も大変だね」
歩がフォローしてくれて、そんな歩の優しさにホロリと来ていると
「こらそこ! いちゃいちゃしない!!」
風華の檄が飛んだ。
占いの館『LOVE』は前楽園の中でもここ最近有名になりつつあるアトラクションらしい。
トタン板で出来た今にも潰れそうなちゃちな作りの小屋に複数の占い師が常駐していて、恋愛中心の占いを行っている、だけの施設だ。
話によるとネット上でその卓越した占いの的中率が話題になり、人気に火が付きつつあるらしい。
占いの館には三名の占い師役のキャストがいるようで小屋の前では三レーンに分かれ人が列をなしていた。
風華が占ってもらったのは第三レーンだったようで姫子たち三人組が第三レーンに並ぶのを眺める。
そうして列の前が掃けきり姫子たちの番が回ってきて、彼女たちがトタン板の施設に吸い込まれると、朗太と歩は第三レーンの出口に先回りする。
歩と雑談しながら待っていると数分後現れたのは肩を怒らせて歩く姫子、纏、風華だった。
「全く! 信じらんない!」
朗太が結果を尋ねると姫子が声を荒げた。
姫子のヒステリックな非難を皮切りに不満が噴出する。
「ホントですよ、なんですか今の占い師。老眼で何も見えていないとしか思えません」
「でしょ!? 絶対おかしいでしょこんなん!?」
「何て言われたんだ……?」
「どっちも『待ち人遠し。男難の相あり』だって! 失礼しちゃう!!」
「全く見当はずれにも程があります」
「そ、そうか……」
どうやら占いの結果がお気に召さずお冠のようだ。
その後も彼女たちの文句はヒートアップしていった。
「ヤブなんじゃないの?? ヤブよきっとヤブ」
「でなかったらモグリですね」
「ようやく姫子たちも分かってくれた様ね。ぼったくりでしょこんなん?」
「はい、法に反している気がします」
「ホントよ! こんな乙女心をもて遊ぶ商売あって良いの!?」
「いーや、良いわけないわ姫子。これは絶っっ対におかしいわ!」
「本当ですね。おかしいです」
そして――
「ちょっと私文句言ってくるわ」
「は?」
「良いわね、私も付き合うわよ風華」
「私も同行します!」
怒りのボルテージが最高潮に達した彼女たちはそのままサーカスのような幕の張られた小屋に引き返そうとした。
「おいおいやめろよお前らいくら何でもそれはないだろ!」
朗太は慌てて引き留めた。
占いの結果が気に入らないから怒鳴り込みとか戦闘民族過ぎる。
アマゾネスかこいつら。
「ちょっと退きなさい朗太! アンタでもこればっかりは許さないわよ!?」
「先輩、私たちが優しいうちに退いておいた方が吉ですよ?」
「凛銅君、早くそこから退いて!」
「いやいやちょっとおち」
「良いから退きなさい!」
だが怒り狂った闘牛のような彼女たちの進行を朗太は止められるわけもなく、敢え無く小屋に掛けられた幕は上げられてしまい占いの館の内側があらわになる。
そこは赤青黄色の絨毯が敷かれ、木製の台の上に水晶の置かれるいわゆる占いの館感溢れる空間だった。
そこに――一息入れていたのだろう――紫色のローブを着た齢70に差し掛かりそうな女性が一人いて、その女性は幕が開き朗太の姿を見るや否や「はうわ!」を息を飲んだ。
なんだと朗太が思っていると女性は朗太を指さし、信じられないとばかり震える声で呟いた。
「そ、そなたにはこれまで見たこともないほどの深い女難の相が見えるぞ……」
「なんだよ当たるじゃん……」
「ちょっと凛銅君それどーいう意味よ!!」
「アンタ! ただじゃ置かないわよ!?」
「先輩!! 言って良い事と悪いことがありますよ!!」
朗太の不用意な発言に三人の美少女が目くじらを立てた。
「ははは・・・」
言った傍から女難に見舞われる、そんなやりとりを歩は苦笑いで眺めていた。
