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別荘編(5)

纏が姫子たちを叱りつけてから小一時間。

ダイニングテーブルには数々の料理が並べられていた。

ポテトサラダにシーザーサラダ、揚げ物に肉豆腐、オムレツ、ポトフ、その他さまざまな料理がテーブルに所狭しと並べられている。

それを誠仁がしげしげと眺めた。


「ほう、これは凄いな……」

「そんなでも無いですよ誠仁先輩ッ!」

「謙遜することじゃないさ。弥生ちゃんは将来良い嫁になるな」

「そんな!」


誠仁に褒められ弥生は頬を赤くした。


「全くあの兄からは全く想像できんな」

「ふふ、そんなことないです~」

「……」


朗太が苦虫を噛みつぶしたような顔をしていると姫子と風華もやってくる。


「にしても普段のアンタから想像できなかったわね」

「そうですか姫子さん?」

「うん、ここまで出来る子だとは思わなかった」

「風華さんまで」


その後も多くの者がテーブルの上に並べられた料理を見て目を丸くしていたが


「ま、料理なんて見てても仕方ないですし温かいうちにさっさと食べましょう!」


纏がパチンと手を叩くとほどなくして夕食は始まった。

皆が席に着くとすぐにカチャカチャと食器のこすれる音がダイニングに満ち始める。

一様に纏と弥生の作った料理の美味しさに驚いていた。


「うお、すげー旨いな」

「ありがとうございます日十時さん!」

「金糸雀さん、これ何ダシ使ったの?」

「ダシというか、普通に白だし使っただけですよ。春馬さん」

「白だし最強説はあるからな。にしてもこれは旨いが。俺のかーちゃんよりうめぇ」

「本当ですわね舞鶴さん。わたくしの使用人が作るものよりおいしいですわ」


皆ぺちゃくちゃと喋りながら箸を進める。


「コレどうですか先輩!」

「え、それ?!」


そんな中に朗太は横に座る纏にずいと卵焼きを差し出され困惑していた。

どうしてもそのまま口に放り込まれる流れだったからだ。

さすがに皆の前でそれは恥ずかしい。

朗太が戸惑っていると、


「えい!」

「あ、お、」


そのまま強引に口の中に入れられてしまった。

口の中にまろやかで芳醇な味わいが広がる。


「どうですか?!」

「う、旨いけど」

「やった!」


纏は小さくガッツポーズをした。

その姿はとても愛くるしく、料理が出来て、気づかいが出来て、その上可愛いとくれば、やはりコイツ相当モテるんだろうなと朗太が感じ入っていると


(ウオッ……!?)


