別荘編(3)
「「「すげーー!!!」」」
余りの財力差に風華が故障してから数分後、朗太たちは緑野の別荘、断崖に建てられたコテージの内装に揃って感動していた。
どれもこれもが朗太たちの住まいとは違っていた。
白基調の内装はどれもこれもが輝いて見えた。
陽光を照り返す広々とした使い勝手の良さそうなシステムキッチン。
窓際に置かれた座り心地の良さそうな黒のソファー。
巨大なテレビにガラス張りのテーブル。
階段もガラス製になっており、吹き抜けのリビングからはその階段を上った先に複数の寝室があるのが見て取れた。
そして外へ目を移せば一面に広がる砂浜だ。
壁一面がほぼ窓というリビングからは眼下の砂浜が一望できた。
そのほかにも至る所に財力の影を感じる節があり
「おいおい奥に卓球台があったぞ朗太!」
「マジか誠仁! ちょっと見てくる!」
「こっちにはなんかギターまであるぞ!!」
「すげー!! だいちゃん弾ける!?」
「いや全然引けない!」
「なら宝の持ち腐れだなそら!!」
などと男子たちは緑野の別荘にいちいち感動していた。
女子たちも
「うわーっ、すっごい! 緑野家って本当にお金持ちなんだ……」
「ね! 驚きだよね弥生ちゃん!」
「そうですね、纏さん……」
「そ、そんなにでしょうか……?」
「そんなによ翠……。私もこんなん初めて見たわ……」
と緑野家の財力に呆れていた。
「おおおおおお! すごいぃぃぃぃぃぃ!!!」
回復した風華は男子たちに交じり一緒に盛り上がっていた。
「見て見て凛銅君! カラオケまであるよ!」
「しかもミラーボールまである……すげぇ……」
「あ、見て見て! スイッチオーン! ホラ! 光変わった!」
「照明の色まで変えられるのかよ……」
一転し赤い光が灯り始めた照明に朗太と風華は二人して呆れていた。
そしてコテージの内装をあらかた見終えて
「こんな場所に住んでたら手とかなくなっちゃいそうだね!」
と言うのは風華だ。
「なんで?」
溜まらず朗太が問うと風華は自身が今出てきたばかりのトイレを指さした。
「だって色々動くじゃん!」
「ホントだ……」
見ると風華の出た後のトイレでは今まさに自動で便座の蓋が閉まろうとしていた。
それにしても退化して腕が無くなりそうというのはなかなか斬新な発想である。
冷蔵庫にはどっさりと食材が入っていた。
曰く
「わたくしが利用すると言ったので、用意しておいてくれたんだと思います」
とのこと。
国産牛はじめ鶏肉、その他野菜、炭酸飲料がこれでもかと詰め込まれている。
奥の棚を見ると入り切らない飲料が並べられていた。
部屋も埃一つなく予め掃除しておいてくれたかららしい。
お金持ちって凄い。
朗太は再度痛感した。
同時に来て本当に良かったと思った。
これは小説の良いネタになる。
「遅いな……」
「まぁ、しゃーない」
それから数十分後のことだ。
朗太達男子五人衆はコテージから歩いて五分ほどのプライベートビーチまで来ていた。
日向の砂地は足の裏が焼けるように熱い。
海パン姿の朗太たちは崖下の日陰で時間を潰していた。
そして何をしているかと言えば
「女子は色々時間かかるって言うからな春馬……」
「知ってるよろーちゃん。ま、待ってれば二天使と二姫、女神の水着を見られると言うのならいくらでも待つさ。だろ?日十時」
「全くだな」
女性陣を待っているのである。
春馬と日十時は肩から下げていたクーラーボックスを下ろしその場に腰を落とした。
皆が女子が未だにいるであろう断崖のコテージを見上げていた。
「で、大ちゃんは誰の水着狙いなのさ」
「そりゃ茜谷さんに決まってるだろ」
「やはり大ちゃんは気が合うねー。日十時は、多分、金糸雀さんかな?」
「なぜ分かる……?」
「そりゃ日十時と僕は友達だからねー。日十時の趣味は分かるよ。でも群青さんからの浮気は感心しないなー」
「それはそれ。これはこれだ」
「ふ、よく言うよ。せいちゃんは、誰だろ……?」
「ん? 俺か?? 俺は別に推しはいないぞ??」
「だよな。誠仁は水着なら誰でも良いもんな??」
「あぁ、基本誰でも歓迎さ」
「それはそれでなんというか色々考えさせられる発言だね……」
「こんなんが俺らのクラス委員長なんだ、すまんな春馬」
「良いよろーちゃん。若干引いたけど……。で、ろーちゃんの目当ては……」
「白染に決まってんだろ」
「「「「………………」」」」
「それもそれで色々と考えさせる発言だね……」
