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プールサイドにて(1)


「1、2、3……」


朝、床に汗が滴る。

まだ朝靄の立ち込める時刻だ。

朗太は薄暗い自室で腕立てをしていた。


なぜなら


「17、18、19……」


──朗太は筋トレ部の先輩の言葉を思い出す。


『水泳の時間は俺たちの数少ない見せ場だぜ』


もうすぐ始まる水泳の授業は朗太たち筋トレ部の数少ない見せ場なのだ

ならば筋トレしておくしかあるまい。


「ふぅ……」


決まったセット数をこなすと朗太は一つ息をつき階下に向かった。


そうして迎えたのが今日の水泳の授業であった。


「朗太! 今日はプール開きだな!!」


昼休み、大地は満面の笑みを浮かべていた。


「いやー楽しみだなぁ朗太! 待ちに待った感があるな!!」


大地は母親製の弁当をほおばりながら五六限にひかえる体育の授業に桃色の妄想を繰り広げていた。


「いや~、このご時世にホントに奇跡的だよなぁ~」


大地は米粒を頬につけ大地は箸でズビシとさす。


「なんたってうちの高校のプール、『男女共同』なんだからッ」


そう、朗太たちが通う青陽高校は男女共同でプールを行うのだ。

おかげで大地だけではない。

多くの男子生徒がこの日を待ち遠しにしていた。


「ねぇねぇ大ちゃんは誰狙ってるの??」

「おめーそんなの茜谷さんに決まってんだろッ!」

「ふふ、気が合うねー」


ふと通りがかった桑原春馬に尋ねられ目も見開きながら囁く大地。

二人はぐっとお互いに厚く握手を交わし合い


「おいおい、お前ら……」


同伴していた高砂日十時は眉根を下げていた。


「日十時だって群青さんの水着楽しみにしてただろう!?」

「お、おい! 馬鹿なことを言うな春馬!!」


春馬に図星をつかれ顔を真っ赤にする日十時。


「全くお前なー」

「素直になりなよ日十時ッ」


二人は騒ぎながら教室を出て行った。


「全く、浮き立ちすぎだろうに……」

「まぁな……」


普段以上に騒がしい周囲の男子たちに誠仁と朗太はうっそりとため息をついた。

周囲では


「おいおい、マジでついにやってきたな!」

「そんな露骨にテンション上げるなよ吉成……」

「いや基龍(きりゅう)それ無いわー」


などとこのクラスカースト一位集団、瀬戸基龍や津軽吉成達が今日の水泳の授業の話題でカラカラ笑い


「で、蝦夷池は誰見たいんだよ~」

「う、うるさいな日坂……ッ」

「どうせ緑野さんだろぉ~?」


とロボ研や科学研の生徒たちもこれからの授業を楽しみにしていた。


まぁ確かにそれだけ楽しみにしててもおかしくはないのだ。

なぜならこの水泳には姫子と風華が出席するのだから。

国宝級の美少女二人が出席するのだ。

しかも最近ではそれだけではない。

準姫子クラスと言われる毒舌女神、緑野翠も出席する。

朗太だって風華の水着を見られるとあってひそかに胸を高鳴らせていたし、多くの男子が色めき立ってしまうのも仕方がないことだろう。

また緑野は水泳が男女合同だと聞いて


「え、そ、それは本当なんですの?!」


とうろたえていた。


やはり女子たちは性欲をたぎらせた男子たちにねっとりとした視線で見られるのは承服できないようだ。


「はぁー、マージ最悪だって」

「まぁま、仕方ないってカッキー」


黒ギャル女こと柿渋は不機嫌を隠そうともせず


「うわーん、イヤだー」

「そういわないのよ遠州」

「私ももっと大きければ~」


遠州は頭を抱え藤黄に宥められていた。


それだけ女子にとってこの水泳の授業、なかなか抵抗のあるものであって、うつうつとしている女子もちらほらといたのだが


「ふん、全く困ったものね」


そんな中に一人ひときわ輝く人物がいた。


「あんたたち男子はッ」


茜谷姫子である。

姫子は朗太の席まで来ると、一人、むしろ楽しみにするかのようにブワッと髪を掻き揚げた。


「いやそんなこと言われても……」

「だってそうでしょう朗太。多くの男子が今日、異様にテンションが高いのも分かっていてよ? そしてそれが何が原因かもわかっていてよ?!」

「まぁま、そうだけどさ。でもそれも仕方なくないか?男女同時なんだから」

「それもそうね。サガって奴は誰にも御しがたいわよね。でもね朗太、アンタはよしてよね? 私をエロい目で見るのは」


そう言って姫子は「フフフ」とニヤリと笑うとわざとらしくスカートのすそをピラピラ振ってしなを作った。

その扇情的なポーズに「「おぉ!」」とクラスの少なくない男子が色めいたが朗太は無視。

コイツエロい体してんなーとだけ確認すると


「まぁ安心しろ。お前をそういう目で見る気はない」

「ちっとはそういう目で見なさい!」


欠片も相手にしていない朗太を姫子がなじった。



まぁ確かに姫子にまともな対応をしなかったのは悪かったかもしれない。

しかし、それにもれっきとした理由があるのだ。

更衣室で朗太はするりとワイシャツを脱いだ。


