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新聞部の悩み(2)


校内新聞部。

正確には校内新聞『同好会』。

階段の踊り場や廊下、アリーナなど校内のいたるところに校内の事件やニュースを記事にし掲示している同好会だ。

しかしその注目度はあまり高いとはいえず――


「新聞同好会?」


そんなのあったっけ?と言わんばかりに問い返すと眼鏡でこっぱち少女こと新聞部部長秘色奏(ひそくかなで)は胸を張った。


「そーです新聞同好会です! 私はそこの部長なんです! それでお願いがあります! 凛銅さん! そしてそこのお三方たち、是非あなた達を取材をさせてください!」

「な、なぜ俺達を取材なんかしたいんだ……?」

「じ、実はですね……」


尋ねると途端に、恥ずかしながら……と奏は頬を染めた


「も、もうお分かりの通り私達の記事の注目度は全くというほど高くなくてですね……」

「ほう?」

「それで今学内で噂のあなた方の独占取材を行って注目度を高めたいんですよ……」


つまりそれは自分たちを餌に読者を得ようと言うことであり


「絶対いやだわ!!」


即座に朗太は突っぱねた。

しかし奏はあきらめない。


「お願いですあからさまに興味持たれてないと私たちもやる気出ないんです!」

「なんだそのどーしようもない理由はッ」

「仕方ないでしょう人間なんだからお願いです!このとーりッ!」

「いやいや無理だから」


奏は振り切られまいと必死に懇願していた。

そしてそれは朗太だけではない。

周囲にいた風華や纏たちにもであり


「お願いです白染さん!」

「いやちょっとそれは流石に……」

「お願いです後輩ちゃん」

「絶対嫌ですね……」


彼女たちにはにべもなく断られ、奏の視線は最後の希望。


「お願いです茜谷さん! いつもの人助けだと思ってここはひとつ!」


姫子に向かい「お願いします! ホント! 人助けだと思ってッ」と言われると


「うッ……」


姫子は弱い。

姫子は思わずたじろいでいた。

ここが姫子の悪い一面だ。

相手に強く出てこられると断ることが出来ない。

この前だってそれを緑野に都合よく利用されていたというのにまるで改善できていない。

だからこそ手を合わせ頭を下げ懇願する奏を見ると顔を赤くしながら


「は……、話を聞くだけならどうかしら」

「まぁ姫子がそういうなら良いけど……」

「姫子さんがそういうなら仕方ないですね」

「おいおい……」


というわけで朗太たちは新聞同好会の部室に誘われたのだった。


「なんだ……?」

「新聞同好会……?」


周囲には事件を聞きつけてギャラリーが出来ていた。


◆◆◆


「はい!はいどうぞ! 安物ですがお茶です! はい! お菓子もあります! はい!」


こうして朗太たちは校内新聞同好会の部室に来ている。

と言っても同好会だけあり、筋トレ部とは違い簡素なものだ。

同好会用の器具と言えば部屋の隅にはPC室のお下がりのデスクトップが一台置かれその横にコピー機があるのみ。

本棚にはコピー用紙が収納され、過去張り出した新聞のバックナンバーがファイリングされていた。

ホワイトボードには今月のコラム予定と来月の予定。余白には『ネタ募集!』と赤字で可愛く書かれていた。

そんな部室に招かれた朗太たちは部屋の中央にでかでかと置かれた机にかけ、菓子をふるまわれていた。


「あ、ボレロだ! やったー!」


風華は「ラッキー」と言いながら目を輝かせ菓子を頬張っていた。


「あ、金糸雀さんの分も用意しますね?」


シュンシュンとポットから湯気が立つ。

奏は給湯ポットから湯を注ぎ客人である朗太たちを甲斐甲斐しくもてなしていた。

そうしながらもここに至るまで奏は新聞部の危機的状況を語り続けていた。


「今時『壁新聞』という機能自体が時代遅れなんですよ」


水を温めながら奏は言う。


「まぁたまにちらほらと暇を持て余した人が時間つぶしに読んでるのも見るけど、基本的に皆忙しいもの。だからアリーナとか階段の踊り場に置いたところで無駄無駄。でなくとも教室の後ろに貼るとか。配布するとかしないと」

「それもダメなのか?」

「教室の後ろの貼るのは生徒会に直談判してクラス委員の許可があればOKになりました。少しは貼っています。 配布はダメでしたね。で、そうなってくると読者を得るためにはキャッチ―なネタに頼るしかないわけですよ」


分かるでしょ?

