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朗太の家(1)


どうしてこうなった。


「ふっ、あの程度の挑発で可愛くない本性を晒してしまうなんて下策ですね」

「何言っているのかしら? あの程度で嫌いになられるわけがないっていう自信があってこそよ? むしろまだそこまで到達できていないなんて残念極まりないわ」

「女の子は清楚でいた方が良いに決まっています。怖い女性の方がタイプの男性などいるわけがありません」

「ア、アンタ達、いつまでやっているのよ……」


纏と風華の言い合いを姫子が諫める声が背後から聞こえてくる。

実は現在、姫子、風華、纏を連れ立って絶賛下校中なのだ。

校門を出てしばらくたった。

周囲はようやく大通りから離れ始めたことで、人通りが少なくなり始めた。

だがちらほらと人が通り過ぎ、彼ら彼女たちが信じられないものを見るようにこちらを見てくる。

針の筵だ。

だがこれもまだ良くなった方で――

朗太はこれまでのことを思い出しため息をついた。


例えば下駄箱を出た直後のことだ。


「何あれ……」

「嘘でしょ……」

「信じられない……」


まだ最終授業修了間もなくということで玄関には多くの人がいた。

そこに姫子・風華・纏という学内の綺麗所を纏めてひきつれる朗太が現れ多くの生徒が息を飲んでいた。

悪口だってこれまでにないほど溢れかえり


「ちょっとまって朗太、あいつら絞めてくる」

「珍しく気が合ったわね姫子。私も手伝うわ」


姫子と風華が連れ立って歩く自分の悪口をがなり立てた男子生徒に口撃を加えに行くのを止めるが大変だった。


「わー、凄い武闘派……」


朗太が彼女たちを引き留める様に纏は口をあんぐりと開けていた。


「あなたは気にならないの?」

「いえそういうわけではないですが」


しばらくして怒りを抑え止められた姫子がぶすっと尋ねると纏は首を振った。


「私は裏から潰すタイプなんで。今の、2年生の返田(かえりだ)さんですよね? 一度声を掛けられたことがあるから知っています。……名前は覚えました」

「ろ、朗太と似ている……」


姫子は纏のやりくちに恐怖を覚えていた。


「いやそこまで俺は陰湿な奴じゃないぞ?」

「「いや朗太(先輩)は陰湿ですよ??」」

「う……」


何もハモることないじゃないか。

朗太は揃って自分を糾弾しだした姫子と纏に顔を顰めた。


「ハハハッ、めっちゃ陰湿って言われているぅー!!」


風華はその様子がツボったのか腹を抱えて爆笑していた。


そして校門をでてすぐの頃には


「おいおいマジかよ……」

「一緒に帰るのかよ……」

「纏さんは凛銅と同じ中学なんだっけ?? なら纏さんは分かるが……」

「姫子さんと風華さんは全然違うだろ?!」

「ふざけんなよあのカス男!」


本当に姫子たちが朗太と家路を共にし出して周囲の生徒はみな殺気立っていた。

加えて朗太の帰り道の都合上、どうしても一度大通りを通らねばならず


「見て、あの子達」

「えらい別嬪さんねぇ」


風華や姫子、纏を井戸端会議をしていたおばさんたちは物珍し気に見て


「でも見て、野暮ったいのが出てきたわよ?」

「最近の子の趣味は変わっているのねぇ」


私たちには分かりませんねえとカラカラと笑っていた。


じ、地味に効く奴……


奥様方の会話に朗太は眉を下げた。


そして、ようやく、ようやくだ。

人通りの少ない道に出た。


道行く人が突然遭遇した美少女三人セットに目を丸くし、その後金魚のフンのようにくっついている自分に怪訝な目をするのは恒例だが、これでだいぶ減った。


ようやく一息つける。

朗太は自転車を転がしながら大きく息をついた。

姫子たちも、クラスで遭遇した時は一触即発しそうな雰囲気だったが、ようやく険が取れてきたようだ。


「まぁいつまでやってても仕方ないから停戦よ」

「先輩がそう言うのなら仕方がないですね」

「ウリウリ、先輩は敬いなさいよウリウリ」

「し、白染さんはなんか尊敬できる気がしません」

「なんですってー!?」

「言ってるそばから……」


停戦を持ち掛けた姫子がすぐさま頭を抱えているが、以前の隙あらば言葉でぶん殴り合うようなことはなくなった。


グッジョブ姫子。

朗太が心の中で場を諫めて見せた姫子に賛辞を贈った。


「てかモトさんとはまだ仲悪いんですか?」


そして過激な美少女との下校の最中だ。

美少女三人衆の輪からひょいと抜け出した纏が朗太を見上げ尋ねていた。


「あぁ、いまだに口も効いていないな」

「えぇー。いまだに?! 先輩も先輩ですがモトさんもモトさんですね? 頑固すぎません?」

「まぁモトとしては許せないんだろうな」


朗太はその友人のことを脳裏に浮かべながら嘆息した。

すると――


