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別荘編(2)


「さーどれにしようかなー??」

「ヘッヘ、舞鶴君? 揺さぶって見せたって無駄だよ~??」

「いやいや白染さん! 俺を舐めて貰っちゃ困るよ~」


後方から、大地と風華がはしゃぐ声が聞こえてくる。


「……」


横を向くと窓の向こうの景色が後ろへ流れていく。

今現在朗太たちは大型バスをチャーターし、一路緑野の別荘へ向かっているのだ。


「それでそれで、実はですね!」

「へ~」


バスの前方では姫子と緑野が何か話し込んでいるのが見えた。

姫子の明るい髪色と緑野の若干緑味がかった髪が揺れている。

七月三十一日から八月二日までの二泊三日。

朗太は緑野からの誘いで緑野家が保有する別荘へお泊り旅行が出来ることになったのだ。


そして重要な面子だが――


「あ、じゃぁホラ、次は金糸雀の番だぞ?」

「ハイッ、じゃぁどれにしましょうかね?」


背後から誠仁と纏の声が聞こえてきた。


いつも朗太の周囲にいる面子に加え


「おいおい、春馬ズルはいかんぞズルは」

「いやー何のことかなー分からないな日十時(ひととき)


この前のバスケで同じ班だった兄貴肌で有名な高砂日十時に、大地にも負けずとも劣らない下心で名をはせる茶髪男子、桑原春馬もいる。

そして――


「へへ、じゃぁ今度は私が引く番ですね舞鶴さん!」

「フフ、俺がババ引いているかもしれないから用心しろよー『弥生』ちゃん」


弥生もいる。

そう、朗太の妹であるところの弥生もこの小旅行に参加しているのだ。


(やらかすなよ……)


妹の元気な声が聞こえてきて、朗太は心配そうに高砂たちに交じりバスの後方でババ抜きを興じる妹を見やった。

元気におさげをピョンピョン跳ねさせながらはしゃいでいる。


緑野七家の有する別荘に旅行に行くと聞いて、非常に羨ましがったのだ。

だがこればかりは仕方がない。

友人同士の旅行に自分だけ妹を連れて行くわけにはいかないと朗太が宥めていると


『じゃぁ姫子さんに直談判する』


とそれまでうだうだ言っていた弥生はおもむろにスマホを取り出したのだ。

そんな弥生に朗太は笑顔。


『ハッハッハ。でもお前姫子の電話番号知らないだろー』


とアホな行動をする妹を笑って見せたのだが


『あ、姫子さんー?』


(――通じてるんかい)


