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文化祭抗争(3)



会議は盛り上がりを見せたこともあり一時的に休憩が挟まれていた。


「何姫子、またアンタ面倒な依頼を引き受けてるの?」


朗太と姫子が屋外テラスの机で一息入れていると、風華が呆れ顔でやってきた。


「そんなとこよ」

「結構バチバチやり合ってましたねー」


風華の後に纏もやってきた。


「まぁしゃーない。姫子はよくやったよ」

「先輩はただいるだけでしたね」

「言うな」

「で、姫子。今はどんな案件抱え込んでいるのよ?」

「えーっとね……」


風華の問われ姫子はけだるそうに今回の案件を話し始めた。


そしてあらかたの説明を終えた後のことだ


「てゆーかアンタも従ってたのね、三年に」


姫子は椅子にぐったりとへたりこみながら恨めしそうに風華を睨んだ。


「ま、そーだねー」


風華は何てこともないように受け流した。


「そもそも私、別に演劇やりたいわけじゃないし?」

「でも根回しされて圧力かけられたらむかつくでしょ。それに『演劇の青陽』なのよ?」

「その伝統だって今いる生徒たちが作っていくものでしょ? 今が変わるときなのかなーって」

「じゃぁ圧力に関しては」

「それはまぁ鼻についたけど、クラスの人もじゃぁ仕方ないかって人多かったからねー。皆が納得してるならまぁそれで良いかなと」

「そういやアンタはそういう奴だったわね……」

「私のクラスもおんなじ感じでしたねー。『演劇の青陽』ってことで楽しみにしてた人も多かったようですけど、同じ部活にいる最上級学年の先輩たちがしないよう圧力かけてて、二年の先輩がそれに従っているの見たら、まぁ無理かなーって」

「一年生に関してはそうでしょうね……」


姫子は大きく溜息をついた。

一年生が抵抗できないことに不満はないようだ。


「てゆーか()()()()()()()て」

「もしその台詞を切り崩すのなら、お前らが裏から仕切っている会議で多数決とか頭おかしーんじゃねーのかって言うしかねーしな」

「そうなったら今以上の舌戦よ……。考えるだけで気が滅入る」


姫子は行われるであろう論議を憂い項垂れていた。

だが実際にもし会議の場で戦うのだとしたらもうそれしか手は残されていないように思われた。

そのように朗太は思っていたのだが


「こうなったら仕方がないわね……」


姫子は重い腰を上げた。


「何か案があるのか?」

「あるわよそりゃ」

「どういう案なんだ?」


朗太が問うと姫子はグイッと伸びをし朗太へ振り返った。


「そりゃ説得するのよ……。実行委員を、一人一人」


それは彼らの票田を説得で削り取ると言うことである。


「そんなこと出来るのか……?」

「出来るわよ、というかしなきゃダメでしょ。あ、そこの! 梶谷(かじや)! ちょっと!」


朗太が驚愕していると姫子は事も無げに言い、テラス横を通り過ぎようとしていた男子に声を掛けた。

短髪長身の梶谷祐樹という名の確か2年A組の実行委員である。

朗太は面識がないがどうやら姫子は認識があるようである。


「一年の時同じクラスだったのよ」


朗太が小さく息を飲んでいると姫子が囁いた。

すぐに梶谷はテラスに入ってきた。

テラスに集まった姫子・風華・纏の美少女三人衆に若干驚き気味である。


「な、なんだ急に茜谷……、というか急に実行委員にいて驚いたよ」

「それはちょっと依頼があってね。てか梶谷、聞いたでしょ私と久慈川先輩との口論」

「まぁそりゃ聞かないわけないだろ……」

「でさ、その話なんだけど梶谷、私に味方してくれない?」

「お前マジで言ってんのか?!」


姫子の相談に梶谷は目を剥いた。


「マジもマジの大マジよ。実は今受けている依頼がまさにあの議題に絡んでいてね。実は2年C組にまともな教室を使えるようにしてあげてんのよ」

「あぁそういう……」


一瞬驚いていた梶谷だが話の流れを理解し幾分落ち着いたように見えた。


「で、協力してくれない梶谷?」

「あ、いやー、それはなかなかきついんじゃねーか?」

「でも三年生に良いように言うこと聞かされてむかつかないの? おかしなことやってんのはあいつらよ?」

「まぁそうだよ? まぁ確かにむかつくけどさー」


梶谷も思う所があるようで梶谷は困ったように頭を掻いた。


「久慈川先輩、俺の先輩なんだよな~~……」

「あ、そういえば久慈川先輩って軽音部なんだっけ?」

「そーだよ。俺の直の先輩。軽音部で何言われるか……」

「あ、そっか。確かにそれはキツイわね。ごめんそこまで気が回らなかったわ。他当たるわね」


心底申し訳なさそうに謝る姫子。

しかし――


「しゃーねー。茜谷の頼みだ」

「ホントに!? 良いの?!」

「その代わり俺の印象が薄れるくらい他にも協力者増やしてくれよ?」

「分かったわ。恩に着るわ梶谷!」

「一年間同じクラスだったんだ。これくらいするよ」


姫子はあっさりと彼らの票田から一人抜き取って見せた。


「凄いな」

「私もあんなにあっさり行くとは思わなかったわ」

「ま、姫子は人望はあるからね」


梶谷祐樹が出て行き朗太が驚き交じりに言うと姫子も同様だったようだ。

順調すぎる滑り出しに姫子も驚嘆しており、そんな姫子に風華は肩を竦めていた。


「で、そんな方法で良いなら私も手伝うわよ?」

「え!? アンタに何が出来るのよ風華!?」

「失礼ね! 私だって色々出来ることあるわよ!」


姫子の心のない言葉に風華は憤慨した。


「全く……。私だって別に好きで先輩たちに従ってたわけじゃないわよ。それで困る人があんましいないようだったから流れに身を任せていただけ。他ならない姫子が困るって言うなら私だって一肌脱ぐわよ。で、皆を説得すればいいんでしょ? そんなの楽勝じゃない?」

