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くじ引き操作(3)




「じゃぁお待ちかねのくじ引きを開始するぞぉ~」


 時は運命のくじ引きの時間になっていた。

 高校2年という青春真っ只中の最初のイベント。

 そのペアを決めるとあって教室は密やかな興奮に包まれていた。

 多くの生徒が

「じゃぁ私引きに行くよ!」

「任せたッ」

「全て俺に任せろ…」

「お、おう…」

 などと話し楽しげにこれから始まるくじ引きを待っていた。

 そんな喧騒の中に朗太もいて、朗太はこれから行うことを考え、息を凝らしていた。


 朗太は思う。


 本当に上手く行くのか、と。


 確かに朗太には策がある。

 しかし策が成功するかどうかは『相手の出方次第』なのだ。


 だから朗太は『本当にあいつらは上手く動くのか』と鼓動を高鳴らせていたのだが


「(茜谷さんと一緒の班になりたいよな~)」


事情を知らない舞鶴は悲しい道化。

朗太の前に座りこれから始まるくじ引きを純粋に楽しみにしていた。


「……」


 期待に胸膨らませ顔を綻ばせる舞鶴に悪いと思わないこともない。

 きっと朗太の案を行うとくじ引きは台無しになるからだ。

 しかしこれから行おうとしていることを伝えればきっと舞鶴は動揺するだろう。

 朗太は言うわけにはいかずあいまいに笑っていると、前方に座る姫子と目が合った。


 本当にうまく行くか姫子も懐疑的のようだ。

 朗太だって同じだ。

 本当に相手が『してくるのか』半信半疑なのだ。

 しかし状況証拠だけで言えば可能性は高い。


 だから朗太は無言で頷き、それを見て姫子もこくりと頷くと前を向いた。


「(おい! 茜谷さんがこっち向いてたぞ!? どういうことだ!?)」


 舞鶴は一人盛り上っていた。


「よ~し、箱は用意してもらったぞ~。こっちが男子用で女子用だな!」


 大地をいなしていると、くじ引きの時間はすぐに訪れた。 

 学級委員である親友の宗谷誠仁(そうやせいじん)か、でかでかと『男』!『女』!と書かれている箱を教壇に出し、そこにクジを突っ込めば準備は完了だ。


「準備完了だ。さぁどっちから引く!? 同時に引いてくか!?」


 青春真っ盛りの高校二年。

 その始まりを飾るイベントのメンツを決める運命のくじ引きが開幕した。


 

 朗太はじっとりを汗を垂らしながら周囲の人間の出方を伺い息を詰める。

 すると「じゃぁアタシから引こうかな?」と柿渋(かきしぶ)という黒ギャルが壇上に向かい出していた。

 その少女の姿に昨日姫子が言っていた言葉を思い出す。

 姫子は昨日『私、柿渋に誘われちゃってね』と言っていた。

 姫子と同じ班の女子である。


「そうかそうか、たんと引きなさい!」

「たんとってなんだよ宗谷……」


 誠仁の謎のテンションの高さに若干引きながら柿渋はむんずと『女』の箱に手を突っ込む。そして取り出したくじを見て「おーなるほど」と良くわからない呟きを残すと「じゃぁホラ、妃奈(ひな)も引きなよ。てゆうか他の女子もさっさと引きましょ。巻きで行きましょ巻きで」と次の女子を指定し自席に戻っていく。

 その後柿渋は姫子ではない同じ班の女子と「何番だった?」「これよ……」と内緒のささやきをして盛り上がっていた。


 これによりくじ引きの流れが決まった。

 柿渋の言葉で残す5班の女子たちが席から立ち上がり、まず女子から引くという流れと、くじを引いても番号を言わずに自席まで持ち帰るという形式が誕生したのである。


「……」


 その『彼ら』に都合の良い展開に思わないことがないわけでもない。


 朗太は目を瞑り眉間を指で揉んだ。

 出来れば思い違いであって欲しかった。

 しかし事態が進行すればするほど浮き彫りになる『彼ら』の思惑にめまいがしてくる。

 しかし朗太が何かするよりも早くあっという間に女子のくじ引きは終了し、


「じゃぁ次は男子か~」


 次に男子たちがくじを引く流れとなり、ここが正念場だ。


 どうなる、と、朗太は固唾を飲んでいた。

 朗太だけではない。

 教室の前方では姫子が、そして窓際の席からは黒髪美少女の群青輝美がハラハラとした面持ちで事の成り行きを見守っていた。


 彼女たちとて朗太の気持ちは同じだ。 


『本当に上手くいくのか?』


 みなそれを心配していた。


 そうして朗太たち三人の緊張が最高潮に達した瞬間だ


「じゃぁ俺から行こうかな」


 そう言いながら出し抜けに手を上げたのが、津軽だったのだ。



(嘘だろ!?)


