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文化祭抗争(4)


「じゃぁ決を取ろうか」


その言葉を聞いた時、全身が粟立つのを感じた。

弁天原や久慈川は正確にこちらの動きを把握し潰しに来たのだ。


採決・投票という、今の朗太たちでは覆せぬ手段を用いて。


見ると委員長席に身を収める弁天原はこちらを試すようにこちらを見据え、見事計画をつぶして見せた久慈川は長髪の奥で隠し切れない笑みを浮かべていた。


相手の手腕に恐怖を感じたのは朗太だけではない。

横の姫子も息を飲んでいるようだった。

しかし――


「ですが休憩前は次回の会議に先延ばしにするはずだったじゃないですか!?」


すぐに挙手し果敢に言い返していた。


「気が変わった。長引かせるのも面倒だ」

「気が変わったってッ」

「何なら今日決を採るかどうかの決を採ったって良いんだぞ?」

「くッ……!」


それでは問題が一つ後退しただけである。

委員の殆どが三年生に掌握されている現環境下で決を採るかどうかを多数決したところで三年の意思を酌む様に決を採ることになるに決まっている。

弁天原の自身の強みを惜しげもなく使う手腕に姫子も言葉を失っていた。


「お前の言いたいことは分かる。自分たちも一階使用権が欲しいんだろう。だからお前や梔子に免じて二年にも一階の一部屋を貸し与えようと言っただろ? それでも不満か?」

「不満に決まっているでしょ! 一番奥の部屋なんて集客できないわよ!」

「だがそれが妥協点だぞ?」

「誰の妥協点よ!」

「誰の妥協点とは明確には言えないが、そこが妥協点だ」

「自分勝手なアンタが勝手に決めた妥協点でしょうが!」

「そうかな?」


弁天原は酷薄な笑みを浮かべた。


「それで良いかどうか『決を採る』か茜谷? どっちが自分勝手か明らかになると思うぞ?」

「くッ……」


姫子は唇を噛んだ。


結局、議員の多くを掌握しているこの会議の場において弁天原や久慈川に打ち勝つのは至難の業なのである。


「そもそもまだ議論が済んでいません!」

「じゃぁ済んでいるかどうか、皆に聞いてみるか?」

「また皆にですか!?」

「おっと、皆の意思を否定するのかな? なかなか怖いな?」

「くッ……!」


こりゃウザいな……。

朗太は横で悔しそうに顔を歪める姫子に同情した。

こんな調子でおちょくられてはストレスが溜まるだけだろう。


そんな姫子を横目に朗太は思考を巡らし始めた。


一方で朗太が考える横でも舌戦は続いていた。


「というかそもそも私たちのクラスの委員がこの場にいません!」

「たった二票でひっくり返る票数差だったら再考しよう」

「他の委員が考える時間がなさすぎます!」

「この議題は前回から上がっている。考える時間は十分にあった」


周囲は姫子と弁天原の直接殴り合うかのような舌戦を息を殺して見守っていた。


「てゆうか、『部外者』の癖に出しゃばり過ぎなんだよなぁ」

「くッ……」


そこに久慈川の横やりが入る。

そしてその『部外者』という殺し文句は確実に姫子にダメージを入れた。

僅かに押し黙る姫子。

だが


「部外者だから気が付くことだってあります! 普段からこの場所にいないから気が付くことだって沢山あります!」


そう果敢に言い返したのだが


「でも口うるさく指摘しても次回の会議でいないんじゃねぇ?」


久慈川は小馬鹿にしたように肩を竦めた。

なお、梔子の力によって今回の会議が紛糾し次回以降へ話が先送りされた場合、朗太たちはまた出席できるようにF組の委員たちと結託できている。

F組の委員も思うところがあったらしい。

つまり次回以降も朗太たちは出席しようと思えば出来るのだが――


「この……ッ」


久慈川のあまりに人を馬鹿にした態度に姫子から白熱するような怒気が立ち上った。

それを会議にいた全員が鋭敏に感じ取り、どんなセリフが飛び出すのか固唾を飲んでいた時だ


「まぁ確かにその通りだな」


落ち着き払った朗太の声が会議室に響き渡った。


「朗太……」


姫子の瞳が驚きで見開かれる。

これまでこの議論において沈黙を保ち続けていた朗太がついに口を開いたのである。


「次回以降いないかもしれない奴の言葉をいちいち酌んでいくのは馬鹿馬鹿しいよな」


そして朗太が何を言うかと思えば弁天原や久慈川寄りの発言で多くの生徒が驚嘆していた。

姫子の横にいる、姫子の相棒として知られる朗太が、姫子の意図と反対の発言をしていて多くの生徒が混乱していた。

風華や纏もだ。

何言ってんの?という表情でこちらを見ていた。

姫子も姫子でこちらの意図を図りかねきょとんとしていた。



「で、話は変わるんだが、校門の開放はどうする気なん?」



皆が呆気に取られている中、朗太の問いは会議室に響き渡った。




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