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E組 VS F組(3)


5人でかかっても江木巣には勝てない可能性が高い。

朗太はそのように踏んでいた。

だからこそ朗太は――


「津軽、話がある」

「何だ急に……」


放課後、黒髪短髪の青年、津軽を呼び止めた。


「今度のバスケの授業で大地が怪我をしたら代わりに試合に出てくれないか?」

「お前何言って……」


大地が怪我をする前提の交渉に津軽は目を見開いた。


「実は今、一つの依頼を抱えていてな……」


驚愕する津軽に朗太は今回の件のあらましを説明し始めた。


そして津軽にはくじ引きや東京遠足の件で貸しがある。


……正確には借りがあると津軽が認識している、という朗太の読みだったのだが


「やってくれるか?」


朗太の読みは当たったようだ。


「あぁ……」


話の全容を聞くと津軽は頷いてくれた。


「本当か?」

「あぁ、何よりF組がぼろくそに言われてんのは俺も気にくわない。それに――」


その瞳には熱い闘志がたぎって見えた。


「同じクラスの女子泣かされて黙ってらんねーだろ」


こうして朗太と津軽の間で契約は交わされたのだ。


◆◆◆


「期待してるぞ、津軽……?!」

「あぁ任しておけ!」


津軽がコートに入るとF組が沸いた。


「吉成ぃー!! アンタが頼りよー!!」

「津軽くーん!! 頑張ってー!!」


バスケ部員の追加とあって、柿渋や藤黄からあらんかぎりの声援が飛ぶ。

今や津軽の登場に会場は大盛り上がりである。F組からは女子たちが口々に叫び


「フルヤくーん!! 最後まで勝ち切ってー!!」

「頑張ってフルヤくーんッ!!」


E組女子達も対抗するように声をはりあげた。

そしてそんな中誰よりもいら立っているのは何を隠そう江木巣であった。


吉成(よしなり)ッ……! お前ッ!?」

「あぁ?なんだよフルヤ? うちのクラスの舞鶴が怪我しちまったんだ。俺が入るのも仕方ねーだろ?」

「何を考えて……!?」

「何を考えている? ハッ、そんなの察しろよ。江木巣、恨みっこは無しだぜ?」

「あぁ……! 絶対負かしてやる……! 吠え面かかせてやるッ!」

「望むところだ」


「「「おおお~~~!!!」」」


二人のやり取りを聞き観衆が最高潮の盛り上がりを見せた。

そして試合は再開され――


「津軽! パス!!」

「おう!!」


日十時からパスを受け取った津軽がコートを駆ける。


「行かせるな!」


途端に江木巣の指示で相手が行く手を阻むが、その瞬間


「──ッ」


津軽の瞳孔が開かれる。

一気に加速する。


自身の背後を通し逆手に持ちかえるドリブルで止まったかと思った瞬間一気に加速し強引にディフェンスを引き剥がしそのまま乱暴にレイアップシュートでゴールを奪った。


「「おおおおお!!」」


それを見てF組から歓声が上がった。


「チィ! 糞!! 俺にもボールを回せ!!」


溜まらず返しの一手で江木巣は仲間からボールを受け取ると駆ける。

そして


「フッ…!!」


左右にドリブルを散らし、体を回転させてディフェンスから抜け出すとそのままゴールを攫った。バスンと乾いた音が落ちる。

それを見てE組女子が歓声を上げた。


だがそれをみた津軽も黙っていない。


仲間からボールを受け取るとボールを股の下を通して敵を抜くとその後も前に立ちはだかる新たなディフェンスに、一歩後ろに下がるようにして跳躍。そのまま投擲し得点し、さらにその次撃ではお返しとばかりに江木巣ディフェンスを強引に抜き、レイバック。