「風華、アンタ……」


親友の助太刀に姫子は感じ入っていた。


「そんなの可能なのか白染……?」

「ふっふー心配ご無用よ凛銅君! 私、同学年の文化祭実行委員全員と仲良くしているし人望だって姫子より上だから!」

「あ、アンタ……」

「事実でしょ」


風華は歌うように軽やかな口調で返すとどこかへ電話をかけた。すると


「え、何ここ??」


2年E組の実行委員の少年がやってきた。

彼は先ほどの梶谷同様テラスにいる風華、姫子、纏という美人三人組に呆気にとられていた。


「ねぇ実はお話があるんだけど?」


そんな彼に風華は悩まし気な表情で問いかける。


「ちょっと時間貰っても良いかな?」

「もちろん!」


おーいちょっと待ってくれー!

そこの男子白染から離れろー!


ばね仕掛けのように背筋をピンと伸ばしだした男子に朗太は心中で血の涙を流した。

だがそんな朗太の気持ちなど相手にせず風華は話を続ける。


「知ってるでしょ、今三年生達が後輩たちに演劇をやらせないようにしてること」

「う、うん……ッ」

「それと学祭制覇するために一階を独占しようとしてることも」

「うん」

「で、さっきそこの姫子が抵抗したせいで、あいつらなら投票で決めるとか言ってたじゃない?」

「言ってたね」

「もし投票になったら私姫子に投票するわ。渡利君も一緒に投票してくれない?」

「え?」


そこまで聞くと少年の顔が曇った。


「や、でもそれは流石に」

「怖い?」

「や、怖いわけじゃないけど」

「だよね? ならお願い! もしそうなったら私に協力して!」


ぱちんと手を合わせ可愛く懇願する風華。

そんな風華や、その奥で剣呑な視線を送る姫子の間で少年の視線は右往左往して


「わ、分かった」


そう言って去って行った。


「ホラね、この通り」


少年が去って行ったあと得意げに風華は胸を張った。 


「ほとんど色仕掛けじゃないの」


打って変わって嘆息する姫子。


「持てる才能を使ったと言って欲しいわね。あるもん使って何が悪いのよ。それに私の人望が無ければ色仕掛けだって成功しないわ。あと何も色仕掛けだけじゃないわよ」

「じゃぁどーすんのよ」

「まぁ見ててって、あ、ちょっと、桑野実(くわのみ)ー!? ちょっといい? 私、さっき三年生が言ってた投票やる場合姫子の味方するから、桑野実も協力してくんない?」

「えぇーマジで言ってんの風華?」

「マジよマジ」

「分かった、考えとくわー」


といった具合でテラス横を歩いていた桑野実という少女に声を掛けてあっさり味方に引き入れて見せた。

桑野実の表情を見るにもし挙手で決を採ったとしても風華の後に手を上げてくれそうな雰囲気がある。

それほどまでに風華はこれまで人徳を積んできたのである。

確かに今の姫子を上回るかもしれない強かな手際を見れば


「2年女子の懐柔は可能か?」

「うん、そうだね?」


朗太が呟くと風華は頷いた。


「これが私の人望よ!」

「わ、私も一年生の女子なら説得できるかもしれません!」


そこに纏も続く。

つまりこうなってくると姫子の説得に加えて風華と纏の協力があれば多くの票が獲得可能かもしれず、現状の弁天原・久慈川が中心になって支配された委員会をひっくり返せるかもしれないのだ。

しかも――


「今日は決定を急がないとか言っていたよな」


あの後も議論が続いていたのだが、あまりに姫子に議論で歯が立たないものだから次回先延ばしする話もしていたのだ。

実は


『一階の7つある空き教室の内一個貸してやる。一番奥だが』

『一番奥じゃ客足望めないんで結構です!』


何て会話が行われる一幕もあったほどだ。

それほど姫子の論戦能力に相手はたじたじになっていて、姫子はそれにより時間的猶予を既に手に入れていたのである。

だからこそ、今日はもうこのままうやむやにし次回まで先延ばしにしその間に票田を獲得しておけばいい。

となれば


「後は流すか」

「そうね」


と今日の会議では大人しくしていようと朗太達は決めていたのだが




「じゃぁ決を取ろうか」




休憩を終えると委員長の弁天原はそう切り出した。


姫子、風華、纏の持つ人望でも実行委員を篭絡しようと動き出した朗太たちのことを久慈川・弁天原は正確に察知していたのだ。

久慈川は息を飲む朗太たちを見てにやりと笑っていた。





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