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椋鳥デート(3)



朗太は卒塔婆の立つ夜の小道を歩いていた。

赤色灯が墓や地蔵を赤く照らし、何とも空恐ろしい。

ススキのさざめきが辺りに響く。

朗太が知れずごくりと固唾を飲むと


「バァ!!!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!」


横の墓から包帯を巻いた亡者が現れ、姫子が絶叫を上げた。

そして万力のような力で朗太の腕を締め上げ


「いてえええええええええええええええええええ!!!」


朗太は悲痛な叫びを上げる。

なぜこのようなことになっているのか。

時は十数分前にさかのぼる。


◆◆◆


「「「こらーーーーーーーーーーーーーー!!!!」」」


(はっ)


歩の世迷いごとを条件反射的に肯定しそうになった朗太。

だがカフェに女性の叫び声が轟いたことで意識を取り戻した。

これまで頭の中にかかっていた霞が一気に晴れ、これまでの洗脳が解けた気がした。

同時に歩は何を言っているんだと思うが、


「ちょっとアンタ何やってんのよ!!?!?」


突如いるわけのない姫子が現れ歩に食って掛かったので息を飲んだ。


「なんで姫子がここにいんだよ!?」

「バッカねアンタのためでしょーが!!」


憤慨しながら歩の前に姫子は仁王だちした。

対し歩は眉を下げて半笑い、苦い顔をしていて


「な、何のことかな茜谷さん?」

「とぼけたって無駄よ! このシークワーサージュースが動かぬ証拠よ!」

「おいおい姫子急に何言ってんだよ!?」

「訳の分かっていない奴は黙ってなさい!! 朗太! さっきどこ行ってたの!?」

「え、ジェットコースターだけど」

「ホラやっぱり! 椋鳥、アンタねぇ!!」

「な、何のことかなー?」


歩は目を泳がしそっぽを向いた。

歩もそういう対応をするんだと朗太が素直に感動していると


「危ない所でしたね先輩」

「纏まで!?」


戦々恐々といった雰囲気の纏まで現れ


「大丈夫凛銅君!? お尻痛くしてない!?」

「えぇぇぇぇ!?」


風華まで現れ仰天した。


「だ、大丈夫だけど……。椅子の座り心地も悪くないし……」

「そういう意味じゃ全くないんだけど、良かったわ~!! 心配したわよ凛銅君~~!! てっきり女好きじゃなくなっちゃったのかと思ったわ~!!」

「いや女は好きだけど女好きではないよ多分!?」


朗太は語弊しかない表現を訂正した。


「もう凛銅君の意識を取り戻すには姫子のおっぱい触らせるしかないとも思ったのよ~! 女好きになってないなら触りなさい凛銅君~!」

「だから何でアンタが私の胸触る許可出してんのよ!!」

「いやだから何の話だこれは」

「も~このジュースがいけないのよこのジュースが!!」


言って風華はズズズッとジュースを飲み干した。


「今日こそただじゃ置かないわよ椋鳥!!」

「私も、お初にお目にかかりますが、容赦しません」

「お、おう……」


風華と纏までキッと目を吊り上げ歩に食って掛かったのでさすがに朗太も焦った。


「おいおいお前ら、急にどうしたんだよ。てゆーかどうしてここにいんだよ」

「事情を一ミクロンも理解していない先輩が何を言っても無駄です! すっこんでてください!」

「そーよ! 凛銅君のためにお小遣い使ってやってきたのよ!?」

「ま、マジか……」


自腹を切ってまでやってきてくれたことには素直に感動するがいまいち朗太は事情を理解できなかった。


「と、とにかく落ち着け! 店内だぞ仮にも! それと歩、さっきの話だがお前も雰囲気に飲まれ過ぎだぞ! 落ち着け!」


だが負けじと朗太がストップをかけると、それが原因なのか、一瞬で少女たちは大人しくなった。


「フフ、勝負あったわね椋鳥」

「私たちに勝とうなど百年早いのよ」

「ふぅ、その一言が聞けて安心しました」


途端に少女たちは勝ち誇った笑みを浮かべ


「ハハハ、ならまたの機会かなー?」


一方で歩も固い笑顔を浮かべていた。

こうして世間の目などもあり事態は沈静化し、せっかく来たんだからと朗太たちは一緒に遊園地を巡ることになったのである。


そうして


「アンタ、またの機会ってねー!?」

「そーよ、こんなこと今後二度とないわ!?」

「ふふ、それは朗太次第でしょー」


やいのやいの言い合っている姫子・風華・歩を前に見ながら園内を歩く。

周囲の客が美少年美少女の言い合いに目を見開いていた。


「てか先輩、なんて言われてここに来たんですか?」

「あぁ取材のために来たんだぞ?」

「げ、姫子さんの言っていた通り」


連れ立って歩いていた纏は朗太の返事にうげっと口を歪めていた。






「じゃ、次はここにしよっか?」


その後歩が指さしたのがお化け屋敷だったのだ。

歩曰くここのお化け屋敷は相当怖いと有名らしい。

ならば取材に最適だ。


「おう、いいな」


朗太は入場に乗り気だったのだが


「「うげ……」」


ここに顔をしかめる少女が二人。