「それな、まぁそれは後々だな……」
大地のフォローが入るも朗太の発言に周囲に何とも言えない空気が満ちた。
だがそんな空気を打ち払うかのように春馬は言う。
「ま、そ、そんなことより! 俺ちゃんとカメラ持ってきたから写真に関しては任せて良いよ! ベストショット撮りまくるから!!」
「「「「よぉぉぉぉし!!!」」」」
残りの男子四人がガッツポーズをした。
「春馬のことを俺はずっと信じていたぞ!!」
「よせよ日十時」
「神ぃぃぃぃ神様ぁぁぁぁ~」
「茜谷さんの写真は任せてくれ大ちゃん」
「今度、春馬の内申点を上げるよう担任に掛け合おう」
「クラス委員にそんな力ないでしょせいちゃん」
「春馬を連れてきて本当に良かった!」
「そこに価値を見出されても微妙だけど、僕もろーちゃんと親友で良かったよ。これからも友達でいようね?」
「あぁ!!」
と男子たち五人が揃って盛り上がっている時だ
「何やってんのよ騒がしいわね」
そこに姫子を先頭に女子五人がようやく現れた。
「「「「「おぉぉ!!!」」」」」
瞬間、男子たちに衝撃が走った。
順番に、女子たちの格好を説明していこうと思う。
まず姫子。
上に白色のシャツを羽織り、中に所謂ビキニ。
赤基調の三角ビキニを身に着けていた。
それにより豊満な胸部や程よく脂肪のついた脚部などが惜しげもなく晒される。
((おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!))
これに背後の大地と春馬の二名が昏倒しそうになっているのを感じた。
続いて纏だ。
「やはり太陽光が厳しいです」
とか言いながらやってきたのは同じく黒がメインの三角ビキニをつけた纏だ。
ビキニの黒色ときめ細い白肌のギャップがとても刺激的だ。
「(おうおうおうおうおうおうおう)」
それを見て背後で日十時がおかしな呟きをしているのが聞こえた。
そして緑野だ。
「お待たせしました! やはり殿方は用意が早いですわね?」
青基調のビキニだ。それによりたわわに実った胸が強調されていて
「(良い体してるな……)」
我らがクラス委員長がクラスの女子が聞いたらドン引く様なつぶやきを残していた。
そして次に出てきたのが
「先輩方みんな凄くて恥ずかしいです……」
我が妹こと弥生だ。
格好はTシャツがぶら下がっているようなタンクトップビキニだ。感想だが、何というか普通に妹だった。
説明は以上だ。
「似合ってるぞ弥生」
「お世辞ありがとうおにぃ」
そして最後に出てきたのが
「おぉぉすごーい!! ビーチだーー!!」
浮き輪をひっさげ白波たつ海岸に感動する風華なのだが
「……ここはあの世か……??」
朗太はその姿を見て朗太は感涙していた。
恰好を説明すると淡い色のシャツに青色基調のビキニだ。
面積の少ない水着により、傷一つない白い肌がこれでもかとばかり強調され、ビキニの谷間には悩まし気な陰影を落としていた。
腰のあたりはきゅっとくびれ、ボトムズの下からはしなやかな脚部が伸びている。
そしてそれを見た朗太はというと
こんなん殆ど下着じゃん。
下着の風華が目の前にいるんですけど??
と感動していて、天使や女神と見まがうその美貌に頭の悪い呟きを残していて
「おにぃ、あの世じゃないよ? おかしなこと言わないで私が恥ずかしいから」
「はっ、弥生か!? 弥生も死んだのか!?」
「死んでないわよ!!」
バシンと弥生におもっくそ叩かれた。
「ビーチパラソルもさした! 飲み物もクーラーボックスに入っている! 女子も集まりメンツも揃った! ということで俺達は……」
「遊んでくるぜ!!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」
そして女子の水着も見て上がったテンションそのままに男子たちはプライベートビーチへ駆け出した。
何はともあれ、プライベートビーチでの海水浴、開始である。
と、思ったのだが
「凛銅君!!」
既に海へ駆け出している男子たちに続いてさぁ自分も海へと駆け出そうとした時だ、エロい生命体であるところの風華が砂地にシートを引きそこへ寝そべり朗太を呼び止めたのだ。
そしてなんだと朗太が思っていると
「凛銅くん! 私にサンオイル塗ってよ!」
と素晴らしい提案をしたのだ。
(なん、だと……ッ!?)
それを聞いて朗太は固まった。
創作物などでよくあるシチュエーションである。
それがまさか自分に起きるなんて!