突如、前に座る姫子から圧が発生。

ゆらりと怒髪天をつくような怒気が姫子から立ち上がり、その様に


「「「「………………」」」」


皆が押し黙り、その横では


「でも美味しいのが悔しい……! 弥生ちゃんおかわりまだある!?」


目に悔し涙を溜めながら炊き込みご飯をかきこみ弥生に炊き込みご飯の残りを確認する風華がいた。


「(フフ、お食事の場が荒れるのは歓迎できないので、この程度にしておいてあげますか……)」


その様子を見て纏が何やら呟く。

そしてその発言の真意は分からないが、その後しばらくすると穏やかな食事風景が戻ってきた。

纏のこちらへのちょっかいもなくなっていた。



「そういえば凛銅君、少しは筋肉ついてきたね?」

「え?」


朗太がテーブル中央のシーザーサラダの残りを丸ごと攫って行こうとした時だ。

ふとした調子で風華が話しかけてきた。


「そ、そうか……?」

「そうだよ凛銅君! 多少マシになってきたわよ!」

「あ、それな。俺も確かに思ったわ」

「ホントか日十時?」

「マジだよマジ。ずっと良くなってきたぞ」

「デカかったか?」

「いやデカくはなかったな……。その点まだ鍛錬が必要だろう」


中学時代に部活を辞めてから約二年。相当自身の筋量は落ちてしまった。

水泳の授業の件もあり朗太はあまり期待してなかったのだがようやく目が出始めたようだ。

これは吉報である。


「フフ、大胸筋が歩き出す日も近いな……」

「知ったばかりの業界用語を使うのは最高に安っぽいから止しなさい」


朗太が不敵な笑みを浮かべると姫子はぴしゃりと言った。


「とかいって姫子もしげしげと見てたわよね?」

「ちょッ、見てないわよ!! アンタおかしなこと言うんじゃないわよ!」

「おいおい姫子。俺をエロい目で見るんじゃねーぞ。見たくなるのも仕方ないかもしれないが」

「だからアンタのちんちくりんな身体見て興奮するわけないでしょ! 調子乗んな!」

「姫子さん、ガン見してましたよねでも……」

「それはアンタもでしょーが!!」

「フン、やはり大胸筋が歩き出す日も近いな」

「「「「それはないわ(よ)(ですわ)(おにいちゃん)」」」」


姫子が興奮するとはなかなか調子が良いなと思いそういったのだがこの場にいるほぼ全ての人間に同時に否定されてしまった。

なかなか酷い仕打ちである。

朗太が打ちひしがれていると風華は困ったような笑みを浮かべた。


「ま、凛銅君はこのまま筋トレ頑張って! 私と腹筋勝負する日も近いから!」



その後ほどなくして夕食は終わり、今朗太たちはリビングで映画を見ている。

ブルーレイディスクが丁度置いてあったのだ。

背後では調理に参加しなかった者たちがいそいそと片づけを行っていた。

といっても食洗器に入れるだけであっという間に片づけは終わり


「あ、これ有名な奴ですわね?」

「監督クリストだっけ?」

「あ、悪役の演技が際立ってるやつでしょー?!」


緑野や姫子・風華その他男子たちも合流してきた。

皆リビングの思い思いの場所を陣取る。


「あぁ、名演だったし、監督の手腕が際立っているんだよな」


朗太は紅茶を飲みつつ応じた。


「クリストはこの前からも有名だったがこれで一気に名を上げた感はあるよな。それだけこの映画は凄いんだ。そうだな。俺が考えるにこの映画の特筆すべき点は三つあるな。聞きたいか?」

「いえ聞きたくはないです」

「一つ目はやはり物語開幕のシーンだな」

「なんか始まったわよ……」


朗太が語り始めると姫子が表情をこわばらせた。


「こうなったらお兄ちゃんは止められないです……」


弥生も眉を下げる。


「映画では物語開幕五分、観客に姿勢を変えさせるなって言ったりするんだ。それは出だしの五分、姿勢を変えることを忘れさせるほど観客を引き込めという意味。で、これはそれが完璧だ。冒頭から次から次に行われる犯罪の数々。切り替わる視点。そして満を持して登場する悪役。完璧だ」

「そ、そうなんですか……」

「そして第二が脚本だな。シンプルに魅力的だ。この物語を見ていると特別複雑のストーリーラインなんて要らないんだなって痛感するよ。魅力的な話を分かりやすく表現する。それだけで観客は引き込まれるんだ。ホント、ハリウッドの監督たちはクリストの脚本を参考にして欲しいね」

「なに目線ですか……」

「それで第三だが……」

「これ以上生き恥晒すのやめませんか先輩?」

「ん?」

「いえ何でもないです……」

「ならいいが」


纏に意味不明な制止をされ若干気勢を削がれた。

だが


「で、第三の魅力だが……」


朗太はご機嫌に語り続ける。

その表情は自分のことを話すかのようにどこか自慢げであった。


「うむ、白染も言っていたが何といっても悪役の魅力だな。確かに役者の怪演も素晴らしいんだがそれと同じくらい脚本も素晴らしい。やはりね、主人公を魅力的に見せるためには敵にも人間的な魅力が必要なんだよ。人間性が香り立つような魅力がね……。それがこの作品では本当に良く出来ていてな」