姫子と風華である。

姫子は心底怯えたように顔を青くし、風華はそんな姫子をジロリと横目で見るとススッと距離を開けた。


「なんで逃げるのよ!?」

「だって……」


風華は言葉少なに言いよどんだ。

その後当然、どのような面子を割って入場するかの話し合いになる。

合計五人なので残念ながら二人二人一人の割り付けだ。

そしていざじゃんけんにて面子を確定しようという時だ、風華が手を上げ言ったのだ。


「私、姫子はパス……」

「何でよ!!」


途端にかみつく姫子。


「いやだって」


風華はサッと視線をそらした。それを見て纏も思い出すものがあったらしい。


「わ、私も姫子さんはパスです!!」

「纏!? アンタまで!?」


それを見て、そういえば纏は別荘でやった肝試しの際、姫子とペアだったなぁと朗太がのんきに思っていると、風華・纏が次々逃げ出す事態に身の危険を察知したようだ。


「ぼ、僕も茜谷さんとは遠慮しておこうかな……」

「椋鳥にまでぇぇぇぇぇぇ!!」


おずおずと歩が挙手し主張し


「ひ、姫子一人で入れるのは危険よ……。でも一人だけ入らないのもアレだし」

「そうですね、こればっかりは仕方がないです」


風華と纏が話し合い


「流れでアンタとになったわ」

「お、おう……」


朗太は姫子と一緒に入場することになったのだ。

正直、一抹の不安を感じないこともなかった。


そうして最初のシーンに戻る。


「いてええええええええええええええええええええええ!!!!」


亡者のキャストが出るや否や横にいた姫子が万力の様な力で朗太の腕を締め上げたのである。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


とか小さく言いながら涙ちょちょぎらせ目をつむる姿は素直に可愛いのだが、それに似合わず握力が尋常じゃない。

握られた腕が血が廻らず白くなりつつある。

しかも


「オバァ!!」

「ひゃああああああああああああああああああああああああ!!!」

「いてぇぇぇぇぇぇ!!」


これが限界ではない。さらに演者が現れるとそのトルクは青天井に吊り上がり朗太ももはや涙を流していた。


「おいやめろよいってぇだろ! ゴリラかてめぇ!?」

「あ、アンタ! 言って良い事と悪いことがあるわよ!!?」

「良いことも悪いこともあるか!? そもそもお前こんなんに怯えるキャラじゃないだろ!?」

「ハァァァ!? ふっつうに怖いわよ!! アンタ私を何だと思ってんのよ!? アンタは少しは女の子ってものを分かりなさいよ!?」

「怖がることと女心に何の関係があるんだ!? それにそもお前女の子ってキャラじゃねーだろ!?」

「ハァァ!? 私ほど乙女な女の子そうそういないわよ!? 訂正なさい朗太!!」

「いやだ! てかとにかく離せ! 死ぬほど痛いんじゃボケ!!」

「アンタねぇ!? こんな死ぬほど美少女の私に引っ付かれてんだから儲けもんでしょう!?」


二人して唾を飛ばし合い言い合う。

だがそんな時にさえキャストは現れ


「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!」

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


姫子は涙をちょちょぎらせ、朗太は余りの痛みで絶叫した。


一方で


『いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ』


朗太の断末魔の叫びが遠くから聞こえてくる。


「やってるわね」

「やはり避けてよかったです……」


一人お化け屋敷を歩く風華と、歩と共にしている纏はそれぞれ呟いた。

二人とも過去に姫子の怖がりで酷い目に合っているのである。


「ハハハ、これは凄い……」


朗太と姫子のやり取りと遠くで聞き、歩は眉を下げた。


そうして朗太たちが騒ぎながらお化け屋敷を進んでいる一方で


「ふー、疲れた」


先頭を歩いていた風華はアトラクションを脱し、屋外に出る。

夏の日差しが目に刺さる。

風華は残りの四人を待つためにアトラクションの壁に背を預けていた。

そんな風華の目の前を二人の少女が横切って行った。


「ちょー当たってたー!」

「マジで凄いよね噂通り!」


少女たちが来た道の先を見ると占いをやっているアトラクションがあった。

時間つぶしに丁度いい。

風華はふらりとその施設に向かった。

そしてそれが新たな騒動のきっかけになるのだった。




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1巻と2巻の表紙です!
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― 新着の感想 ―
[一言] 椋鳥ちゃん男装女じゃなくてオトコノコだったのかなぁ.. (゜д゜三゜д゜)
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