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別荘編(9)


「おかえり」



風華とコテージに帰ると、玄関に姫子が腕を組み剣呑な表情で立っていた。


「お、おう」


その表情に朗太が警戒していると姫子は言った。


「朗太、コンビニ行くわよ」

「え゛」

「何よ嫌なの?」

「嫌も何も何買うの??大体冷蔵庫にありそうだけど」

「あ、アイスよそりゃ」

「冷蔵庫になかったっけ?」

「……冷蔵庫にない奴を買うのよ」

「マジか……。ふーん……。参考までに、何好きなん?」

「そ、そんなん行ったときのお楽しみよ。てか何? 嫌なの??」

「いやそこまで嫌じゃないけど、暑いしめんどくさいなと」

「くっだらないこと言ってないで行くわよ! こんな美少女との夏の夜の散歩なんて良い小説のネタになるでしょ!?」

「ま、まぁそうかもだがそれはすでに白染で十分吸収できたかと言うか……」

「吸収できた!?思い上がりね!あんた小説に関しては物覚え悪いんだから一回じゃ無理でしょ!これまで私の指摘で何を学んできたの?!」

「くっ」


そう言われるとなかなか言い返せない。


「分かったよしかたねーな。財布取ってくる」


朗太は二階へ向かった。

朗太の聞こえないところで階下で少女たちは言い合う。


『あ、アンタ! 何もしてないでしょうね!!』

『してないわよ姫子……。落ち着いて』


その後姫子と他愛のないことをしゃべりながら近隣のコンビニに向かう。

終始姫子はテンションが高かった。

そしてトータル30分近い買い物を終え戻ると


「じゃ、先輩! 私ともコンビニ行きましょう!」

(またか……)


玄関に笑顔を張りつけた纏が立っていて朗太は再び買い物に連れまわされることになったのだ。


「すまん、その前にトイレに行かせて」


朗太が次の遠征に備えトイレに向かっていると朗太のいないところで彼女たちが言い合う。


『なにアンタも?』

『姫子さんや風華さんばっかりズルいんですよ!』



その後朗太は纏と買い物に出かけ、戻り次第入浴。

汗を流しそのまま布団に入り――


(いやー楽しかったな)


