表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/211

土日の練習(1)


厚い雲の隙間から陽光が差し込んでいる。

土曜日。早朝。

約束の終日通しの練習日、その第一日目は幸運にも天候に恵まれた。

草木の上で朝露が輝く公園には朝早くから姫子や朗太が集まっており、そこに



「なんで私まで……」

「ふ、纏ちゃん、私の運動眼(スポーツアイ)はごまかせないわよ」



体操着姿の纏の姿もあった。


というのも、先日纏が朗太たちの練習を見学に来た際、


「ムムッ!?」


バスケモードに入っていた風華はその姿を見とがめるとすぐさま駆け寄ったのだ。

そして


「な、なんですか白染さん……」


怯える纏を無視し風華は穴が開くようにその纏の手足や腰回りを眺めると


「纏ちゃん、土日空いてるかしら……?」

「あ、空いてますけど……何ですか……?」

「練習に付き合ってくれない……?」

「え、は!?」


纏を今日明日の練習に誘ったのだ。

こうして


「私、来ましたけど何すればいいんですか?」


纏が練習に呼び出されたという訳である。

現れた纏に風華は満面の笑顔を浮かべた。


「私の指示通りに動いてくれれば良いわ? 纏ちゃん、運動は基本万能でしょ?」

「そうですけど……」

「そういう人が重要なのよ! 私が不躾にも渡した参考書も目通してくれた?!」

「まぁ……ざっとは」

「ならオールオッケー! 気が付いたところあったら凛銅君を中心にビシバシ指導しちゃって! 見たところ纏ちゃん相当やりそうだから」

「はぁ、分かりました」


言って纏は嘆息するとボールを2・3突くとひょいとシュートモーションに入りあっさりシュートして見せた。

ネットが上下に揺れ、湿った音が辺りに響く。

その流れるような所作に朗太たちが唖然としていると


「ま、こんなもんですよ……。ってゆうか何皆驚いてるんですか!?」


纏は身を強張らせた。


おかしい。


「凄いよ金糸雀ちゃん!」

「そうですか!? びっくりし過ぎですよ舞鶴さん!」


どう考えても、おかしい。


大地達の反応に焦る纏を見ながら朗太は思う。

俺の周りには美少女で勉学優秀、だが運動はからきしというテンプレ美少女はいないのか、と。


「じゃ、一緒に練習しましょうか先輩」


朗太は自身の周囲にいる姫子・風華・纏たちハイスペック美少女三人衆に頭を抱えた。


こんなの絶対おかしいよ。


一方で高砂たちは


「おいおい今度は『二天使』の金糸雀だぜ?」

「この調子なら二天使の『蒼桃(あおもも)』もやってくるんじゃない?!」


とハァハァとガッツポーズをし興奮していた。


午前中は基礎練習からの2対2でのミニゲームでの練習だった。

というのも……


「大地、パス!」

「おう日十時(ひととき)!」

「春馬、日十時(ひととき)のカバー!」

「了! 委員長も任せたよ!」

「了解!」


試合日は次の火曜日の5・6限。

基礎練習も――本場のバスケ部に比べればまだまだ、まだまだにも程があるほどまだまだだが――この数日で出来うる限りみっちりやった。

今日も明日も明後日も基礎練は行うが、いい加減、ミニゲームに重点を置きバスケ慣れすることが必要だと言うことになったのだ。


公園で一つのリングを巡り男子四人が熱い試合を繰り広げる。


そうして彼ら4人を見ていると思う。


「明らかに見違えたわね」

「そうね。基礎が出来ていて、かつ論理を把握しているかどうかは重要」

「それとここ最近はバスケ漬けだから体が慣れてきたってのもあるでしょ」

「それも大いにあるわね」


風華や姫子が腕を組み感心しているように明らかに上達しているのである。

なんというかドリブルの切れからしてもう違うと思う。

明かに速いし――


「強っくね!?」

「まぁ慣れたからな?」


力強くなっている。

誠仁がゴール下でドリブルを一回つきディフェンスを引きはがしシュートを打つと大地が顔をしかめた。

これをパワードリブルというらしいが、名前とは全く関係なく4人全員ドリブルが力強く、そしてドリブルを上手に使うようになったと思う。

朗太が感心していると


「じゃ、次は私たちの番らしいですよ先輩」

「おう」