ワンコールもしないうちに弥生がスマホに向かい話し始め表情を固めた。

ワンコール以内に出るあたり姫子もなかなかの超速対応である。

そしてそれから数十秒後


『姫子さん、掛け合ってくれるって』


弥生は満面の笑みを浮かべたというわけだ。

こうして緑野が姫子や風華、そしてお情けで朗太を誘い始まった旅行は計10名の子供たちが参加する大型旅行になった。

流れとしては緑野が姫子と風華、そして朗太を誘う→省かれた纏も風華の口聞きで参加可能に(緑野も喜んでいる風に見えた)→朗太から話を聞いて大地と誠仁も参加希望。

その後さらに大地経由で話が少し流出。

高砂日十時と桑原春馬もその話を聞きつけて


『お、俺も行きたい! 茜谷さんに白染さんに緑野さんに金糸雀さんがいるなら俺も何としても行きたい……!』


昼休み、春馬は鼻息荒く小声で息撒き


『朗太?』

『ん?』

『宜しく頼もうか……!!』

『お、おう……』


有無を言わせぬ日十時の圧に朗太は押され

『緑野さん、おなしゃす』

『仕方がありませんわね……』

という具合で日十時と春馬の参加も許可されたのだ。


そして弥生の参加も許可され、念のため男子面子共有のEポストグループにメッセージを送ったところ


大地『全然オッケー!』

誠仁『歓迎だ!』

日十時『朗太の妹か……そりゃ楽しみだ』

春馬『オッケーイ!! というか今回の旅行ろーちゃんのおかげだし……笑』


との返事を貰えたのだが


「あ、良かったセーフッ!!」


後方から妹の声が聞こえてくる。

実際に妹がいるのは気がもむのである。

朗太は心配そうに背後を窺った。


ちなみに待ち合わせの場所に大型バスが留まったときは驚いた。


弥生が加わったことで

男子5名(朗太・大地・誠仁・日十時・春馬)と女子5名(弥生・翠・姫子・風華・纏)の大所帯となり


「で、実際何で行くんだろうな?」

「停留所でって言ってたけど、車二台とか??」

「それにしても大所帯になってしまい申し訳ないことをしたな。深いことを考えていなかった」

「いや、なんかむしろ友達沢山で別荘行くって聞いてお父さん大喜びしていたそうよ」


青陽高校から程近い停留所で待ち合わせというので一体どのような車で迎えに来るかと訝しんでいるとブロロッと排気音を鳴らしながら目の前に大型バスが留まったのだ。


「「「「え??」」」」


皆が固まった。

40人くらい乗れるよく部活の合宿などで借りる奴である。

皆がポカンとしているとプシュッと音を鳴らし前方の入り口が空き麦わら帽子にワンピースの緑野が顔を出す。


「遅れてごめんなさい! さぁ皆さん早く行きましょう!」

「え、なにこれは……??」

「何ってチャーターしたんですわ! そんな下らない事言ってないで早く乗りましょう!」


朗太が呆れていると緑野はぴしゃりと言った。

大型バスをチャーターすることは当たり前のことらしい。

お金持ちってスゲー。


「で、そこのお嬢さんが凛銅君の妹のって、え!?」


朗太が黙って乗り込んでいくと続いて乗り込もうとした弥生を見て緑野は目を丸くした。


「え!? え!? え、え、え!? 嘘ですよね?!」

「嘘ではない」

「よくお兄ちゃんと私は遺伝子の繋がりを疑問視されます~」


兄と妹の息の合った返事が返った。


一方で停留所に大型バスが留まり男子たちは口を揃えて「「「「スゲー!!!」」」」と感動していて残された纏・姫子・風華たちは


「流石にスケールが違いますね……」

「これには私も驚きだわ……」

「お金持ちって凄い……!」


姫子・纏が緑野財閥のスケール感に呆れ、風華はただただ感動に打ち震えていた。


そうしてバスの後部座席では


「ハイ、私上がり―!!」

「くそぉぉぉぉ!!」

「あ、私も上がりですね」

「弥生ちゃんまで……」


今現在、弥生・纏・風華・そして男子四人衆で絶賛ババ抜き大会が開催されている。

ババ抜きでここまで盛り上がれるのかという歓声が背後から聞こえてくるが、纏・風華の二人がいれば男子たちが盛り上がるのも分からなくもない。


そして自分が参加していないことに疑問を持つものがもしかするといるかもしれないがこれも仕方がないのだ。


朗太は一人スマホに視線を落とした。


40話連続更新します!

あの言葉が尾を引いているのだ。

『朗太! 遊びに行くわよ!』

あの電話の後なんだかんだ朗太は姫子に連れまわされたのだ。

おかげで執筆予定はボロボロ。

何とか連日更新を綱渡りしているわけだが書き溜めもほとんどない。

朗太の予定とはかけ離れた状況になっていて、伊豆の別荘までかかる三時間強。この時間を無駄にするわけにはいかず朗太は風華とのトランプを血の涙を流しながら断りバスの中間あたりの席を陣取りせっせと続きを書いていたのだ。