翌日。

帰りのバスで朗太は満足感に浸りながら大きく伸びをしていた。

大型バスがガタゴトと音を鳴らしながら緑豊かな山道を走る。


朗太は行きと同様バスの中央の席を一人陣取り小説の執筆にあたっている。

移動時間ほど小説に当てるべき時間はない。


そうしながら思い出すのは昨夜の風華との会話だ。


『私たちこれからどーなっちゃうんだろうね?』


普段の元気で溌溂とした風華らしくないセリフ。

しかし、もしかすると、いやもしかしなくとも、風華はあのような少女なのかもしれない。

元気溌溂としているだけの裏表のない人物などいないのだ。

そのように考えると、旅で女性は開放的になる。

その言葉通り、風華の秘した心の奥を聞けたのかもしれないとも思え感慨深い。


と、朗太が考えながら執筆していると


「執筆の最中悪いですがお邪魔しますよ」

「纏か」


ひょいっと纏が横にやってきて、朗太の隣の席に身を収めた。

気が付くとすでにバスは高速に入っていて、バスの中は和やかな空気に包まれていた。

振り返るとバスの後部座席では風華や弥生、大地などが寝息を立てていた。

バスの前方でも姫子が舟をこいでいるのが見えた。


皆疲れたんだな。

朗太は皆の胸中を察してフっと笑った。


「今回の旅行、楽しかったですね」

「そうだな。こんな楽しい旅行初めてだったかもしれん」

「緑野さんも感動していましたよ。こんなの初めてって」

「そうか。なら良かった」


朗太は前方ですやすやと寝息を立てている緑野の頭部を背伸びして見やった。

もし楽しんで貰えたのなら彼女に友達を作るよう尽力した介があるというものである。


「先輩も、風華さんと姫子さんと楽しそうにしていましたね?」

「そ、そうか?!」


纏が寝耳に水の指摘をしてきて朗太は息を飲んだ。

少なくとも風華とは楽しくさせてもらったが、姫子とはそうでもない気が……


「そうですよ」


だが纏にとってそれは確実なようで念押しするように繰り返した。


「私もいること忘れて貰っちゃ困りますよ? 先輩?」


見るとこちらをまっすぐ見上げる澄んだ瞳があった。

それは普段纏の見せることのない僅かに熱を帯びた真剣な視線で


「――っ」


その瞳から目が離せない。

自然と心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


「あ、あぁ……」


しばらくして掠れた声でそう返すので精いっぱいだった。

朗太の返事に纏は笑った。


「ふふ、ならまぁ良いです。ところで先輩。小説の進捗はどうですか?」

「そ、そこそこだが……」

「そうですか。なら私、ここにいても良いですか??」

「べ、別に良いけど……」

「ありがとうございます! 先輩チョコでも食べますか?? 頭使っている時は糖分が必要と聞きます!」


朗太が許すとこれまでの普段とは違った雰囲気はどこへやら、纏はいつものようにはにかみ、ずいとチョコを差し出してきた。

狐に摘ままれたような気分になりながらそれを口の中で転がす。

そうして纏が黙ってスマホをいじり出したので纏を横において執筆を開始した。


それから30分ほど執筆している。

最初、雰囲気の違った纏の件もありどぎまぎもしたのだが、アレ以降纏はいつも通りだ。

おかげで執筆に普通に集中出来たのだが――


それにしても不思議だ。


「どうかしましたか?」

「いやなんでもない」


朗太はふと横に座る纏を見るとスマホを弄っていた纏がぱっと顔を上げた。

正直話を書いている時くらいは一人きりになりたいとも思うのだが、纏だとあまり気にならない。

もしかするとこれが中学時代から付き合いがあるからなのかもしれない。

だがこんな纏が先ほどのように違った雰囲気を出すこともあり、そうなってくるとふと姫子や風華が違った面を見せた時と同じように大きく心が波打つので不思議である。

だがまぁ……


「先輩! 見てくださいこの動画!」

「え、なに!? おぉすげぇ!!」


執筆の最中でも気にせず声を掛けてくる纏に言われ動画を見る。


今はそんな雰囲気もなく、とても安心できるのだが――。

そう思いながら朗太は執筆を続けていた。

のだが―― 


◆◆◆


「イッタ!!」


頬を思いっきりつねられた。

目を開けると怖い顔をした姫子がいて、バスの外を見ると通行人が歩道を行きかっていた。人が雑多に行きかっている。

よく見ると青陽高校のすぐ近くの待ち合わせをしたバス停であった。

いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

そしてなぜ姫子は怒っているのかと不思議に思いながら背筋を伸ばそうとした時だ


「ん?」


肩に違和感があり、見ると纏が自分の肩に頭を預け眠っていた。


「なかなか仲が良さそうね、ロータ?」

「いや別にわざとこうしたわけじゃないぞ……?」


寝起きでだるい。

朗太は目をしばたかせながらこちらに寄りかかる纏を離そうとした、が、


「ん、あれ?」


纏の手がこちらの腕をがっちり掴んでいて離れない。

まるで意識があるものの握力のようだ。

すげぇな、と朗太が吃驚していると姫子が声を荒らげた。


「アンタも起きてんでしょ! いつまで寝たふりしてんのよ纏!」

「ふぁ……姫子さん……? おはようございます……」

「ふぁ……、姫子さん、おはようございますじゃないわよ! 起きてたくせに!」

「寝起きにガンガン騒いでうるさいですよ……。全く……。気持ちよく寝ていたのに……」


纏はゆっくりと姿勢を直しその途中でこちらの肩に身を預けていたことに気が付きわざとらしく驚いて見せた。


「ごめんなさい先輩! どうやらいつのまにか先輩の肩を借りてしまっていたようです!」

「や、別に良いけど……。俺も借りていたようだし……」

「フフフ、おかげで気持ちよく眠れました。先輩はどうでした?」

「お、俺も熟睡はしていたようだけど……」

「なら相性はばっちりのようですね?」

「そうか?」

「そうですよ。二人ともぐっすりなら相性は抜群じゃないですか。というか先輩が急に寝落ちして私の肩に寄りかかってきたんですよ!」

「そ、そうなのか……すまんな」

「いえいえ。そんな先輩の顔見てたら私も眠くなってしまっただけなので。私もよく眠れたので全然オッケーです!」

「だからアンタはばっちり起きてたでしょうが!」


微笑む纏に姫子がかみついていた。

するとそこに寝起きなのだろう、半眼の風華がえっちらおっちらやってきた。


「姫子何やってんの?」

「コイツが寝たふりして朗太の肩借りてたから糾弾してんのよ!」

「ハー!? なにそれ! 私が弥生ちゃんの肩借りて爆睡してた時に何やってんの纏ちゃん!?」

「アンタもなにちゃっかり三個も下の子の肩借りてんのよ……」

「いえいえ、偶然ですよー?」


纏は作り笑いを浮かべ糾弾を躱していた。


◆◆◆


「では三日間ありがとうございました! また今度!」


その後バスに乗り去っていく緑野を見送り三々五々解散となった。


日十時と春馬。大地に誠仁が挨拶をし去っていく。

それらを見送った後


「じゃ、俺達も帰るか」

「そーだねおにぃ」


弥生と帰ろうとした時だ、時を同じくして自宅へ帰ろうとしていた風華がこちらに声を掛けた。


「じゃ、またね凛銅くん! 今度私の家に遊びに来てね?」

「おいまじか!」


期待してもいなかった誘いに期待に胸を膨らませる朗太。

途端に二人の少女が風華にかみついていた。


「またあんたふざけたこと言って!」

「この人本当に油断も隙もないですね?」

「それは今のアンタに言えたことじゃないわよ!?」

「なんのことですか!?」

「さっきの話よ!」

「もうそれは終わった話です!」

「フフフ、二人で仲たがいしてる暇があるのかしら? じゃ、そういうわけで。凛銅君! 弥生ちゃん! それとそこの二人! また今度! じゃぁねー!」


言うと風華は都内の雑踏の中に消えていった。

そんな風華の姿を狐に摘ままれた気分で見送っていると


「じゃ、先輩。私も帰ります! また夏休み、遊びに行きましょうね?」


といって纏もまたバス停を後にし始めた。

纏の言葉に姫子が何か言おうとしたが


「先輩と遊ぶのはあなたの特権じゃないので」


と姫子をくぎを刺して去っていく。

そんな彼女たちの言い合いをおいおいと眺めていると悔しさからか目を赤くした姫子が言った。


「じゃぁ朗太! アンタまた遊びに誘うからね! じゃーね!!」 


こうして緑野主催の旅行は幕を閉じたのだった。







というわけで別荘編終了です!長かったー!( ;∀;)

次話からは椋鳥デート編です!

とはいっても姫子・風華・纏のヒロイン衆にも出番はあるのでご安心ください。

別荘編でわずかながらストーリーがシリアスに振れましたが、椋鳥デート編は『心底』下らない話にする予定なので宜しくお願い致します!

次話投稿は4/22(日)です。宜しくお願い致します!


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