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映画館デート(2)


「弥生お願いだ! 俺の服装のチェックをしてくれ!!」


風華に映画館デートに誘われた日の夜のことだ。

朗太は弥生に手を合わせ懇願していた。


「何急に……」


一方で頼まれた弥生はというと剣呑な表情を隠そうともしなかったが


「今度、白染と一緒に行くデートに着ていく服をチェックして欲しいんだ!」

「え、ちょっと何どういうこと!!??」


詳しい話を聞くと食って掛かってきた。


それから数分後。


「ま、まぁ……良いけど……」


弥生はせわしなく乱れた髪を直しながら了承していた。


「にしてもよく姫子さんに頼らなかったね。姫子さん、こういう悩み相談やってるんでしょ?」

「あ、あぁそういやそうだな。何で姫子に頼まなかったんだろう。姫子に頼めばよかったのにな」

「どうしてしなかったの」

「うん? いやなんかそこまで迷惑かけるのは悪いかなって」

「おにいは良く分からない神回避するよね」


こうして朗太は弥生という指導官を手に入れたのだった。


◆◆◆


また一方で学園でも事態は変化していた。


「おい凛銅…、ちょっと来いよ」

「なに?」

「お前に話があんだよ早くしな」


トイレから帰る道すがら他クラスの男子たちに呼び出されたのだ。

着いていった先は廊下の端。

何だと朗太が思っていると


「お前の狙いは白染だよな?」


開口一番男は核心をついてきた。


「ッ!?」


唐突に本音をつく言葉に思わず面食らう朗太。しかし相手は頓着せず


「いや良いんだ。お前が白染を狙っていることは俺達にとっては非常に都合が良い事なんだ。非常に、非常にな」


馴れ馴れしく朗太の肩に手を回した。


そこでふと朗太は思い出した。

この男、『敵』なのだ。

かつて起きた姫子・風華戦争。

姫子・風華のどちらの方が美人か言い争う戦争においてこの男は姫子派に属する風華派の朗太たちの敵だったのだ。


と、昔のことを朗太が思い出しているとかつて姫子派に属していた男は言う。


「お前が白染派であることは俺達にとって好都合なんだ」と。

そして――


「どうせお前、女子とデートとか初めてだろ? 俺達がデートのマニュアルを教えてやる」


と言って小さく折りたたまれた紙を渡してきたのだ。


◆◆◆


そういえばそんなものもあったな。


デート当日、朗太はバックに入れていた小さく折り畳まれた紙を取り出した。

天気は晴天。からりと晴れており、待ち合わせの駅のロータリー周辺は若者でごった返していた。

多くの人が歩く雑踏のなかポロシャツにベージュのパンツという出で立ちの朗太は紙片を開く。すると


『第一、相手の恰好を褒めること!』


――あいつらは俺を舐めているのか?


朗太は顔をしかめた。

彼らは一体自分を何だと思っているのだろう。

こんな小学生向けのアドバイスを貰わずとも自分だって女性の外観を褒めることくらいは出来る。

見るとそれ以降もズラズラとコメントが書かれているが、これは無用だろう。

きっと誰でも分かるようなことが偉そうに書いてあるに違いない。

と、朗太が紙を丸めてゴミ箱に放り込んだ時だ。


ズビカッ!!と突如、人ごみの奥から圧倒的な光が放たれた。


(なんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?)


人ごみの中から輝く圧倒的な光源。

目がくらむような光に朗太は思わず顔の前で両腕を交差した。

そうして朗太が光に耐えていると光源はとてとてと近づいてきて


「やっほー! おはよう凛銅君!!」


気が付くと目の前には手を振る風華がいた。

……爆光の正体は風華だった。

俺の目は大丈夫か?

自身の認知能力を不安視する。

しかし今も風華からは放射状の光がさして見えるのである。

それほどに麦わら帽子に白のワンピースの風華の格好は決まって見えた。

スポーティーな印象を覆すような女の子然とした格好である。

白いふわふわした生地の下から純真な手足がのぞき、麦わら帽子の下からはいたずらっぽい瞳が輝いていた。

朗太がその美貌に呆れていると


「フフ、どう?」


風華は白い歯を覗かせ朗太の顔を見上げていた。


「す、凄いね……」

「フフフ、やはり凛銅くんはみせがいがある」


朗太がなんとか言葉をひねり出すと風華は満足そうに笑った。

そんな恥ずかしい会話をしていると


「アンタねぇ……」

「ここまで露骨だとショックですね……」


背後を見ると姫子と纏が立っていた。

姫子はカラフルなシャツにショーパンという露出度の高い格好で、白い肌をおしげもなく晒し仄かに発光するかのよう。腰にはシャツを巻いていて、おしゃれで抜群なスタイルもあって既に多くの視線を集めていた。