最初、皆で旅行だというのに一人離れて執筆を開始しようという朗太に


「何? こんな時も小説??」


とゴミを見るような目で姫子が見てきたが、お前が原因だお前が。

とはなかなか言えなかった。

それからしばらく、姫子は朗太の前の席を陣取り、椅子に乗っかるようにして振り返りこちらがスマホで執筆する様を眺めていたが


悪いと思ったのだろう。


しばらくすると離席し、バスの前方で運転手と今後の予定などを話していた緑野の下へ向かっていた。


こうして今


「へ~! なかなか面白い事してんのね翠!」

「でしょう!? 面白いでしょう!?」


前方では姫子と緑野の楽し気な会話が聞こえてくる。

後方からは弥生の騒がしい声が聞こえてくるが、どうやらやらかしはしないようだ。


朗太は水を一口飲むと本格的に執筆にとりかかった。


こんな小説に時間を取れる機会めったにない。




それから数時間後のことだ。


「ここ、良いですか?」

「うお!?」


朗太が集中し執筆していると突然声を掛けられた。

驚いて顔を上げると通路に緑味がかった不思議な髪色をした少女が立っていた。

緑野翠だ。

見ると、話疲れたのか前方で姫子は寝ているようだ。

それどころではない。

いつの間にか辺りは静かになっていて振り返ると皆疲れてほとんどが微睡の中にいるようだ。


「良いけど」

「じゃぁ失礼しますね」


誰もしゃべらぬ静かな空間。

走行音のみ響く車内で朗太が許可すると緑野は遠慮なく隣に座ってきた。

そうして急にどうしたんだと朗太がポカンとしていると


「その、ありがとうございました……」


緑野は顔を赤らめながらポツリと呟いた。


「え……?」


思わず問い返すと緑野は強がるように顎をツンとあげた。


「え、じゃないですわ。あのことですわよ?」

「あのこと?」

「わたくしに友達を作るよう差し向けてくれたじゃないですかッ」

「あぁ、そのこと」


緑野が言うのは以前に朗太が緑野の歓迎会を開き、緑野に周囲の人間と馴染むように強要した件のことだ。


「というか、分かったんだ、俺の意図」

「当り前ですわ! 馬鹿じゃなければあんなのすぐに分かります! 最初は分かりませんでしたが、しばらくしたら分かりましたわ」

「ならすまんかったな。騙すような真似して」

「い、いえ! だからそれに対して礼を言っているんです!」


朗太が目を上げると緑野は目を艶やかに輝かせていた。


「おかげでわたくし、大切なことを知ることが出来ましたわ……! これまで知りもしなかった大切な事……! だからありがとうと……」


そんな恥ずかしそうに礼を言う緑野に思わず笑ってしまった。

なかなか不器用な奴である。


「なら良いよ。気にすんな」


そう答えながら朗太も以前、姫子と初めて関わった際、緑野と同じような反応をしたなと懐かしんだ。





それから数時間のことだ。

容赦なく日差しを降り注ぐぎらつく太陽。

上気が立ち上るような道を朗太たちは数分歩くと


「ここがわたくしの別荘です!」


白亜の邸宅が出迎えた。

三階だての崖にそそり立つように建つ別荘だ。

南の窓からは一面に広がる海を一望でき、バルコニーにはテーブルがしつらえられているのが見えた。

窓はどれも外の景観が一望できるように巨大で、崖に面するリビングには大きなソファーやらTVなどがある。


正直に言おう。

吃驚した。

世の中お金持ちっているんだね。

男子たちは一様に「「「「すげーー!!!」」」」と感動し姫子や纏も言葉を失っていた。

見ると風華もわなわなと感動に打ち震えていて、ん?なんだ風華が静かだなと思って振り返ると


「……宮殿」


「キューデン?!」


「殿堂、御殿、金殿玉楼、お金持ちの、伏魔殿……!」

「し、白染?!」


圧倒的な金銭差を見せつけられショックを受けていた。


「私の家は、ウサギ小屋……」

「し、白染、自分の家をそんな風に言うもんじゃないぞ……」


お父さんお母さんが必死に働いてくれてるんだから。

朗太は必死にフォローした。

こうして朗太たちは緑野の別荘に辿り着いたのだった。


バカンス開始である。

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