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E組 VS F組(1)

「じゃぁ、やろうか」


朗太たちの前に江木巣が立つ。


朗太たちが土曜集合し一日通しての練習を行った数日後。


「これよりE組1班対F組4班の試合を開始します」


火曜日。六限。

授業の最後。

遂に朗太擁するF組4班とE組1班の試合が開始されようとしていた。

体育館を見下ろす二階には


「がんばれー!」

「江木巣くぅーん! 最後まで勝利で飾ってー!」


いつも以上に女子が集まっていた。

これも当然だ。なぜなら――


「まぁこれでバスケ最後なんだから最後くらいF組に勝って欲しいな」


ギャラリーの誰かがわざとらしく言う。

そう、今日が体育でバスケットボールが行われる最後の日だからだ。

しかもその()()()

女子の多くが見納めにやって来るのは自明であり、盛り上がる要素はそれだけではなかった。


「まぁ任せてくれよ。皆」

「応援してるぜー! 江木巣ぅー!」

「F組なんて全部倒して華やかにE組に勝利を送ってくれー!!」


この最終戦。

件のE組バスケ部の江木巣フルヤ擁するE組1班が出場するのである。

否が応にも体育館は熱気に包まれた。

E組は有終の美を飾るかで。

F組は最後に一発加えられるのかで。


だからこそ場は盛り上がっていて、


「がんばってー!!」

「最後に勝ってー!!」

「ぎゃふんと言わせて―!!」


F組女子からは血に飢えた猛犬のような喚声がやんやと送られ


「ま、そんなの関係ないけどね」


江木巣は余裕の表情でコートイン。

そのすまし顔に江木巣の横手からE組女子の歓声が上がった。


そして今からコートに入る朗太たちにもF組男子から歓声が届く。

しかし


「ま、凛銅がいるしな……」

「正直、普通に勝ち目は薄い……」


と諦念したような声も混じる。

だが2階の女子たちはそんなこと関係なく声援を送った。


「今日こそやっつけてー!」

「がんばってー!」


そんな歓声の坩堝の中、E組1班とF組4班の生徒はコートに並び立ち……


「ま、がんばろ―じゃねーか朗太」

「お、おう……。やけにやる気だな……」

「まぁな」


朗太の背をはたくと高砂は男らしく笑った。


「クラスの女泣かされて腹立たない奴は男じゃねーだろ?」

「……」


ヤバい惚れるんだが?


何だこいつ良い奴過ぎんだろ??


「まぁそうだな。クラス委員としても彼に好き放題させておくわけにはいかない」


朗太が高砂の男気に惚れかけていると横から誠仁が出てきた。


「そうだよね委員長」

「全くふざけたやつらだぜ」


そこに春馬と大地も続く。

お前ら良い奴過ぎるだろ。

と朗太が友人たちの気概に感動しているとコイントスでコートが決まる。

いよいよ試合が始まるとなり女子たちの歓声が爆発した。


「誠仁ー! 頑張ってー!」

「高砂くーん! ファイトー!」

「桑原君も頑張ってー!」

「F組4班ファイト―!!」


女子たちの活気のある声援に会場は埋め尽くされる。

そんな中に


「ま、舞鶴君も頑張って……!」


という紫崎さんの儚げな声援が混じる。


そうしながら自身に対する声援が無い事を悲しみもなく当然のことのように受け止めていると、ふと視界の先の二階に二人の美少女がいるのに気が付いた。

姫子と風華である。


そして目が合った瞬間、風華はヘヘヘと笑みを作り、姫子は力強くサムズアップし――


そんなことをされればやる気が出ないわけがない。

朗太がやる気を出す一方で


「まぁま、雑魚がいくら群れようと結果はかわらないよ?」


江木巣がそう言って背後のE組連中が下卑た笑いを上げ


「じゃぁさっさと始めようか?」


審判のE組の生徒が半笑いでボールを宙に投げると試合が始まった。


「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


会場中が沸いた。


◆◆◆


そして結論から言おう。

今現在試合序盤だが、


「おおおおお!!!」

「何だこいつ!?」


押している。F組4班が、『圧倒的』に。

高砂が強引にディフェンスを引きはがしリングへ駆けるとそのままレイアップシュートを決めた。


「日十時くーん!! かっこいいー!!」

「おおおお!! やるなぁ! あいつ!!」


これまでの試合と打って変わって機敏過ぎる動きにF組サイドの観衆が沸く。

それもそのはずだ。


この日のために練習をしてきたのだから。


バスケ部員なら兎も角、同じく体育でただ適当にバスケをしてきた連中に止められるわけがないのだ。そうでなくとも日十時は運動神経が良い。


「おい! 俺にボール回せ!!」


対し、江木巣はすぐに策を打った。

何が何だか分からないが異様にF組4班の練度が高い。

であるならば自身が得点を稼ぐしかない。


そう判断し自身にボールを集中させるよう指示を出し始めたのだ。


江木巣は汗を滴らせながらリング下からの仲間のボールを受け取るとドリブルをつき朗太たちのリングへ速攻をしかけた。

すぐさまチェンジオブペースで誠仁を抜き去るとコート中盤を超えリングへ迫る。


「キャー!!」

「行け行けー!!」


その姿にE組の観衆から声援が飛んだ。 

しかし


「くっ!」


次瞬、江木巣の顔が歪む。


(こいつら、素人にしちゃ練度が高い……!)