何がどうまかり間違ったかは分からないが何にせよ実現した。
これにより自身は腹上死ではなく素肌触れ死しかねないが、本望である。
加えてこれは良い小説のネタにもなる。
風華の衝撃発言に耐えなんとか意識を保ちつつ風華の染み一つない真っ白な背中を見やったが、あまりにエロくて一瞬目眩がした。
あ、これはまずいかもしれない。
朗太は自身の置かれたヤバさを自覚した。
あの真っ白な柔肌に触れると思いつつ見るとエロさが数十倍にもなる。
マジで死ぬかもしれない。
朗太は自身の末路を予見した。
そうでなくとも風華の水着はとんでもなくエロいのだ。
全人類は風華のビキニを見る時は部屋を明るくして離れて見るべきかもしれない。
ポリゴンショック形式で意識を持ってかれる可能性がある、と思うほどなのだ。
と、朗太が固まっていると
「なんで家で日焼け止めを塗らないのかなと思っていたら、またアンタコテコテなことを!」
「この人本当に抜け目ないですね!?」
「ホラ、そんなに塗って欲しいなら私が塗ってあげるわよ風華」
「あ、私も塗ってあげます~」
「あぁ、ちょっとムラが! ムラが出来てるでしょ! ゴメン! 私が悪かったから、ちょっとやめて!」
「遠慮しなくて良いわよ? ねぇ纏??」
「はい、遠慮することないですよ? ホラ、緑野さんも、風華さんが塗って欲しいそうなので塗ってあげてください」
「ほ、本当ですの? 触っちゃって良いんですの?」
「いやそりゃ触っても良いけど! ちょっと! これ以上塗らないで!! やめて!!」
と見る見るうちに風華が日焼け止めクリームまみれになっていた。
あれならいかなる紫外線も弾きそうである。
そんな光景を朗太が複雑な心境で眺めていると
「り、凛銅くん! 助けてー!」
「さ、さすがに助けられるわけないだろ……」
「凛銅くんの意気地なしー!」
風華に自分の男気のなさを糾弾された。
意気地無して……と言葉を失う朗太。すると
「お、おにぃは私と遊ぼう……!」
弥生は海へと誘った。
「ほらほら~」
「遠慮しなくて良いですよ~」
「キャャアアアアアアア!!」
浜辺から風華の断末魔の叫びが響く。
「アンタ達いい加減にしなさいぃぃぃ!」
「あ、風華が怒ったわよ!」
「この程度で怒るとは情けないです」
「ふん、知ったことですか! 怒りたい時は怒るのよ! あと翠、アンタも同罪よ!」
「わ、わたくしもですか!?」
「くらえええええ!」
「キャァァ! 抱きつかないで下さい!」
サンオイル塗れの風華が緑野に抱き着き緑野が悲鳴を上げていた。
そんな事件もあって今現在朗太は
「おにぃ! はい!」
「うおぉぉ!」
と妹の弥生と水かけっこをしている。
向こうで遊んでいる男子たちに交じりたい気持ちもあったし、出来れば肉体を仕上げるためにも海で遊ぶよりもビーチで日光浴をし体を黒く染め上げたいという想いもあったのだが、今は妹の弥生がいるのだ。
なんだかんだで年上ばかりの環境で困っていたりもするだろう。
そう思い朗太は
「オラァ!」
「ハハ、やめてよー」
と弥生と水かけっこをして遊んでいた。
「はっは、お前ら楽しそうだな?」
するとそこに誠仁が割って入ってきた。
きっと朗太同様、弥生のことを気遣ってのことだろう。
そんな親友の心遣いに痛み入る。
だが一方で複雑な感情も渦巻いており、その原因は――
「せ、誠仁さん……! ふへへ」
――これである。
どうやら弥生が誠仁に惚れてしまったようなのだ。
誠仁に話しかけられて弥生が顔を赤らめていた。
妹が発情する様を見て朗太は顔をしかめた。
集合場所で誠仁に初対面した時など酷かった。
朗太は弥生と集合場所のバス停にやってきた時のことを思い出した。
「とにかく俺に恥をかかせるなよ?」
「それはこっちのセリフだよ。おにぃ。むしろサポートしてあげるからね?」
親の放任主義もありあっさりと朗太たちの旅行に同伴できるようになった弥生。
ごちゃごちゃ言い合いながら待ち合わせのバス停に辿り着くと既に日十時と春馬がいて、弥生の簡単な紹介を済ませる。
そうしてまだ来ていない風華を朗太が首を長くし待っているとそこに丁度風華がやってきて
「(うおおおおおお!)」
その余りに洗練された姿に朗太が呻き声にも似た声を発し感動していると