「いよいよだな……」

「あぁ~楽しみだわ~」


周囲でも男子たちが着替えを始めている。

これから体育館の屋上に設置されたプールに行けば授業開始だ。

朗太はそんな熱気に溢れる更衣室の隅で一人着替えを行っていた。


そう、朗太が連れない反応だったのには理由がある。

例え姫子がタイプでないにしても、姫子ほどの超美人の水着とあれば朗太とて興味はある。

姫子の水着姿は是非お目にかかってみたいものである。


だが現在朗太は喫緊の課題を抱えているのだ。


つまりは


『水泳の時間は俺たちの数少ない見せ場だぜ』


無事、筋トレ部の使命を果たせるか、いや、果たさねばならない、という決意だ。

おかげで姫子の水着姿に意識が流れることもなかったのだ。

そしてもう一つ上げるなら


「にしても白染の水着も楽しみだよなぁ~!」

「あいつめっちゃスタイル良いからな! 悶絶もんだぜマジで多分」


そう、これだ。


風華も水着になるのである。

正直楽しみで仕方がなかった。

先日


「凛銅君! 楽しみにしておいてね!? 私の水着!」


とピースサインと共に言われ朗太は妄想とはじけるような風華の笑みに圧倒され


「あ、えッ……」


言葉を失っていた。

それほどに風華の水着姿とは朗太に価値のあるものなのである。

姫子の水着程度で揺らぐような状態ではなかった。


つまり今現在朗太は二つの欲望を抱えていた。


一つは自身の鍛えた肉体を見せつけたい、という欲望。

そしてもう一つは風華の水着を見たい、という欲望である。


正直もう、見たいのか見せたいのか良く分からないが、朗太の中には二つの欲望がひしめき合い混沌としていた。

だが朗太はどちらも妥協しない。

周囲の男子や女子に肉体(マイボディー)を見せつけてやろうと画策していたし、網膜に風華の水着姿を焼き付けようと決意していた。

そう、混沌を覗くとき、混沌も自分を覗いているというではないか。

女子の水着を覗くとき、女子もまたこちらを覗いているのだ。


ほどなくして着替え終わると朗太は誠仁や大地と連れ立って薄暗い階段を裸足で登り日差しの下へ向かった。

そして――


「ようやくだぜ!」

「やったぜぇ!!」


プールサイドに出てくれば朗太の戦いは開始である。

さんさんと降り注ぐ太陽。

それを跳ね返す淡く輝くざらついたプールサイド。

男子たちは早速銀の手すりにタオルをひっかけその運動部で鍛えた、まだ年端も行かぬからこそ洗練されている肉体をさらけ出しカカカと笑っていた。

その男の園を切り、巻頭衣状のタオルを羽織った朗太が歩く。

そして所定の位置につき、朗太がそのタオルを外そうとすると既に多くの視線が朗太に集まっていた。


そう、筋トレ部の先輩は言っていた。

『プールは筋トレ部の見せ場だ』と。

それはもはや生徒達の常識となっており、多くの生徒が最近筋トレ部に入部した朗太の肉体がどれほどのものか興味があったのだ。

多くの視線が集まるのは朗太が更衣室の隅で着替えたからということもあった。


ふふ


内心笑う。


ここで披露するために『敢えて』隠れて更衣したのだ。


だからこそ朗太は不敵に笑い――


とくと見よ……! 我が肉体を……!

とばかりタオルをバット脱ぎ捨て、俺のターン!披露!


「「おぉ!!」」


と観客がその脱ぎっぷりに感嘆する中自慢の肉体を披露した!


のだが……


「ふ、ふつー……」

「なにかと思えば普通過ぎるな」

「むしろ俺の方が筋肉ある」


と朗太の欠片も仕上がっていない肉体に嘆息し朗太は脳内で声にならない叫びを漏らした。

そして悔しそうに頭をかく朗太を見て


「は、恥ずかしすぎる……!!」


向こうサイドのプールサイドで姫子は顔を手で覆い赤面し


「ハッハッハ!! 凛銅君全然鍛え抜かれてない!! ずっと筋トレしているって言ってたのに超ウケるーー!!」


と風華はお腹を抱えて笑っていた。

周囲では


「り、凛銅君、意外と普通ね……」

「筋トレ部だからちょっとは期待したんだけど……」


と女子たちが苦笑いで苦言を呈していた。


「じゃ、授業を始めるぞー。皆、プールは危ないから注意してなー。お、凛銅どうしたー? なんかあったかー?」

「な、なんでもありません……」


こうして凛銅朗太の水泳の授業は涙と共に開始された。


のだが、よくよく考えてみればミッションはまだ半分も残っていたのである。

それはつまり


「へっへ、面白かったよ凛銅君ッ!」

「え?」

「あ、私の水着にどきりとしちゃった??」


風華の水着を見るというミッションである。

準備体操が終わり塩素消毒を終えると意気消沈した朗太の前に、風華が立っていたのである。


そしてそれを見た瞬間朗太は


ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


やべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!


