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新聞部の悩み(1)



「いって」

「たく前向いて歩けよ?」


いやいや明らかにお前からぶつかってきたよね?

休み時間。

朗太は自分を跳ね飛ばしイキる上級学生を床から睨んだ。

だが正直、この程度のことで反応していては対応しきれない。

朗太は半そで白シャツの男を見送った。


六月に入り始めた今日この頃、窓の外を見れば今日もしとしとと雨が降っている。

伴って生徒たちの服装は爽やかさを増していた。

衣替えが行われたのだ。


女子は白基調の半そでの夏用セーラーに、男子生徒は半そでワイシャツに袖を通している。

だがと言うのに朗太の周囲は梅雨に引き寄せられるように陰気さを増していた。

というのもこの衣替えだって影響している。


「見て見て凛銅君? 私の夏服セーラー、どう!?」


衣替え週間の初日。


ズバーン!と勢いよくドアを開き「良い感じ?」と風華が尋ねてきたのだ。

率直に言おう。

凄かった、と。

白い肌の浮き立つしなやかながら女性らしいライン、そして艶やかな黒髪に


(うおっ……!?)


朗太は思わず絶句した。


そもそもこの黒髪短髪の猫型美少女。

性格も相まってボーイッシュな格好の方が似合うのだ。

そこにきてこの白と紺の軽装セーラーの威力は半端ではない。

もはや戦闘服といっても過言ではない威力であり

完全に脳の処理容量を超えた美貌であり朗太は言葉を失っていた。

完全に一つの太陽である。

そして「あ……えっと……」と言いながら動揺している朗太に風華は満足げににんまりと笑うと


「どう? なかなか似合っているでしょう?」


シュルンとその場と回転して見せた。

スカートが浮き立つ。

そんな光景に思わず朗太はドキリとするが、そんな下卑た朗太の気持ちなど知る由もなく風華は乱れた前髪をササと整え「ヘヘ」と笑い


「どう?」

「う、うん……。よく似合ってるよ……」

「やった!」


今度こそ朗太が褒めると風華はガッツポーズを作った。

そしてそんなやり取りをした後のことだ。


「……」「……ッ」「……!?」


やけに姫子がこちらの前を通る。

今年は蒸し暑く、例にもれず姫子も今日から夏服に切り替えていた。

生来の性格もあってか、姫子は夏服も十分似合う。

白い生地の上に亜麻色の髪が躍るその様は金糸か何かのようで調度品のような美しさだ。

姫子はスタイルが良い。

姫子の夏服姿が、多くの男子にとって理想の存在であることは理性で理解できた。

そうでなくともタイプではないのに、持てるポテンシャルの高さでもってタイプ相性の壁を越えて朗太の堅牢な壁を突き破る。

ふとすれば見惚れそうになるほどの美しさなのだ。

役割破壊型美少女なのである。

だからこそそんな美少女が自身の前をせわしなく動き回るのはなかなか眼福、というか面白い。

それが普段朗太が秘している嘘偽らざる本音なのだが――


一体こいつは何をしているんだ?


朗太は明らかに自分の周囲をうろうろしている姫子に胡乱なまなざしを向けた。

わざわざ迂回し朗太の横のあたりまで来て廊下に出て行ったりするのだ。


いや、なんなんすかね。

朗太は自分の周囲を働きバチのように旋回する姫子に嘆息した。

気が散るんですが。

だからこそ朗太は


「姫子、今日どうした?」

「ひゃい!?」


声を掛けたのだが、その瞬間、姫子はビクッと肩を震わせた。


「『ひゃい』じゃねーよ。どんだけ驚いてんだよ? なんか用があるのか? 何か今日、忙しないが?」

「そそそっそそ、そーかしら!? 全然そんなことないわよ?! いたって普通というか変わりないというか変化なしというか」

「そうか。何か用があるのかと思ったが」


違うのか。

何だ勘違いだったのか。

朗太は嘆息した。

だが一方で


「ぅ~~~~~~~~~」


と、前の姫子はみるみる顔を赤黒くし唸っていて


(なんだ?)


と朗太が不思議に思っていると、しばらくすると姫子はごくりとつばを飲み込み意を決して大きく息を吸った。

そして


「あ、あの……朗太、私の夏服どうかしr」 


顔を真っ赤にしながら姫子はこちらを向き何か言おうとしたのだが


「あれ?」


朗太はようやく姫子の異変に気が付いたのだった。


「姫子、髪切った?」

「は?」


姫子の目が点になった。

だが、事実だ。

非常に微妙にだが、切っている。


「俺の目はごまかせないぞ姫子? 五ミリほど全体的に切ったはずだ。前髪も整えたな」


どれだけ姫子と時間を共有したと思っている。

その変化くらいならさすがの朗太でも追える。

そして朗太は合点した。


「なんだ? 気が付くかどうかチェックだったって訳か。大丈夫、それくらいの変化なら気が付けるぞ姫子」


安心しろ。


そう言うと呆気に取られていた姫子は「良く気が付いたわね……」と顔を赤くしながら髪をくしくしいじりぽつりと言うが


「いやそうなじゃなくて!?」


正気に戻ると話し始めた。


「夏服! ホラ、夏服よ!? アンタが風華の夏服でショートしてた!? なんか言うことないの?!」

「おう夏服だな」

「ただの事実ッ。感想それだけ?!」

「え、普通に似合ってる、ぞ?」

「フツー!!」


くそ~~~~~!!