反り返るような姿勢で背後のゴールにシュートを叩き込んだ。


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」


バスケが採用される最終授業。

その最終戦で二人のバスケ部員が自身の武器を惜しげもなく使用し勝利をもぎ取ろうという様に会場は盛り上がった。


その中に朗太やその他チームメンバーも混じる。


「宗谷ッ!!」

「OK!!」


汗を滴らせる津軽からパスが通り誠仁がボールを放つとバスンとネットが揺れた。

得点に観衆が湧いた。


それだけではない。


「高砂! 桑原!!」

「分かった!」

「了解!!」


津軽の指示で駆け出した日十時と春馬も二人の間でパスを交わし、ゴール下、日十時からボールを受けた春馬がシュートし


「おお!」

「春馬たちもやっぱやるじゃん!」


会場を沸かせる。

そして


「凛銅ッ!」

「分かった!」


津軽からパスが通り朗太もゴールを奪う。


朗太は軽く息を吐きながら投擲。ボールは軽やかにネットを揺らした。

朗太のシュートに観衆が沸いた。


そして江木巣以外のE組班も必死に得点する。

こうして両者必死に得点を重ねていたのだが、やはり――


江木巣が強い──


「おい、俺にもっとボール回せっ!」


流石E組F組間の総合得点王を張っていただけある。

本気の彼の実力は朗太達からするととんでもないものであり、


「ウオォォ!!」


江木巣が強引にゴールを奪った。


バスケ部員を投入し、残り4名もここ一週間みっちりトレーニングをした朗太たちF組4班に肉薄してくる。


そして残り10秒、得点差にしてあるのは、朗太はチラリとスコアボードを見た。


僅か1点。


様々な手を打ったというのにようやく手に入れた得点差はたった1点というリードで、ここで――


「ぃよーし!!」


江木巣が得点。ネットが揺れる。

遂に試合が朗太たちの一点ビハインドに切り替わる。


その光景にE組達から歓声が爆発した。

一方で


「嘘だろ……」

「糞……!」


F組には沈痛な空気が漂い


「やべぇ……」

「急がないとッ」


高砂と桑原、誠仁たちが顔を見合わせる。

だがここで唯一落ち着いていたのが


「落ち着けお前ら!! まだ時間はあるッ!」


黒髪短髪・津軽吉成であった。

彼はパスを受け取ると陰鬱な空気を振り払うように乾いた音を立ててドリブルをつきながら一気に敵陣にかけた。

そして敵を一人、また一人と抜き去っていき、その光景を見て弾かれたように朗太含めた残りの4人も駆け出していく。


正真正銘最終プレー。

勝つにはここで得点するしかないのだ。

4人全員で敵陣に駆ける朗太たちに観衆からも声援が飛んだ。

朗太は上がり切った息を押して必死に駆けた。


そうしながら相手を一人また一人と抜き去る津軽を見て彼を仲間にして本当に良かったと胸を撫で降ろしていた。


津軽のみなぎるような闘志には、彼がこのまま得点しこちらが勝つビジョンすら見えたような気がしたからだ。

F組の観衆もそうだったに違いない。

ビハインドだというのにどこか次の一点を期待、もしくは待っている雰囲気があった。

誰も希望を捨てていなかったのだ。

そうして朗太やF組の観衆がひそかに勝利を願い、そしてものにしようとした瞬間だ――


「させるかよ――ッ」


ゴールまでの距離を詰めようとした津軽に満身創痍の江木巣が立ちはだかったのだ。

江木巣はそんなに甘くなかったのだ。

そして打ってかわってその闘志に多くの生徒がF組の敗北を幻視した。


「あ――」


F組から悲鳴が上がった。

本能的に負けると悟ったのだ。

それだけの熱量を江木巣は誇っていたのだ。

進行を止める津軽。そこに一気に集まる相手。

確かにこのままではボールは取られてしまう。


「くッ」


そして負けを幻視したのは朗太も同じだ。

余りの悔しさに奥歯を噛みしめていた。


しかしそんな時だ


「な……ッ!?」


津軽と()()()()()のだ。


そして朗太が息を飲んでいると津軽は言ったのだ。


「パスだ……」




()()……ッ!」



電撃のような衝撃が背筋に走る。

一方で、だが実際にどうやってパスする気だとも思う。

今の津軽の前屈みの姿勢では、パスなど出来なそうである。


しかし――、来た。

後から調べたことには、それはビハインドザバックパスというものらしい。

津軽は江木巣が立ちはだかった瞬間、自身の背中側を通すようなパスへ移行。


朗太の下へパスを届けて見せたのである。


次瞬、朗太の手にボールは収まっていた。


そして朗太はシューターとして機能していて。


シュートに関してはかなりの精度を誇ることを周囲の人間全員が知っていた。


だからこそ、現状の意味を理解し、


「「「───────ッ」」」


体育館が一瞬で水を打ったように静かになった。


朗太はこれまでと同じようにシュートモーションに入った。


そうしながら朗太は先日の件を思い出していた。

先日、藍坂穂香という少女がバスケ部を辞めると言い出した事件である。

その時、風華は何と言っていたか。


(そうだ……)


朗太は思い出し口角を吊り上げた。


風華はあの時、言っていたじゃないか。


『バスケは――』


(一人じゃ勝てないってなああああああああああああああああ!!!)



朗太がボールを放つ。


そしてその数瞬後、


F組から歓声が上がった。



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