絶頂。


なんてはしたない格好をぉぉぉぉぉぉ!!


と内心叫びつつその姿に打ちのめされていた。


それほどの刺激性を風華の水着姿は有していたのだ。


これほどの美が合って良いのかと思う。


シャワーを浴びた艶やかな黒髪。

日差しを全て跳ね返すような真っ白で柔らかな肌。

しなやかでどこか色気を感じさせる体躯。

加えて確かにある双丘に、適度な脂肪のついた太もも。


はっきり言おう……。



エロイ……!


最高にエロイ……!!!


そしてそんな超絶存在を目の当たりにした朗太は言葉を失っていて


「え、あ、いや……」


完全にショート。

顔を真っ赤にしてたちすくしており


「フッフー、そんなに私の水着に見惚れちゃったのか! わざわざ水着見せに来たかいがあるわ!やっばり凛銅くんは見せがいがあるわね」


そんな朗太に風華は満面の笑顔。

へへっと笑うと


「見たいならいつでもいってよね?! 凛銅くんなら特別にいつでも見せてあげるから」


といってそのまま笑みを振り撒きプールにザブンと入っていった。


「おぉ……」

「まじですげぇ……」


そんな天使の様な存在に朗太共々見惚れていると


「ねぇちょっとあんた……」


背後からブスっとした声がとどいてきて振り返ると水着姿の姫子がいた。


「ひ、ひめこか……。オッスー」

「アンタが何も感じてないのが如実に分かるのが腹立たしいわ」


姫子はいよいよ眉を潜めた。

だがその美貌は誰もが認めるものであり周囲では


「おいみろあれを!!」

「やべぇ!」

「さいこうかよ!!」

「写真部!写真部はいないのか?!」

「緑野もいいぞぉぉ!」


と姫子の西洋美術の結晶のような立ち姿に悶絶していた。

まぁ確かにそれくらいは美人なのだ。

朗太は客観的に観察する。


淡く輝く亜麻色の髪に、風華とは違い肌の白さだけではなくその薄さも示すどこか赤みがかった姫子の肌。

そうして風華にも負けずとも劣らない華奢な体に長い手足。

大きく膨らんだ双丘。

モデルとしても十二分に戦っていけるだろう。

そのような姫子の水着に男子たちが反応しないわけもなく多くの男子が呆けており、それほどの魅力を有する姫子を上から下まで観察すると朗太は言った。


「まぁ確かにエロい」

「あんたは急に何言ってんの?!!」


姫子は目を白黒させた。


一方で


「や、やはり最底ですわ…ッ」


同じく好奇の視線にさらされた緑野は顔を赤らめており


「まぁそれも有名税だよ翠ちゃん」

「でもッこんなの!」

「まぁまぁ~」


と群青に宥められていた。


そしてその日の帰り道のことだ。


「そりゃ仕方ないですよ姫子さん」

「で、でもそんなのッ」


朗太に対して水着でダメージと与えられなかったことに姫子が悔やんでいると纏は言った。


「私もノーダメージでショックうけたことありますから」

「あ、あんたもなのね」


二人は水泳の後のけだるい帰り道意気投合していた。


一方で自身の肉体美で圧倒できなかった朗太は一つの決意をしていた。


そう、普通に鍛えて周囲をあっと驚かせられないのなら、専用の器具を導入するしかない。

そういう考えに思い至ったのだ。

つまり――


「俺、貼るだけ腹筋マシンバタフライアプ〇買うわ!!」


機械の力に頼ることを決心したのである。

考え方が完全に脳筋ではなく理論的であった。

それを聞いて


「ハハハ!! 凛銅君マジ受けるーー!!!」


風華は涙をちょちょぎらせながら笑っていた。


そしてこの日の深夜のことだ、


「あ、もしもしー?」


朗太は深夜通販でお馴染みの物を買おうとしていて


「え、お兄ちゃんどこに電話してるの?! もう深夜だよ?!」

「や、今からバタフライアプ〇を買おうと思って」

「やめてぇぇぇぇぇ」


弥生に必死に止められていた。


こうして彼らの梅雨は過ぎていく。


その後朗太の家にはそれが届いた。






本日より第四部と第五部の間の章間?部間?を投稿していきます!

この章間が終わった後書かれる第五部が一学期編の最後の事件になります。

一学期編が終わるまでは連日投稿します!

(現在第五部書いていますが書き溜めがもう無い事件)

宜しくお願いします!



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