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第四の依頼(3)

「まずはボールに慣れることだね?」


街灯の明かりが瞬く暗闇で風華は言った。

ドリブル・レイアップシュートなどのバスケの基本的なプレーを朗太にさせ、朗太のハチャメチャな動きを目の当たりにし


「授業中でも見たけど酷すぎて笑えるぅ~!!」


人間ってこんな動き出来るのぉ~と涙を流しながら腹を抱えて笑った後のことだ。

朗太の心に深い傷を与えたかと思うと、突然笑いをひっこめ


「まずはボールに慣れることだね?」


風華はそう言った。

何やねんその豹変……。

朗太は一瞬で真顔になった風華に言葉がなかった。


「ボールに慣れるねぇ……」


一方ですかさず姫子が苦言を呈していた。


「あ、馬鹿にしてるわね姫子。でもこういう精神面でのケアも重要よ? ボールに親近感があるかどうかは動作の一歩一歩を俊敏にするわ」

「要は自信をつければ動作がスムーズになるってことね」

「最終ゴールはそこね」


ということで朗太は


「私が徹底レッスンしても良いかしら?」

「良いわよ、今回は特別に」


風華の部活が終わり次第、個人レッスンを受けることになった。

それまでは大地や誠仁たちに混ざり練習する。


また話の流れで風華も江木巣を倒すためのこの作戦に全面的に協力してくれることになっていた。

曰く


「バスケで人泣かす人は最低だから」


とのことらしい。


「だから私もあなた達に協力するわ?」


冷たい瞳で協力を表明する風華を見ているとこちらまで心が凍りそうだった。

そうして風華も姫子の作戦を聞いたうえで協力してくれることになったのだが……


「そうね……」


姫子の策の全容を聞くと風華は顎に手を置き勘案した。


「確かに姫子の言う通り、江木巣班を負かすなら、基礎練習をしまくって基礎力を高めて、ミニゲームしまくってバスケ慣れさせるのが一番だと思う。だけど――」

「だけど?」

「私が指導内容を提案した方がより確実だと思うわ。実際にバスケ部の私が、ね? 姫子にはバスケ練習用の参考書を読んで貰って基礎知識をつけてもらう。それを下地に置いた上で私の指導内容で皆を指導する。そうして貰って良いかしら?」

「もっちろんよ!」


プライドも何もない。

姫子は風華の提案を快く受け入れた。


こうして風華は自分たちを全力サポートしてくれることになったのだ。


一方で


「おいおい白染までやってきたぞ……」

「マジで役得だよぉ~!」


突如現れた風華に高砂は愕然とし、桑原はごくりと生唾を飲み興奮していた。

放課後の公園という学外に青陽高校が誇る二大美女『二姫』が揃っているのだ。

愕然とするのは当然だろう。

朗太もここ最近は慣れてきたが、今でもふと我に返ると自身の周囲の異常な光景に驚くことがある。

だからこそ二人の気持ちは良く分かったのだが


風華に手を出したらぶっ殺すぞ?


朗太は殺気を飛ばした。



こうして朗太たちのトレーニングは始まったのだ。


「まずはドリブルの練習ッ! 基礎からみっちりやるわよ!」


放課後、朗太、大地、誠仁の暇人三人衆が集まると風華の出した練習メニューを読み上げながら姫子は声を張り上げた。


「バスケの基礎動作! ドリブル! パス! シュート! ディフェンス! まず第一に上手になってもらう必要があるのはドリブルよ! 頑張ってボールを見ないでドリブルできるまで上達しましょうか!」