「え、何々モトさんって?」

「聞いたことのない名前ね?」


朗太の中学時代を知らない二人が首を突っ込んできた。


「昔の友達だよ」


そんな二人を朗太ははぐらかすのだった。


そしてそれからしばらくした後のことだ。


「で、ここが俺の家で……」


朗太は二階建ての我が家を指し固まっていた。


至って平均的な作りの家のはずだ。

藍色の屋根に乳白色の壁面。

壁面にはレンガ模様の装飾が施され窓の縁には花瓶や人形などが飾られている。

玄関の前には簡易的な柵が設置されその奥には数台の駐輪スペース。

ガレージには親の車が止まっている。


だが住み慣れ愛着ある我が家を美少女、特に風華に紹介するのはなぜか気恥ずかしかったのだが


「豪邸……」

「豪邸?!」


当の風華はおろおろと青ざめていた。


「風華さん、一般的に先輩の家はそのようなくくりの家ではないかと。綺麗で良い家ですけど」

「いえ、豪邸よ豪邸。私に言わせればほぼすべての家が豪邸に見えるけど凛銅君の家もその中の一つの豪邸よ」

「あ、風華さんの価値観によるものでしたか」

「コイツ、翠の家に連れてったらショック死するんじゃないかしら」


狼狽える風華に姫子はこめかみに指をあて、纏は肩を竦めた。

にしても風華は一体どんな家に住んでいるんだと朗太が思っていると


「あ、凛銅君、今私の家に来たいと思ったでしょ? 良いよ凛銅君なら! 大したもの出せないけどッ」

「あ、この人はまた不意打ちで先輩を家に誘って!」

「風華、アンタ本当に抜け目ないわね……」


風華が自分を家に誘いまたプチ戦争が起きていた。


そんな三人を朗太が諫めようとした瞬間だ。


「あ、おにぃ! ようやく来たの!?」


ガチャッと玄関のドアが開き奥からぱっちりとした目のおさげ少女。

我が妹であるところの凛銅弥生が現れた。


弥生には事あるごとに姫子や風華を家に連れてくるように言われていた。

だから朗太は予め弥生に連絡し家の用意をしておくように言っておいたのだ。

幸いにも弥生も部活がなく自宅の準備が整ったという訳だ。


そして玄関に現れた噂によると可愛くてモテるらしい弥生に


「うっそでしょ朗太!?」

「いやぁぁぁぁぁぁ! めっちゃかわいいぃぃぃぃ!!」


姫子は目を丸くし、風華は色めき立っていた。


「ほほほ、本当に同じ遺伝子流れてんの?!」

「失礼だなお前は!?」


グネグネと身をよじる風華をよそに姫子は弥生と自分を何度も見て驚嘆していた。


「やっほー弥生ちゃん! お久だね!」

「あ、纏せんぱぁーい!! お久しぶりです~~~!!」


一方残す纏は旧知の間柄の弥生に鷹揚に話しかけると弥生は纏に抱き着いていた。


「も~~! おにぃのことを見捨てちゃったのかと思ったんですよ~!?」

「いやいやそんなことするわけないじゃない! も~、驚かそうとしてただけよ!」

「そっかー良かったぁー!」


纏に抱き着き顔を摺り寄せる弥生。

そんな弥生を胸に抱きニヤリと纏は姫子と風華の二人を見た。

彼女たちの間に緊張が走ったような気がした。

だが戦局は大きく変わり


「も~、お兄ちゃん、纏先輩がいるならいるって早く言ってよ!」


と言って弥生が纏から顔を外し朗太を見た時だ。


「嘘……」


風華を見て固まった。


「めっちゃお兄ちゃんのタイプっぽい人がいる……」

「おい!」


何言ってくれてんだお前!?

思わず握りこぶしを作り抗議した。

確かに信じられないほどタイプではあるが何本当のこと言ってくれてんねん。

だが言ってしまった言葉は回収できず、それを聞いた風華は隠し切れないほくそ笑みを浮かべて


「ふーん。で、それは本当なの凛銅君?」


にやにや笑いながら真正面から朗太と対面した。

風華の長い睫毛や澄んだ瞳、どこまでもきめ細かい白い肌が目の前にある。

それを真正面からとらえるだけで朗太の脳の許容量は限界を迎えようとしていて


(くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!)


朗太は顔を真っ赤にし唇を噛んでいた。


確かにそうだけどさぁ! めちゃタイプだけどさぁ!! でもそんなこと目の前で言えるわけなくない!? と。


それを見て姫子が剣呑な視線を送るのが見えたが


「あ、しかもその横にもすっごい美人がいる!? お、おにぃこの人が姫子さん!? すすすすすっごい美人だよ!? 私こんな美人初めて見た!!」

「フフフフ、分かっているわね」


弥生の反応に風華と同様笑みを見せ始めた。


「……」


そんな二人を見て面白くなさそうに唇を曲げる纏。


こうして彼女たちは朗太の家に訪れたのだ。




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