E組 VS F組(4)
「よぉぉし!!!」
「よくやったーー!! 津軽ー!!」
「宗谷もよくやったぞー!!」
「高砂君、桑原君! おめでとー!!」
歓声が上階から落ちてくる。
時はまだ試合の直後である。
朗太たちは歓声の坩堝の中、汗をだらだらと流しスポーツ飲料をあおっていた。
そんな中
「くそッ」
江木巣は悪態をついた。
そりゃそうだ。
E組からは全勝の願いを託されていた。
だというのに負けてしまったのだ。
クラス対抗戦はE組の勝利で終わったが、納得しきれない幕切れであろう。
E組の観衆も微妙な表情である。
そしてそんなE組を気遣うように津軽は地面にへたり込む江木巣に手を差し伸べた。
「まぁそんな落胆するなよフルヤ。F組全員で勝ちに行ったようなもんだ」
しかし江木巣はうつむいたまま顔を上げない。
「フルヤ、お前はそれだけ警戒されてたってことだ。それだけ実力が認められ得たってことだろ? さっさと顔を上げろよ」
「は……、そんなの何とでも言える」
ブスッとした顔でフルヤは立ち上がった。
そしてそんなフルヤに津軽は軽い調子で言うのだった。
「それと遠州の件も、お前謝っとけっつったろ? 謝っておけよ?」
「あぁ、それか」
渡されたタオルで顔を拭くとそこにはつきものが落ちたような顔のフルヤがいた。
「分かってるよ。ムキになりすぎたことくらい」
フルヤは大きく溜息をついた。
そしてその日の放課後のことだ。
「遠州、いるか?」
金髪イケメンのフルヤが教室の前に立ちF組内にピリリとした空気が広がった。
「いるけど、なに……」
「すまんかったな、この前の件は」
おずおずと黒髪おさげの遠州が出てくるとフルヤはあっさりと謝って見せた。
「ガチになりすぎたわ」
「うん、良いよ。もう気にしてない」
遠州が水に流すことで今回の一件は落着したのだった。
(良かった……)
それを見て朗太は胸を撫で降ろした。
実は津軽に江木巣に謝るよう仕向けるように指示したのは朗太なのだ。
今回の件でE組とF組の間には亀裂が走った。
それを少しでも修復しようと思ったのである。
完全修復は難しいかもしれない。
しばらくはお互いに牽制し合う様な、若干の険悪な空気は続くかもしれない。
しかし当人達の問題が一応の決着をつければいずれ時間が解決するはずである。
そう信じての判断だった。
朗太は大きく息を吐き出した。
だが一方で朗太の戦後処理は済んでおらず
「へ~じゃぁ凛銅君は私の作戦を信用してなかったの?」
試合当日の放課後、朗太は風華や姫子に問い詰められていた。
二人とも勝利したことは歓迎してくれた。
しかし朗太がひそかに負けることを見越して策を練っていたことがおかんむりらしい。
姫子は剣呑な空気を隠しもせず、風華はニヤニヤと嫌な笑みをうかべ朗太を詰問していた。
「やはり、分かるか……」
「そりゃそうよッ」
「私の運動眼を見くびって貰っちゃ困るわ凛銅君? 人はあの程度の転倒で捻挫をしたりはしない」
そ、そうか――。
彼女たちの洞察力に朗太は驚嘆した。
そうして
「す、すんません」
とりあえず謝ってみると
「まぁー勝ったから良いけどね」
「まぁね、アレ無かったら負けてたし」
彼女たちの陰鬱な空気を薄らいだようだった。
「まぁバスケってのは素人が一週間気合い入れればなんとかなるスポーツじゃないって思っただけだよ」
「ふーん、まぁ今回はそう言うことにしておいてあげる」
「それに白染や姫子の熱血指導が無かったら間違いなく負けてたから」
「まぁそうだけどね?」
そんな話をしていると3人のいる教室に纏が駆け込んできた。
「先輩、勝ったんですか?!」
「勝ったわよ……? 舞鶴に怪我した振りをさせてバスケ部員を仲間にすることでね」
「うわー相変わらずこすいですね先輩……」
「いやいやちょっとまってよ!」
ドンびく纏に朗太は弁明した。
「自分で言うのもなんだけど、あれがなかったら負けてたんだって!!」
その余りの必死にさに夕焼けの差し込む教室に笑い声が漏れた。
赤い夕陽はどこまでも嘗め尽くす。
梅雨の時期は終わりを告げつつあり、ついにプール開きの時期が迫っていた。
と、いうわけでこれにて第4章終了です。
ここまでありがとうございました!
次話以降は第5章です。
ただ第5章の事件はこれまでと比べるとだいぶ小ぶりです。
敢えて、なのですが。
それは置いておいて、しばらくはまた性懲りもなく日常編を書こうと思います!
内容は『プールサイドにて』と『文芸部編』と『映画デート編』の三本(計七話)を予定しております! また姫子・風華・纏を使ってもう一つ書きたい話があるのですが、それは多分封印します!
よろしくお願いします!