その後も遊園地を遊びつくす。
朗太は取材のためにも。
風華はせっかく来たのだから、と。
歩、姫子、纏も積極的だった。
フリーフォールに乗り、バイキングに乗り、昼食はハンバーガー店に入る。
午後はメリーゴーランドに乗り、ゴーカートに乗る。
「凛銅君、飛ばすわよ!」
「いやゴーカートに飛ばすも飛ばさないも無くない!?」
様々な会話が生まれ、それらはどれも創作に使えそうなネタだったのだが
「……」
「ふふ、朗太、二人きりだね?」
もう帰るということで前楽園名物の巨大な観覧車に乗る。
目の前には金髪の美少年、歩がいる。
夕日が差し込み、何とも幻想的である。
そこに歩の蠱惑的な笑みが加わればシチュエーションとして最強なのだが……
「……」
朗太はチラリと視線を背後に向けた。
めっちゃ見てる……
そこにあったのはこちらを見上げる三対の瞳。
そう、彼女たちがこちらをガン見しているのである。
そのどれもが怒気のこもったもので
「い、生きた心地がしないね……」
「おう……」
「流石にここまで睨まれるのは僕も焦るかな……?」
彼女たちの眼力に歩も冷や汗を流していた。
一方で姫子たちの個室では
「なんでよりにもよって皆グー出したんですか……」
「そんなん知らないわよ……」
「仮にも誰かがチョキ出しておけばあそこに一人送り込めたのに~」
三人の美少女がひそひそと非難し合っていた。
こうして、何とも腑に落ちないものを感じながら遊園地デートは終了したのだった。
「姫子、ちゃんと凛銅君のこと見張っておくのよ?」
「姫子さん、私も注意しますがもしもの時は頼みます」
最寄りの駅まで付き朗太がこれから書籍を買いの行くから残ると言い出したあとのことだ。
五人がばらける際、風華と纏は謎の言葉を残し去って行った。
そして
「あ、朗太! 本買いに行くの!? なら僕も」
笑みを漏らし歩はついてこようとしてくれたのだが
「アンタはこっちよ」
「椋鳥さんには話があります」
風華と纏に首根っこ掴まれ連れ去られていった。
「じゃぁね! 朗太! 僕、絶対生きて帰ってくるから!」
「お、おう……」
ほ、本当に生きて帰ってこられるのかな……。
朗太はずるずると引きずられていく歩を微妙な表情で見送った。
そうして朗太と二人っきりになると姫子はコホンを咳ばらいをし
「えー……、で。今更だけど、『忘れ忘れ物』とかいったかしら朗太」
「あぁ、歩の造語な? 持ってきたら行けないのに間違えて持ってきてしまうものでしょ。忘れ物の逆ね」
「うん、それね? まぁ名前はどうだっていいのよ。造語だし。でね、朗太一つだけ言って良い?」
「うん?」
「デートでスマホが覚え物になるわけないでしょーがこの馬鹿!!」
……た、確かに……。
冷静に言われてみればそうだった。
朗太が納得していると
「以後気を付けるように」姫子はそう言い残して去って行った。
書籍を買い家に帰るとドダダっと弥生が階段を駆け下りてきて尋ねた。
「おにぃ! お尻痛くしてない!?」
「だから何の話だ!?」
こうして突如歩がやってきたことで始まった遊園地デートは幕を閉じたのだった。
「ところで今日の夕飯は?」
「素麺とお惣菜だよ!」
暑い夏の日はこうして過ぎていく。
これにて『椋鳥デート編』は終了です、ありがとうございました!
『別荘編』と『椋鳥デート編』が終わりましたので夏休み編も折り返しですね。
残すところ夏休み編は『それぞれの日常編』と夏季登校日から始まる『???編』だけ。『それぞれの日常編』ではデートとは違いますがヒロイン単独+朗太の話がそれぞれある予定です。
少しでも面白いと思っていただけましたらブクマや評価をしていただけると嬉しいです。もし良かったらお願いします。
次話投稿は5/3(水)です! 宜しくお願い致します!