一方で纏はノースリーブのトップスにガウチョパンツといういでたちでやはりその愛くるしい見た目に注目の的になっていた。


そこに加えているのが


「やっほー、おはよう!」


白く発光するかのような風華だ。


「おいおいやばいぞ」

「すげぇ……」


周囲は美貌の三少女にわななき始めており、


「い、行こうか」


騒ぎが大きくなる前に朗太は歩き出した。


◆◆◆


風華の手に入れたチケットは都心のとある映画館で使えるチケットだった。

多くの若者が集まる町の映画館ということで入ると人でごった返していた。

見ると銃撃戦メインのものから恋愛ものまで幅広いラインナップが放映されているようだった。


こうなってくるとそれぞれの趣味が出てきて論争が生まれる。


「ヒットマンの奴にしましょうよ! 絶対にこれ面白いです! 『仄暗い7人の暗殺者』!」


纏はスーツの男が拳銃を構えるポスターを指さし騒いだ。

しかし


「いやいやそれはないわよ纏! 見るなら絶対これでしょ『8年越しのラブストーリー』!」


姫子は男女が抱き合うポスターの前を頑として動こうとせず


「いやいや姫子こそそれはないでしょ! そんなんおばさんが見るものでしょ! 見るならこれでしょ。アメコミのヒーローが一堂に会する『パワーランゲル』!! 今回はエイリアンとかとも戦うそうよ!」


風華は風華で全米ナンバーワンと書かれたポスターをズビシと指さし譲らない。

こうなってくると



「「「で、朗太(凛銅君)(先輩)はどれなの!?!?」」」


最終判断を下すのは朗太になり、朗太はフムと考え込んだ。

何もこの三作から選ぶ必要はない。

朗太は電光掲示板を眺めた。

纏が推した、渋いおっさんが主人公のスパイものか……

姫子が推した、こてこての恋愛ものか……

風華が推した、いかにも男子が好きそうなアメコミものか……

はたまたそれ以外のものか――


悩むこと数秒。

朗太の下した決断は――


「『パワーランゲル』にしようか?」

「「ええええええええええ」」


纏と姫子の不満そうな声が重なった。


「やった! やっぱ凛銅君、分かってるぅ~~!!」


一方で風華はよほど嬉しかったのか目を線にして朗太の腕に抱き着いていた。


「(うおおおおおお!?)」


思わぬ展開に朗太が顔を真っ赤にしていると姫子や纏は


「チッ、また風華びいき」

「先輩、露骨です……」


うげっと顔をしかめていた。


「いや違うんだ」


泡を吹きながら朗太は否定する。

何も風華をひいきしたわけではないのだ。


「人気作を研究するためにも『パワーランゲル』が良かったんだ!」

「ふん、どうとでもいえるわ」


信じてよ!! という朗太の声は無視され、姫子と纏は冷めた様子でカウンターへ向かった。


「いーのよ照れなくてー!」


風華は満面の笑みで朗太の手を引きカウンターへといざなった。


その後偶然にも四人並んで座れる席を取得できたのだが、仁義なきじゃんけんの結果


纏→姫子→朗太→風華の順で並ぶことになり、纏がぶつぶつ言っている中映画は上映開始。

多くのエイリアンが出てきたのだが


「(ヒィィィィィィイ!!)」


姫子は亡者どもが襲い掛かるたびに小さく悲鳴を上げていて


「(うるせーよ姫子……)」

「(姫子さんうるさいです……)」

「(しっかたないでしょ! 怖いんだから!)」


と姫子は涙をちょちょぎらせビビっていた。


そして映画が終わればその後は感想会である。

エスカレーターを降りながらそれぞれ感想を述べる。

周囲の人間の表情を見るに満足度は高そうだ。


「なかなか怖かったわね」

「姫子だけよあんな怖がってたの」

「いやいやあれは怖いでしょ! うわーって一杯でてきて」

「でもあんなのお決まりじゃないですか?」

「お決まりでも怖いものは怖いでしょ! てかアンタたちはどうだったのよ!?」

「いや評判通り面白かったなと」

「私もです」

「何よ内心ビビってた癖に! 朗太はどうだったのよ」

「ん、いや怖くはなかったな?」


朗太が事も無げに答えると姫子は悔しそうに目に涙をためた。


「じゃぁ、感想は! 面白かったの?!」

「うーん」


言われてしばし思案する朗太。

数秒考えると自分なりの感想を出した。


「導入は満点だったけどその後の()()()()()()()()()()が少し残念だったな」


(((は???)))


瞬間三人が固まった。


「ハッ!」


その様子を目ざとく感じ取った朗太は鼻で笑った。

おやおや、ついその道の者としての感想が出てしまったな、と。

そして専門的過ぎて分からないならばかみ砕いて教えてやるしかあるまいと


「あ、いや分からなかったか」


朗太はきざな笑みを浮かべて語りだした。


「映画とか映画って、状況説明→葛藤→解決っていう流れで変わっていってそれぞれ合間にその後の展開を示唆するプロットポイント1、2があるんだ。だけど今回の映画はプロットポイント1が微妙だったんだよなぁ。おかげで中盤以降になると話がぼんやりしっちゃったんだよなぁー。俺ならあぁはしないんだけどなー。惜しいなぁー」


それと結末もなぁー。とブツブツと偉そうに指摘する朗太。

対し姫子たち三人は


「な、なんか言い出したわよ……」

「凛銅君、きもい……」

「たかが読者200人しかいないくせに偉そうな」


とドン引きしていた。


その後纏が


「せっかくだからこのままカフェでも行きませんか??」

「「けってーい」」


カフェに行くことを提案し風華と姫子が同意したので朗太たちはそのままカフェに行くことになった。

映画館デートはこうして続いていく。


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1巻と2巻の表紙です!
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