「そ、そうですか……」

「何でこんな魅力的な悪役が書けるんだろうなマジで。どういう人生経験をしたのか本当に気になる。俺にはとてもじゃないが書けない……ッ」

「俺にはて……」


だからなぜ同じ目線……と姫子は呆れていた。

その後も映画の恥橋に朗太の注釈が付き


「ねぇコイツっていつもこうなの?」

「お母さんとお父さんもおにぃと映画やドラマ見るのは基本避けています……」

「そりゃそうだわ」


姫子は眉を顰め、風華は苦笑していた。

そして映画が終わると風華は言ったのだ。


「カラオケを! しましょう!」


◆◆◆


皆を上階の防音施設の整ったカラオケルームに誘いながら風華は息撒いていた。

曰く


「ただでカラオケし放題なんて最高じゃない!」


とのこと。

実はカラオケルームを見つけた時から狙っていたらしい。

そして風華の実力はというと


「め、めっちゃうめぇ……」

「フフフ、こんなもんよ凛銅君!」


信じられないほど上手で吃驚した。

いや以前から風華は高い歌唱力を持つという噂は聞いていた。

その実力も買われて軽音部からの誘いも絶えなかったらしい。

だからこそ風華が上手い事は想定していたのだが……


「聞いていたよりずっと上手だったんだけど……?」

「え、ホント!? ありがとう! そこまで上手だとは思わなかったけど」

「でもアンタ、音楽の教師にその道で生きるように言われたこともあるんでしょ?」

「まぁそうだけど」

「「「「すげーーーー!!!」」」」


想定よりずっと上手で驚いていたら風華の知りもしなかった事実が出てきてさらに驚かされた。

運動神経最強、歌唱力最強とか神は風華を贔屓にし過ぎていると思う。

そしてこれだけの実力を見せつけられては皆怯むかと思ったのだが


「フフフ、私がそこそこカラオケ上手で腕を鳴らしていたことを教えてあげます」


自信満々マイクを取り赤黄色の照明が輝くなか軽やかで聞き心地の良い歌声を披露。

その歌声で皆を魅了して見せた。


「にしてもアンタ、あんま驚かないのね」

「まぁ纏が上手なのは知ってたし……」

「そ、先輩とはよくカラオケ行きましたもんね!?」


歌い終わった纏がはにかむと姫子が剣呑な空気を出した。

だがいつまでも姫子は不機嫌でいることが出来ず


「はい! じゃぁ次は姫子の番だよ!」

「ちょ、私は別に良いって」


半分むりやりにマイクを渡され歌わされる羽目になってしまった。

一瞬朗太をキッとにらんだ後、顔を赤く染めながら歌い始めた。

そしてその歌声はというと


「う、うめぇな……」


普通に上手でびっくりさせられた。


「あったりまえでしょ」


赤黒い顔をした姫子はしきりに手で顔に風を送っていた。


「フフフ、姫子、緊張しちゃって可愛い」

「うっさいわよアンタは!」


姫子が風華にかみついた。

その後も他のメンツが歌声を披露したが緑野もそこそこ上手だし、弥生も上手だった。

男子も思いの外レベルが高い。

誠仁はもともと上手だし日十時も普通に上手だった。

大地と春馬も歌いなれている感じである。

そして満を持して自分の番が回ってきたのだが


「確かに言われてみれば初めてね。朗太のカラオケは」

「で、凛銅君ってどうなの? 上手なの?」

「……じょ、上手だと思いますか?」


朗太の実力を問う姫子と風華の問いに纏は言葉少なに答えていた。

そうして披露された朗太の歌声はというと……


「き、気分が悪くなりましたわ」

「そんなに!?」


俺の小説と言い歌声と言い気分悪くする奴多すぎん?!


かなりの出来の悪さに緑野を精神攻撃することに成功していた。

ジャイアンか俺は。


「う、うわぁ……」

「これは私もちょっと……」

「先輩の音痴は前からです……」

「いやだから座学の才能はあるんだよ? それ以外は基本からきしというだけで」

「だから何でふてぶてしいのよ……」

「割り切ってるからな」


その後順番に歌い続けていたが時間も時間ということでしばらくするとお開きに。

皆、歯ブラシなどをすませ二階の寝室に引き上げた。


「でだ、春馬は実際のところ誰を狙ってるんだよ」


だが旅行の夜は終わらない。

男子たちの部屋ではげすい会話が開幕していた。



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