「おにぃ……だからそれ辞めて」
とじっとりした目で弥生に睨まれた。
確かにこのままでは妹に迷惑をかけてしまうかもしれない。
今回は妹がいるのだ。
自重しないといけないなと朗太が反省していると
「お、皆早いな!」
そこに誠仁が現れ
「ふああああああああああああああああ!!」
誠仁の外見がタイプだったのか弥生がおかしな叫び声を上げ始めたのだ。
「おい」
たまらずじっとりとした目で指摘し返す朗太。
だがそんな兄の気持ちなど相手にせず
「(おにぃなんで紹介してくれなかったの?!)」
「(えぇぇぇ!?)」
と朗太ににじり寄り小声で糾弾してきたのだ。
また先ほどのビーチではこれから泳ぐからということで誠仁がそれまで上に羽織っていたシャツを脱ぎ捨てナチュラルに鍛え上げられた肉体を披露した瞬間、弥生は呆然自失。
言葉を失いしばらくして
「おにぃ。私生きてる??」
と真剣に聞いてきたのだ。
「おい」
やはりたまらず朗太はつっこんだ。
まぁいずれにせよ
「お、どうした弥生ちゃん? なんかあったか?」
「あ、い、いや何でもありません!」
朗太は現在進行形で顔を朱に染める弥生をげんなりと眺めた。
正直、違和感しかない。
誠仁であろうが誰であろうが、友人が妹の彼氏になるなど忌避感しかない。
別にシスコンではない。
朗太は誰に対してでもなく心中で否定した。
自分はシスコンではない。
だからこそ自分は、いずれ弥生にも彼氏が出来、婚約者が出来、嫁に出て行くことも知っていた。
だが別にその相手は誠仁じゃなくても良くないとも思うのだ。
確かに誠仁は朗太の友人の中では最高の優良物件。
むしろ弥生にはもったいないほどの好青年なのだが、やはり友人が家族になるのは抵抗があるのである。
だが……
朗太は先ほどのビーチでのやりとりを思い出す
朗太は弥生が誠仁にほの字ということもあり、女子が水着姿でビーチに現れた際、に誠仁にそれとなく聞いていたのだ。
「どうだった女子たちの水着は?」と。返ってきた返事は
「みな良い身体していて非常にエロい! 素晴らしいな!」
とのことだった。
つまり普通にこの宗谷誠仁という人物、
普通に俗物なんだよな~~
朗太は頭を抱えた。
別に俗物が嫌なのではない。しかし複雑な気分なのだった。
「あ、やりましたね! 誠仁さん! えい!!」
「ハッハ、朗太の妹だ! 容赦はせんぞ!!」
朗太は実の妹の青春の一ページを見せつけられ、苦い表情を浮かべていた。
と、朗太が夏のからりとした日差しとは裏腹に陰鬱な気持ちで水をかけあう二人を眺めていた時だ
「えい!」
「?」
ふと背後から水をかけられた。
振り返ると――
「えい! えい! どうだ凛銅君!」
海水を掬い朗太に書ける水着姿の風華がいて、そのまさに青春の一ページと言わんばかりの光景に打ちのめされた。
海水を掬いこちらに水をかけ薄い笑みを浮かべる風華はさながら天使である。
そして朗太はというと
(これが聖水か……)
感動に打ち震えていた。
驚愕な表情でかけられた水を眺める。
本来ならただべたつくだけの海水でなぜか身が清められていく気がする。
もっとかけて欲しい。
と朗太がフリーズしていると
「うわ、なんか固まっていますよ?」
「朗太のことだからきっとおかしなこと考えてんのよ」
「ハハハ、これは流石に予想外……」
姫子と纏がやってきて、朗太の反応に風華が苦笑する。
「水をかけあって何が楽しいんですの??」
「やってみれば分かるわよ翠! ホラ!」
「キャ! やめてください!」
その後緑野も加わり女子と男子が入り乱れる水の掛け合いに発展し
「じゃぁ俺達も混ざってくるわ春馬!」
「あ、ちょっと日十時ずるいよ! 僕も!」
「お前はカメラ係なんだろ!? 任せたぞ!?」
「というわけで写真宜しくー」
「あ、ちょっと大ちゃんまで」
そこにそれまでビーチボールで遊んでいた日十時と大地も加わり、砂浜では
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
涙を流しながら春馬がシャッターを切りまくっていた。
その後、日が暮れ始めるよりも早くはしゃぎ過ぎた若者たちは疲れ切り、コテージに帰って行った。
もう時刻も四時近い。
夕飯を作らねばならない。