意気揚々宣言する姫子。

だがそこに朗太の驚愕の声が挟まる。


「ボールを見ないでドリブルだと!? 正気か姫子!?」

「いや練習すれば出来るようになるのよ朗太……」


眼を見開く朗太にじめっとした顔の姫子がツッコミを入れた。

それからは風華の特訓メニューやバスケの教本に目を通し、かつ持ち前の高い運動神経を誇る姫子からの熱血指導であった。


「朗太、ボールをつくとき手をもっと広げるのよ?!」

「手をもっと広げる?! なんで!?」

「ボールをしっかりキープするためよ! 手を広げて指先でボールの感覚を掴みなさい?! それをするのとしないのじゃ大違いよ。分かった?!」

「分かった……、けど……ッ」

「けど?!」

「恥ずかしい……!」

「何がだぁー!!? ドリブルに恥ずかしいも恥ずかしくないもないでしょ! 初めて聞いたわそんなん! 私からすればアンタのオカマみたいなドリブルのがキモイわ!」

「おいてめぇぇぇ! 言ってはいけないことをぉぉぉぉ!」


そうしながら売り言葉に買い言葉。

じゃーやってやんよと言わんばかりに朗太は手をぐわっと広げて指先に意識を送る。

すると


「あれ……?」


何か瞬間的に様になったような感じがした。

ようやく綺麗にドリブルをつけた、みたいな感じである。


「それで良いのよそれで」


眼の見開く朗太に心中を察したのか姫子はうんざりと吐き捨てた。

それからも、その翌日も、その翌々日も姫子の熱血指導は続いた。


それにより朗太も出来る範囲が少しづつ広がっていったのだが……


「よぉぉぉし! その調子よ! その次はインサイドアウト!」

「了解ッ」


朗太は言われた通り片手でV字にドリブルを切るインサイドアウトドリブルを実行しようとするのだが


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「何やってんだアンタはぁぁぁぁぁ!!」


ボールはあらぬ方向に飛んで行った。


朗太がバスケを上達する道は長い。


ハハハ。


周囲から乾いた笑い声が上がった。


また朗太以外の強化も行われている。


「フェイスアップドリブルの練習をしっかり行っておきましょうか」


日が落ち全部活動が終了し高砂たちが合流した後のことである。

朗太が壁パスで、パス練習をしていると姫子は告げた。


「二人一組になって頂戴。片っぽがドリブルしながら歩きながら前進。もう片っ方が指を立てる本数を時々変えて、変えた瞬間ドリブルついてる方はその数字を言って」


そうすることでボールを注視することなくドリブルをつけるようになろうというのだ。


「「はい!」」


4人の威勢の良い返事が返った。


その後も彼らに様々な指導が様々飛ぶ。


「舞鶴! ディフェンス時はボールに近い方の足を前に出した方が良いのよ! 出来るようならやってみて!」

「了解だ姫子ちゃん!」

「桑原も! スタンスは広くとって! イメージは向かい合ったボール持つ相手の足を挟み込む感じよ!」

「分かったよ茜谷さん!」


それら指示に懸命に彼らは答え、彼らは確実に実力を伸ばしていき


「なんかすげぇな……」


その様な朗太が見ても見違えて見えるほどである。


また一方で朗太の重点強化も続いており


「次ぃ! インサイドアウト!」

「はいぃぃ!」


朗太は脳裏で描いた通りドリブルの中でV字でドリブルを実行し


「やればできるじゃない!」

「お、おう……」


姫子に賛辞を送られていた。

そんな姿を見て


「朗太の奴、少しマシになってきたか?」

「あぁそのようだな」


汗をタオルで吹きながら高砂と誠仁たちが感心していた。


たかがインサイドアウトドリブル。

されど朗太は劇的に成長しているのである。

それは一重に最底辺からのスタートというのもあったが、もう一つ大きな要因があった。

それは


「姫子、今日も参考書貸してくれよ?」

「良いわよ?」


その日も帰り際、朗太は姫子からバスケ練習用の参考書を借りた。

この参考書の存在である。


実は朗太は重点強化メニュー開始初日に高飛車な姫子の指導が釈然とせず姫子が買ってきた参考書を借りたのである。

そしてこれが劇的に『効いた』

頭でっかちの朗太にはこういったバスケの理論が理路整然とかかれている本はうってつけだったのだ。

これまでの授業では体育教師が一度その技術を見せて終わりなだけであり、朗太の様な運動音痴には何も理解できなかったのである。

だがこの本には朗太にとって必要なことが多く書かれていた。

朗太はこれまでドリブルを打つときはなぜ強く打った方が良いのかも、なぜバスケ部員が手を大きく広げボールを扱うのかも分からなかった。

トリプルストレットなどという基本姿勢も知らなかった。

だがここにはそれが書いてあるのである。


それを読み、上達しない()()()()()()


またそうしながらも朗太と風華のマンツーマンレッスンは続いていて


「待った?」

「い、いや?」

「そっか! じゃぁ始めよっか!」


街灯の明かりが輝く夕闇にバスケ着のまま風華はやってくるとすぐに朗太の指導に入った。


「で、姫子の指導でだいぶボールには慣れていてくれたとは思うけど、今日はまずドリブル鬼ごっこをします」

「ドリブル鬼ごっこ?」


初日、朗太は思わず問い返していた。


「そ、ドリブル鬼ごっこ。ま、見てて」


言うと風華はポケットからチョークを取り出し半径三メートルほどの円を描いた。


「で、この円の中で私たち二人で鬼ごっこをしましょう。でもドリブルをしながら、ね?」


曰くボール慣れするのに非常に有効らしい。

だがよく考えて欲しい。


「じゃぁ凛銅君が鬼からね?」


バシッと投げられたボールを手に収める。


風華、体育着なんだが?


朗太は下卑た視線を風華に送った。


「ホラ、どうしたどうした?! かかってきなさい凛銅君!」


その華奢な体を覆うTシャツの横からは白魚のような白く染み一つない腕が伸びる。

その上を汗がしたたり落ち、薄手の衣服はまるでその奥の肢体を透かすようだ。


え、これ触っちゃっていいんですか?


朗太は逡巡した。

だがこれは練習。練習なのだ……。

そこにあらぬ邪念を持ち込み委縮するのはわざわざ時間を割いて練習に付き合ってくれている風華に対しこれ以上ないほどの非礼ではないか。

しからば……


「いただきます!」

「なんか掛け声おかしくない!?」



それからも練習は続き、それは帰宅後にも行われた。


「おにぃ、何読んでるの??」


リビングで参考書を開いていると風呂上がりの弥生に声を掛けられた。


「バスケットボールの参考書」

「一体どうしたの……?」


事も無げに言うと弥生は怯えた。

事情を説明すると


「おにぃ、未来のお嫁さん候補たちの前で恥かかないでよね……」


そう言って弥生は去っていった。

未来のお嫁さん候補ってなんだよおい。

朗太は釈然としない面持ちでページを捲った。


また本を読む以外にも自宅にて練習は行われている。


「じゃ、やりますか」


朗太は自室に戻ると借りてきたバスケットボールを持った。

そうしてそれを体の周りを周回させ始める。

その後は足の下をくぐらせたり頭の周りを回したりしはじめる。

まだ不出来で不器用だがこれでも以前よりもだいぶ良くなった。

この手のボールハンドリング技術を磨くことはドリブルやその他技術に目覚ましい効果を与えるらしい。


朗太は黙々とボールを回した。


眼を上げるとカレンダーが目に入る。

今週の土日には赤丸が付けられていた。


今週の土日は一日がかりでメンバー勢ぞろいでみっちり練習を行うのだ。

その約束の日が着々と迫っていた。




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