奏は言った。

まぁ確かにその気持ち、朗太も分からないでもない。

多くのイベントで忙しい生徒たちの気を引くにはキャッチ―でスリリングでエキサイトなネタしかないだろう。


だからこそ


「お願いです! あなた達を取材させてください!」


奏は手を合わせ懇願する。

こうなるらしい。


「うーん……」


朗太は他の部員が出払った同好会室で渋面を作っていた。


協力してあげても良いかもと思いつつあったのだ。

なぜなら――


「多くの人に読んで貰いたいんですッ」


そう懇願する奏の気持ちは、環境こそ違えどWeb小説を書いている朗太にしてみれば痛いほど良く分かったからである。

キャッチ―さが大事。

掲載場所が大事というのも身に染みるほど良く分かった。


Web小説でもキャッチ―なタイトルでないとなかなか読まれない。

地形効果も重要な要素だ。

人の目にとても良く触れる、ランキングに乗るか乗らないかは最終的に読者数に雲泥の差を生む。

これまで何度朗太がただただ読者を釣るためだけに特化したタイトルの前に辛酸をなめたことか。だからこそ


「お願いしますッ」


懇願する奏に感じ入っていた。


キャッチ―なネタを書こうとやっきになり自身の身勝手を押してなお目的を果たそうとする彼女の歪な気概が良く分かるのだ。


「うむ……」


朗太は悩んだ。

話によると今現在、校内ではなぜか校内トップクラスの美少女を三人も侍らす自分の話題で持ちきりらしい。

だから自分を取材することは集客を望めるネタになるらしい。

そして、むしろこの場を利用しきっぱりと否定すれば状況は改善するのではないかとも思う。

何やら彼女達に関して様々な憶測が飛び交っているようだが、その全てが勘違いだ。

こんな美少女達が自分に特別な想いを向けるわけがない。


だからこそ――


「ま、まぁ、取材するだけならいいんじゃないか? 否定すればむしろ状況が良くなるかもしれない」


朗太がそう提案すると纏は心底呆れて見せた。


「先輩同同情しちゃうんですか?」

「こいつWeb小説やってるから同期しちゃってんのよこいつに。あ、そうそう、こいつWeb小説書いてるから。まぁ流石に知ってるか」

「はい、それは……。てゆうかなんでそんなこと姫子さんまで知ってるんですか?」

「だって私たちの出会いがそのWebだし」

「どういうことですか?」


姫子が事も無げにいうと纏は目を丸くした。


「こいつが俺の小説の批判を書き込んだんだよ。で、俺が憤慨してたら、その後すぐに、俺をぼろくそに批判した読者が姫子だって分かった」

「えー何ですかその劇的な出会い?! じゃぁそれがなかったら先輩は姫子さんと絡んでもいなかったかもしれないんですか?!」

「ま、まぁ……そうかもな?」


否定はできない。朗太は頷いた。


「でも私はいずれ朗太に頼ったと思うわ。入り口が今回は偶然それだったってだけで」

「俺もそんな気はするがな」

「ふふ……」

「はは」


朗太と姫子は何とはなしに笑った。


「てゆうか纏ちゃん、凛銅君は私をヒロインにしたりしてるんだよ」

「それは普通に引きます。先輩何やってるんですか」

「い、いや……それはだな……?」


急転直下。とたんに足元がおぼつかなくなった。

そして今の話に食いついたのが何を隠そう奏であり


「何今のスクープしかない話!? もっと聞かせて!? 凛銅君はWeb小説書くのが趣味なの!? それが原因で出会い姫子ちゃんと仲良くなって、そのヒロインを白染さんにしてたの?!」