 予想通りの展開に朗太・姫子・輝美、三人の背筋に戦慄が走った。


 本当に、()()()()()()()()()()()


 と三人揃って驚愕していた。


 だが現実は無情で、驚く朗太たちを他所に津軽はヘラヘラと笑いながら壇上に向かいくじ箱に手を突っ込むとくじを引く。

 姫子は彼らの余りの『悪意』に当てられて呆然としていて、群青も自身に密に向けられていた刃に泣きそうになっていた。


 しかし、朗太はいうと、衝撃の展開に呆気にとられたが、やらねばならない『仕事』がある。


 朗太は彼らの悪意に気圧されじっとりと汗を流しながらもごくりと生唾を飲み込み席を立ちあがった。そして「へへッ、一番乗り~」と男子の中で一番先にくじを引く津軽の後にクジを確実に引くべく自身も教壇に向かう。

 この策は、出来る限り先にくじを引くべきだからだ。


「お?」


 一方で本来自己主張の激しくない朗太が自ら席を立つのに大地が目を丸くした。

クラスの中心人物で今回のくじ引きのターゲットになっている瀬戸も不思議そうな顔をしている。周囲の人間も同じような反応だ。

 意外な積極性を見せる朗太に虚を突かれていた。

 しかし今の朗太にそのような反応に構う余裕はなく、それらを無視し教室を一気に縦断し


「お、次は、えぇっと誰だっけ?」


 と朗太の名を憶えおらず首をかしげる津軽を軽く流しながら壇上に上がった。


「朗太か、意外だな?」

「……だ、だろ誠仁。たまにはな……」


 そして震える声を必死に押さえつけて、くじ箱に手を突っ込み、朗太は、『探す』。


 どこかに『彼らの策』、があるはずだ、と。

 自身の考えの正しさを信じながら箱の中を漁る。


 だが、見つからない。


(クソッ……)


 思いの外、頑強に隠された『彼らの策』に悪態をついた。

 苦戦する朗太の様に教卓の前の姫子が額を曇らせ焦燥感に駆られている。

 そんな顔しないで欲しい。

 こちらまで気を揉むし、ここまで条件が揃ったのだから高確率であるはずなのだから。

 だが見つからない。朗太はひりひりしたものを肌に感じつつ時間を稼ぐ必要を感じ、シンと静まり返っている教室で尋ねた。


「なぁ誠仁、ちゃんとくじは入れたんだよな?」

「? まぁそりゃぁ普通に入れたよ。どうした?」


 意味不明な発言に誠仁は首を傾げた。

 そりゃそうだ。

 誠仁は『何もしていないのだから』


「いや……」


 適当な返事をする朗太。

 そしてこの隙に、朗太は『達成した』。


(マジか……)


 予想通りとはいえ、本当にあったことに驚きが隠せない。


 しかしその感情を表に出すことは許されず、バクバクと爆音の鼓動を打つ心臓を悟られないようにしながら


「……なんかさ」


『いや……』の後に繋がる言葉の()()を紡ぐ。


 あたかも、手を突っ込んだ最初から違和感があったかのように。

 あたかも、もともとこのことを尋ねたかったとでも言うように。


 朗太はクラス中に響くようにはっきりと言ったのだ。



「なんか、くじが多いように感じるんだけど?」




 

「え??」


 朗太の出し抜けの言葉に、クラス中がざわついた。




 ――悪いな、瀬戸(せと)

 クラスメイトが驚く一方で朗太は心の中でこのクラスの中心人物で今回のターゲットになっているイケメンに謝罪していた。

 

 ――これだけは、譲ることが出来ないんだ。





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1巻と2巻の表紙です!
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