姫子は髪を掻き揚げた。


(うぶいなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)


一方で群青はノートに何か書き込むふりをしながら朗太たちの話を盗み聞きし身もだえていた。


またその後


「先輩、見てください。夏服です!」


バンッと勢いよくドアが開かれ纏がやってきて


「おう夏服だな」

「感想それだけですか!?」


可愛い後輩の夏服をみて感想それだけですか!?と纏は朗太をなじったが、


「お前の夏服をこれまでに何度見たと思ってる?! 2回だ! これ以上なんか新しい感想が出る訳がないだろう」

「糞~~! 旧知の仲アドバンテージが痛手に~」


纏は頭を抱えていた。

そして


「お前、あんなことしてれば突っかかられるのは当然ダロ……?」


冷たい瞳の大地にそう告げられ、実際その通りになった。


「ちっ」

「足を挫いて死ね」

「調子乗ってんなよ?モブキャラ?」


校内を歩いていると至る所から恨みつらみのつぶやきが聞こえてくる。

おかげで一度捨てられた処刑者リストの作成に性懲りもせず勤しまねばならない日々だ。

嫉妬の目線や敵意の視線などももう慣れっこだ。

廊下を歩けば多くの者に睨まれる。

それだけ姫子・風華・纏と仲良くしている自分は憎しみの対象で、それだけ彼女たちは多くの男性の好みをカバーできる容姿・性格をしているのだろう。

と、朗太は感心していたのだが


「ん?なんだ?」


珍しく一人で帰る下校際。

下駄箱を開くとそこには一枚の紙が入っていて


『金糸雀さんと別れてください』


纏ファンがヤバい。


朗太は慄いた。


だが一方で朗太の周囲での嫉妬の渦巻き方がヤバいことになっていることなど無関係に彼女たちのバトルは熾烈さを増していて――


「やってるな……」


五限体育。


梅雨時期ということもあって男子はバスケ・女子は卓球に競技が移っている。

おかげで男子たちは空いた時間に女子の卓球の見物に、女子は暇なときに男子のバスケの応援にちらほらとやってきていた。

キャットウォークに女子がいると言うことで男子たちのバスケはそれなりに盛り上がる代物になっているのだが、その話は別。

暇を持て余した朗太は数人の男子と連れ立って女子卓球の見物に来ていた。

姫子や風華がいるのだ。

そうでなくとも女子の運動姿を見物に来る男子は後を絶たなかったのだが、朗太たちが属するE・F組合同体育ではそれ以上の客足がある。

今回、朗太たちはそのうちの数人として女子の見物に訪れたのだ。


「全く凛銅は羨ましいよ。あんな美女たちに気に入られて」

「偶然だ偶然」


そんなことを話しながらクラスメイトと連れ立って卓球場を覗く。

そこでは――


「喰らいなさい! 失恋しろスマッシュ!!」

「だから名前がえぐいのよ!!」


姫子と風華が台を挟んで試合をしていた。

だがただの試合ではないらしく


「がんばってー風華ー!」

「負けるな姫子ー!」


なぜか多くの女子のギャラリーがいる。そしてなんだと朗太が瞠目していると


「フフフ、あと一ポイントで凛銅君は私のものよ?」

「ま、負けないわ……!」

「そう? 負けても泣くんじゃないわよ? じゃぁ終わりよ! 喰らいなさいッ」


風華はサッとオレンジ色のボールを宙に放ち――


「失恋鬼ドライブサーブ!!」

「くぅ! あんたこそ失恋するレシーブッ!」

「何を!? 言葉をそのまま返すわ!? スマッシュ!!」

「くぅおおおおおおおおおおお!!!」


姫子が必死の形相で返球する。

それを見てギャラリーの女子たちは大いに盛り上がった。


なにやってんだ、あいつら……。


朗太は驚愕と共に眺めた。


「先輩、何も思わないんですか?」


そこに偶然現れた纏がぼやくが恐れおののいているこちらを見て何かを悟ったのか「ハァ……これは道が長そうです……」と肩を竦めていた。


「凛銅ぉぉ……」

「ひっ!?」


その後何やら怒りまくるクラスメイト達に酷い目にあわされたのは言うまでもない。


と、そんなこんなの日常の、とある日の帰り道だ。

姫子・風華・纏の三人組を引き連れ下駄箱へ向かっていると



「お話聞かせてください!」



そこに前髪を二つに分け眼鏡をかける姿が特徴の一人の女子が現れた。


「2年D組ッ、校内新聞部部長、秘色(ひそく)(かなで)です! 。取材をさせてください!」


奏ではマイク代わりのボールペンをずいッと差し出した。


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1巻と2巻の表紙です!
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