鼻息荒くにじり寄りメモ帳にペンを走らせようとするが


「おっとこれに関しては絶対に言うな。分かったな。これに関しちゃ記事にされたら迷惑すぎるから絶対にやめろ。分かったな」

「はい……」


朗太に牽制されるとしゅんと項垂れた。


そしてそんな彼女の姿は庇護心を煽られるもので


「まぁ良いんじゃないか? 手伝ってやっても?」

「うん、良いんじゃない?」

「まぁ先輩が言うなら仕方がないですね」

「ボレロ貰っちゃったら仕方がないね」

「ホント!? ありがと~~!!」


こうして朗太達は取材を受けることになったのだ。

奏の顔がぱっと華やいだ。


朗太は思う。

ここで否定すれば事情が改善するはず、と。

しかし彼女たちの思惑は違い


「ここで既成事実として色々書いちゃえば先輩は私のものですね?」

「フフフ、それは私にも言えること」

「負けないわよ?」


彼女たちの間でバチバチと火花が散っていた。


こいつらは一体何を考えているんだ。


朗太は怯えた。




翌日。

厚い雲の合間より陽光が降り注ぐ。

昨夜の雨により光輝く草木が茂る通学路を歩き、下駄箱に着くとなにやらアリーナ付近に人だかりができていた。

そして朗太の姿を認めると


「あ、来たわよ!?」


キャーとかワーとか騒がしい女子の騒ぎ声の中に男子たちの殺気立った視線が混じる。


「凛銅君! ちょっとこれ見てみてよ!?」


何だと思っていると呼ばれ、人だかりの中心に行くと、そこには一枚の壁新聞があった。

あぁ早速記事にしたのかと朗太は感心した。

そうしてそれに目を落とす。


壁新聞にはこう書かれていた。


スクープ!!

凛銅朗太を巡る美少女たちの真相は!?

彼らの協力の下、新聞部が真相を尋ねました!!


ちゃんと朗太たちの提供したネタをものにできたようだ。

朗太はキャッチ―な見出しに胸を撫で降ろした。

そしてその下にはちゃんと――


新聞部:『では凛銅さんにお聞きします。茜谷姫子・白染風華・金糸雀纏さんとは特別な関係ではない、と』

凛銅:『はい、事実無根です。勘違いなきよう』


と朗太が言った言葉が妙な改変もされずそのまま記載されている。

だからこそ朗太はなぜこの記事でこんなにも騒がしい事態になっているのかと思ったのだが、問題はその下にある三人の記事にあった。


「!?」


それを見た瞬間、朗太は目を剥いた。

インタビューは個別に行われていて、彼女たちが何を言っているのか朗太は知り得なかったのだ。

そこには――


新聞部:『では金糸雀さんは昔から凛銅さんを知っていたと』

金糸雀:『はい、中学時代からです。当時はよく一緒に帰ったものです』

新聞部:『え!? 一緒に下校!? 付き合ってたんですか!?』

金糸雀:『いえ、残念ながら付き合ってはいません。でも付き合ってるって噂はよくたってました』

新聞部:『凛銅さんはそれをご存じ?』

金糸雀:『いえ、全く気が付いていなかったですね。当時から先輩は鈍かったんで』

新聞部:『それは大変でしたね。で、凛銅さんのいるこの高校に入ったのは偶然?』

金糸雀:『いえ、先輩がいるので入学しました』

新聞部:『え、それって……?!』

金糸雀:『まぁ私が先輩に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ここで重要なのは先輩と一番付き合いが長いのは()()ということです」

新聞部:『というと?』

金糸雀:『先輩を一番思っているのは()()っていうことです!』

新聞部:『インタビューありがとうございました』


ありがとうございましたじゃねーよ。

何仕事した気になってんだよ。

明かに状況が悪くなっているんだが?

