表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/211

E組 VS F組(2)


以前より、何故かシュートは良く入る。

そう感じていた。


「朗太!」

「おう」


試合の最中、流れでボールを受ける。

そういった際、特に深いことも考えもせずボールを放ると面白いようにボールはリングに吸い込まれた。


この現象に対し朗太は自身が特別シュートの才能があるとは思っていなかった。

自分の中ではシュートに関する適正は人並程度にあるだけで、特段、他人より秀でた技術ではないと思っていた。

周囲の人も同じように出来ると思っていた。

だが


『あなた、もしかして!?』


公園で、風華が言ったことには明らかに違うようで


「な……」


朗太のシュートに一瞬会場は鎮まり


「なんだぁぁぁぁああ!?」


一気に爆発した。

その洗練されたフォームに度肝を抜かれたのだ。


これまでも朗太はクラス対抗戦でちらほらとシュートを決めていた。

だがそれよりも明らかに朗太がいることによるディスアドバンテージの方が大きく皆朗太がシュート出来ることを忘れていたのだ。


歓声を浴びながら朗太は先日のことを思い出した。


「凛銅君、あなた!?」


公園で何気なしにシュートを決めると風華が食い掛った。

そして朗太の腕をつかむと怖い者でも見るように目を広げ言う。


「もう、一度シュートしてみてくれる?」

「は、はい……」


な、なんだ……


怯えながら言われるがままに朗太はシュートした。

するとボールは吸い込まれるようにゴールに落ちていきそれを見て「嘘でしょ……」と風華は息を飲んだ。


「もしかすると凛銅君、シュートは上手なのかも……」


「え?」


信じられない発言に頭がついて行かない朗太。

しかし朗太が瞠目していると周囲の仲間も続いた。


「あぁ、そういえば朗太はシュートはいるよな?」

「あ、それそれ。俺も思ってたー」


おい、何でこれまで言わんねん、と思わないこともない。

しかしその後も言われてシュートをしてみると、素人と比べるとかなりの確率でシュートが決まるらしい。

こうして


「じゃ、じゃぁ凛銅君はシュートを重点的に練習しましょう?」


朗太はシュートのみに注力することになったのである。

通常のドリブルやパス、ディフェンスでは朗太に期待できない。

だがシューターとして利用しようとしたのだ。

それまでは誰もドリブルやパスがからきしの朗太にシュートの才能を期待していなかったから――、あまりのどへたさでシュートが出来ることを忘れていたからこその見落としである。

朗太はこれまでシュート練習にすら辿り着けていなかったのだ。

シュート出来ることを忘れさせるほど下手とは、自分はどこまで下手なんだと思わないこともない。


いずれにせよこうして出来上がったのだがレイアップシュートも出来ない。

ワンハンドシュートも出来ない。

だがツーハンドシュートだけなら異様な安定性を誇る発射砲台・凛銅朗太であり


「ちッ、くそッ! そいつに打たせるな!」


それが新たな武器として江木巣たちに襲い掛かった。


ゴール際で朗太にボールが渡ると江木巣が声を張り上げた。

途端に敵が二人朗太に駆け寄るが


遅い。


「ッ」


緩やかなシュートモーションで朗太がボールを放り、ネットを揺らす。

2点が追加される。

そして


「コイツ! 何でか良く分からんが良く入る! ケアしておけ!!」


朗太に重点を置けば、他が薄手になる。


「俺が空いているぞ!」

「くそっ!」


誠仁がドリブル突破しレイアップシュートを決め握りこぶしを作った。

そして他に注意をいけば


(――俺が空く)


「今度はお前か!」


朗太のシュートがゴールに突き刺さる。

江木巣は両立できない守備に唇を噛んだ。


朗太たちは予め江木巣をマークしなければならないと知っていた。

だからこそ、点は決められるものの、最低限のカバーは出来た。


しかし相手は突如、ここで出てきた朗太という存在に対応しきれないのである。

そうでなくとも全体の練度が異様に高いのだ。

立て続けにボールがゴールに突き刺さり歓声が沸いた。


だが相手は仮にもバスケ部員だ。

毎日のようにバスケの練習をしている相手である。


負ける。


その可能性が脳裏に過り出すと死に物狂いで江木巣は本領を発揮しだした。


「くそ! お前ら俺にもっとボールを集めろッ!!」


バスケ部員の本気はまだまだ『先』があったのだ。


江木巣が強引にドリブル突破し、力づくでボールをリングに突き刺す。


朗太がツーハンドシュートで得点を奪う。


江木巣が一瞬引きディフェンスを剥がした後3Pシュートを決める。


高砂がスクープシュートを決める。


江木巣がディフェンス三枚を抜きゴールする。


試合は殴り合いの様相を呈してきた。


そして――


「25対24か」


試合も終盤に差し掛かろうという時期。

朗太たちは江木巣に一点リードという土壇場まで追いつかれていた。

バスケ部員である江木巣はここ数日猛練習しただけではどうにかなる相手ではなかったのだ。


「イエー!!」


得点しガッツポーズする江木巣に一抹の不安がよぎり大地や日十時は目を見合わせる。

E組からは歓声が上がり、F組からは悲鳴染みた声が聞こえてきた。


そんな時だ、


「……」

「……」


朗太、大地はそれぞれ目を合わせ、頷いた。


そう、朗太は何もたった数日でバスケ部員擁するE組1班に勝てるとは思っていなかった。

相手にバスケ部員は一人とはいえその彼は毎日のようにバスケをしているのだ。

そんな相手がいて、勝てるわけがないじゃないか。

そう朗太は思っていたのだ。

たった数日の猛練習で勝とうだなんておこがましいじゃないか、と。


だから、朗太は一つの策を用意していたのだ。


それは――


「いって」


次瞬、大地が体育館に転がっていた。

敵チームとの接触で転んでしまったのだ。


「嘘でしょ……?!」

「大丈夫……??」

「舞鶴君……!」


余りに派手な倒れ方に観客がざわつき、紫崎が小さい悲鳴を上げる。

そして


「おい大丈夫か大地?!」


駆け寄ってきた誠仁に大地は辛そうな顔を作って、首を振った。


それだけで多くの生徒は事態を察した。

大地は今の接触で怪我をしてしまったのだ。

そして、そうなれば試合を続行できない。

続行するには、もう一人人員を補給しないといけない。


だからこそ良く通る声で朗太は言ったのだ。





「――交代だ」























「津軽」




「おうよ!!」



朗太が呼ぶと『まるでこの展開を予期していたかのように』津軽吉成が立ち上がった。

そう、これはたかが体育の授業のバスケだ。

仲間が怪我をした時の人員補充に厳密なルールなどない。

だからこそ怪我をした風を()()()人員の入れ替えだって可能なのである。

毎日のようにバスケの技術を磨いているバスケ部員にバスケで勝てるわけがない。

ならばもし本当に勝とうとするのなら、こちらもバスケ部員を加えれば良いのである。

それが何としても勝つために朗太が敷いていた秘策であり――


「期待してるぞ、津軽……?!」

「あぁ任しておけ!」


朗太と予め津軽に声を掛けていたのだ。


津軽吉成。

バスケ部に所属する、かつての敵がコートに降り立つ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1巻と2巻の表紙です!
i408527i462219
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