朗太・纏ペアの番が回ってきた。

相手は


「ふふふ、手玉に取ってあげるよろーちゃん……」

「朗太か。宜しく頼む」


茶髪ロン毛変態の桑原春馬ともっさり眼鏡ブリーフ派の宗谷誠仁である。


ちなみにこの班編成にも理由がある。

現状、実力順で言うと、誠仁と高砂日十時が抜きんでていてその下に桑原春馬。次に大地だ。

そして最後、ぶっちぎりの最下位に朗太がいるのである。


加えて1on1をさせた結果


『つ、つえーんだが……』

『俄には信じられん……』


眼を白黒させて汗を垂らす高砂に、ずり落ちた眼鏡をかけ直す誠仁。


「ま、こんなもんですよー」

「凄いわね……」

「わ、私の想定以上にやるわね……びっくり」


明かに纏の方が格上。

おかげでチームバランスを取るために


宗谷誠仁&桑原春馬ペア

高砂日十時&舞鶴台地ペア

金糸雀纏&凛銅朗太ペア(女子とペア!)


になったのである。


正直屈辱でしかない。


春馬なんかは


「ろーちゃん……ずるいッ! ずるいぞ!」


なんて恨み節全開で抗議していたが朗太からするといっそ譲ってあげたいくらいである。

そして聞いたところによると、実力が拮抗していた方が練習になるので班編成は


「ま、まぁそんなに言うのなら実力次第で変えても良いけど……」


とのことで実力次第では変更になる。


つまりここで朗太がその実力を示せば、この女子とペア! という汚名を返上することが可能なのだ。

となれば――


「構わないのだろう?」

「え?」

()()を出しても……?」

「はい、普通に出してください先輩」


本気を出さない訳にはいかない。


朗太が息撒くと纏が冷めた返事で返した。

冷めてんなー。

朗太は嘆息した。

だが、負けるわけにはいかないのは事実。

こうして自身の実力を認めさせる朗太の負けられない戦いが始まった。


のだが……


おかしい。


「はい、誠仁君達の勝ちです~」

「「いえーい!!」」

「先輩何やってんですか……」

「い、いや俺も良く分からん」


結果は惨敗。

汚名返上するどころか、しっかりと名誉返上してきた。


「はぁ~~朗太の運動音痴は想像以上ねぇ~」

「確かに、纏ちゃん入れて勝てないのは相当ヤバいかも……」


姫子と風華の二人も顔を強張らせた。


いや違うんだ。


朗太は誰に対してでもなく言い訳をした。


俺は劇的に成長した。

だがそんな俺が未だ激下手なのは認めよう。認めようとも。だって最底辺からのスタートだったんだから。

だが成長はしているんだって。

今回負けちゃったのは自分の成長幅以上に周囲の成長が目覚ましいからだって。


と主張してみたのだが


「でも纏込みで負けは痛いでしょー」

「まぁ確かに凛銅君は劇的に上手になってるよ? でもやっぱり最初が低すぎたわね……」


二人揃って圧倒的朗太の運動神経の無さをフォローしずらそうにしていた。


「てかホント先輩球技になるとダメですよね?」


朗太が憮然としていると纏が下から覗き込んできた。


「球技じゃなければかなり運動神経良いのに」

「え?! 嘘!? 信じらんない! 朗太、運動神経良いの!?」


姫子が目を丸くした。


「え、むしろ知らないんですか? 先輩、中学時代は」

「やめとけ纏」


下らない話をしようとする纏を黙らせた。


「捨てた過去だ」


そうしながら朗太は丁度手に持っていたボールを何気なしにゴールへ飛ばした。

ボールはバスンッと軽やかな音を立ててリングに入った。


そしてその光景は風華にとって大きな意味のあるものだったらしい。


「嘘でしょ…?」


電撃でも走ったかのように目を丸くすると風華は震える声で言った。


「凛銅君ッ、もしかしてあなた……ッ!」



◆◆◆


それから数日後のことだ。


「じゃぁ、やろうか?」


目の前に金髪痩身の江木巣が立つ。


E組1班 VS F組4班



遠州の仇を取る試合が始まろうとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1巻と2巻の表紙です!
i408527i462219
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