どーすんだよこれ。

朗太は憤慨しながら目線を風華の記事に滑らした。

そこには――


新聞部:『で、凛銅さんと仲良くなったのはここ最近と』

白染:『はいそうです! 姫子に依頼したのがきっかけです!』

新聞部:『つまりその時点で既に凛銅さんは茜谷さんと()()()()()()()

白染:『そうですね?』

新聞部:『……ためらいとかはなかったんですか?』

白染:『欲しいものはどんな障害を乗り越えても奪い取る、これが私の信条です。だから相手が姫子だろうと纏ちゃんだろうと容赦はしないです。勝った者こそ正義なので』

新聞部:『凄いですね……』

白染:『というわけで以降姫子と纏ちゃん以外に凛銅君に近づく人たちは男であろうと女であろうと容赦しないから宜しくね~?』

新聞部:『インタビュー、ありがとうございました……』


ありがとうございましたじゃねーよ。

何ちょっと怯えてんだよ。

というか風華が怖いんだが?

どうしたの白染は?

確かに自分が女子と話していると怖い目で見てくることはあるけどどうしたの白染は。

いつもの天真爛漫の笑顔はどこにいったの?


と思いながら朗太は最後、姫子の記事に目を滑らした。

そこには――


新聞部:『つまり一番最初に凛銅さんに目を付けたのは自分だと』

茜谷:『そうです。()()()()! 一番最初に朗太の良さに気が付いたんです。風華も纏さんも後からなんですよ!』


朗太と一番最初に仲良くなったのは自分だと主張する姫子がいた。


新聞部:『ですが金糸雀さんは中学時代から凛銅さんと仲が良かったらしいですよ?』

茜谷:『だけど告白はしなかった! つまり何も言い訳出来ないんですよ! 遅きに逸したものが悪い! その点私は優秀よ!』

新聞部:『というと?』

茜谷:『速攻で取りに行ったわ!』

新聞部:『ですが、別に特別な関係じゃないんですよね?』

茜谷:『そうね。色々障害があって()()特別な関係じゃないわね。()()!』

新聞部:『つまりいずれ特別な関係になる、と……』

茜谷:『さぁどうかしらね? でも発表できる日を私は楽しみにしているわ?』

新聞部:『それは楽しみですね。その時はまた記事にさせてください。インタビューありがとうございました』

茜谷:『ありがとうございましたー』


ありがとうございましたじゃねーよ。

何円満に終わってんだよ?

こんなことになった以上、もうこれで終わりだよ。

姫子も姫子で何勘違いを招くこと言ってんだよ。

これじゃ勘違いしか招かねーだろ。

俺は周囲の勘違いを断ち切るようにいったが、何も悪乗りしろとは言っていないぞ。


そしてこれを踏まえて最初の記事見て見ろよ?


新聞部:『では凛銅さんにお聞きします。茜谷・白染・金糸雀纏さんとは特別な関係ではない、と』

凛銅:『はい、事実無根です。勘違いなきよう』


誰だこいつは。

何が事実無根だ。煽ってんのかコイツは。ロック過ぎんだろ。

で、よくよく考えるとコイツの正体は俺なわけだ。俺なわけだ……。

おかげで――


「りんどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!」


その後朗太は男子たちのやっかみで酷い目に合うのだった。



翌日、秘色が喜び勇んで教室までやってきて言った。


「すごい注目度です凛銅さん! 自分の想いの男子を諦めさせる用に自分用に印刷して欲しいっていう女子までいましたよ!?」

「そ、そうか。それは良かった……俺が酷い目にあったかいもあった……」

「で、もう一度インタビューをお願いします!」

「二度としないわ! あいつらとはな!」


朗太は叫んだ。


こうして梅雨は過ぎていき――


数日後。


「朗太、新しい案件よ」


久方ぶりに姫子に依頼が舞い込んだ。








次話より第四部に入ろうと思います。

よろしくお願いします。


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1巻と2巻の表紙です!
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