目の前に高砂と桑原が立ち塞がっているのである。

そしてこの二人のディフェンスがこれまでの相手と比べて異様に固い。

これまでの試合ならバスケ素人のディフェンスならば仮にもバスケ部の江木巣ならば2枚でも3枚でも抜けた。

しかし――


(これはッ……!)


江木巣の脳裏に思いの外洗練されていた4班たちのドリブルフォームが投射される。

加えてこのとてもこれまでの授業の地続きで到達したとは思えないディフェンス。

つまりこれは――


テコ入れをしてきたのか……!?


その事実を江木巣は明確に掴んだ。

だからこそここまでの練度のディフェンスになっており、ならばこのディフェンスを強引に抜こうとするのは――、危険。

そう判断し――


「チィ!」


江木巣はパスを選んだ。

やろうとすれば抜けただろう。

しかしそれを高砂始め4班の練度が拒んだのである。


そしてドリブルに注力を置いたのもそれが理由であった。

ドリブルは練度が上がると如実に見た目が変わる。

つまり、『ハッタリが効く』

そう考えての取捨選択だった。

上手く行くかどうか不安だったが、上手く行ったようだ。


だからこそこのパスは


「ゲットォォ!!」


読める。


「なっ!?」


大地がパスカットしそのまま敵陣に向かった。

だがすぐにデェフェンスが一枚大地に立ちはだかり、該当のE組生徒は思う。


(こいつはそこまで運動神経なかった、はず……)と。


これまでミニゲームで戦っていて、大地の運動神経は彼らも知るところなのだ。

だからこそ彼らは止められると踏んでいたのだ、が


「なっ!?」


インサイドアウト。大地がV字にドリブルをきるフェイントで一気にディフェンスを抜き去り表情が凍り付いた。


そう、4人の中で最も運動神経で劣っていた大地ですらドリブルで相手を抜き去ることが出来るのだ。

F組4班が押していけるのも納得である。


「くそ!」


E組班の男子の顔が歪む。

だがしかし、朗太班が押せているのはただ1週間、みっちり練習をしたから、だけではなかった。


いや、勿論それが最も大きいのだが、もう一つ、大きな要因がある。

それは――


「うおおおしっ!! 次行くぞ次ぃぃ!! 大地ドンマーい!!」

「切り替えていけ大地!!」

「あぁ! すまん!!」


異様に朗太たちがこの試合に入れ込んでいる、という点である。


朗太たちはこの試合に本気も本気で挑んでいるのだ。

言ってみれば


お前ら何マジになっちゃってんの?


という奴である。


たかが体育の授業に本気を出し切ろうという朗太・大地・誠仁・日十時・春馬の姿は、もしかすると傍から見たら滑稽かもしれない。

しかし──


『クラスの女泣かされて腹立たない奴は男じゃねーだろ?』


その通りである。


「ちぃ!」

「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


誠仁がパスカットし一気に敵陣に向かい会場が沸いた。

敵チームの生徒は唇を歪ませる。


誠仁から高砂にパスが通りシュートが入ると点数が更新されF組から見て10対7となった。


だがそうしながらもいくつかの懸念の声が聞こえてきた。

それは


「F組勝てそうじゃない!? でも……」

「あぁ、凛銅が使()()()()


そう、どうしたって朗太の運動神経が他より一段二段劣るという問題である。

朗太はここ数日で劇的に成長した。

これまでの朗太とは見違えるほど上手になった。

だがしかしそれは最底辺からの出発であり、ここ数日程度の努力ではやはり他の生徒より一歩二歩と劣るのだ。

だからこそ


「朗太! どんまーい!!」

「気にすんな! ファイト!」


あっさりと江木巣にボールを奪われシュートされる朗太に励ましの言葉が飛び


「朗太パス!」


その後、敵陣近くで朗太にパスが通った際、会場の誰もが落胆しただろう。


あぁ、これでは点が取れない、と。

ゴール付近で朗太にボールが渡った瞬間、間違いなく会場が一瞬冷めた。


だが、朗太は思い出す。


『ねぇ、凛銅君、あなたもしかして!?』


風華が目を丸くしてしがみついてきた時のことを。

そして朗太は思っていた。

自分はなぜかシュートがよく入る、と。


つまりそれは朗太はシュートに関しては他より多少マシということであり――


実際は『マシ』に留まらなかった。


──かつて朗太は、傷ついたからバスケ部を辞めるという藍坂穂香に言っていた。


神はその人が欲しい才能を与えない、と。

朗太は座学が出来る。

だが小説を好む朗太は、座学の才能など要らなかった。

小説が好きな朗太が欲しいのは、小説の才能だけだった。

だがそれは与えられなかった。

朗太に与えられたのは座学の才能だけだった。


そして、これも同じなのだ。

神は小説の才能を求める朗太にその才能を与えなかった。


その代わりに──


朗太がボールを放った数瞬後、パスンと軽い音を立ててネットが揺れた。


「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」


朗太のシュートに会場が沸いた。



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